第19話 フェンリル(仮)、暴走する
「う、うーん」
円柱は特に変わった様子がない。触れるだけで何かしら動きがあるわけはないかあ。
ひょっとしたら仕掛けがあるかもだよな。
たとえば、周囲を囲んでいる庭石の配置を変えてから円柱の特定の場所へ触れるなど。
儀式的な何かを行うことでストーンサークルに何かが起こる、としてもどうにも出来ん。
地図に何かしら説明が記載してあれば、いや、書いていても無理だ。
鉄扉の地下に文字があっただろ。全く読めなかったもの。あれと同じ文字が地図に書いてあっても読めやしないぜ。
パックと言葉が通じることは幸運だった。
『建物が復元されて良かったねえー』
「パック、そんなところにとまったら危ないぞ」
『おいら飛べるから大丈夫だよお』
「確かに」
円柱の最上部にパックがとまっていたからあわてて円柱に張り付き手を伸ばす。
そういやそうだった。そもそも飛んで着地しただけなんだし、滑って落ちたとしても飛べるか。
落ちながらでも飛べるって落下の危険性がゼロでいいね。
そんな情けない姿の俺のお尻を湿った黒い鼻が押す。
「フェンリル、パックは大丈夫だってさ」
「がおー」
彼もパックのことを心配して見上げたのかな?
それで俺のお尻に当たって……それにしては距離が近すぎるような。
ん、んん。
ぼやっと円柱に白い光の線が入った?
気のせいではなく、黒い円柱に光の白い線が走り、複雑な文様を描いていく。
そして、地鳴りのような音が響き始める。
ゴゴゴゴゴゴ。
「うお」
地面が揺れ、転びそうになったがフェンリル(仮)が鼻をうえにあげ俺を背中に乗せてくれた。
そこへパックが落下してきてフェンリル(仮)のふさふさにぽすんと収まる。
「がおー」
フェンリル(仮)が一声鳴き、察した俺は彼にしがみつく。
次の瞬間、風のような速度で彼が走り、庭石の外にまで移動する。
「ありがとう、フェンリル」
お礼に対しフェンリル(仮)が黒い鼻を上にあげ「どういたしまして」と返す。
さて、ストーンサークルの辺りはまだゴゴゴゴと地鳴りが続いている。
ゴゴゴゴゴゴゴ、ドシイイイイン!
ひときわ大きな音に思わず耳を塞ぐ。
円柱が崩れ、地面が割れ左右にスライドするかのように動いた。
なんと下へと続く階段が出てきたんだ!
謎の効果音は無かったが、物凄い地響きだった。
「いかにもなのが出て来たな……」
『ねえ、行ってみようよー』
「ランタンを持って来てからにしたいな」
『そうか! 暗いと見えないものね』
「がおー」
「うお」
フェンリル(仮)が暴走したああ。
今まで俺のお願い通りに動いてくれていたのだが、突然階段に向って行ってしまう。
いや、全部が全部、俺のお願いを聞いていてくれていたわけじゃなかったよ。
さっきもそうだけど、危ないとなった時に俺を背に乗せて運んでくれたじゃないか。
てことは今も緊急事態?
「そうは見えない……ちょ、勝手に入っちゃうの?」
「がおー」
パンダ……フェンリル(仮)がのしのしと我が物顔で階段を降りていく。
俺とパックを背に乗せて。
結構長い階段だ。感覚的なものになるけど、二階分くらいは降りたと思う。
予想通り外の光が届かなくなり急速に辺りが暗くなってきた。
仕方ない。ここは伝家の宝刀「スマートフォン」で照らすしかないか。
なるべく充電量を温存しておきたかったのだけど、ここまで来たら少しは探検してから帰ろう。
フェンリル(仮)はまだ自動操縦中だし。
「ちょっとだけ止まってもらえるかな?」
「がおー」
「眩しっ!
『光ったー』
スマートフォンを落としそうだからダメ元でフェンリル(仮)にお願いしたら、彼の右の耳が光った!
スマートフォンの懐中電灯マークで点灯させるより断然明るいな。
といっても指向性がある光じゃないのでその場を照らすにはなるけど。
明るくなってようやく周囲の様子が分かった。
フェンリル(仮)はまだ階段を降りている。ゆっくりゆっくりと。
天井はいつの間にかかなり高くなっていて、三メートル以上はありそうだ。床と壁は黒っぽい色で滑らかに磨かれているように見える。
そしてついに階段が終わった。
階段の終わりは大広間になっていて、がらんとして何も無い……少なくとも見える範囲は。
鉄扉の地下みたく、隠された部屋があるだけかと思いきや、どうやら奥に続く通路がまだある様子。
通路が確認できたのはいいけど、そろそろ立ち止まってくれると嬉しいのだけど……。
「っと」
考えていることを察してくれたのか、フェンリル(仮)が立ち止まる。
あれよあれよと奥まで来てしまったが、進むべきか退くべきか悩むところだな。
『行かないのー?』
「奥が安全か分からないからさ。どうしようかなって」
『モンスターとか?』
「あ、それもあるのか……」
パックの発言で俺の気持ちがますます撤退に傾いた。
長期間入口が封印されていた地下室だからモンスターが入り込んでいることはないなと考えていたんだ。
俺が心配したのはトラップだよ。
これだけ大規模な地下室だったら、侵入者を排除する罠が仕掛けられていてもおかしくないだろ?
鉄扉のところは一部屋だけだったし、鉄扉そのものが外敵を排除する作りになっていたから罠の心配はしていなかった。
ここも、円柱をどうにかして階段を出現させないと中に入ることができない作りだから外敵を排除する作りになっていると言えばなっているのだけど……。
どうも嫌な予感がするんだよね。
ここまで自動操縦だったフェンリル(仮)が俺の気持ちを察して止まってくれたなら良いが、そうじゃなかたら?
とか、考え始めるとキリがない。
「一旦戻って役に立ちそうな道具を持ってから奥へ、でもいいかな?」
『うんー』
すぐにでも奥を探検したいのはやまやまだけど、一旦戻る決断を下した。
今日中に戻ってくるつもりだけどね!
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