第9話

「ふん!!」


 急いで机の下に隠れる。


 ついでにカリナも下に突っ込む。


「ら、乱暴ね。何?襲うの?」

「襲わねーよ!!」


 なんでちょっと照れてんだよ。


 どう考えてもそんな状況じゃないだろ全く。


「何で来た。その行動が許されるのはエリーとレナだけだからな」

「相変わらずその二人には甘いのね。でも勘違いしないでよね、別にあなたの為に会いに来たわけなんだからね」

「やだ嬉しい!!じゃねーよ。何も別ってないだろ。いや……俺も本当はゆっくり話したいが、少なくとも今じゃないだろ」


 そういうところカリナは弁えるタイプと思っていたが違ったか?


「そうね、あなたの言う通りよ」


 あっさりと認めたと思ったら


「だからゆっくり話せる場所に行きましょうと言いに来たの」

「というと?」


 カリナはポケットから地図を取り出す。


 用意周到だなぁ。


「ここに図書室があるの。休み時間はここに来るといいわ。静かだし落ち着くし、何より私がいる」


 アピールポイントに自分が入っているところはさすがだし、実際それが魅力的なことは確かだ。


「分かった。次から時間があったら行くことにする」

「ええ、いつまでも待ってるわ」

「それじゃあ今は大人しく帰ってくれ」

「仕方ないわね」


 そう言ってカリナが立ち去ろうとすると


「あれ?テンセどこ行ったんだ?」

「さっきまでそこに居た気がするけど」

「「!!!!」」


 またしても机の下に入り込むカリナ。


 勢い余ってか、かなり近い距離になってしまう。


「ど、どうしようかしら(小声)」

「知るか!!(叫ぶタイプの小声)」


 息を殺す俺達の前にジークとパメラの足だけが見える。


「どっか行ったのか?」

「そんな素振りなかったけど……」

「もしかして、また机の下に隠れてたりしてな」

「(まっず!!)」


 完全にピンチに陥った俺ら。


 さすがにエリーだけでも精一杯の中、その上賢者カリナとも友達なんて欲張りセットバレたらどんな目を向けられるか分かったもんじゃない。


「そもそも来る時どうやって来たんだ」

「みんながエリザベスに注目してる間にひょっこりと」

「帰りはどうするつもりだったんだ?」

「気合いね」


 どうしよう、弟子の育て方間違えちゃった。


「魔法でどうにかならないか?」

「そんな魔法あるわけないでしょ」

「あ、あるだろ。ル◯ラみたいなの」

「知らないわよそんな魔法」


 ど、どうしよう!!


 何か、何かいい方法が


「……あ」

「何か思いついた顔ね」


 ああ、確かに思いついたさ。


 だが


「この魔法は……あまりに危険過ぎる」

「大丈夫よ。私と師匠が力を合わせれば、どんな困難だって乗り越えられるもの」

「カリナ……」


 なんかすっごい良い雰囲気で話してるけど、この事態引き起こしたの自分って分かってるのかコイツ。


 てかこうして見ると本当、美人だよな。


 ……賢者かぁ。


 俺が頼んで置いてなんだけど……なっちゃったかぁ。


「どうしたの?」

「いんや。それじゃあ教えるぜ。この状況を打破する魔法、その名前は」


 虫寄せの魔法だ!!


「……」


 カリナがまた虫かよみたいな目を向けてくる。


 いやごめんって。


 こんなことしか考えられない師匠で。


「あ、ちなみに魔法陣はこれな」

「殺虫剤と似てるわね」

「ちょっと改良したんだ。この部分を変化させるとさ」

「本当、いつも面白い発想ばかり思いつくわね。やっぱり師匠は天才よ」

「いやいや、俺がしょぼい魔法一つ考える間にカリナは百個くらい強力な魔法生み出してるじゃん。一目瞭然だろこんなの」

「ふふ、ええそうね。一目瞭然ね」


 そしてカリナはいつもと同じ様子で俺の魔法を聞いてくれる。


 と言ってもここが無駄だとか、こうすればもっと良くなるなど俺がアドバイスを貰い、どっちが師匠か分からなくなり始める時もあるが


「これで終わり。何か質問は?」

「いいえ、無いわ。それとありがとう。また一つ、新たな知識を学べたわ」


 カリナは心の底から感謝を伝えてくれる。


 例え俺より賢くて、強かったとしても、やっぱり俺は彼女の師匠でありたいと思えた。


「ところでなんでこんな話になったんだっけ?」

「どう……だったかしら。そこでパニックになってる男女は関係ないわよね」


 俺はカリナが向いている方向に目線をズラすと、そこには腰を抜かして倒れているジークとパメラの姿があった。


「お、俺は……俺は夢でも見てるのか?」

「きっとそうよ!!だって、ただでさえ聖女様と話しただけでも夢みたいなのに、机の下に賢者様がいるなんてありないでしょう!!」

「そ、そうだな!!そうだよな!!」


 動揺を通り過ぎ、最早錯乱してしまっている二人を見て俺は


「あれ?案外いけそ」


 というわけで


「カリナ」

「分かってる」


 そう言って彼女は小さく息を吐いた後


殺虫剤イグニッション


 白い煙が教室を埋め尽くすのであった。


 ◇◆◇◆


 煙が晴れた頃、既にカリナの姿は無くなっていた。


「な、なんだったんだ今の煙」

「害は無さそうだけど……」


 煙を吸ったのか軽く咳き込んでいる二人と教室のみんな。


 あ、いや、エリーだけ平然とした顔してる。


 さすが俺の弟子だぜ。


「今の煙も気になるが、おいテンセ!!さっきお前机の下にいなかったか!?」

「ナンノコトカナ」

「さ、さすがのテンセも賢者様と知り合いなんて言わないよね」

「アタリマエデショ」


 俺の完璧な演技により、さっき見たのは幻だったのだと二人は納得してくれた。


 全く、やれやれだぜ。


 だからエリー、そんな目を向けてくるな。


 カリナ様いましたよね?みたいな顔するな!!


「それにしても、賢者カリナ様。一度でいいから喋ってみたいなー」

「まだ今日会ったばかりで言うのもあれだが、パメラなら『恐れ多い!!』とか言いそうだけど」

「アッハッハ。テンセ、お前モノマネ上手いな!!」

「似てないよ!!……え?似てないよね?」

「……パメは魔法が好きなんだ。だから賢者様に会いたいって口癖のように言ってんだぜ」

「いやそうだけど、待って。さっきの私の真似が本当に似てるかどうかを」

「そうだったのか。俺もオリジナル魔法とか考えるの好きだし、今度一緒に研究するか」

「凄く楽しそうだけど、お願い。さっきの白目になりながら首を高速で横に振る姿は似てないって言ってくれない?」


 俺とジークは無言で目を合わせた後、次の授業の準備を始めるのだった。


 ◇◆◇◆


「さて、遂に実技の時間だー!!!!」


 ジークがここぞとばかりに伸びをする。


 学園では1日の半分を座学、もう半分を実技として扱っている。


 そもそも王立学園という存在が元々魔物を倒すことに重きを置いた場所であり、座学自体が最初はなかったらしい。


 されどそれじゃあ社会は回らんってことで座学も追加されたのが今の学園というわけだ。


 そんなわけで、ただでさえ難しかった授業よりもこの実技の時間は更に高レベルの内容となっている。


 そして俺は知っての通りクソ雑魚。


 この時間で少しでも俺は強くなる必要があるのだ。


 だが、ただ強くなる為の時間なんて言うつもりは決してない。


 そう、俺は


「今度こそしっかりと弟子を選び取らないと」


 何もせずとも勇者になったり、剣聖になったり、賢者になったり聖女になったりするような人物ではなく、教えがいのある丁度いいくらいの弟子が欲しい。


 俺が学園に来た理由の半分は約束と勉強、そしてもう半分こそが弟子を探す為と言っても過言じゃない。


「絶対に、絶対に今度こそ普通の弟子を……」

「見ろよテンセの奴、もの凄い集中力だ」

「私達も見習わなきゃね」


 こうして鐘の音と共に授業が始まる。


 俺達3人は背筋を伸ばし、先生の話に耳を傾ける。


 最初の5分くらい謎の自慢話を聞かされた後


「さて、本日の実技の授業を始めるにあたり、とある御方に来てもらった。こと戦闘に関しては彼女こそ世界最高峰と言っても過言ではないだろう」


 先生の言葉に一気に動揺が走る。


「おいまさか……だよな」

「そう、そうよ。きっと先生が大袈裟に言ってるだけよ」


 そんな中、師匠として生きてきた俺にとって不足の事態というものもまた想定内。


 この程度で気を乱すなら


「おおおおおお落ち着け。大丈夫、大丈夫だからおおおおおおお落ち着け」


 俺は師匠キャラなんて名乗らないのさ。


 そして案の定というか、皆が想像していた人物が姿を表す。


「ようこそいらっしゃいました」


 先生が大きく頭を下げる。


 そこには小さな体に光り輝く剣を握りしめた少女


「よ、よよよよよろしく」


 勇者レナ、その人が堂々と立っていたのだった(兄目線)。

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