第15話 認めん、俺は認めないぞ

 翌朝、さっそくフェンリル(仮)とカモメを連れて浜辺に繰り出す。

 彼を綺麗にするのは夕方ごろになるかなあ。今日は体が汚れることを続けるつもりだからね。

 朝に水浴びしても夕方には汚れてしまうもの。

 時間は有限、なので後回しにしたのである。

 浜辺は後だ。素通りして岩場へ向かう。

 釣竿と網を使って魚を……うおお、フェンリル(仮)が海へどぼーんしてしまった。

 海は川と流れが違うから川のようには――。

 

 ビターン、ビターン。

 次から次へと魚が打ち上げられてくる。魚だけじゃなく貝類まで!


「フェンリル、これくらいで大丈夫だよ」

「がおー」


 のっしのっしと陸にあがったフェンリル(仮)が全身をブルブルさせた。

 飛び散った海水が目に入り、思わず目を閉じる。

 体が大きいからブルブルした時の水の跳ね方が凄まじい。


『兄ちゃん、食べていい?』

「フェンリル、パックに一匹あげてもいい?」


 尋ねると首を上下に大きく動かし肯定するフェンリル(仮)。

 それを見たカモメ姿のパックはさっそく跳ねる魚を突き始めた。

 その間に魚と貝類を集めて網に入れ、準備を整える。

 砂場に移動して、手ごろな石の上に板を置き、そこへ魚を乗せて準備完了だ。

 干物ってたしか魚のワタやらを全部とって開いた状態だったよな。

 下手ながらも魚を開き、海水で洗い流す。

 後はこのまま干せばいいのかなあ。家の屋根が丁度斜めになっているから干せそうだ。


「いや、これだけ魚があるのだから塩分濃度を変えてみよう」


 鍋も持って来ていたのだよ、ふふふ。

 鍋に海水を入れてぐつぐつ煮込むと水分が蒸発し塩分濃度が濃くなる。

 よっし、そのままの海水と塩分濃度を濃くしたものと2パターンの干物を作ろう。

 魚を二匹だけ残して、残りは全て捌いて海水で洗う。


「やはり海の魚だな」

『おいしー』


 浜辺で焼き魚を堪能し、家に戻る。

 屋根に魚を干してから、お次は畑だ。

 どこからどこまでが畑だったのか分からないな。一人でやるには広過ぎるが納期もないし、のんびりやるなら広さなんて関係ないさ。

 俺には海の恵みがある。ま、まあ、川にしても海にしても白と黒の熊っぽい見た目をしたフェンリル(仮)がやってくれたのだけどね。

 ざっくりと大きな木が無いエリアが元畑だったと仮定してやってみるか。


「まずはナタで行くぜ」

『がんばれえ』


 パックが器用に俺の周りをくるくると飛ぶ。

 ツバメみたいだ。


「余り近くを飛ぶと当たるぞ。もう少し上で頼む」


 ナタを振り上げ、枝を落とす。

 あー、これ結構気持ちいいー。スパンスパン枝が落ちる。軍手が欲しいなあ。

 あ、似たようなものがあったんだった。

 地下の箱で手に入れた装備品の中に革手袋があったんだよね。ごわごわして慣れない感触だったし、持って帰ってきたものの置きっぱなしだったんだよ。

 革手袋は寒さを凌ぐために使うのが俺の知っている革手袋だったのだけど、この革手袋は違う。

 身を護るためのものだ。草や枝なんかはもちろんのこと、小型の蛇の牙や猫の歯程度なら通さない。

 ゴツイ分軍手ほど自由に手を動かせなくてさ。何だろう、使い始めの革靴のような違和感……少し違う。表現が難しいや。

 それでも素手よりは断然ましなので、手を切る心配をすることなく枝を落とし、雑草をわさっと掴んでナタを振るう。

 

 案外進むんで驚きだ。

 し、しかし腰が痛い。座って手が届く範囲の草を切り、ふうと一息つく。


「枝落としは粗方終わりかなあ。草はちょっとしんどい……腰を痛めない程度にしなきゃな」

『木はどうするの?』

「根っこから引き抜くか底の方で切るかどっちかかな」

「がおー」


 ずっと寝そべっていたフェンリル(仮)がむくりと立ち上がり、枝を落とした木を横からパーンする。

 さすがのパワーで木は根本で折れた。


「熊ってすげえ」

『フェンリルじゃなかったっけ?』

「フェンリルは名前だろ」

『あんな模様の熊を見たことないよ。白いし伝説のフェンリルじゃないの?』

「パックも言ってただろ。フェンリルは狼のような見た目だってさ」


 認めん、俺は認めないぞ。

 あんな白と黒の熊がフェンリル族なんてことは。だってよお、フェンリルは白銀の狼なんだってばよお。


「すごいな、ありがとう」

「がおー」


 後ろ脚だけで立ち上がってバンザイのポーズを取るフェンリル。

 彼のおかげで若木の除去は進んだ。

 ここで俺はある過ちに気がつく。

 草を切るだけじゃ耕したことにないってことを。

 草の根を抜かなきゃ、畑をやることはできないよな。

 バンザイするポーズのパンダを見ながら、草の根っこを掴み引っ張ったらするりと根が抜けた。

 元々耕されて土が柔らかかったからなのかな?

 これなら草を抜くのも楽々だね。ただ、はんぱない量があるけどね……。

 根っこを抜いているうちに昨日のにんじんのような作物が発見できるかも。


「とはいえ、今日の作業は終わりだ」


 病院どころか湿布さえないもの。

 無理は禁物である。

 

 予定より遥かに早く漁獲と畑の整備作業が終わったので探索に繰り出すことにした。

 マンゴスチンとバナナを採取して家に置いてからいよいよ本番だ。


『山の方に行ってみる?』

「それもいいかも」


 食べ物を探すなら、どっちの方向へ向かっても同じだよな。

 地図とパックによる情報から山にはトカゲという危険生物がいる。空を飛ぶカモメも危険と認識していることからトカゲは飛行能力を持っているかもしれないな。

 縄張りに入らなきゃ大丈夫とのことだし、気になるのは事実である。

 山がどのようになっているのか確認しておくことにしようか。

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