第4話 隊長、地図であります
カピバラの誘いに応じついていくものの、50メートルも進まぬうちに彼が立ち止まった。
鼻でふんふん地面を突っつき、蔦らしきものを引っ張る。
しかし、根を張った草がそうそう引っこ抜かれるものでもない。
「俺がやってみるよ」
彼が蔦を引っ張る意図は分からないけど、乗り掛かった舟だ。蔦を引っ張るくらいなら付き合うよ。
このまま立ち去って後ろから「もきゅ」とか鳴かれたら結局彼の手伝いをしそうだしさ。
蔦を握り、力を込める。
多少の抵抗があるものの、大して苦労なく地面が動き根が露出し始めた。
案外、土が柔らかいのかな。
「お、おお!」
根っこにはピンポン玉くらいの芋がいくつもついていた!
「食べる?」
二つほど取ってカピバラの前に置くと、鼻をひくひくさせながら食べ始める。
ほう、こいつも食べることができるんだな。
近くの似たような蔦を引っ張ってみたら、同じような芋を更に集めることができたのだった。
思わぬところで食材が見つかった俺はホクホク顔で廃屋に戻る。
カピバラはと言うと、食べて満足したのかまたしても水桶に潜り込んでしまった。
俺としては特に困らないし、彼のおかげで芋を発見することができたのだから大助かりである。
飼っているつもりはないのだけど、水桶に居座ってくれるならそれはそれで歓迎だ。
「んじゃ、やるかあ!」
芋の土を落とせるだけ落として鍋入れたまま、屋内の作業を進めることにした。
別の鍋で湯を沸かすことも忘れず実行する。火を放置するのは危ないが、獣除けにもなるし、目分量で枝の量を調整してみた。
上手くいなかなったとしても空焚きになるだけだ。鍋が焦げ付いてしまったら「再構成」で元に戻せるので被害なしである。
タオルが一つでもあればなあ、なんて愚痴りながら廃材を二階へ運び「再構成」でじわじわと屋根を修復していく。
中途半端に屋根を修復しても意味の無いのが辛いところだ。
日が暮れるまでにやれるだけやってしまうぞ。最悪この状態でも一階なら雨漏りするだろうけど、雨は凌げる。
だがしかし、せっかく新品にした屋内を雨で汚したくないってのが心情というものだろ。
いや、新品になったってことは雨の逃がし口がないよな……野ざらしの二階床はすぐにダメになってしまいそうだ。
ぐ、ぐうう。こいつは何としても終わらせねば。
大工仕事と違い、再構成の場合は廃材を二階へ運ぶだけである。
そうは時間がかからないはずだ!
「はあはあ……」
二時間近くかけて屋根の修復が完了した……多分。
普段運動不足だったからもう腕がパンパンだよ。足もガクガクしている。
中から見る限り、屋根は元通りになっていると思う。屋根に上って様子を確かめなきゃ本当のところは分からないけど、今日はもう終わりにしたい。
屋根に登って怪我するかもしれないだろ? いや、本当は疲労困憊でもう動きたくないだけだよ。
ふらつきながらも手すりにしかと手を当てつつ階段を降りる。
屋根を再構成したのであるが、まだまだ廃材が残っているんだよな。残りの廃材は家具類なのだと思う。
廃材を両手で掴んでみたら、予想通りメッセージが出た。
『木材を消費して、再構成可能です。再構成しますか?』
「再構成する」
『不必要な素材は消滅します』
今掴んでいたのはテーブルらしい。椅子もあったし、食器棚まであったんだ。
テーブルも四人用だし、食器棚も一人で使うには大きい。
二階部分の部屋は二つ、一階もリビング以外に一部屋あったので、以前の居住者はソロじゃなかったんだなと推測できた。
廃材が殆どなくなった今なら食器類も多かったことが分かる。
生活必需品がだいたいあるということは、やっぱりあったあった。
一階の部屋にボロボロで黒ずんでいたがバスタオルくらいの布とハンドタオルくらいの布、手拭き用の布が床に落ちていたのだ。
幸い布生地を要求されることがなかったのでそのまま再構成することができた。
直後にベッドを再構成し、バスタオルと思っていた布が布団サイズになることに気が付く。だよなあ、いくら複数人で住んでいたにしてもバスタオルの数が多かったんだもの。
ついでと言ってはなんだが文机もあったぞ。
中には再構成できないものがあったりもしたんだよね。
再構成できないものの代表は朽ちて分からなくなっていたが、かつて薪? だったもの。
再構成したといえ、埃やゴミは残っているし、木材も転がっているから細かい道具を一目でとはいかない。
掃除はいずれするとして二階も……と思ったが二階は綺麗なものだ。
元々床が崩れ落ちていたから二階にあったものは全て一階に落ちていた。
ベッドとか文机とかどうしようか。
再構成したものは元に戻すことができない。いずれ解体してから二階に運んで再度再構成しよう。
今はリビングにベッドがある状態で我慢だ。
邪魔で仕方ないのだけど、俺一人だし全く問題ない。
二階に家具類だったものは無いので、暗くなるまで一階の部屋の掃除をするかあ。
掃除機も箒もないからざっとでいい。軍手があればよかったのだが、残念ながら軍手も無かったのだ。
服が一着も無かった中、布があって幸いだったと見るべきだよな。
最初は身一つだったことを振り返ると多くのモノを手に入れた。欲張っちゃあいけない。
たった一人で生き抜かなきゃいけない状況だから、ストイックにストイックに、を意識しないとね。
ごみの中には紙片も混じっていて、再構成できないか試してみたが紙が足らないと来た。
屋内にある分はほぼすべてかき集めたのだけどなあ。
「紙なら軽いし、ちょういい」
日が暮れ始めたから本日の作業はこれで最後にしよう。
既にいくつも再構成しておいてなんだけど、疑問に思っていたことがある。
木材が足らない、と脳内メッセージが訴えていたので廃材を使って再構築した。
だけどさ、屋根とベッドと壁は素材が違うだろ?
最初の水桶こそその場にあったものだから、元々水桶だった素材を使って再構築したけど、家はそうじゃない。
混じっていて元はどれだったのか分からない状態だった。
適当につかんだ廃材で再構築できてしまったんだよな。なので、再構築に必要な素材はどこまで許容されるのかを確かめようと思ってさ。
この紙はパルプなのか草なのか分からない。少なくとも動物の皮ではなさそうだ。
適当にその辺の草を引っこ抜き、落ちていた枝を拾い上げ……いや、抜け過ぎだろ俺。
再度、紙片に触れてみる。何が不足していたのかを再確認するために。
『パピルスが不足しています。再構成をするにはパピルスを準備してください』
パピルスって確か草か何かの茎から作れれているんだっけ?
じゃあ、茎の長い草で試してみるか。
『パピルスを消費して、再構成可能です。再構成しますか?』
「再構成する」
『不必要な素材は消滅します』
できちゃった。
未だ基準は不明瞭ながら、パピルスと茎は明らかに別物だ。
似たようなもの……と言えなくはないのか?
ますます謎が深まってしまった。
再構成すると巻物みたいになった一枚のパピルスになっている。
広げてみると、パピルスに絵が描かれていた。
この絵って、地図じゃないのか!
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