第17話 パックのライバル?
「パック、少しの間だけ変身できるかな?」
「うんー」
ぼわんと煙があがり、パックが少年の姿に変わる。
何だか久しぶりに少年姿の彼を見た気がするな……。くせ毛に簡素な服と見た目は変わっていない。
この姿で水浴びとかはしていないはずなのだが、顔も髪の毛も汚れているどころかピカピカなんだよね。
「こっちから地図を支えていてもらえる?」
「分かったー」
高台から地図と実際の地形を見比べようと思ってさ。
風が強いから念のためパックにも地図を持っていてもらえれば安心だからね。
予想通り、地図が風に煽られる煽られる。油断するとすぐ飛んでいきそうな勢いだ。
地図には湖は描かれていないな。地図の端が山脈で切れているので、あの場所が地図の端に当たる……と思う。
「となると、トカゲの絵はこう山に引っかかるように描かれていて、×マークはちょうど真正面か」
「×マーク?」
「ほら、この絵を見てくれよ。トカゲのいる山のふもとに×マークがあるだろ」
「うんー。見に行く?」
「トカゲが来たら怖いなあ」
「縄張りに入っちゃったら分かるよお。すぐ立ち去れば大丈夫だよ」
「扉が縄張りの中か外か分からないけど、目指してみるか」
「おー!」
結構な距離があるけど、フェンリル(仮)のスピードなら一時間もかからない。
彼はもっと速く走ることができるが、俺がついていけないんだよね。振り落とされそうでさ。
車と違って荒地でも悠々と安定して走ることができるとかすごいよな。
危険に立ち寄るべからずと常々自制している俺が突然何をと思うかもしれない。
いやさ、やっぱり気になるじゃないか。パックが危なくなったら教えてくれるって言うから、いいかなってね。
それに宝箱マークの方は大きな収穫があっただろ。
となると、×マークにもやっぱり期待しちゃうわけで。トカゲの縄張りの外なら探索してみたい。
◇◇◇
「何だか……変だ」
『縄張りはまだまだ先っぽいよ』
カモメ姿に戻ったパックはフェンリル(仮)の頭に乗っかったまま首だけを後ろに向ける。
高台の上から×マークは真っ直ぐだと判断した。
それがいけなかったのだ。今思い出しても股間がキュッとなる。
真っ直ぐ進もうとフェンリル(仮)にお願いしたらさ、言葉通り真っ直ぐ進んだんだよ!
高台から見晴らしの良い方向に真っ直ぐとなれば……崖だろ。
崖だ、崖だと言っても垂直ではない。どれくらいの角度かなんて分かるわけもなし。
でもさ、俺言いましたよね。角度が30度を超えるともうヤバいって。え? 言ってない? そうでしたっけ、うふふ。
あれだ、降っているって感覚じゃなくて、落ちてる。落ちてたよ!
パンダ……白黒の熊……いや、フェンリル(仮)の体に必死にしがみついて「もうダメだ」と達観したところで、崖を下り切った。
そのまま真っ直ぐ進んでいたら、突然開けて道のようになっていたんだ。
道と言っても、もちろん舗装されているわけじゃない。土が露出していて茶色い道だ。
道の左右は街路樹のようにパイナップルみたいな実をつけたヤシぽい木がずらっと道に沿って並んでいる。
なんだっけ、この木……ええと確かアダンというのだっけ。
パイナップルに似ているけど食べられない果実だった記憶だ。新芽は食用になったような。
帰りに採集して行くか。
「人のいないところが道のようになっているってやっぱり変だよ」
『兄ちゃんが前に住んでた人がいるって言ってたじゃないか』
「そうなのだけど……俺が来た当初は家も崩れ落ちていたんだよ。整備していたとしても結構な年数が過ぎているはずだから」
『魔法でも使ったんじゃないの?』
「なるほど」
ボロボロの壊れたものを新品にする能力がある世界だ。
魔法で道を作ったから、ある程度綺麗なまま維持されたとしても不思議ではない、か。
宝箱マークの方は道がなかった。あちらはある種の祭壇のようになっていたので、道を作れるのなら作っていそうなものなのだけどなあ。
鉄扉の奥にあった広間は祭壇、箱、像、そしてフェンリル(仮)とどれも作られた時代が違うように思えた。
箱は一番後に置かれたものに見えたんだよな。
宝箱マークから察するに箱が宝箱マークなんじゃないかな? となると、この地図を描いた人は一番新しい時代の人である。
分からないことだらけで、推測しようにもどうにもこうにもなのが歯痒い。
「フェンリル、ゆっくりと進んで欲しい」
「がおー」
これだけ見晴らしがよいと猛獣がいたら即発見されるだろうし、いつ縄張りに入るかも知れないから慎重に進むべし。
ガサリ。
アダンの木の葉が揺れる音がしてびくっと肩が上がる。
どうやら果実を食べている鳥が飛び立ったようだった。鳥は大きさはカラスくらいでカラフルな羽毛で南国ぽい。
パックは慣れ親しんだ? カモメだったから、ああいう鳥を見ると何だか新鮮だ。嘴も鮮やかな黄色で体に比べて長く太い。
『兄ちゃん、あんなのがいいの?』
「いいも悪いも無いけど……」
『そうなんだ』
「野生の鳥をわざわざ飼おうなんて思わないさ。パックみたいにお喋りできるわけでもなし」
謎の対抗心を燃やすパックに曖昧な笑みで応じる。
パックの対抗心に反応したのか、カラフルな鳥が戻ってきてふわりと俺の肩にとまった。
や、野生だよな? 嘴の形からして俺をお肉として見ているわけじゃなさそうだし。
「ぐあー」
『こ、こいつ。生意気な』
「ま、まあまあ」
パックがハッスルしちゃったじゃないか。
一方でカラフルな鳥は大きなくちばしで余裕の羽繕いである。
「特に害はないから、ほら、パック、目的は×マークの様子を見に行くことだろ」
『そうだった』
「トカゲの縄張り、な」
『うん-』
ふう、本来の目的を思い出してくれたらしくいつものパックになった。
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