第27話 メモその2

 再構築して新品になった家なのだけど、それぞれが思い思いの場所で休むことにしている。

 パックは屋根の上か軒下で、フェンリル(仮)は入口扉付近でのそっと寝そべっていた。

 今日からタヌキのディスコセアと家までついてきた黄色クチバシが追加されたわけなのだが、どこで休むのか彼らにお任せにしていたのだ。

 すると黄色クチバシは俺の寝室にしている部屋の窓の外が気にいったらしい。

 ディスコセアは意外にも俺の寝るベッドの傍で丸くなり休んでいる。

 あ、そうそう、カピバラは定位置の? 水桶の中でニンジンをカリカリしていた。カピバラは俺が来る前からここを寝床にしていた先住民。

 といっても彼に家に住む許可をもらう、ってわけじゃないのだけど、彼には随分と助けてもらったよ。主に精神面で。

 誰もいないのと彼がいてくれたのでは孤独感が随分と違う。

 彼を撫で撫でして水を足しておいた。


「ふう」


 ベッドに寝転がり、大きく息を吐く。

 お、おっと……。

 一旦ベッドから降り、両手を当てる。

 

『必要材料なし。そのまま再構成可能です。再構成しますか?』

「再校正する」


 ベッドが光り、新品となった。ベッドじゃなくシーツのつもりだったのだけど、まあいいや。

 ついでにシーツやら布団を新品にして、靴、服、下着も新品にする。

 体を洗った時に服を全て新品にするのを忘れたのだよね。食事に夢中になっちゃってさ。

 水浴びの途中で魚をとりはじめて、そのままお食事会になってしまったのだよ。

 俺以外は服を着てないし、洗濯という概念自体がないので仕方ない。

 

 さて、少しサボっていたが今の状況を整理してみよう。

 ぽちりとスマートフォンの電源を入れた。スマートフォンの充電量はまだ90パーセントはある。

 結構写真を撮ったなあ。崖上からの景色をとれなかったことが悔やまれる。

 お、おっと。見ている場合じゃない。メモアプリを起動させ、メモを確認しつつ更新する。

 

 <メモ>

 ・食材

 海での釣りと採集 継続中

 野山の散策 キノコ、ニンジン、マンゴスチン、バナナ、ヤシ、ライチ まだまだありそう。野菜が欲しい。

 ・地図

 地図の箱マークの調査 完了

 ×マーク 危険そう 地下に繋がる階段があった。フェンリル(仮)任せで進むものの、一つあった出口は崖で、やべえドラゴンがいた。

 ・人との接触と地理

 北の山脈 危険なトカゲがいる。トカゲじゃなくてドラゴンだった! 無理、無理。

 海は暗礁があり、船で入ることができない

 ・道具

 再構成で新品にする以外はない

 箱マークの地下で装備を入手。

 

「こんなところかな」

 

 地図記載の箇所は一応チェック済みでいいかなあ。×マークの方はまだ探索が完了していないので、もう一度行ってみてもいいかも。

 うん、まとめてみると自分が何をしたのか分かり易い。昔のアドベンチャー系ゲームによく一日の振り返りとかのパートあったけど、実際にやると良いものだね。あの時は全部最速でスキップしてごめん。未読スキップすると止められずにイラついたのも良い思い出である。

 しかし、ゲームと異なり、現実では攻略対象とかはない。

 そもそも人間がいないから攻略なんてないからな! え? ギャルゲーの話をしていたのかって? いやいや、そんなまさか俺がギャルゲーにハマっていたなんてことは断じてない。

 ほら、一般的に攻略対象といえば人間が対象じゃないか。

 こほん。えっと、このままここでも生活を充実させて行くのも良いが、道具がないのはなんともし難い。

 サバイバルやスローライフをする物語の主人公たちは何でも軽々と器用に作ってしまうが、無理だろ、そんな神技みたいなことなんて。

 木を切り倒して丸太の筏を作る……のでもできるかどうか怪しい。

 蔓なりを使ってロープにしたり、食器やらを作ったりくらいならできるかも?

 うーん、ロープも食器も既にあるし、俺にとって壊れる消耗品は永久に使うことができるので必要ないのだ。失くした時には困るけどね。

 現状、最低限生きていくだけなら食材の確保ができれば事足りる。

 しかし!

 快適に暮らしていくためには色んな便利グッズが必要だ。

 他にも、家畜を飼育できれば卵とか乳とか色々手に入るが、家畜は諦めかなあと思っている。あ、ああああ。家畜のことを考えたは、チーズを摘みながらビールを飲みたいという気持ちがムクムクと。

 人間がいない地域には家畜なんてものもいないのは確定的に明らかである。

 ち、ちくしょう。

 フェンリルが熊じゃなく牛だったら……いや、やめよう。不毛な妄想だ。


「何かお悩みですか?」

「ごめん、起こしちゃったか」


 タヌキが寝そべったまま顔をあげこちらを向く。スマートフォンの光が気になっちゃったかな?


「頼りなくはありますが、お話だけでも聞かせていただけますか?」

「みんなのおかげで食べ物は集まってきたので当面は大丈夫かなと思っているよ」

「食べ物ですか。マスターの栄養補給にかなうものを探しながら付き添わせていただくようにしたします」

「いやいや、そうだ。ディスコセアは俺のような人間に会ったことがある?」

「起きる前には恐らく……断片的ですが記憶も残っています」


 長い間眠っていた?から昔のことはあまり覚えてないのかも。

 聞いた後に気が付いた。長い間眠っていたのだったら、もし覚えていても今の環境じゃないよね。100年前に村があっても現在は放棄されてたら村は無いのと同じである。

 ん、でも。記憶か。

 転移して以来こうしてゆっくり話をすることもなかったので、会話に飢えている。


「どんな人だったの? 覚えているエピソードとかあったら教えてくれないかな?」

「はい。お待ちを」


 ぼわんと煙があがり、晴れる。

 突然何だろうとタヌキの方を向いていた視線を思わず逸らす。

 スライムの姿に戻るんだろうと思っていたら、緑の髪をした女の子が立ってたんだよ!

 ウェーブのかかった長い髪に先が尖った長い耳、切れ長の目に髪と同じ色の細い眉。薄い唇は血色が悪い。

 透き通るような肌もあいまって氷の美女? 美少女? という印象を受けた。

 そうなのだ、肌だよ、肌が見えている。全部な。全部。

 お約束と言うか長い髪で大事なところは見えてなかったけど、そう言う問題じゃないってばさ!


「マスター?」


 ディスコセアに呼び掛けられるも彼女の方を向くことができない俺であった。

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