第32話 転移の仕組み確認してみよう
低いガラガラ声は渋いが、頭はワニを擬人化したようなフォルムをしている。
口は尖り、牙がずらりと並んでいた。目はビー玉をはめ込んだようで色は黄色。
黒っぽい革鎧に身を包んでいたが、戦いの結果だろうか擦り傷と汚れが目立つ。武器は確か三日月刀だったと思う。
タヌキに吹き飛ばされた時に落として今は手に何も持っていない。腰に予備の剣があるようだけどね。
肌はゴツゴツした鱗に覆われ、くすんだ緑色をしている。
ジークフリードは遠目から見て人間じゃないと判断できるくらいに人間があったのだ。
「俺は
「リュウイチ殿。キメイラに遭遇したところ、ご助力感謝いたす」
「そう言ってくれてホッとしたよ。邪魔しちゃったかもとも思ったから」
「拙者、情けないことにキメイラに手も足もでなかったでござる。リュウイチ殿が参られなければ、今頃物言わぬ躯に成り果てていた」
グルルと喉奥で悔しそうに音を出すジークフリード。
キメイラというのはさっき見た魔物のことだよな。
この世界ではライオン頭に蛇の尻尾、そして鳥の足を持つモンスターのことをキメイラと呼ぶらしい。
俺のファンタジー知識では、頭が鷹でライオンの体がグリフォン。他にはキマイラってのが知識としてあるが、キメイラとは見た目が異なる。
ともあれ、攫ったような形になったジークフリードが好意的で良かった。
いきなり切りかかられたらどうしようとか懸念していたからね。一発勝負かつ行き当たりばったりだったけど、うまく彼を救い出すことができて結果オーライだよ。
「ここでキャンプをしていたのはジークフリードさん?」
「いかにも。拙者、各地を旅している風来坊のリザードマンでござる」
「各地を旅しているだって!」
「リュウイチ殿も旅を続けておられるので?」
「いや、旅をしたいなと思ってるんだ」
「軽い気持ちでここまでやって来ることなどできはしませんぞ。リュウイチ殿も立派な旅人とお見受けしたでござる」
彼は同好の士を見つけたとばかりに快活に笑い、喉を鳴らす。
旅慣れた彼の言葉から推測するにこの場所もまた結構な僻地のようだな。
しかし、誰にも会えないってことはあるまい。
人里まで相当な距離がありそうだが、彼だって補給くらいするし、羽を休める地だってあるだろう。
「せっかくだからご飯でもご一緒しない?」
「是非に。食材はいかがなされますか?」
「うーん、現地調達しようか。近くに川はないかな」
「海ならあるでござる」
そんじゃ、海で漁をするとしようか。
狩猟をして肉を確保するという考えより先に魚が浮かぶのはご愛敬である。
まだ、イノシシやらを狩猟して捌いたことがないから、どうしても躊躇してしまう。
狩の対象がいるのかどうかも分からないけどね。
その前に確認しておきたいことがある。
「パック、ジークフリードさんから場所を聞いておいてくれるかな?」
「うんー。任せて」
しばしの間、いつの間にか少年の姿になったパックにジークフリードを任せてタヌキをちょいちょいと招き寄せる。
ジークフリードから少し離れたところで声を潜め、彼女に尋ねた。
「転移のことで少し聞きたいことがあるんだ」
「わたしに分かることでしたら何でもお答えします」
「丸一日経過したら自動的に元の場所に戻るんだよね」
「はい、ご認識の通りです」
ここまでは確認だ。
聞きたいことはこの次である。
「戻る対象はどうなるんだろう?」
「対象とは? 転移したキャラクターは時間が来ると自動的に戻ります」
「言い方が悪かった。転移先で採集したりして手荷物が増えるとどうなるんだろう?」
「一緒に転移します」
「触れているとかそんな条件かな?」
「はい、概ねご認識の通りです。触れている対象がキャラクターであっても転移しますのでご注意ください」
おお、俺の聞きたかったことにズバリ回答してくれた。
曖昧で的を射ない質問だったけど、さすがディスコセアである。
まとめると、転移先で拾ったものは持ち帰ることができ、モノの種類は問わない。
それがたとえ生き物であっても。
俺がこのキャンプ地で拾い再構成した赤い石ももちろん持って帰ることができる。
「ありがとう、助かったよ」
「いえ、お役に立てて幸いです」
聞きたいことも聞けたので、今度はパックのところへ戻ろう。
パックはジークフリードから既に海の場所を聞いていたようで、「そんなに遠くないよー」と言ってまたカモメの姿になった。
彼にとってはカモメの姿の方がしっくりくるのかな?
探索中はカモメの姿の方が都合がいいのでカモメの姿になってくれていると思っていたが、そうでもないのかも。
確かカモメの姿の方が燃費もいいとも言ってたな。
エネルギー効率が良い姿の方が潤沢に食べることができる環境ではない場合に望ましいか。
本能的にカモメの姿を好んでいるのかもしれない。
「聞いたよー。おいらも分かるー」
「すぐそこかな?」
「うーん、飛べばすぐだよ?」
「フェンリル。ジークフリードさんもフェンリルに」
海ならあると言ったが、近いとは言ってないものな。
そらまあ、この場所では潮の香りがしないし、すぐ傍に海はないって何となく察していた。
余談だが、俺の住んでいる家は潮の香りもするし、波の音も聞こえる。
「がおー」
「まあ、飛べばすぐならフェンリルでもすぐさ」
「行くよ」とフェンリル(仮)のお腹をポンと叩く。
パックの導きに従い、フェンリルとタヌキが加速するのだった。
走ること30分ほどで海に到着する。
これこれ、波の音。これこそが海だ。波の音って癒し効果が半端ないよな?
「よおっし、浜辺はないけどちょうどいい岩場があるし、そこで魚を獲ろう」
「がおー」
今晩は海鮮だー。
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