第15話
「弟子なら私だけでいいじゃん!!」
真っ先に声を上げたのはレナだった。
そもそも、何故俺の弟子がこの四人しかいないのか。
その最大の理由はこの可愛い妹様のせいだ。
基本の生活が村である俺にとって、遠くの弟子と会える時間なんて、いつも図書館に
だから自ずと俺の弟子候補は村のみんなになるのだが
『ガルルルル!!』
『出た!!師匠の番犬だ!!』
『お兄ちゃんを師匠って呼ぶな!!』
という感じで俺は弟子が取れなかったのだ。
ちなみにだが、その時のレナは俺の後ろからキャンキャン吠えている様子から村のみんなには裏でチワワと呼ばれている。
他3人を弟子にすること自体大変だったわけだがそんな我儘を聞く時期はもう終わった。
そろそろ兄離れならぬ、師匠離れをするべきなのだ。
てかそれ以前に
「もうレナに教えることないんだよ!!だから俺は新しい弟子が欲しい!!」
「ある!!師匠からまだ教わりたいことは沢山あるの!!」
「いいや、ない!!」
「ある!!」
「な、ない!!」
「あるの!!」
「な……」
……え?
「あるの?」
「うん。お願〜い師匠、私まだまだ分かんないことがた〜くさんあるんだ」
「そ、そうなの?」
そ、そっか。
俺にもまだレナに教えられることがあるのか。
なら……弟子は取らなくても……
「ハッ!!」
お、俺は今……一体何を……
「クッ、惜しい」
いつの間にか俺の体は「お願い師匠」と言われたら何でも了承してしまうものになっていた。
そんな弱点を平然と突いてくるとは、なんて恐ろしい子なのだ。
「この際エリお姉ちゃん以外の二人も認めてあげる。だからこれ以上の弟子はもういいよ!!」
「酷くない?」
「酷いわね」
「いいやよくない!!俺は……俺は師匠面じゃなくて、誰かの本物になりたいのだ!!(血涙)」
「泣くほど?」
「泣くほどのことなの?」
バチバチと俺とレナの間に火花が散る。
お互い一歩も譲らない姿勢、俺達兄妹もここまでのようだ。
「もう師匠のことなんて知らない!!どっかで好きなだけ弟子でも彼女でも作ってきたら!!」
「ふん、レナこそもうどっかの弟子になってきな!!師匠はもう知らないからな!!」
「あぁはいはい、いつものね。面倒だから僕もう帰る」
「私も帰るわ。エリザベス、後のことはよろしくね。それとケイトはさっきの話ちゃんと考えておくのよ」
「お前は僕のお母さんかよ」
「それではまた明日お会いしましょうか」
こうして俺とレナは仲違いをし、それから二度と口を聞かなくなるのであった。
◇◆◇◆
某所にて
「お兄ちゃんが弟子を作ったら〜私に構ってくれる時間が少なくて〜」
「そうですね。一緒にいたいですもんね」
「だから弟子は私とエリお姉ちゃんだけがいいのに〜。だけどお兄ちゃんを縛る自分がどんどん嫌になって〜」
「お師匠様がそれだけ大切ってことですね」
「……うん」
「それじゃあ、次に何をすべきかは分かっていますよね?」
「……お兄ちゃんに謝る」
「一緒にごめんなさいしましょうね」
一方数分前
「レナには師匠離れして欲しくて〜。このまま人見知りのままだと将来が心配で〜」
「そうですね。たった一人の妹ですもんね」
「実際に新しい弟子も欲しくて〜。だけどそれを理由にレナの気持ちを蔑ろにする自分がどんどん嫌いになって〜」
「レナちゃんがそれだけ大切ってことですね」
「……うん」
「それじゃあ、次に何をすべきかは分かっていますよね?」
「……レナに謝る」
「一緒にごめんなさいしましょうね」
そして
「「「ごめんなさい」」」
三人は同時に頭を下げた。
「お兄ちゃんにはお兄ちゃんの人生があるのに、我儘言ってごめんなさい」
「俺の方こそ、レナの気持ちを考えない事ばっかり言ってごめん」
「やっぱり仲良しが一番ですね。仲直りも兼ねて、今日は少しだけ贅沢しちゃいましょうか」
「「わーい」」
そう言ってキッチンへと歩いて行くエリーを見送った俺とレナは、改めて今の状況について考える。
大切な相手と仲直りが出来た。
美味しい夕食を食べられることが確定した。
どうしようもなく幸せなはずなのに感じる違和感。
これは……
「ねぇお兄ちゃん、変なこと聞いてもいい?」
「レナもか。実は俺もおかしなことを言いたくなったんだ」
俺とレナは顔を合わせる。
「なんで」
「エリーが」
「家にいるの?」
そう、ここは俺とレナが新しく住むことになった平凡な家。
決して大きくはないが、二人でも十分快適に過ごせるだけのスペースがある。
だからこそ三人目の存在がいても最初は違和感を感じなかった。
だけどふと思ったのだ。
あれ?エリーって一緒に住んでたっけ?
俺は過去の記憶を思い返せど思い返せど、頭の中には俺含めた四人の家族。
幻の
「よかった、私の頭がおかしくなったわけじゃなかった」
「俺も自分が変なんだと思ってたが、そうかレナも同じこと考えてたのか」
「やっぱり兄妹だね」
「そうだな」
これで一安心だ。
レナとの仲も深まった。
違和感の正体も分かった。
これで何の憂いもなく今日を終えることが出来そう
「なわけないだろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「お師匠様、お料理中は危ないので暴れないで下さいね」
「あ、すみませんでした……じゃなくて」
一旦椅子に座りつつ、料理中の聖女様へと話しかける。
「いや助かるけどね。仲を取り持ってくれたり、その上料理までしてもらって文句言える立場じゃないけどね」
「味付けにレモンを添えても大丈夫ですか?」
「レナと俺とで分けてもらえるか?俺はちょっと」
「はい、分かりました」
「おぉ、どんどんいい香りが漂ってき……ではなくてだな。聖女歴長いだろ?そろそろ立場考えてもらえます?」
「はい、お待たせ致しました」
そう言って、エリーは机を彩り豊かに変えていく。
既に俺の目の前では涎を垂らし、ナイフとフォークを両手で持ったレナが待機している。
とりあえず食べようか。
俺はそんな気持ちで箸を手に取る。
「いただきます」
「「今日も神の祝福があらんことを」」
そして俺の頭とは裏腹に、勝手に伸びた手はその豪華な品々を口に運んで行く。
そして一口食べた後、いつの間にか机の上は空っぽになっていた。
何が起こったんだと顔を上げれば、レナも同じようにキョトンとした顔をしていた。
ただ事実として、俺の胃は膨れ上がり、口の中には幸せが広がっていた。
この思いを口にしなければ。
それ程のものを貰った俺はせめて感謝を伝えようとした瞬間
「お粗末様でした」
俺の思考を遮ったエリーは、心の底から嬉しそうに皿洗いを始めた。
聖女に皿洗いなんて不敬にも程がある。
実際、レナは慌てた様子で手伝いをしに行った。
だというのに、俺は未だに椅子に座ったまま。
俺も手伝わなきゃと思うと同時に、俺はとある日を思い出していた。
『趣味もないのか?じゃあ、何か初めてみるのはどうだ?例えば……そう』
あぁ……本当
「やっぱり師匠っていいもんだな」
レナには悪いが、やっぱり俺は誰かの師匠でありたいと、そう思った。
そして
「こ、ここここんばんわ」
俺はその日、運命の出会いを果たすのだった。
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