第21話 ばちこーん

 扉か。扉は上部がアーチになっていて、白か金のような明るい色で装飾されている。

 通路の幅と天井に合わせて作られているのか重厚過ぎる巨大さだ。

 素材は指でコツコツと叩いても分からなかったが、ナタでコツコツしてみたら金属音がした。鉄かなあ。暗いと色の判別がつき辛い上に塗装されていると素材の色が覆い隠されるので、色から判別をつけることは難しい。

 とはいえ、素材は特段問題じゃないので、詳しい調査の必要無し。


「とりあえず扉を押してみるか」

『お、兄ちゃんにしてはやる気じゃないー』

「『開けたら何か飛び出してくるんじゃないか』って言うと思っただろ?』

『そそ、「一旦戻ってー」とか』

「もちろん危ないかもって考えたよ。でも扉の中への興味の方が勝って」

『そうだよそうだよ。扉があるなら開けよう、だよね!』


 バックの意見に同意だ。扉でも蓋でも閉じられていて中が見えないなら開けてみたいという気持ちになる。

 中身がしょうぶないものだと分かっていても、開けちゃいたくなるんだよねえ。


「よおし、押すぞお!」

「おー!」


 パックの体から煙があがり、少年の姿になった。

 並んで扉に手を当て押し込む。

 ピクリともしないな。

 蝶番とか取っ手があるのかもなあ。もしあるとすれば扉の大きさからして上部にあり、ここからじゃ見えなくて見逃した?

 う、うーん。


「フェンリルも押してもらえるか?」

「がおー、がおお」


 フェンリル(仮)にお願いしたら、彼は俺のズボンを甘噛みしてグイッと引っ張った。

 何かに気がついたのかも?

 引っ張られた先には何もない。場所は扉の右隅辺りかな。

 そこで、光が下に向く。光っているのはフェンリルの黒い耳だから地面を鼻ですんすんしたりすると光が動くのだ。

 彼はずっと走りっぱなしだったから流石に喉が乾いたのかもしれない。

 地面に水溜りがあるから飲もうぜと俺を引っ張ってきてくれたのかも?

 しゃがんで、彼の鼻の辺りを撫で撫でしながら地面を確かめる。

 特に湿った様子はないな。水筒を彼の口につけると、彼の大きな口が開く。

 やっぱり喉が乾いていたんだ。そのまま水筒を傾け、彼の口の中に水を注ぎ込む。

 水たまりじゃないとしたら一体何を意図して引っ張ってきたんだ?

 ん、あれ?

 光が扉に当たっているのだけど、ちょうどしゃがんだ俺の視線の先にボタンが三つある。


『どうしたのー?』

「ここにボタンらしきものがあるんだ」

『へえ。じゃあポチッと』

「うおお!」

『突然叫ぶと耳がキンキンしちゃうよ。兄ちゃん、落ち着いて』

「そら、叫ぶわ! いきなりボタンを押すとか」

『さっき扉を押したじゃないかー』

「ボタンになると途端に罠発動の可能性が高くなるんじゃないかってさ」

 

 ビックリしたなあもう。特に何も起こらなかったから良しとしよう。

 内心ドキドキしていた俺と違い、パックは朗らかに笑い右手をヒラヒラと振る。


『錆びてるからかもだけど、ピクリとも動かないねえーあははー』

「それは、良いのか悪いのか……」


 この扉は錆が浮いていてボロボロになってる感じではなかった。

 ボタンのところだけ錆びているなんてことはあるのだろうか?

 ともあれ、ボタンをつぶさに観察してみよう。

 円形で扉から一センチほど突き出ている。ボタンは扉の色とは異なって明るい色だと思う。

 同じ形のボタンが三つ並んでおり、パックが押したところ動かなかったとのこと。

 三つのボタンは色が異なるのかもしれないけど、フェンリル(仮)の灯りでは明るい色とまでしか分からない。


「うーん、罠にしろ何にしろボタンを押せないのなら発動しようもないか」

『兄ちゃんの魔法は?』


 あ、そうか。再構成で状況が変わるかも。

 ボタンは扉の一部だったので、再構成する案が浮かばなかった。

 扉の一部だけ交換するってのは再構成じゃできないし、扉もボタンもボロボロにはなってなかったからさ。

 先日の鉄の扉は番号をリセットすることで開くことができた。

 こっちはダイヤル方式の金庫ではなさそうだし、それでも可能性が僅かであっても試すのに手間がかからない。

 よっし、やるだけやってみるか。

 

『必要材料なし。そのまま再構成可能です。再構成しますか?』

「再構成する」

『不必要な素材は消滅します』


 ぶわっと扉全体が光り、眩しさに目を細める。

 対象が大きいし、辺りが真っ暗闇だから強烈だな。

 さて、再構成が終わったぞ。

 フェンリルが照らしているところは特段変化が無さそう。ボタンは三つのままで、色は元々確認できないので鮮やかな色になっていたとしても分からない。


『押さないの?』


 パックがまたもボタンを押そうとしたので、「待って」と彼の手を掴み留まってもらう。

 今度はちゃんと準備してからボタンを押したい。

 彼と共にフェンリル(仮)に乗り、しっかりとロープを括りつけ……ようとしたらパックがカモメの姿になった。

 彼も俺の気持ちを察してくれたようだ。カモメの姿の方が飛べるし、逃げるには適している。

 フェンリル(仮)の頭におおいかぶさるようにして手を伸ばし、ボタンを押し込む。

 やっぱり動かないな。

 その時、フェンリル(仮)の右前脚が動いた。

 パアアン。

 前脚を振るった先にボタンがあり、彼のパワーで右端のボタンが弾け飛ぶ。

 金属製のボタンを飛ばすなんて物凄いパワーだな。

 ボタンといっても僅かしか壁から出ていないのに爪を引っ掻けて弾き飛ばしたのだろうか。


「手は大丈夫?」

「がおー」


 大丈夫らしい。心配になった俺は彼の右前脚……特に爪に触れ状態を確かめる。

 良かった。爪の欠けもなさそうだ。

 ゴゴゴゴゴゴ!


「へ……?」


 突然の轟音に変な声が出た。

 扉が、扉が、右から左にスライドしているじゃあないか。


『開いたね!』

「びっくりした……」

 

 無邪気に嘴を伸ばすパックに空いた口が塞がらない俺であった。

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