第17話
「てなわけでさ。レナ……勇者……妹が見つけてくれるまでずっと迷子だったんだ。いやぁ昨日は焦ったなー」
「だからお前のその三段活用はなんなんだ」
「でもさすが勇者様って感じ!!はぁ、やっぱり尊敬するなぁ」
昨日のゴタゴタなどつゆ知らず。
俺は今日も今日とて学園へと通っていた。
既にジークとパメラには秘密を話したとはいえ、周りの人間にバレてはいけないことには変わらない。
寡黙系師匠として、しっかりと秘密を隠し通さねばだな。
「なぁパメ」
「うん、多分バカなこと考えてると思う」
なんだか二人からの視線が痛いが、きっと気のせいだろう。
俺がうんうん唸っていると、そう言えばとパメラが話し出す。
「ねぇ知ってる」
「知らん」
「師匠に知らないことなどないが?」
「……今朝登校中に聞いた話なんだけど、今年から部活動に入らないといけない決まりが出来たみたい。魔物が活発化してるからこそ、より生徒の質を高めようって」
へぇ、そんな決まりが出来たのか。
「じゃああれだな。便利屋として活躍してた二人なら勧誘されまくりじゃないか?」
「えぇ〜、どうだろ」
「腕っ節には多少自信はあるが、それで勧誘ってまではいかないだろ」
「そうなのか?」
う〜んでも、昨日模擬戦している時の二人の動き的に多分だが
「ま、頑張れよ」
「「?」」
危険を予想した俺は、二人よりも先に学園へと向かうのであった。
◇◆◇◆
「やっぱりな」
教室から外を眺めると、凄まじい人数に囲まれているパメラとジーク。
クラス内での慕われよう、助っ人として呼び出される程の実力を考えれば当然のことだろう。
むしろ何故自分達の能力の高さに気付いていないのか。
「やれやれって感じだぜ」
「あ、おはようございますお師匠様」
「あーうん、おはようエリー」
今後は二人に自分達がどれだけ目立つ存在かを教えてやらなければならんな。
俺が密かな授業(意味深)を考えていると、何やらクラスが騒めき始めている。
「……ん?」
しかも、目線が妙に俺に向いているような……
「い、一体何が起きているというのだ」
状況を確認をしようにも、師匠バフの無い俺はレナ程でないが人見知りを発揮してしまっている。
どうしようかとあたふたしていると
「どうかされましたか?」
さすが運Sの俺と言うべきか、話しかけてくれるクラスメイトがいてくれた。
「実は困っててだな。俺は何もしてないはずなのに、妙にみんなの視線を感じるんだ。ほら、今も益々注目が集まってる」
「いつも通りな気がしますが……お師匠様が言うのなら間違いないですね」
「ああ、師匠が言うなら間違いな……おい。いや待って下さい」
「待ちます」
大きく息を吐く。
チラリと先程から喋っている人物を見れば、行儀よく背筋を伸ばし、餌を我慢する犬のような目をした聖女の姿。
さすが運S、聖女と話せるなんてラッキーだなぁ(血涙)。
よし
「あぁ!!あんなところに野生の賢者様が!!」
俺が大袈裟に叫べば、皆が一斉に後ろを振り返る。
すると偶然
「テンセ?」
まさかのご本人が通りかかる奇跡。
今だ!!
「あ、カリナ様。少しお時間を頂けませんか?」
「別に構わないけど……どうかしたの?」
「はい。どうやらお師匠様が困っているようでし……お、お師匠様が消えた!!」
「テンセなら今しがた全力で教室から出て行ったわよ」
「追いかけた方がよいでしょうか?」
「やめておきなさい。あの急ぎ方、おそらくだけど」
後に、エリーが俺のお腹の治療を始めるのはまた別のお話である。
◇◆◇◆
「な、なんとか乗り切った」
今頃、クラスのみんなは聖女と賢者との邂逅というビックイベントに脳を支配されているだろう。
その上、エリーは基本的に誰彼構わず話しかけるタイプなので、俺との会話もただの人助けの一環と認識されるだろう。
相変わらずエリーの動向には要注意だな。
だが、なんだか引っかかるんだよな。
「確かにエリーはどこか抜けてるところがあるが、あそこまであからさまに話し掛けてくるか?」
エリーは思ってる数倍は頭がいい。
ちょっと理性より感情を優先しがちなだけで、ちゃんと頭はいいのだ。
何か裏があると読んで考えると、先程の彼女の行動はどこか
「俺に接触したかったような……」
「……師匠……さん?」
声
瞬時に俺は音のした方向へと振り向く。
そこには、レナと同い年くらいの緑髪の少女がいたのだった。
「し、師匠さん!!師匠さんですか!!」
「そ、その呼び方はまさか!!我が弟子李徴ではないか!!」
「だ、誰か分かりませんが……そ、そうです。私が貴方の弟子のレヴィです」
貴方の……弟子……
な、なんていい響きなのだ。
「フハ、フハハハハ!!」
「パ、パパと同じ笑い方だ……」
「いやぁ、まさかレヴィが学園の生徒だなんてな。制服的に今は中等部か?」
「は、はい。14歳なので」
「へぇ、じゃあ俺の妹と同じ学年か」
「師匠さん、妹がいるんです?」
「そうだ。目に入れても痛くないくらい可愛いぞー」
「私のパパも同じことをよく言って、本当に目に入れちゃってビックリするんですよね」
「アッハッハ、そうかそうか」
やっべぇ、何言ってるか全然分かんないけど弟子相手と考えるとめっちゃ楽し〜。
まるで好きな子と喋る時かのような、そんな多幸感に全身が包まれる。
あぁ、やっぱり師匠って最高だな。
「あ、ご、ごめんなさい師匠さん。そろそろ授業が始まるので行かないと」
「もうそんな時間か。悪いな、引き止めて」
「い、いえいえそんな!!私の方こそ師匠さんと話せてよかったです」
レヴィは下手くそな笑みを浮かべるが、俺にはそれが心からの笑顔と分かった。
師匠としていつか、この笑顔をより綺麗なものに出来たらと思う。
「もしよかったらだが、お昼一緒にどうだ?」
「ほ、本当ですか!!や、やったぁ。ついに私もボッチ飯を卒業出来る……えへへ」
なんだか悲しい事を言っていた気がするが、聞き流しておこう。
スルースキルも師匠の嗜みの一つなのだ。
「これからよろしくな、レヴィ」
「は、はい。これからよろしくお願いします、師匠さん」
別れ際に熱い握手を交わそうと手を触れようとした瞬間
「ッ!!」
「どうした?」
何故か突然手を引っ込めたレヴィは、何度か周辺を見渡す。
その瞬間の彼女は、まるで最初にあった時と同様の背筋を凍らせるような気配を醸し出していた。
「バレたわけではない……か」
「大丈夫か?汗が凄いぞ」
俺は偶々持っていたタオルを手渡す。
「あ、ありがとうございます。で、でもそこまでしていただくことでわぷっ!!」
「弟子に風邪を引かれたら師匠の誇りに傷がつく。これあげるから、体調悪いならちゃんと休むんだぞ」
「は、はい」
「それじゃ、また昼な」
そうして、俺は師匠らしくハートボイルドな顔で去っていった。
またしても後の話だが、あのタオルはケイトから貰ったもので、俺は人のものを人に上げるゲス野郎と知ったのはまた別のお話である。
◇◆◇◆
「師匠さん、良い人だなぁ」
レヴィは貰ったタオルに顔を埋める。
すると、何やら文字が書いてあることに気付く。
「また……今度……」
レヴィの顔が少し赤くなり、またタオルへと顔を埋めることになるのだった。
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