師匠面して遊んでいたら、教え子達が勇者・賢者・剣聖・聖女になったんだが

@NEET0Tk

第1話

 ある日、俺は世界の真理に触れてしまった。


「師匠キャラってカッコよくね?」


 妹が読み聞かせしてくれとねだってきたので、デヘデヘ言いながら絵物語を見せていると不意に思ってしまった。


 話はただの村人だった子供が勇者となり世界を救う有名なものなのだが、そこに登場する勇者の師匠。


 渋い髭が特徴の老人がめちゃカッコいいのだ。


 勇者が壁にぶつかると颯爽と現れ、助言を与えてくれる。


 すると勇者は今までの困難が嘘のようにスルスルと難題を解決していく。


 正直に言おう。


 痺れたね。


 天命が降りたと言っても過言じゃない。


 そして因果か、はたまた偶然か


「お兄ちゃん!!レナ、勇者さんになる!!」

「そっか。じゃあお兄ちゃんがレナを勇者さんにしてやる」

「やったー!!」


 その日立てた小さな約束が、まさか世界の悪と俺を蝕む存在になるとは夢にも思っていなかった。


 ◇◆◇◆


 師匠になると決めた俺だが


「うーむ」


 ここで俺の特殊能力をお伝えしよう。


 スキル『鑑定』。


 なんと、自分や他人の能力が文字となって表示される素晴らしい力だ。


 世界でも3人に1人が持つといわれるレアなもの。


 まぁ……うん、レアってことで。


 そんで俺の能力を公開すると


 力(E) 補正値(E)


 知力(B) 補正値(C)


 魔力(E) 補正値(E)


 神聖(E?) 補正値(E?)


 魅力(E?) 補正値(E?)


 運(S) 補正値(Z)


 簡単な説明をしよう。


 力……パワー!! 知力……賢さ 魔力……魔法の素 神聖……ゴットパワー 魅力……顔 運……うん


 A……凄い!! B……やるじゃん C……へぇ〜 D……そっか E……ごめん、人違いだった


 って感じだ。


 じゃあSは何ぞ?って思うが、聞いた話によるとAの括りに収まらない場合は表示がバグりSが出やすいらしい。


 何故Sかと言われたら、カッコいいからだってさ。


 鑑定なんてありふれた……貴重な力はやはり研究され、色々なことが分かっているらしい。


 例えばAとBの間にBBやBBBというものがあるとか。


 例えば鑑定を人に使う際は、その人が受け入れてくれなければ無理なことが殆どだとか。


 色々と話は聞いているのだが、このZとかいうのは知らん。


 なんだそれ?美味いのか?


 てなわけで結論


「俺弱すぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」


 ビックリする程弱いな。


 何故だ。


 不思議でたまらん。


 いくら鍛えても補正値がEのため雑魚。


 いくら魔法を勉強しても魔力がないからカス。


 うーむ。


「強い系師匠は引退か」


 一度もなった記憶のない属性を辞めた。


 師匠キャラを諦めたわけじゃないから許してくれ。


 それにしても


「やっぱり俺、早熟なんだな」


 別に補正値が高いわけじゃない。


 他の比較すると凄そうに見えるけど。


 だが、何故かこの歳で既にBにまで至っていることは普通ではない。


 何か不思議な力でも働いてそうだが……神聖もないからなんとも言えない。


 つまり分からないことは分かった。


 なぜだろう。


 今の発想凄い大事な気がする。


 いや、今はそんなことどうでもいいや。


「雑魚で別に特別頭がいいわけじゃないが、この早熟であることを活かしてみよう」


 てなわけで最初に考えた師匠っぽいこととして


「弟子に俺独自の技を教えたいな」


 未来の弟子に向け、俺流の特別な技を伝授しよう。


 別に最強じゃなくてもいい。


 というか別段頭がいいわけじゃない俺が、そんなもの生み出せるはずがない。


 ただ、オリジナルであること。


 他にないもの。


 そんなものを生み出し、誰かに伝授したいのだ。


「何かないだろうか?」


 ぐぬぬと頭を悩ませる。


 目を閉じ、思考の海へとダイブした。


 ……これは!!


「風が気持ち〜」


 絶賛日向ぼっこ中の俺は、大自然の心地良さに酔いしれた。


 俺が住んでる場所、ど田舎でなんもないけどこういうとこは最高だな。


 そうやって心地よい風を浴びていると


「わぁ!!」


 何やら後ろから飛び込んできた妹をキャッチする。


 てか危な!!


 この妹、またしても剣を持ったまま突っ込んで来やがった!!


 まぁそんなとこもお茶目で可愛いけどな(生粋のシスコン)。


 この子の名前はレナ。


 俺のれっきとした妹……というわけじゃない。


 実のところ妹は両親が拾ったらしい。


 実際俺が茶髪なのに対し、レナは驚く程綺麗な金髪だから両親の言ってることは本当だろう。


 強力な魔物がひしめく森の中で、何故か剣を握りしめて放置されていたらしい。


 あまりの衝撃にパニクった二人は、そのままレナを育てることにしたそうだ。


 レナはそれから寝る時でさえもその剣を握りしめている。


 でも一度だけ、剣を放り出したことがあるらしい。


 俺が川で溺れた時レナが剣を放り投げ助けてくれたらしいが、記憶にない。


 ただ、それから俺達の絆がより深くなった気がする。


 そんな妹を正面から抱き締めると、不思議そうな顔をする。


「お兄ちゃんはなんでレナが後ろから来たのが分かったの?背中に目でも付いてるの?」

「ハッハッハ。違う違う。お兄ちゃんレベルになると妹の気配が分かるだけだ」

「気配?お兄ちゃん気配ってなーに?」

「気配ってのは……どう説明しようか」


 子供に言葉教えるのって難しいんだな。


 謎に俺はヌルヌルと吸収していくもんで、母さんは面白くなったのか馬鹿みたいに言葉を覚えさせてきたしな。


「……そうだ。レナ、目を閉じてごらん」

「目?」


 レナは軽くでいいのに、何故か思いっきり目を閉じる。


 なにそれ可愛いでちゅね〜。


「感じるか?」

「何を?」

「……世界を……だ」

「世界……」


 俺は……何を言ってるのだろうか。


 世界を感じるってなんだよ。


 感じるのは羞恥心だけに決まっ


「感じた!!」

「え?」

「お兄ちゃん感じたよ!!」

「そ、そっか」


 そうなんだ……


 世界って感じるんだ……


「これが気配なんだね、お兄ちゃん」

「そうだ」


 そうなんだ……


「凄い!!お兄ちゃんはいつもこんなことを?」

「(光速で弾き出される師匠らしい台詞)そうだ」


 違うが?


「そっか……やっぱりお兄ちゃんは凄いね。レナはちょっとだけしたのにもう疲れちゃった。これじゃあ勇者になれないのかな……」

「それもまた慣れだ。毎日同じことを続ければ、レナなら一瞬で俺なんか追い抜くさ」

「本当?」

「本当だ。それに」


 俺は師匠として大事なことを伝える。


「勇者だろうとなんだろうと人は人だ。なんでも出来るわけじゃない。だから、人は頑張り続けることが出来るんだと思う」

「よく……分かんない」

「……そうだな。でも覚えておいてくれ。人は何でもは出来ないが、何でもしようとすることは出来る」


 レナの頭にポンと手を置く。


「レナのやりたいようにすればいい」

「……うん。分かった!!」

「だけど一つだけ、レナには絶対にしなければいけないことがある」


 俺は不思議そうな顔をするレナの手を取り


「お兄ちゃんと一緒に遊ぶことだ」

「わぁ!!」


 レナは花のように笑い


「それじゃあしょうがないね」


 そして俺達は手を取り合い、走り出した。


 俺はあの日の思い出を忘れることは決してないだろう。


 レナ サンディア(6)


 力(C) 補正値(S)


 知力(E) 補正値(A)


 魔力(C) 補正値(S)


 神聖(C) 補正値(S)


 魅力(A) 補正値(SS)


 運(S) 補正値(C)


 ◇◆◇◆


「す、凄い」


 一人の兵士は呆然と呟いた。


 兵士はミスを犯し、敵に包囲されてしまった。


 当然見捨てられるはず。


 いや、見捨てるべきもの。


 たった一人を救うために何十人が犠牲になるなど割に合わない。


 兵士は当然のことだと納得し、それを受け入れていた。


 だが、それを良しとしない者がいた。


 皆が止めた。


『貴方を失うべきではない!!』


 そんな言葉に、彼女はこう返した。


『人は何でも出来るわけじゃない。私にも救えない命がたくさんある。だけど、それは私が止まる理由にはならない』


 そして走り出した。


 一騎当千。


 無謀が希望に、希望が光明に、少しずつ少しずつ結末が変わっていく。


「危!!」

「大丈夫」


 背後から忍び寄る敵を見ることなく斬る。


「後ろに目でもついているのか……」

「ちょっと思い出させないで!!」


 戦場に似つかわしくなく笑う。


「兵士さん。気配って知ってる?」

「け、気配?あの達人が至るという……」

「そう。見えてるわけじゃない、感じてるの」


 またしても死角から飛んできた攻撃を弾く。


「感じるの。世界を」

「世界を……感じる……」


 意味が分からなかった。


 でも、勇者である彼女が言うのだ。


 常人には理解出来ない領域なのだろう。


「私もまだまだ未完成。私にこの技を教えた師匠はもっと凄いよ」


 兵士は震えた。


 この戦場に咲き乱れる戦乙女すらも凌駕する存在がいるのかと。


 命の危機の晒されているにも関わらず、兵士はつい尋ねてしまう。


「その方の名前は?」


 勇者は答えた。


「テンセ、私のお兄ちゃんだよ」

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