第4話
あなたは神を信じますか?
こう聞かれた人々は2秒後にこう答える。
「はい」
現在俺はとある教会の懺悔室にいた。
街の図書館に行った帰りに偶然見つけたものだ。
暇なの……懺悔したいことがあるので、こうして立ち寄ったわけだ。
「すみませんシスターさん。こんな餓鬼の話に時間を取らせてもらって」
「いえいえ、迷える人々に力添えをする。これは神の元に生まれた者として当然の行いですので」
いい人だなぁ〜。
壁の向こうにいるので顔は見えないが、きっと性格のいい美人さんだろう。
そう考えるとなんか楽しくなってきたな。
まぁ今は本題に入ろう。
「あ、その前になんですけど、質問いいですか?」
「もちろんです。私はあまり学のない者ですが、精一杯お答えしますよ」
「ありがとうございます。これはあくまで疑問というか、あまり深く考えないでいただきたいのですが」
「はい?何でしょうか」
めちゃくちゃ保険をかける俺に不思議そうな態度を取るシスターさん。
ちょっと怖いけど、聞いておかねば。
「神って本当にいるんです?」
「最初に信じると言ったばかりでは?」
「一応……信じてはいます。ですが、ここまで皆が口を揃えていると言うと、逆に疑ってくるんですよ」
「なるほど、素晴らしいご意見です」
よかった、怒られると思った。
「何故神が信じられているのか。その話の多くは諸説あります。例えば神聖、これは魔力を使わずに行われる奇跡全般を指します」
「教会の治療とかですね」
「はい。魔力には人を癒す力がありません。ですが、神聖力があればそれが可能となります。実際に見てみましょう」
「見る?」
すると、突然全身がぽかぽかしてきだす。
「これは?」
「神聖力による癒しです。体が温かくなるということは、少々お疲れ気味ということですね」
「確かに、最近は色々してたからな」
勉強して剣を振って妹にそれらを教えて。
充実していることは事実だが、疲れないわけではないということだ。
「こう言った神聖は神からの寵愛が強い程発揮されます。学者の方のように言うと、教会に関わる人程神聖が強くなるのです」
「なるほどー」
神に近しい人程力が強まるなら、そういった存在がいると思うのは当然か。
「他にも理由の一つとして、実際に神に遭ったと申される人が多数発見されています」
「それは……」
嘘じゃね?は禁句かなぁ〜。
「そして、その代表として取り上げられる存在が聖女ですね」
やっぱり言わなくて正解だった。
「聖女って話はよく見聞きするんですけど、具体的にどんな人なんです?」
物語や歴史に何度も登場する聖女。
でも内容自体はかつて勇者を支えただとか、世界に平和をもたらしたとか、曖昧なものばかり。
だからこそ今聞いた聖女の話も若干衝撃を受けてたりする。
「聖女というのは……あれ?そういえばこの話はしてはダメだと言われて……」
「あ、やっぱりダメなんだ」
もしかしてこのシスターさんポンコツか?
上手く誘導すれば色々聞き出せそうだが
「すみません。喋られないなら大丈夫ですよ。元々懺悔をしに来ただけなので」
「気を遣わせて申し訳ございません。まさか懺悔を聞く立場の私が懺悔してしまうとは……もしやあなた様は聖女様ですか?」
「俺男ですから」
互いについ笑ってしまった。
なんだか同年代と話してるような感覚になるな。
やっぱり俺の精神が多少大人寄りだからだろうか。
まぁいいや。
少なくとも、俺はこの人と話す時間が好きそうだと分かっただけ大金星だ。
「神様についてはまた後日、お話しましょう」
「いいんですか?」
「はい。それよりも今は心の綺麗なあなたの懺悔をお聞きしたいです」
「あ、忘れてた」
そうだ、一応俺は懺悔をしに来たんだった。
「実はですね……」
「はい」
「トリプルブッキングしてしまったんです」
「トリプルブッキング?」
俺は説明した。
いつもの週に3、4回ある修行日。
師匠として最高の時間にするべく、色々と技や知識を仕込んでいた俺。
それで集中し過ぎていたのか
『この時間って暇かしら?』
『まぁ……うん。あ、この理論はそういうことか』
『なら、一緒に遊びに行かない?絶対に有意義な時間になると思うの』
『おーん、そうだな。ん?これ一体どういう……』
『話聞いてる?』
『もち……ろん!!』
『じゃあ、最近できたデザート店。一緒について来てくれるってことで大丈夫?』
『おう!!グッ……キチィ!!』
『予定とか本当に大丈夫なの?』
『余計?余計なんかあるはずないだろ!!』
『それならいいけど』
そして事実を知った俺は絶望した。
「どうしましょう。死ぬしかないんでしょうか」
「も、もっと命を大事にしましょう」
慌てた様子を見せるシスターさん。
なんかこの人顔が見えないのに可愛いな。
「コ、コホン。と、とにかく失敗した事実は取り消せません。まずはお三方に本音を言うべきです」
「ですよね〜」
そりゃそうである。
あまりのど正論に耳が痛いね。
「ですが、あなたの気持ちも分かります。話半分とはいえ、簡単に承諾してしまう程の信頼を築かれている大切な存在なのですね」
「そう……ですね。なんか恥ずかしいですけど」
「いえいえ、羨ましい限りですよ。なんだか本当の絆がそこにはあるようで」
シスターさんは声を窄めてそう言った。
どうしてだろうか。
事情は知らないが
「お話を聞いて下さりありがとうございます」
「あなたの心が少しでも軽くなったのなら何よりです」
「では次に、シスターさんの懺悔でも聞きましょうか」
「……ふぇ?」
突然何言ってんだ的な声を出すシスターさん。
「懺悔でなくてもいいんです。何か最近あった辛いことや悩んでいることを相談して下さい」
「い、いえいえいえ、私には何もありませんよ!!本当に私は素晴らしい環境にいまして、何かお気遣いされる程のことは」
「では嬉しかったことを話して下さい。これなら簡単ですよね?」
「え……はい。それなら」
そう言ってシスターは自身が経験した嬉しかったことを
「えっと……ですね」
話せないでいた。
「しょ、少々お待ちを。人々に感謝された話……いえ違うような、あれは当然のことをしただけで……」
「……」
「えっと……え〜っと……」
悩む。
「すみません。唐突ですがまた俺の懺悔を聞いてもらえますか?」
「え?あ、は、はい」
話が二転三転する。
一体何がしたいんだと俺自身もしみじみ思う。
「俺の好きなことは誰かに物を教えること……つまりは誰かの師匠と呼ばれる存在になることです」
「師……ですか。素晴らしいお考えかと」
「ありがとうございます。そんなわけで、懺悔をしたいのです。今、シスターさんに物を教えることをお許し下さい」
「私に……ですか」
シスターさんは少し黙った後
「問題ありません。いえ、違いますね。お許ししましょう」
「では、僭越ながら」
俺は椅子から立ち上がる。
「好きなように生きてみると、案外面白くて仕方ないですよ」
「好きな……ように……」
「今日はありがとうございました。また来ますね」
こうして俺は懺悔室を出た。
後日、あまりに臭い台詞を吐いたことに悶絶し、トリプルブッキングは羞恥死したという理由で乗り切った。
乗り切ったかなぁ……
ま、まぁいいや。
とにかく、俺は恥ずかしながらももう一度教会へと足を運んだ。
「すみません、懺悔を聞いてもらっていいですか?」
「もちろんです。ですが、その前にこちらから一つよろしいでしょうか?」
「え?は、はいどうぞ」
「あなたはお師匠様ですか?」
「はいそうです(即答)」
「少々お待ち下さい」
「え?マジで何ですか?」
師匠ですか?と聞かれたら即答してしまう病気を持つ俺。
つい返事をしてしまったが、何なのだろうか。
「お、お待たせしました!!」
壁の向こうから聞き覚えのある声がする。
「あ、以前のシスターさんですか?」
「覚えて下さりありがとうございます、お師匠様」
「ふへ、それほどでも」
ついキモい声を出してしまった。
「それではいつも通り。あなたは神を信じますか?」
「いいえ」
「はい、それでは…………え?」
「信じません」
「え、あ、その……」
相変わらず可愛い人だな。
「それは何故ですか?」
「トリプルブッキングをドタキャンしたら怒られたからです。神様がいるならどうにか助けて欲しかったからです」
「な、なんとも俗な理由ですね……」
「でも実際、神聖のない俺からしたら神様の恩恵というものが感じられないんですよ」
「それは……」
「ですので神様を信じる為に、神様の為に頑張っているシスターさんが幸せになったら信じたいと思います」
実のところ、俺はこのシスターさんともう一度話す為にここに訪れた。
違う人なら別の日に、それでも違うならもう一度、それを繰り返そうと思っていた矢先にこれだった。
だから言いたいことを伝えた。
相変わらず恥ずかしい俺だが、大事なことは伝える。
これは師匠として俺の掲げる絶対の掟なのだ。
「……では、お師匠様が神様を信じる為に、私は人生を楽しむ必要がある……ということですね」
「はい」
「なら……仕方ないですね」
ちょっと涙声の嬉しそうな声が返ってくる。
「本当に仕方ない人ですお師匠様は。懺悔して下さい。もう何でもいいので全てに懺悔して下さい」
「えぇ〜」
何かが妙に吹っ切れたシスターさんに凄いこと言われる。
「じゃ、じゃあ懺悔します。なんか色々すみませんでした」
「本当です!!もっと誠意を持って生きましょう!!というか神様を信じないなんて不敬です。場所によっては死刑ですよ」
「えぇ!?」
「うふふ」
なんか本当に楽しそうなので、まぁいいかと思った俺でした。
まる。
エリザベス ホワイト(8)
力(E) 補正値(E)
知性(C) 補正値(A)
魔力(E) 補正値(E)
神聖SS 補正値(SS)
魅力SS 補正値(SS)
運S 補正値(S)
◇◆◇◆
「ふぅ〜」
例の少年が去った懺悔室で、エリザベスは深く息を吐いた。
「嬉しそうだな」
「あ、本日はありがとうございます。すみません、無理言って代わってもらって」
「いんや、むしろ嬉しかった。あんたが我儘を言うことなんて初めてだから」
「そう……でしょうか?それこそ皆さんにはお世話になりっぱなしで、我儘ばかりの人生なのですが」
「それを素で言っちゃうのが……まぁでも、そんなあんたに我儘を言わせた彼は何者なんだろうね」
「お師匠様はお師匠様ですよ。それだけです」
「そうか。また彼が来たら呼ぶことにするが、それより前の話、どうする気だい?」
「あれですか」
エリザベスは困ったように笑う。
「正直荷が重いなと感じていたんです。未熟な私がそのような大役を務められるのか自信がありませんでした」
でも
「チャレンジしてみようと思います」
「エリーがチャレンジ……か」
「はい。おそらく力不足を実感するでしょう。ですが……思ったんです。やりたいことをする。これが大切なのだと」
エリザベスの持つ白銀の髪が大きく舞う。
「私、聖女になろうと思います」
そして最後のピースが揃った。
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