第33話 魔獣フェンリル(仮)

「素晴らしい獣魔をお連れでござるな」

「フェンリルのこと?」

「白黒の熊もそうですが、タヌキもでござる。パック殿も然り」

「確かに彼らは俺の自慢だよ」


 「がおー」と鳴きながら前脚を振るい、次から次へと魚を打ち上げるフェンリル。

 打ち上がった魚はタヌキがキャッチし網に入れる。パックは……つまみ食いしていた。

 俺も何か手伝おうと思ったのだが、座っててと言うので、ありがたく休ませてもらっている。

 確かにこれじゃ俺が出る幕はない。パックも俺と同じなんだけど、新鮮な魚がドンドン来るんだもの、仕方あるまいて。


「何から何までかたじけないでござる。拙者も何か助力をと思ったのですが」

「ううん、フェンリルの邪魔になっちゃうから。話は変わるけど、一つ聞きたいことがあって」


 そう前置きしてから話を続ける。

 

「俺みたいな見た目の種族にあったことはあるかな?」

「リュウ殿は同族に会ったことが無いと言うのでござるか!?」

「あ、うん、しばらくの間ね」

「ニンゲン族は大陸で一番数が多い種族でござる。村は単一種族のものもあるので会えないかもでござるが、街なら必ず会えますぞ」


 お。おおお。

 人間に会ったことがないという質問に戸惑いを見せたジークフリードだったが、すぐに冷静さを取り戻し説明してくれた。

 人間……かどうかは分からないけど、人間に似た種族は多数いるってことか。

 ディスコセアが変身したけしからん姿も耳の形が違うだけで人間そっくりだったものな。


「街とか村ってここからどれくらいの距離になるの?」

「そうでござるな……貴殿の熊でしたら一日もかかりませんぞ」

「案外近い……いや、フェンリルが速いのか」

「そうでござる。馬でも一日じゃ到着しませんからな。徒歩となると長旅になるでござるよ」


 ふむ、一気に村か街の近くまで行けるか?

 ジークフリードが付き添ってくれることが前提になるが、行くとすれば夜通し走るか、朝になってからGOするかのどっちかだ。

 夜は暗いから危険が増すし、ちゃんと休息しなきゃ俺はともかくフェンリル(仮)とディスコセアはたまったもんじゃないよな。

 普通に考えると翌朝に移動すべきだ。

 しかし、俺たちは丸一日経過すると元の位置に戻ってしまうことを覚えているだろうか。

 一日かからないといっても正確な距離は分からないから、街か村に到着する前に元の位置に戻ってしまうかもしれない。

 戻ること自体は少し残念だったな、と思う程度だ。

 問題はジークフリードなんだよ。移動中に元の位置に戻ったとしたら、彼はフェンリルの背に乗っている。

 つまり、俺たちに触れているってことだ。

 旅慣れたジークフリードになんらかの場所に案内してもらおうかなと思って、ディスコセアに転移の仕様を確認した。

 触れていると生き物だろうが元の場所に引っ張ってきてしまうってね。

 もしジークフリードを俺たちのいた場所に転移させてしまったら、彼もあの外に出られない地から出られなくなってしまう。

 あの場所から出る手段は今のところ転移以外にはない。

 転移はあくまで一時的な手段だからね。このループにジークフリードを巻き込むわけにはいかないじゃないか。

 

 知らぬままだと大変なことになっていた可能性がある。


「兄ちゃーん。魚ー。貝もあるよー」

「おお、すまん。わざわざ姿まで変えて」

 

 パックが重たそうに魚介がたんまりはいった網を引っ張って声をかけてきた。

 そこへフェンリル(仮)がやって来て、網を口に咥える。

 さすがの力持ち、軽々と網を運んでしまった。


「ありがとう、みんな。フェンリルとディスコセアは自分の食事も用意しなきゃだよな」

「ご心配には及びません。キノコはどこにでも生えていますので」

「がおー」


 網を俺の前に置いたフェンリルは近くの枝を前脚でバシコーンとして枝を落とす。

 お座りして落ちた枝を掴みもしゃもしゃやり始めた。

 どんな枝と葉でも大丈夫なんだな。いつもそこら辺の枝と葉を食べてたっけ。

 見た目のイメージから笹しか食べないのかと思ったが、そうではない。

 たいして食べないのにこのパワーは恐るべしである。

 もう一方のディスセコアも非常に燃費がいい。キノコを多少食べるだけだものな。

 

「よっし、火を起こして食べよう。多少道具しか持ってきてないから大したことはできないけど」

「拙者も助力させていただくでござる」

「ありがとう、助かる」

「おいらもー」


 パックは……そうだな、食べる専門だからなあ。

 よし、鱗をかるく削いで内臓を抜く。海水で洗ってパックに串を挿してもらう。

 ジークフリードもなかなかのナイフ捌きで貝を次々に開いていく。

 貝柱を切るとさくっと開くのだそうだ……と今彼から聞いた。

 貝は網に乗せてっと、醤油か酒があればよかったんだが、いかんせん調味料が何もない。

 村か街に行ったら仕入れたいところ。

 ここまで考えて気が付いた。俺、お金を一切持っていないではないか。

 金目のものを売れば何とかなる……よな。新品にした装備品を売れば多少のお金にはなるか。

 

「さあ、焼けたぞお」

「はふ、うまうま」

「囲んで食べる食事は格別でござるな」


 飲み物は水のみだけど、ジークフリードに完全に同意だ。

 みんなで囲んで食べる食事はおいしい。味は正直……まあ、うん。川魚に比べたら断然マシよ。

 食べながら、近く……と言っても距離があるけど、だいたいの方向を聞くことが出来た。

 一番近い村もそうじゃない村と街もざっくりとした方向しか分からない。まあそうだよな。


「どうしても道が分からないなー。街道があるなら目印があるといいのだけど……」

「更に遠くなりますが、海岸沿いならどうでござるか?」

「お、そいつは名案だ。海沿いを進んで行けば、だよな」

「ずっと海岸線は道が険しく難しいかもしれませんな。ですが、潮の香りが導いてくれるでござるよ」

「うんうん」


 あとは海岸線をどっち側に進むかだけ聞いておけば目標ができる。

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