第20話
「今日は勇者様にお越し頂くことは出来なかった。土下座も賄賂もダメだったので、仕方なく授業を始めさせてもらう」
先生の先生らしからぬ発言と共に、今日もまた実技の時間が始まった。
前回の模擬戦とは違い、今回はいくつかのグループ分けが行われる。
剣を学びたいのか、それとも魔法を学びたいのかだ。
冒険者のような一人で戦う必要がある場合は話が別だが、学園に通う生徒というのは基本的に何かしらの集団に属すので、前衛の剣士と後衛の魔法使いという組み合わせが作れるのだ。
だから大体の人間は簡単に選択出来るわけだが
「うむむ」
「まだ迷ってんのか?素直に剣術に来いって」
「いやいや、テンセは魔法が好きなんだからこっちに来るべきじゃない?」
俺のような器用貧乏にはこの選択は非常に難しいものがある。
実際は、決めようと思えば決められる。
コイントスでもすればいいのだ。
だがそう簡単に決められない理由が他にあるのだ。
そう、お察しの通り我が弟子が原因……というか
『ねぇ、私が賢者になれば学園へ来るのでしょう?』
『あぁ、師匠に二言はないからな』
『なら勿論魔法を専攻するのよね?』
『あぁ〜(ま、いくらカリナが天才といえど学園に入るまでに賢者になるのは無理だろうし、ここは適当に)そうだな』
『ふふ、ますます楽しみになってきたわ』
『僕が剣聖になれば学園に行く話あったでしょ』
『あぁ(昨日に続き今日もか)』
『そしたら選ぶのは剣術にしてよ。そうでないと学園が本当につまんなくなるから』
『あぁ〜(仮に、仮にもし俺が学園に行くことになっても流石に二人同時は有り得ないだろうし、ここは適当に)そうだな』
『師匠がいるなら……はぁ、嫌だけど多少学園も楽しくなるかも』
この上なく俺が原因の問題が起きてしまっているのだ。
いやでも仕方なくないか?
身内にそんなポンポンと有名人が出ると思わないじゃん!?
「一体どっちを選べば」
何度も何度も頭の中でシュミレーションを行うも、最後には俺が泣きながら土下座をする未来しか見えなかった。
どうにかあるかも分からない師匠の威厳を保つ方法を模索していると、一人手を挙げる生徒が視界に入った。
「少し提案があるのですが、よろしいでしょうか」
「何でしょうか聖女様。勇者様の私物なら8桁までなら出せ」
「確かに選択を分ける考えは合理的ですが、私は思ったのです。今のレナちゃんを見て、果たして今まで通りでよいのかと」
「はわ、はわわわわ」
推定40代後半の髭を生やした
「さ、さすが聖女様です。魔法も剣術も最高峰の領域へと至った勇者様は間違いなく最強。つまり従来通りのままでは勇者様のような逸材を取り逃がす可能性がある。つまりそういうことなんですね」
「はい」
チラリとこちらを向いたエリーは可愛げにウインクを披露する。
さすがエリー、こんなにも華麗に俺を救い出す姿はまさに聖女そのものだろう。
やはりエリーは賢い子だと思う反面、普段の生活が脳裏に蘇ってくる。
「……考えるのは止そう。それと早く助けないと二人が死んじまうな」
俺はエリーのウインクが直撃し、泡を吹いて倒れたジークとパメラをなんとか介抱し、結局実技は両方を習うこととなった。
「頑張って下さいね」
それらとは全く別の、神聖を扱うエリー含めた生徒は別の場所へと移動した。
そもそも昨日の模擬戦だって本来ならエリーは参加しなくていいのだが、何故か居たんだよな、何故か。
そんなことを考えていると、昨日のことを思い出したせいか俺は剣を握りしめていた。
「今日こそ俺の相手をしてくれるって事でいいんだな?」
隣を見ると、さっきまで白目を剥いていたとは思えない程ギラついた目をしたジーク。
「イケメンは何してもカッコつくってことか」
そうして仕方なく付き合ってやるという雰囲気で剣を握る俺だが、正直言うと結構ワクワクしていたりする。
知っての通り俺は弱い。
多少悪知恵が働く程度の、本当に冴えない男だ。
だが悲しいかな、俺はあの男の血を引いてしまっているらしい。
「先手は譲ってやる。師匠とはそういうものだからな」
「いいぜ。あのお方の師匠の力、俺に見せてくれ!!」
ジークの重心が右へと移る。
すかさず俺は魔法を構えた。
これは小さな石ころを飛ばすだけの魔法であり、殺傷能力はまずない程か弱い。
メリットは魔力の消費が少なく、簡単で速く使えることだろうか。
巨躯の体を持つ魔物には一切通じない、学園ではまず実践で使用されない技ではあるが
「な!!」
「対人戦には案外役に立つんだよな」
足に小石がぶつかったジークは若干バランスを崩す。
「先手は!?」
「俺師匠。嘘つく、当たり前」
一気に距離を詰めるが、当然のように剣は受け止められた。
力が拮抗してたならこの時点で勝ちなのだが、さすが俺と言ったところだろう。
むしろ力で押し負け、形成が逆転されそうである。
「あのまま魔法に頼ってた方がよかったんじゃないか?」
「そうすると数分もせずガス欠なんだ。あのレベルの魔法で普通なるか?」
自分で自分の弱さに絶望しながらも、俺は次の手を実行する。
「なんだそのか弱い蹴りは。まだパメの攻撃の方が……なんだ?急に力が……」
「知っての通り、大抵の剣士は闘気と呼ばれる謎パワーで物理を無視した力を得るわけだ。だからこそ、その闘気を抑えられると一気に弱体化する」
「おいまさか、他人の闘気をいじれるなんて言わないよな」
「まさか。ただ闘気の練りが甘い相手なら、今みたいに多少制限をかけるくらいなら出来る。いやぁ、これを見つけた時は感動ものだったぜ」
先程まで押されていた鍔迫り合いが逆転する。
もちろん闘気を抑えるという行為は長く続かないものであり、このままだとジークの力が元に戻りそのまま俺は負けるだろう。
だが、焦ったジークは判断を誤った。
「力で勝てないなら、技で勝ちゃいいんだろ!?」
一歩後ろに下がり、一気に距離を詰めるジーク。
確かに、確かにその通りだ。
力で勝てないなら技で、頭で戦うしかない。
そしてジーク、お前の前に立つ男というのは
「そんな世界に生まれた人間なんだ」
真っ直ぐ突かれた剣を逸らす。
ジークの剣は俺の頬を掠め、そして俺の剣はジークの首元へと当てられた。
「勝負ありだな」
「……あぁ。認めるしかないな。今回はお前の勝ちだ、テ」
「おいお前ら。勝手に模擬戦を始めるのはいいが、剣術の時間に魔法を使うな。今回の勝負はテンセ、お前の反則負けだ」
先生はそう言った後、他の生徒との勇者話を再開し出した。
いや先生はちゃんと授業しろよ。
「……な、なんかしまらねぇな」
「まぁ実際に魔法を警戒してなかったジークの隙を突いたようなもんだから、反則負けなのは確かだろ」
「いやいや、実戦でそんなこと言えないからな。それに、あの闘気抑える技。あれには素直に完敗だ。なぁ、あれどうやったんだ?」
「ん?気になる?気になっちゃう?俺に指導されたくなっちゃう?」
「ああ、教えてくれテンセ」
それからの出来事は語るまでもないだろう。
最高に充実した時間だった。
ただ、それだけである。
「なんか、あのお方が剣聖に至った理由の一端に触れた気分だ」
「どうだろうな。正直戦闘に関して、一番何もしてないのがケイトなんだよな。基本訓練とかしないし、感覚派の天才だからか俺が教えずとも勝手に学んでるんだよな」
「……ん?わ、悪い。聞き間違いか?剣聖様は間違いなく俺の知る中で一番」
「……ジーク?」
そう言葉を続けようとしたジークが突然気を失う。
「き、厳しくし過ぎたか?」
その時、俺の視界の端には綺麗な青色が微かに見えたのだった。
師匠面して遊んでいたら、教え子達が勇者・賢者・剣聖・聖女になったんだが @NEET0Tk
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