第9話 メモメモ
余りにショッキングな出来事によりしばらくの間茫然としてしまった。
ス、スマートフォンは壊れていたから、いずれにしろデータが死んでいた……と思ことにす、る。するんだ。
地球に戻ることができたらクラウドからデータを復旧させることができるって。うん。さすがリンゴスマートフォン、壊れた時の対策もバッチリだ。
ちゃんと課金して同期させていた俺バンザイ。
「ばんざあい……」
う、うおおおおお。
もう終わった、終わったことだ。
まだ諦めきれない俺であったが、時間は待ってくれない。
スマートフォンを操作してメモ帳アプリを出す。
スケジューラー系のアプリを使えればよかったんだけど、残念ながらアプリを入れてなかった。
インターネットにつなげることができないので、アプリストアを使うことができないし、アプリによっては最新版にアップデートしなきゃ使えないものもある。
その点、メモ帳アプリは滅多にアップデートもないし、アップデートしなくても使えなくなるタイプでのアプリじゃないのだ。
いや、アップデートどころか初期化されたのでデフォルトで入っているアプリ以外は全て消し飛んでいる……。
「充電残量に気を付けなきゃな」
新品になったのでバッテリー容量はマックスになっているので、利用できる時間は最大値になっている。
とはいえ、紙に書くメモと異なり時間制限があることは確か。
使わない時はなるべく電源を落としておかなきゃな。
充電残量を見つつギリギリまで使うのではなく、余裕をもって新品状態に切り替えるようにした方がいいか。
<メモ>
・食材
海での釣りと採集
野山の散策 未
・地図
地図の箱マークの調査
×マーク 危険そう
・人との接触と地理
北の山脈 危険なトカゲがいる
海は暗礁があり、船で入ることができない
・道具
再構成で新品にする以外はない
「二日目でも結構情報があったな」
今のところ食材の確保に時間をさかなきゃいけないよな。
熱帯ぽい気候だから冬になると食材が取れなくなるってことはなさそうだけど、台風は来るかもしれないよね。
「うーん、探検はしたい。しかし、魚介類は腐りやすい」
保存しておくには干物とかにすりゃしばらく持つんだっけ?
ぐうう、インターネットに繋がりさえすれば膨大な情報を得ることができるのだが、難しい。
辞書アプリの一つでも入れておきたいが、インターネットに接続できないからアプリのインストールもできないのは先ほど語った通り……。
後悔はしない、振り返りもしないぜ。
「調査、採集、道具作り。まとめると三点だけだ。なあに軽く考えよう」
目を閉じるとすぐに意識が遠のく。
◇◇◇
『丘はあったよおー』
「おお、杉の木はあった?」
『杉って?』
「この地図に描かれているような木」
『三本あったよー』
「よおし、そんじゃあ行ってみよう」
『もうちょっと待った方がいいと思う』
パック様様だよ。彼がいなかったら絶対無理だったと思う。
朝日と共に目覚めた俺は芋を食べてさっそく出かけたんだ。
どこにって? 地図に描かれていた箱を目指してだよ。
箱は場所が分かるように目印が描かれていた。それが、小高い丘と三本の杉の木である。
こんな雑な目印とざっくりとした位置情報で目印なんて見つかるわけがないと考えていた。
ダメ元でパックなら空から観察できるからと思い、彼に協力してもらったら目印らしきものが見つかり今に至る。
彼の言葉に従い、しばらく待機して「もういいよ」との言葉をもらってから移動を開始した。
「待って」の言葉の裏には危険な生物がいたと言うことである。
時折彼に上空から索敵してもらいつつ、慎重に進む。
ナタを携えているけど、イノシシ相手でも勝てる気がしない。
タヌキや狐くらいなら何とか……。
日本でサラリーマンをしていて、イノシシや熊とナタ一本で戦った経験を持つ人なんて早々いないって。
ぶっちゃけ、野犬でも足が竦む自信がある。そんなもんだよ、現代人ってやつは。
「おお、確かに丘がある」
『だろだろー』
得意気に嘴を上にあげる俺の肩の上に乗ったカモメ形態のパック。
息を切らせつつも、丘の上までやって来た。
「杉の木が三本だけあるのな」
これは確かに分かりやすい。木が三本だけしかないから、他と間違うはずもなく。
そして、目印もなにもとても目立つんだけど……。
地下へ続く入口がポカンと顔を開けている。土と草に覆われてはいたが、石を敷いた階段になっているのか。
足場が崩れていたら再構成も考えたけど、そのまま下に降りることが出来そうだな。
中に何かいるかもしれない。何しろここは別世界だからさ、門番的なものが待ち構えていてもおかしくないだろ?
といっても、俺に出来ることはただ進むだけ。何かいたら脱兎のごとく逃げるのみ。
降りてすぐに鉄の扉があった。
扉は古風な金庫みたいになっていて、円形のダイヤルを回して取っ手を下げると開くのかな?
試しに取っ手を下に押してみたがびくともしない。
「えらく大がかりな封をしているなあ」
『開かないの?』
「錆びついているからダイヤルを回そうにも動かない」
『そっかー、残念だねえ。お宝は見れないね』
いやいや、そんなことはないぞ。
ダイヤルが回らなくとも問題ない。
そう、再構成があればね。
鉄の扉に両手を当てる。するともうお馴染みとなったメッセージが脳内に浮かぶ。
『必要材料なし。そのまま再構成可能です。再構成しますか?』
「再構成する」
『不必要な素材は消滅します』
鉄の扉全体が光り、真新しい鉄の扉に再構成された。
錆び一つ浮いていないピカピカの新品だ。
『おお、綺麗になった!』
「ふふ、それだけじゃないぞ」
取っ手を下に押し込むとさっきまではびくともしなかった取っ手がすっと下に動く。
「よおおっし!」
『リュウ! 凄いじゃないか! おいら感動したよ。ピカピカにして開錠までしたの?』
「いや、違う。新品にしただけだよ」
『ん?』
合点がいっていないパックに対し人差し指を立て得意気に続ける。
「金庫の鍵ってさ。開かないようにロックをかけるわけだろ。だけど、新品を購入してきたときにはロックがかかっていない」
『う、うん?』
「ほら、最初からロックされていたら買った人が開くことができないじゃないか。新品を買って来て、ダイヤルをセットするだろ」
『おおー』
正直なところ、開くか開かないかは半々くらいだった。
最初は開くようにセットされているものもあれば、ダイヤルを0000にセットして開いてから設定するといったものもあるからさ。
幸運なことにこの鉄の扉は初期状態が開くようになっていた。
そんじゃま、中へ行くとしようか。
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