「魔王は一体どこにいる」シーズン2.5
ジョンG
第1話闇に落ちた日
世界が闇に落ちたその日…
中立の国セントラルでは魔物が一斉に攻め込んで来ていた
海から上陸して来たクラーケンはその巨体をくねらせながらセントラルの城郭を登ろうとし
下水からは大量のラットマンとゾンビが溢れ町を徘徊する
セントラルを外敵から守るための巨大な外郭はリザードマンとゴブリンがよじ登り制圧され掛けていた
その様子を高みから見下ろす影がある…白いクロークを身にまとった4人組の大泥棒
人々は彼らを白狼の盗賊団と呼んだ…
『貴族居住区のとある屋敷』
そこでは貴族の代表が集い今後の事態収拾について会議をしていたが
魔物に攻め入られている状況でもさして慌てた様子は無かった…
貴族達はセントラルの地下にある区画まで魔物が侵入する事は在り得ないと高を括っていたのだ
既に貴族の子女達はそれぞれの領地に戻って居たり地下に避難して居たり安全に過ごしている
セントラルが被害を受けている事に対して現在の王室が力を弱める事に繋がりむしろ歓迎する者も居る
「さて第一皇子はどう出ますかなぁ?」
「王城に戻るしかあるまいて」
「兵を損耗しただけで手柄なく帰還出来ますかねぇ?ニヒヒ」
貴族達の中でも第一皇子を擁立する派閥とそうでない派閥に分かれる
ここではテーブルを囲みまるでゲームでもやって居るかのようなやり取りをしているのだ
「どちらにせよ今回の件で王家はしばらく資金難が続くでしょう」
「また公爵殿から借り入れしなくてはなりませんなぁ?ハッハッハ」
「いやいや我ら伯爵の組織からも資金は出せますぞ?領地割譲を公爵殿に偏っては内輪揉めになりましょうぞ」
現在貴族で最も力を持って居るのは公爵だ
このまま一強が続けば時期王室に取って代わる存在になって行く
王室の選別はこの屋敷に集まる貴族達で構成された貴族院が行うのだ
「しかし法王庁がここまでやり通すとは思いませんでしたなぁ…このまま凱旋させて良いのかどうか…」
「又法王が戒律を盾に我らに圧力を掛けて来そうですな…関わらんのが身の為かと」
法王庁は実権を握る貴族院に対してそれを規制する為に新たに設置された信仰組織だ
神の名の下戒律を設け厳しく貴族達を取り締まる
ここでも貴族院と法王庁での対立軸が有る
そして第二皇子を擁する派閥は法王庁の側に有った
「さて…そろそろ我々も地下に避難せねば直にドラゴンが此処まで攻めて来るぞ?」
そう切り出したのは窓際で外を眺めていた公爵だった
「行く末を最後まで見ないのですかな?」
「我々が国王や法王に対して何か口出し出来る事も無いのだ…わざわざ危険を犯して見る事も無い」
「しかし指輪を予定道理処置しますかな?」
「手は打ってある…要らぬ疑いを掛けられてしまう前に避難するぞ」
「仕方ないですなぁ…」
「会議は終わりだ…隠し通路から順次地下へ降りて行け」
「はて?連れの女が何処に行ったのやら?」
「女狐の事か?あの女はとうに屋敷を追い出したが…何か不都合でも?」
「あいやいや…取り引きの最中でしたので」
「フン!勝手に私の屋敷に賊なぞ連れ込むな」
「あの女は由緒正しき出なのですぞ?」
「私にはどうでも良い事だ…二度と此処の敷居を跨がせるな」
「それは失礼しましたな…ハッハッハ…」
貴族達は外で起きている惨状など他人事の様に自らは安全に地下通路を使って別所へ移動して行った
これがセントラルの支配階級に居る者の実情だ
彼等はこれから起こる最悪の事態を全く予想して居なかった…
『法王庁の屋根の上』
そこでは女戦士と女エルフが魔物襲撃の戦況を見極めしつつ白狼の装備を取りに戻った2人の帰りを待って居た
その姿は貴族居住区からは目視し難い角度だったが中央広場からは良く見えて居た
ドーーーーン ドーーーーーン
「外郭で大砲を撃っているのか…外で戦闘が始まったか…」
「大砲でリザードマンを追い払う気?」
「いや…魔物の進行ルートを制限する目的だと思う…軍隊と連携を始めたのだ」
「それだと兵隊達は城まで上がって来ないのでは?」
「そうなるな…町の中を先に安全にするべきだと思うのだが…」
「ドラゴンが居ない…」
「恐らく雲の上で機を伺って居るのだろう」
スゥ…
2人の背後に突然剣士と女海賊の2人が現れた
「む!!」
「戻りぃぃ!!…クローク持ってきたよ」
「狭間を使って移動したのか…」
「そだよ?下水の中で衛兵達が一杯移動してたからさ」
「衛兵が?下水で集合しているのか?」
「なんか隠し通路一杯有るみたいでさ…良く分かんないけどどっかに詰め所がありそう」
「なるほど…やはり本丸は地下に有る訳か」
「それより早くクローク羽織って?女エルフもほら…」ファサ
「似合うか?」ファサ
「超かっけー…んで…こっちはどうなってんの?」
「今しがた第二皇子とダークエルフが例の戦車に乗って戻った」
「指輪は?」
「恐らくダークエルフが所持していると思われる…そうだな?女エルフ」
「左手に握ってる…あそこよ…庭園の手前…」ユビサシ
「剣士!!準備しておけ」
「分かってる…もう姿を消しておいた方が良い?」
「そうだな…私達にも見えなくなってしまうから立ち位置に注意してくれ」
「ねぇ…ダークエルフの会話…様子がおかしい」
「え…この距離で聞こえてんの?」
「約束が違うって…」
「なんかヤバそうだね…話してるのは王様かなぁ?」
「そうだ…国王を囲んでいるのが近衛…アレが近くに居る間は手を出さん方が良い」
「ちょ…近衛が武器構え出したじゃん!!…女エルフ!!会話聞こえてるんでしょ?何言ってんの?」
「指輪の破壊をダークエルフがやる条件だったのに渡せって言われて…」
その時…
何も持って居なかった筈のダークエルフの手に突然剣が出現した
そのまま一振り…鮮血が飛び散った
「あ!!!王様が…倒れた」
「ダークエルフに首をはねられた様だ…やはり今は状況を見ているしかないな…」
「やっぱ近衛に取り押さえられるね」
「左手を切り落とされた…指輪はあそこ」
「まだ待て」
状況が刻々と変わって行くその現場を見ながら4人は屋根の上からチャンスを伺う
「兵隊が集まって来出したな…ん?あれは…あれは法王か?」
「国王への手当てを指示してる…まだ死んで居ないみたい…」
「お!?法王が指輪を拾った…これ行けるんじゃね?」
「よし…チャンスが来るぞ…剣士!!法王の後を付けてチャンスを見て指輪を奪え」
「分かった」
「奪った後は姿を消して下水まで直行しろ…女エルフは剣士の姿が見えなくても気配で追えるな?」
「うん」
「では剣士!!行ってこい」
剣士は姿を消したまま指輪を持つ法王の下へ走った
「よし…法王は一人で礼拝堂へ戻って来るな?」
「礼拝堂の裏手に兵隊が2人…あそこは逃走に使える」
「女エルフ!!あの二人を弓で狙えるか?」
「大丈夫…でも…」
「今は余計な事を考えるな…ヘッドショットで即死させろ」
「……」
「お姉ぇ!法王が正面の扉から中に入って行ったよ」
「くそう!剣士の動きが分からんな…そろそろ動き出すぞ」
「私…」…女エルフは罪のない人間を殺す事に躊躇って居る
「ねぇ!!建屋の中で光!!何か起こってるよ!」
「ちぃぃぃ…穏便には行かんか…女エルフ早くヤレ!!剣士が危険だ」
「ご…ごめんなさい…」ギリリ シュン シュン
「他の兵隊はまだ気づいてない…どうしよ?」
「女エルフと女海賊は礼拝堂の裏口から中の様子を探れ…私は逃走ルートを確保しておく」
「らじゃり!!…女エルフ行くよ」タッ
「う、うん」タッ
女海賊と女エルフは屋根を飛び降り裏口から礼拝堂の中へ入って行った
女戦士は逃走経路となる裏口から下水に入る蓋までの区間を見張る
(良し…中は静かそうだ…指輪を奪って早く出て来い)
その時何かの炸裂音が響く
ゴゥ!! ドドーーーーーン!!
(外郭か…ん!!?上か!!)
「なにぃ!!!ドラゴンライダーだ…と?」
ゴゥ!! ボボボボボボボボ
突然真上から8匹のドラゴンが急襲して来た
敵襲!!敵襲!!
ドラゴンライダー複数!!
戦闘態勢いそげぇぇぇ
弓だ!!弓で近づけるなぁあああ
信号弾撃てぇぇぇ!!
8匹のドラゴンは四方八方から灼熱の炎を撒き散らかし
城の周囲に待機していた兵隊達を一瞬で焼き払った
内郭の上に居た弓兵は矢をつがえる間もなくドラゴンの炎に焼かれる
ゴゥ ボボボボボボボ
「ドラゴンライダー8匹…圧倒的では無いか…」ボーゼン
「はっ!!見とれている場合では無い…」ダダッ
女戦士は事態の急変に危機を感じ礼拝堂の裏口に走る
「女海賊!!撤収だ!!」
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ…」
礼拝堂の中で女海賊は慌てふためいて居る
「女エルフはどうした!!中か!?」
「ああああああ魔王が!!魔王が!!」
その時女戦士の頭上で異変が起きた事に気付き空を見上げた
「!!?こ、これは!!空が落ちる!?」
「お姉ぇ!ヤバイ剣士が狂ってる…来て!!」
「もう撤収だ!!事態が変わった!2人を呼び戻せ!」
「こっちもヤバイんだって!剣士が死ぬ!!行ってくる!!」ダダ
「ちぃぃ…下の層が有るのか…私まで行っては状況が掴めん」
---冷静になれ---
---下階まで行かずとも上から見下ろせる---
---中に居た者は全員倒れているな?---
---祭壇の中央に居るのが法王か---
---奴に流れ込んでいる影…アレが魔王か?---
---女エルフはどこだ?…居た---
---光の矢をつがえて居るのか…撃つ気だな?---
---剣士はどこだ?…法王の足元…倒れている---
---待て…法王の腕が無い---
シュン! グサ!
光の矢が法王の心臓を貫いた
次の瞬間法王の体から黒い影があふれ出して来る
その影はドロドロと再び集まり次の獲物を探し始めた
その隙を付いて女エルフは倒れている剣士の下へ走った
「剣士!!しっかり!!」グイ
意識の無い剣士に肩を回し背負おうとした
「女エルフ!!剣士背負って5秒で裏口!!走って!!」
「分かった!!」タッタッタ
女海賊はその黒い影に爆弾を何個も投げつけた
「走れ走れ走れぇぇぇ!!」
「こっちだ!!来い!!」
「5」
「私が盾になる!!背に隠れながら裏口へ走れ!!」
「4」
「お姉ぇ!!この爆弾結構ヤバイかも!!」
「3」
「早く行け!!」
「2…お姉ぇ耐えて!!」
「1」
ドコン!ドコン!ドコン!チュドーーーン!
女盗賊が放り投げた爆弾の内1つは他の爆弾とは比較にならない爆発を起こした
その爆風で女海賊と女エルフは裏口から外へ放り出される
ゴロゴロゴロ ズザザー
「ギリセーフ!!女エルフこっち!!」グイ
目的がある時の女海賊は次の行動に移るのが早い
直ぐに立ち上がり下水の蓋に向かって走り出した
女エルフは動転していたがどうにか女海賊の後を追う
「お姉ぇ!!先行くネ!!しんがりヨロ…あと3秒で煙幕」
「ぐふっ…つぅぅ」---盾が無ければ死んで居るな---
女戦士は盾で身を隠せていない部分に怪我を負った
幸い急所は防いで居たが出血が酷い
「お姉ぇ!!聞いてんの!?」
「今行く…」ヨロ
「煙幕!!早く下水まで!!」
モクモクモクモク
女海賊が使った爆弾と煙幕は
硫黄と硝煙の匂いも相まってドラゴンに乗るエルフの鼻を狂わせた
煙幕でドラゴンの視界も遮り突如襲撃してきたドラゴンをもまんまと欺く
『下水』
煙幕に隠れながら3人は下水の蓋へ上手く入り込むことが出来た
「はぁぁぁギリ間に合った…お姉ぇは何やってんの?」
「下水の蓋を開けられん様に細工だ…先に行け…直ぐに済む」ガチャガチャ
「女エルフ!?剣士は大丈夫そう?」
「怪我は無さそう…死んでは居ないと思う」
剣士はグッタリ意識を失って居る
「早く帰ろ…ここはヤバイ」
「指輪はどうなった?」
「私が持ってる」
「よし…無くすなよ?」
「急にいろいろ始まって何が何だか分かんないんだけどさ…」
「混乱している今が撤収チャンスだ…走れ!!」
「お姉ぇ!!怪我は?なんか血ぃ出てんじゃん!」
「回復魔法をもらわないと直に死ぬレベルと言えば分かるか?」
「ヤバ…」
「今は無駄口叩いていないで走れ…」
「前にラットマンと人間…ハァハァ」
「走り抜けろ」
衛兵が戦って居る脇を何も言わず通り過ぎる3人…
女エルフは剣士が重いのか息を切らしていた
「そういえば剣士ってクッソ重いんだよなぁ」
「うん…重い」
「回復魔法をもらえれば私が背負う…出来るか?」
「お願い…回復魔法!」ボワー
「ふぅぅ…助かった…な」
「お姉ぇやせ我慢してたな?」
「お前が使った爆弾の一つ…何だアレは?」
「秘密兵器だよ…まだ試作品なんだ」
「あんな物が有るなら先に言って欲しい物だ」
「元々使う気無かったのさ…黒いドロドロがあんまりしつこいから使っちゃったよ」
「まぁ良い…しかし剣士は重いな」
「だよね?疲れたら代わるよ」
「いや…私は今戦える状態では無い…剣士を背負うので精一杯だ」
「そんな大怪我してんの?」
「血が足りん様だ…吐き気がして来た」
「マジか…」
「女エルフよりお前の方が前衛向きだから私の代わりにラットマンの攻撃をどうにかしろ」
「ちょい待ち!正面!!衛兵がなんか黒いのと戦ってる」
「レイス…」
「なんでレイスが居る訳?…待って出口がなんか暗い!!」
「女エルフ!!光の矢を準備しておいた方が良い」
「わかった…照明魔法!」ピカー
「外の気球飛ばすのに5分は掛かる…女エルフ!足止め5分お願い」
「うん…やってみる」
『下水出口』
この下水に入った時とはもう様子が変わって居た
空は黒く暗転しそこら中でレイスがうごめいている
「ちょ…マジか…陸に上がってたクラーケンが城まで登って行ってる」
「ライダー8匹とクラーケン…これは地獄だ」
「これさぁ…女盗賊探す余裕なくね?」
「無事を祈れ…この状況では無理だ…想定外が過ぎる」
「そこら中で戦闘になってんね…」
「見ろ!!ドラゴンライダーが城に取り付いているぞ」
「早すぎる…こっちに気付く前に離脱しないと」
「こちらも無事では済まんぞ…レイスが来た」
「早く気球へ行って…ここは私が食い止める」ギリリ シュン!
「5分稼いで!!」
「走るぞ!!」タッタッタ
女エルフは次々と光の矢を放ちレイスを消し去って行く
そして自分に言い聞かせる様に呟く
(分かってる…ここは狭間の奥)ギリリ シュン!
(そしてこれは100日の闇)ギリリ シュン!
(調和の時が来る…)ギリリ シュン!
(ハイエルフが恐れていた事が…始まってしまった)ギリリ シュン!
狭間の奥ではレイスが際限なく湧き続ける
矢には限りが有るから女エルフは時間を稼ぐくらいの事しか出来なかった
『気球』
女海賊は急いで球皮を膨らませる
炉に火を入れフイゴを足で踏みしだき無理矢理空気を入れて行く
シュゴーーーー フワフワ
「女エルフ!!飛び乗れ!!」
「……」ピョン
「おっけ!!一旦海風に乗る…女エルフ!!風魔法で援護ヨロ」
「風魔法!」ヒュゥー
「よし西方面から回り込んで北に行け…砂漠を中央突破してシャ・バクダへ戻る」
「りょ!!…ところで今ずっと狭間に居るっぽいけどどうなっちゃってんの?」
「…これは」
「女エルフは剣士と法王のやり取りを見たな?話せ」
法王は祈りの指輪を使って神に助けを求めたの
そして何処からか声が聞こえてきた
「汝は調和を望むのか?ならば名を呼べ」
次に法王は名を訪ねてその声はこう答えた
「我は調和の神エンキ…又の名を魔王」
法王は不思議そうに「…魔王?」と呟いた
その声は「器はどこだ?」と答えたその瞬間
剣士が法王の腕を切り落として指輪を奪った…
声は続けて「汝が器か?我来たれり…」と言い
黒い影が剣士に流れ込んだ
剣士は狂ったように暴れた後に倒れた直後
魔方陣のペンダントが光り始めて
その影は剣士から溢れ出てきた
行き場を失った影は近くに居た法王に入ろうとした
そこで私は光の矢を撃ち法王と一緒にその影を倒した
「多分…魔王の復活は阻止できた…でも調和の闇は来てしまった」
「ではやはりこの闇は200年前に起きた100日の闇だと言うのだな?」
「恐らく…」コクリ
「これってさぁ誰の目から見ても魔王復活に見えると思うんだ」
「その通りだ…事態は深刻だ」
「世界全体が狭間に落ちたって事はレイスがヤバイね…みんなやられる」
「これはハイエルフが恐れていた事…」
「アダマンタイトで反転出来ないかなぁ?」
「巨大なアダマンタイトが何処にある?」
「重力魔法のメテオストライクでさぁ…」
「それがいわゆるかつての大破壊なのではないか?」
「むむ!!て事はシャ・バクダ遺跡の魔方陣は…」
「恐らく塔の魔女様が作った安全地帯…そこに人を避難させる必要がある」
「超急いだほうが良いね…女エルフって剣士みたいにこの闇でも方角わかったりしない?」
「私は千里眼の使い方が分からないの…」
「んんんん困ったなぁ…砂漠の上じゃ目標物も無いしなぁ」
「妖精が居れば…」
「お!?虫は?…ハチミツ用にって思ってハチの巣が少しある…幼虫なら居るかも」
「何故ハチミツなぞ必要と思った?」
「違うって…木材にくっ付いてたんだよ…ハチの幼虫は妖精になんない?」
「お話してみる…成長魔法で今育てるわ」
女エルフはハチの幼虫を成長魔法で育て始めた
その魔法は回復魔法と同じらしい
回復魔法で体の傷が塞がるのは自己治癒の力を加速させているからだ
成長させているのと同じなのだ
ハチの幼虫はすぐにサナギを破り羽が生えて来た
ブーン
「…あのね…コレ本当に妖精?」
「妖精になる為には沢山命を運ばないといけないの…でもミツバチのままでも花の有る方向が分かる」
「砂漠に花ねぇ…オアシスのサボテンとアロエくらいか」
「向いている方向に花があるって言ってる」
「概ね方向は合って居そうだし信じる他あるまい…オアシスにあるヤシの木も花を付けるぞ」
「このミツバチはどんくらい生きる?」
「狭間の中に居れば何年も…どうして?」
「このミツバチ欲しくなった…最強ミツバチに育てたい」
「ウフフあなたって変わった人ね…話しておいてあげる」
『砂漠上空』
ミツバチの指し示す方向に向かって気球を飛ばす
女海賊はそのミツバチが気に入ったのかしきりに構って居る
ミツバチは迷惑そうにしていた
「あまり構い過ぎて殺してしまうなよ?」
「わーってるって!!毒針がどんなんなってるか研究してるだけさ」
「ヤレヤレ…ところでお前が作ったあの特殊な爆弾…どういう物だ?」
「んん?あの爆弾は中に水が入ってんのさ…でもダメだ…あれは失敗作」
「かなり強烈な爆風だったが?」
「あれ一個じゃ大した爆発しないんだよ…他の爆弾でたまたま燃え移ったんだ」
「ほう?」
「水蒸気爆発させてんだけどそれだけじゃダメで二次引火させないとあそこまで爆発しないのさ」
「二次引火とはどういう事だ?」
「なんかね?水を超高温に熱して一気に気化させると性状が変わるらしい…そいつに引火させんの」
「それはもしかして魔術書に書いてあったのか?」
「うん…高位魔法はなんかそういう原理使ってるっぽい」
「魔術書が役に立って居そうだな」
「原理だけ分かってもさ…どうやって上手く使うか難しいんだよ」
「アレでは不満か…」
「だからたまたま上手く引火しただけだよ…そんなんアテに出来ないから」
「まぁ上手く引火させるように工夫するだな」
「作るのも大変だしもう諦めてるさ…普通の爆弾の方がよっぽどコスパ良いよ」
「何が必要になる?」
「強度の高い鉄の容器だよ…今回はバラした望遠鏡の部品使った」
「それで一つしか無い訳か…」
「爆発の程度もハッキリ言って全然コントロール出来て無いからちょっと実用すんのムリ」
「そうか…勿体無いな」
「もうちょい他に良い方法無いか調べてみるさ」
女海賊はミツバチを構うのに飽きた後に次は剣士を構い始める
剣士はただ気を失ったのではなく放心状態で動か無くなって居た
「ちょい剣士!しっかりしてよ!!」ユサユサ
「……」…女エルフは剣士の手を握り瞑想で心を重ねようとして居る
「前にもこんな事あったんだ…セントラルの地下にあるカタコンベ行って剣士が狂った」
「ダメ…心を閉ざしてしまって居る…どうして…」
「前はどうやって目を覚ましたのだ?」
「女盗賊が子守歌歌って剣士を落ち着かせたらしい…私が歌ってみっかな…」
「もしかしたら魔王に触れられて心が壊れてしまったのかも知れない…」
「それって結構ヤバイ事?」
「体と魂の結びつきが不安定になってるの…心がそれを繋ぎ留められて居ないと言う事」
「レイスに魂狩られる寸前みたいな?」
「このまま魂が離れてしまっては何処に行くのか分からない…森に戻らないと」
「森に戻ってどうすんのさ?」
「森に魂を拾って貰えばエルフはもう一度生まれ変われる」
「何言ってんだよ!それじゃ死んじゃうって事じゃん!!」
「まぁ落ち着け…まだ魂はそこに居るのだな?」
「すごく不安定…もしかしたら夢を見ているのかも知れない」
「夢の中に行っちゃってるって?どうしろってのさ…」
「落ち着けと言って居るだろう…とりあえずこのままそっとしておいて目の前の課題を片付けるぞ」
「なんか心配になって来たなぁ…イライラする」
「剣士が動けん今は魔方陣のペンダントは女エルフが持て…剣士が持っていては動きに制限がでる」
「うん…」
「ひとまず魔方陣で安全だと思われる星の観測所で剣士の容態を見るべきだ」
「まぁそだね…今何も出来んし」
「それまで剣士の魂が何処かに行ってしまわない様に女エルフは見て居てくれ」
「ちょい待って!その役私がやりたいんだけど…」
「お前は魂を感じる事が出来るのか?」
「う…」
「やれることをやるのだ…お前は最速で気球を星の観測所へ向かわせろ」
「くっそ!おいミツバチ!!行先間違ったら羽ムシルかんな!!」
女海賊は思いの外状態の悪い剣士の事が心配でたまらなかった
なぜなら倒れる度に記憶を失う剣士の事を何度も夢で見ているからだ
そうやって彼女の前から姿を消したのだ…その不安がよぎって来る
『オアシス上空』
ミツバチに誘われるまま砂漠のオアシスまで辿り着いた
どうやらミツバチはオアシスに咲くヤシの花の匂いを目指していた様だ
「よし…狭間を抜けた…やはりここは安全だ」
「おけおけ!ここまで来たら方向分かるわ…ギリで燃料足りそう」
「早く観測所まで戻って若い衆に指示を出しておきたい」
「そだね…」
「観測所に着いたら私は剣士を背負って一旦気球から降りる」
「え?お姉ぇだけ?うちらどうすんの?」
「シャ・バクダと周辺の商隊にこちらへ向かうように仕向けてほしい」
「ちょちょ…盗賊ギルドのアジトだってバレんじゃね?」
「もうそんな事言って居る場合では無い…人の命が最優先だ」
「おっけ…燃料積み直して行って来るわ」
「後もし出来るなら物資調達も頼みたい…恐らくこれからひどく物資不足が予想される」
「わーったわーった…うまくやるよ…それより剣士を誰にも触らせないで」
「私の私室で休ませる…不満無いな?」
「剣士は目を覚ました後ヒヨコみたいに何も覚えて居ないのさ…だから最初に見た人にヒョイヒョイ付いて行っちゃうんだ」
「何を訳の分からない事を…」
「お姉ぇでも剣士の事取ったら許さないから」
「そんな気は無い…お前は独占欲が過ぎて気持ち悪いぞ」
「うっさいな!剣士の事ちゃんと見張っててよ」
これは女海賊が持つトラウマだ
夢の中でも現実でも剣士はいつも彼女を置き去りに何処かへ行ってしまう
彼女はもうそんな風にはなりたく無かった
いつの間に剣士の事が一番大事な存在になって居たから…もう放したくない
アンタに私の全部あげるからアンタは私の傍に居て…それは夢幻の中で誓った約束だ
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