第10話 お宝発見!

 鉄の扉を開けてもまだ階段は続いていた。深く潜ると急速に明るさが無くなり薄暗くなっていく。暗さに不気味さを覚えつつランタンに火をつける。ここは洞窟にありがちな酸欠の心配はない。地上まで真っ直ぐの階段があるのだから。

 階段を降りるとすぐに古ぼけた木の扉にぶち当たる。この扉は横に引いて開けるタイプであったが、経年劣化から取っ手を押した時にギギギと嫌な音がした。強く動かすと破損しそうな勢いである。先程の鉄の扉と違って封もされておらず、順調に中へ入ることができた。

 木の扉の先は地下室になっているようだ。部屋は思った以上に広い。ランタンの灯りが奥まで届かないほどだ。暗闇に包まれてるから慎重に進まなきゃな。


『真っ暗で何も見えないや』

「だなあ。パックは暗いところはどう?」

『どうって?』

「夜目はきかないのかなってことを聞きたなったんだ。暗いところでは見え無くなっちゃうかどうかって。分かり辛くてごめん」

『リュウと同じだよ。およ、そこ、もう一回照らしてみて』


 パックの示す場所を照らすと親指大の見事な宝石が壁に埋め込まれていた。

 ランタンの灯りなので宝石の色は不明。なのでどんな宝石なのか検討がつかない。

 宝石の周囲は大理石の長方形の板がはられていて、他と違うことを示している。暗くてよく見えないけど、大理石に触れてみたら細かい凹凸があり装飾がされていることが分かった。

 うーん、不用意に宝石へ触っていいのもか悩むな、これ。

 困った時にはこの世界の住人に聞いてみるべし。


「何かわかる?」

『うーん、ニンゲンの家には詳しくないけど、灯りじゃない?』

「スイッチには見えないなあ」

『これ、魔石だよね』

「魔石……?」


 魔石とな……それなんてファンタジー?

 いやまあ、パックとのやり取りで「魔法」って言葉も出ていたし、この世界は俺の主観によるとファンタジー世界なんだって見て見ぬふりをしていた。

 しかし、魔石か。

 魔法と並んでときめくワードだよな。

 内心、ワクワクしている俺をよそにパックはストンと俺の肩からジャンプして地面に降り立つと同時に体から煙があがる。


「押してみればいいんじゃない」


 人型になったパックが背伸びして宝石に触れた。

 お、おおい。罠だったらどうするんだ!

 と、ここまで考えて、その可能性が低いことに気がつく。

 理由は鉄の扉だ。扉が侵入者を防ぐ構造になっていたので、この地下室に至ることができるのは限られた人だけ。

 パックの言うように灯りだったら嬉しいな。

 数秒経過するも何ら変化がない。


「ただの装飾だったのかもなあ」

『兄ちゃん、さっきの魔法やってみてよ』

「あ、そうだな、試してみよう」


 宝石を再構成し、再びパックが宝石に触れる。今度も変化無しだなあ。

 そうそううまくいくものでもないか。気を取り直し、奥へ進もうとしたらまたしてもパックが俺のズボンを引っ張る。


「この高さを壁沿いに照らしてみて」

『やってみる、お、また宝石がある』

「兄ちゃんの魔法をかけてから一緒に押してみようよ』

「お、それは面白そう」


 なんでもやってみるのは良いことだ。上手くいけばもうけものだものね。

 パックと俺の真ん中にランタンを起き、お互いに宝石の前に立つ。


「せーの」


 パックの掛け声に合わせて宝石に人差し指を当てる。


「うおっ!」

「わあ」


 突如天井が光り、眩しさに思わず目を閉じた。

 地下にいるのにまるで外にいるかのようだ。

 お、おお。これが魔法! 魔法なんだな! 魔法の力で天井全体が光っている。

 蛍光灯くらいの明るさかな?

 もちろん、電灯らしきものは一切見当たらず真っ平らな天井である。


 明るくなったので部屋の様子が一望できるようになったぞ。

 部屋はやはり広かった。30メートル四方くらいはあるんじゃないだろうか。

 中央は一段高くなっていて、段差がある。形が円形になっており、複雑な文様が描かれていた。

 段差の上にはこれまた円形の台座があり、何かが寝そべっている。

 獣のようで白と黒の模様のある何かだ。

 

「剥製かなあ」


 形は熊に似る。しかし、熊より一回り以上は大きいな。

 目を閉じており、丸まって眠っているようにも見える。

 獣の寝そべっている台座の前には石碑があり、文字が刻まれていた。

 

「どれどれ……読めねえ。パックは読める?」

「全く。おいら、あまり文字は得意じゃないんだ」

「俺もまるで分らんわ」

「同じだね」


 はははと笑い合う俺たちである。

 異世界の文字なんて分かるわけがないだろ! 日本語で頼む、日本語で。

 封印された鉄の扉の中に獣を飾ってあがめていたのか? 宗教的なものとなると俺にとって特段価値はない。

 宗教的なものだとすると、祭壇なのかもしれないよな。荒さず立ち去るべきか。

 いや、一通り見てからどうするか考えた方がいい。

 中央にばかり目がいっていて他を見てなかったからな。

 

 入口と反対側の壁沿いには金属製の箱が三つ並んでいた。他には石像が二体。

 石像は比較的綺麗な状態で勇壮な鎧姿の戦士といったところ。

 石像をつぶさに観察してみたが、これといった仕掛けはなさそうだ。

 もう一方の金属製の箱だが、錆びが酷く三つのうち二つは劣化のため一部崩れ落ちていた。

 中は刃物類、革製品、布製品に別れている。

 どれも経年劣化が激しくそのままじゃ使えそうにない。


「これだけ長い間使わなかったものだったら、使う分だけ拝借してもいいよね」

「お宝、お宝」


 少しだけ良心が痛むが、ボロボロで使えなくなった状態を見て「いいよね、いいよね」と自分の良心に語り掛ける。

 おっけおっけ、使っちゃおう。

 刃物はダガーと幅広の剣の二つをピックアップした。剣の方は刀身が短く取り回ししやすい。アーミーナイフより若干長い程度なので剣とは言わないかもしれないけど。

 使い手が俺だからねえ。剣は予備として持っていればいいかなってね。ナタがあるから。

 革製品からは袖の無い革鎧と、革のホルダーにポーチに靴をピックアップした。靴はたまたまサイズがピッタリだったから。

 もっとも、スニーカーがあるから今のところは困っていない。

 布製品はズボンと上着だろ、下着類は残念ながらなかったのでローブを二つ拝借することにした。一つは野外で寝る時にも使えるし、もう一つは裁断して使おう。

 個人的に嬉しいものは布のザックだな。これで荷物を持つことができる。

 

 ほくほくしながら再構成を繰り返し、装備を整えていく。

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