第36話 灯台下暗し一番目立つのは
すげえ、すげえぞ。異世界の港街。
南欧風の港街って感じだ。煉瓦の道にクリーム色の漆喰に煉瓦で装飾された家々などなど。
パックは慣れた様子でディスコセアは無表情。俺だけがきょろきょろと落ち着きがないといった状況である。
街は細い路地が多く、入り組んでいたけど一本太い道がありそれが港まで続いていると言った感じであった。
太い道は門番が言っていた「中央広場」にもつながっていて、中央広場はベンチや露店が出ていて賑やかで俺のテンションがますます上がる。
「すごいなー」
「おいらも久々にこんなに大きな街に来たよー」
「どれくらいの人が住んでるんだろうなあ」
「いっぱい?」
そうだな。いっぱいいるよな。
最初は昔の南欧風に似た街並みに目を惹かれていたが、中央広場に来たところでようやく街を歩く人たちに注意が向いたんだ。
すると、やはりここは地球じゃないんだなあっと改めて思い知らされた。
カモメやスライムが人間(に似た形状)に変身するところを目の当たりにしているから今更かと思うかもしれない。
だけど、圧倒されるというか何というか、うまく言えないのがもどかしい。
国際色豊かって言葉を日本でも良く聞いたものだけど、この景色を見たら豊かって何だったんだろうって思わされるよ。
文化や風習が異なるといっても、何のかんので人間じゃないか。
ここは違う。
道行く人の数は平日の昼間……うーん、違うな。一番人が密集すると予想している中央広場の露店街でも行列ができるほどじゃないんだ。
途切れずに人が往来するくらいでどれほどの人通りか分かってもらえる……と嬉しい。
人間はもちろんのこと、猫耳、犬耳といった人間に近い見た目をした人たちから、猫頭や豹頭といった動物の頭の人たち、更にはジークフリードのようなリザードマンもいる。
割合的には人間が四割で次に多いのが獣耳種族で動物頭やリザードマンがそれに続く。
そうそう、ファンタジー定番のドワーフは……いたいた。ベンチで二人並んで酒を飲んでいる。
ドワーフは酒が好き。俺のイメージ通りで彼らを見てニヤニヤしてしまった。
ひょっとしたらドワーフじゃないのかもしれないのだけど、見た目が口と顎髭を生やしたずんぐりとした人たちだったからさ。
座っているが見た感じ、身長が俺の胸の下辺りだろうから俺のイメージするドワーフに合致したんだ。
確かめようにも、陽気に飲んでいる彼らに「種族は何ですか?」なんて失礼過ぎる問いかけができようはずもない。
「エルフらしき人は見かけないなー」
「ここに見た目だけならハイエルフがいますが」
無表情に顎をあげるディスコセアの耳元に口を寄せる。
俺、気が付いたんだ。
人の観察をしていただろ。それでさ、道行く人がチラリと彼女を見るのが多いってことにさ。
彼女が綺麗だから男の目を惹くのは事実だと思う。しかし、女性もかなりの高確率で彼女を見ていたんだよね。
それでエルフの姿を見かけなかったことからピンときたんだ。
この街ではエルフってかなり珍しい種族なんじゃないかってことに。
いるだけで注目されてしまうエルフが不用意な発言をしてみろ、変に勘ぐられるかもしれないだろ。
障子に目ありってやつだよ。
「ここでは本当のエルフのふりをしてもらえるか?」
「ハイエルフですが、エルフとして振舞ってよろしいのですか?」
「ハイエルフとエルフって何が違うんだろ」
「記憶にあることでしたらお伝えできますが、正確な情報ではない可能性があります」
ひそひそと喋っていたら余計目立つ気がする。
聞かなきゃ勘違いが生まれる危険性があるが、今はそうだな。
「見た目だけ教えて欲しい。エルフとハイエルフって見た目の大きな違いはあるの?」
「ここが違います」
不意に顔の向きを変えた彼女の頬に顔が当たりそうになり慌てて少し頭を後ろに引く。
彼女は自分の瞳を指さし、じっと俺を見つめて来る。
「目……だよな」
「はい、瞳孔の形状が違います」
「キッチリ見てなかったけど、明るいところだと星のような模様が入るんだな」
「エルフは入りません。これが違いです」
「エルフって言うと無理があるかもしれない、しかし、ハイエルフはエルフより珍しいんだよな」
「そうですね。わたしの知る時代ではハイエルフの数はエルフの1割ほどだと記憶しております」
「と、とりあえずエルフでいこう」
「承知しました」
「詳細は目立たぬところで聞かせて」
目か……目は部位としては小さいけど、目立つ。
ダジャレのつもりはなかったのだが、目立つって書くくらいだから、目って注目される部位だよな。
顔を見たら、目にも視線がいくよねえ。
遠目には分からないから、とりあえずは誤魔化そう。
通行人にエルフがちらほらいたら「ハイエルフです」でもいいんだけど、エルフな見た目でこれほど注目されていたらハイエルフと名乗れば目立つってもんじゃないだろ。
ただのお登りさんである俺たちが変な注目を集めてはマイナスしかない。
「ねえ、兄ちゃん、お腹すかないー?」
「いい匂いが漂って来てるよな」
パックの声でハッと我にかえる。
食べたいのはやまやまだが、お金がないのだ。
そのために新品の装備を持って来ている。質屋や武器屋とかで買い取ってもらおうと思って。
「よおし、探そう!」
「ん、何をー?」
「お腹を満たすためにお金を作らなきゃいけないだろー」
「そうだったー」
気合を入れたがパックにはすぐに伝わらなかった。
いざ行かん。
武器屋とか質屋って看板を見りゃわかるかな? まずは大通り沿いを見てみよう。
「あ……」
ディスコセアが目立つとか気にしていたけど、フェンリル(仮)の方がもっともっと目立つじゃないかよ。
でかいし、こんなパンダ……じゃない狼なんて他にはいないだろうから。
「がおー」
フェンリル(仮)が吠えただけで周囲の人全てが振り返った。
エルフとか小さなことだったことに今更気が付く俺である……。
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