第11話 動いた!
「それなりの格好にはなったかな?」
「かっこよくなったね! 兄ちゃん」
パックに褒めてもらってますます嬉しくなる。
真新しい装備が揃ったらすぐにでも着たくなるのが心情ってもんだろ。
パックの前で下着姿になるのはどうかと思ったのだが、彼も「せっかくだから着てみてよ」とか言ってくれたので「じゃあ」と戸惑いつつも服を脱いだんだ。
着心地は悪くない。ズボンはゴムもベルトもないので紐を結ぶ方式だったが、紐で結ぶズボンは俺にとっても珍しくはない。
シャツはそのまま頭を通すだけ、革鎧は両脇を革紐で結んで固定する。
腰につける革のホルダーがカッコいいな。
武器をおさめる鞘も付属しているので、ダガーを装着してみた。
もう一本後ろ側に横向きに装着できるようになっていたので、幅広の剣を装備する。
鏡があれば全身を見ることができるんだけどなあ。
「パックも服とか用意しようか?」
「おいらは要らないよお。荷物があると邪魔になっちゃう」
「その姿の時に服を着てるけど、鳥になったら服はどこに?」
「最後に着た服がそのままになるんだよお」
不思議な事象だが、考えてもどうして服が消えたり出現したりするのか分かるわけもなく、俺は考えるのをやめた。
着ていた服やローブを布のザックに詰め込み、肩に引っかける。
うん、結構しっかりとした作りになっているようだ。これなら重たいものを入れても平気そう。
三つの箱にはまだまだボロボロになった製品が残っていたが、このままにしておくつもりだ。
予備を持っておくのも良いかもしれないけど、欲張って持って帰っても持ちきれないからね。
場所は分かっているし、改めて取りに来ればいい。体に装着するものと違って状況によっては放棄する武器だけは持って行くことにしたし。
「こんなものか」
装備はあったが金品は見当たらなかった。
財宝ざくざくのお宝は無かったが、俺にとって装備が手に入ったことは大きい。
「ねえ、兄ちゃん、あれ持って行かないの?」
「大きすぎるだろ!」
パックが無邪気に指したのは台座の上に乗る白と黒の毛をした獣だった。
あの獣は神社の狛犬像的なものなんじゃないだろうか。
ここを作った人と箱を置いて行った人は別かもしれないけど、あの獣に敬意を払っていたに違いない。
お参りする対象だったなら、持って行くのは忍びないよな。
パックには分かりやすくと思って内心を隠し、ああは言ったものの、事実熊より大きな獣を運ぶことなんてできないことは事実だ。
「装備のお礼にはならないかもだけど……」
ここを訪れる人は俺たち以外にもういないかもしれない。
扉に封印までされていたので、特定の人以外お参りにくることもなかったはず。
誰にも見られることがなくとも、埃がかぶったまま立ち去るよりはよいと思ったんだ。
獣のはく製なのかな。
改めて近くによって見てみたが、白と黒の獣は長い年月が過ぎているというのに欠けている箇所はなく触れてみても腐った様子はなかった。
毛の感触は生き物のそれに思える。
ただこれだけでは人工物なのかはく製なのか分からないな。
撫でるとやはりというか埃が舞う。
「げほ……」
こいつは綺麗にするのも手間だ。
あ、そうか。
両手で獣に触れる。
『必要材料なし。そのまま再構成可能です。再構成しますか?』
「再構成する」
『不必要な素材は消滅します』
いつものごとく獣が光に包まれ、新品になった!
再構成は生き物には適用できない。たとえば、貝殻に触れても生きた貝に戻すことはできないんだ。
生物を再構成するとかもしできても恐ろしくて実行できないけど、再構成は無生物にしか適用されない。
となると、獣ははく製じゃなく精巧に作られた工芸品だったってことか。
石像を作ってから獣の皮を貼り付けたのかもしれない。
しかし、石像に皮を貼り付けたとして、皮は綺麗になるんだな。
製品にすると元々生物だったとしても、製品の新品状態になる。そういや、革鎧も新品同様になったじゃないか。
それを言い始めたら木彫りの熊を再構成し、木にはならないし、包丁を再構成しても鉄の塊にはならない。
製品となった時点に巻き戻す、というのが再構成の力である。
「ともあれ、綺麗になったから良し」
「兄ちゃん、この獣の像? 動いてない?」
「いやいや、再構成は生き物に適用することはできない」
「再構成? 兄ちゃんの魔法のこと?」
「そそ、新品にする魔法なんだよ」
「結構な回数を使ってるけど、疲れないの?」
「大丈夫みたい」
魔法は魔力を消費して発動するものらしい。
魔力を使うととても疲れるんだって。しかし、再構成を何度使っても特に俺の体調に変化はない。
俺に無尽蔵の魔力があり、使っても魔力が減っていることに気が付かないほど?
まあ、無いだろうな。一介のサラリーマンである俺にいつのまにか無尽蔵の魔力が備わっていた……なんて都合が良過ぎる。
再構成を使うことができるようになったけど、特に俺の身体能力やらに変化はないしなあ。
それで、パックは何て言ってたっけ。
え? 獣の目が開いている。真っ黒なつぶらなお目目と目が合った。
気のせいかなあと思って、すううと自分が動いてみると、つぶらなお目目が俺を追っている。
「動いてるう!」
「動いてるって言ったじゃん」
「待て待て、こいつ、生物じゃないはずなんだぞ。何で動くの?」
「おいらに言われても」
パックに迫るも、首をかしげられるだけだった。
それにこの獣……俺をロックオンしてないか?
試しに大きく横に動いてみたら、明らかに俺を目で追っている。
パックにも動いてもらったが、彼の方へ目線を動かすことはなかった。
「き、気のせいだ。行こうか」
「がおー」
「ひいいいいい」
獣が吠えたあ。やっぱり生きてるの? どうなんだこれ。
吠えた獣は台座から降り、俺の足もとで前脚を揃えてお尻をつけ待機する。
※ようやくタイトル回収!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます