第5話 ユートピア

『ユートピア』


港町から少し離れた海が一望できるちょっとした崖際…


そこには一軒のあばら家と納屋…小さな洞窟…裏手には森…


泥棒家族がそこでひっそりと暮らしていた


盗賊と商人はこの場所で子供達が住みやすい様に工夫した


退魔の魔方陣の範囲を広げたり…柵を設けて区画したり…


一件ボロボロのあばら家なのだが随分住みやすくなった



「よぅ!!ここに居たか」



盗賊は墓の前で手を合わせる商人を見つけ声を掛けた



「あぁ帰って来たんだね…どうだった?」


「ダメだなぁ売りは儲かるが物資が全然無ぇもんだから買い付けが出来ねぇ」


「お金が合ってもそれじゃ意味無いね」


「穀物が全然無ぇ…こりゃ漁船出さんと食料尽きるぞ」


「少し遠出して収獲しないと厳しいか…」


「馬を死なす訳に行かんからなぁ…ヘルハウンドぶっ殺すんじゃ無かったな?」


「仕方ないさ…生かしていたら魔術師達が黙って居ないよ」


「ううむ…どうすっかなぁ…」


「盗賊は母さんに手を合わせて行かなくて良いのかい?」


「んん?合わせて行くに決まってんだろ!」



そう言って盗賊は墓の前で跪き手を合わせる



「寂しい?」


「まぁな…でも終わった事はしゃぁねぇ」


「お墓の下に入って姿が見えなくなるとやっぱり…寂しいね」


「俺ぁもうここで骨を埋めるつもりだぁ…早くあっちに行きてぇよ」


「子供たちが大きくなるまでガマンガマン」


「だな?あんま女々しい事言ってっとアイツが又怒り出す」


「ハハ分かって居るじゃないか…母さんは盗賊に一緒に来て欲しいなんて思ってないよ」


「それでだぁ!北の魔術院から魔術師来るようになってから治安は良くなったんだが外出制限が厳しくなった」


「うん…ぼくもこのままじゃイケないと思ってるんだ」


「商船が入って来ねぇのが致命的すぎるな」


「僕たちが商船をやるって言うのはどうだろうか?」


「セントラルには行けねぇしどこまで行くんだよ」


「南の大陸」


「例のアレかぁ?なんだっけ…ホム…ホル」


「ホムンクルス」


「それだソレソレ」


「それもあるけど本当の狙いはそうじゃないんだ」


「なんか浮かねぇ顔してるな?…どうした?」


「書物を読み漁って色々計算したんだけどさ…」


「ハッキリ言えよいつもの様に結論から言ってくれ…回りくどいと理解できん」


「ハハ分かったよ…スバリ!!もう二度と太陽を見る事は無い」


「んぁ?100日で終わるんじゃねぇのか?やっと半分超えたくらいだろ」


「…それは狭間の外に出られるであろう地下深くでの話なんだ…狭間の中は時間の流れが違う」


「なんだとぅ?ほんじゃまだまだ続くってのか?」


「どの書物にも狭間の外で生き残った当時の記録しか残って居ないんだ」


「どういう事よ?」


「言い換えると狭間で生き残った人が居ないという事になる…さらに」


「魔術書によると2000日の闇を超えるという事も書いて合って…それが狭間の中での事なら辻褄が合う」


「おま…この闇を2000日生きろってか?」


「狭間の深さによって時間の流れが違うから正直正確には分からない」


「たった1ヶ月そこらで食料枯渇してんだぞ?」


「この後何が起こると思う?」


「略奪だ…もう始まってる様だがな」


「そう…国がする略奪…戦争だよ」


「じゃぁこの間港に入船した軍船はその準備って訳か?」


「アレはシン・リーンの軍船みたいだね」


「今荷物運び入れてんだ…どこと戦争する気なんだ?」


「さぁね?…だから僕たちも何時までもここに居られないって思ってるのさ」


「おぃおぃマジかよ…せっかく子供達の安住の地を作ったのによ」


「帰ってくる場所はここで良いさ…でもやっぱり狭間の外に出る必要があると思う」


「おい…思い出したぞ?」


「何?」


「古都キ・カイは地下深くに街があんのよ」


「ハハハ察しが良いね…ビンゴ!!僕はそれを言いたかった」


「食料持って子供たちをそこに避難させれば良いんだな?」


「出来るかい?」


「船を動かすにゃぁ人手が足りねぇ…あん時はまだアサシンも情報屋も居た…2人じゃ無理だ」


「誰か雇おうか?」


「あんま人雇っても食料がな…やっぱ娘達鍛えるしか無ぇか…」


「ねぇ見て!!シン・リーンの軍船が動き始めてる…」


「んん?…何処に行くんだか」


「上!!気球も飛んでる…やっぱり戦争の備えだね」


「おお…ありゃアサシンの気球に似てるな…2つ飛んでんな」


「盗賊は町の方で何か情報聞けて居ないの?」


「こんな状況で聞き込みなんか出来る訳無いだろう…てか衛兵も魔術師も俺らには何も話さん」


「そうか…軍船が動くと言う事はやっぱり何か有るよなぁ…」


「気球の片方は港町に降りそうだ…様子見て来るか?」


「僕も行って良いかな?」


「ダメだ…魔術師に見つかったらあいつ等うるせーのよ」


「ちぇっ…」


「安心しろ…俺がしっかり見て来てやる」タッタッタ




『港の広場』


その気球は衛兵と魔術師に誘導されて港の広場に着地した


数人の衛兵に取り調べられながら荷物を降ろしている


盗賊はその様子を物陰から見ていた



(マジか…ありゃアサシンの気球じゃねぇのか?)


(衛兵と魔術師に取り調べられてんな…なんで堂々と降りんのよバカ野郎が…)


(誰が乗ってんだ?見えねぇ…)


(お?取り調べ終わりそうだな…ておいっ…気球飛んでいくじゃねぇか)


(俺達への定時連絡か何かだったんか?書簡でも置いて行ったんか?)


(むむ…気球から2人降りてる様だな…誰だあの男は)



気球から降りたその2人衛兵に取り囲まれ何かの取引をしている



「…これで良いでやんすね?」


「港町は現在安全な状態では無いため外出は控えてほしい」


「分かってるでやんすよ…どこも同じっすねぇ」


「魔方陣のある区域からは出ない様にお願いします」


「へぇ~そんなものがあるんすね?」


「書状は私達が預かり領主へ届ける故お前たちは宿にて休まれよ」


「お世話掛けたでやんす」


「では失礼します」



2人は衛兵の取り調べが終わり気球から降ろした荷物を運び始めた



「あの…荷物はあっしが全部持つでやんすか?」


「あなた…男なのでしょう?」


「あねさんそらねーでやんす…少しはもって欲しいでやんす」


「こっちよ?」テクテク




『あばら家に続く坂道』


盗賊は気球から降りた一人が情報屋だと言う事が分かって居た


あばら家に訪ねて来るのを見込んで2人を待って居た



「よう!!来たな?」


「あら?お出迎えかしら?」


「誰でやんすか?例の盗賊っていう男でやんすか?」


「ギルドからの定時連絡だな?お前が直接来るとは思ってなかったぜ?」


「事情が色々変わったの」


「こっちの男は誰だ?信用して良いのか?」


「あっしはローグっていう者でやんす…女戦士の彼氏って事になってるでやんす」


「女戦士?…あぁ例の姉妹の姉の方か」


「あららら?かしらとは面識無かったでやんすか?あっしは良く盗賊さんの話を聞かされたんすがね」


「情報は一方通行だろ…俺はシャ・バクダには随分行って無ぇからもう何年も顔見て無え…ほんで何しに来た?」


「話はあねさんの方から…」


「事情はあなたのユートピアで話すわ…ここで人に見られるのもアレだし…行きましょ?」テクテク


「おう…まぁそうだな?」


「荷物半分持って貰って良いすかね?」


「ヌハハ一人で荷物持ちか…おら半分よこせ」


「いやぁぁぁ助かりやした…この坂道見てげんなりしてたんす」


「だろうな?」




『ユートピア』


あばら家に横付けされた3台の馬車は子供達にとって良い遊び場だ


ワーイ ワーイ キャッキャ



「おかえりー上から見てたよ」


「元気そうね?子供たちはみんな元気?」


「見ての通りよ」


「ウフフ馬車がうまい具合に遊び場になったのね」


「お陰で僕と盗賊は寝る場所が無いんだけどね」


「女盗賊はどうしたのかしら?」


「墓に埋葬した…挨拶してやってくれ」


「向こうね?…行って来るわ」


「お客さんが来たんだ…久しぶりにバーベキューでもしようか」


「良いでやんすね…お土産でラクダの肉を持ってきているでやんす」


「おぉそれは良いねぇ…みんな喜ぶと思うよ…みんなぁ!!バーベキューやるから手伝って!!」



バーベキューをやると聞いて娘達4人と子供達は一斉に動き出す


ワーイ ワーイ


マジでぇぇ ムギャーーー



「いやぁぁぁここは良い所でやんすねぇ…一応海も見えるし」


「太陽があればもっと綺麗なんだ…俺の女のお気に入りの場所だ」


「ただちょっと家が狭いね…僕なんか毎日納屋で寝てるからハハ」


「情報屋とローグは寝る場所無ぇが良いのか?」


「あっしはどこでも良いでやんすよ…あねさんはどうしやすかねぇ?」


「あ…情報屋戻って来たね…君も食べなよ…ラクダの肉おいしいよ」モグモグ


「あら?お気になさらず」


「それで…何しに来たんだ?2人で来るってーと何かやるんだろ…」


「そうね…どこから話そうかな…」


「結論から言ってくれぇ…分かんなくなっちまうから」


「左遷されたのよ…左遷」


「ヌハハ分かんねぇ」



まず政治の話


セントラルはあの後第1皇子が実権を握ってね


第2皇子は軍国フィン・イッシュに亡命


法王庁は解体


どうなるか分かる?



「セントラルとフィン・イッシュの戦争だね」


「そう…それでシャ・バクダ領がどちら側に就くのか問題になって居る訳」


「あれから2カ月ちょいって所だがそんなに早くゴタゴタするか?」


「闇に落ちた世界で戦争なんかやってる場合じゃ無いんだけどね」


「そうよ…だからアサシンはフィン・イッシュに向かって戦争回避の為に暗躍しているの」


「又アイツは変な所に首を突っ込もうとしている訳か…」


「そうとも言えないのよ…レイスに対抗する手段としてゾンビ軍団を使う技術があるのはフィン・イッシュ」


「なるほど…不死者の軍団を使ってでも民を守りたい…そういう事だね」


「一方でアサシンは精霊の事も忘れて居ないわ…だから私はここに来たの」


「俺達をどうするつもりよ?」


「まだ情報があるのよ…ローグ?教えてあげて?」


「かしら…いや女戦士の事でやんす」


「ほぅ…」


「実は世界が闇に落ちたその数日後にですねぇ…」



ローグは星の観測所に剣士達4人が一度戻って来ていた事を語った


その後倒れた剣士を連れ気球で魔女の塔を目指したと言う



「…という事なんでやんす」


「てこたぁ剣士達は全員無事なんだな?ヌハハこりゃ良い情報だ…」


「シン・リーンに向かった後の足取りが掴めないでやんすよ」


「剣士達の仲間にエルフが居たって言ったよね?」


「そりゃぁ金髪の長い髪で女神の様に美しいエルフでしてね?あっしも一瞬でトリコになりやした」


「なんつっても匂いがっすねぇ…動く度にフワリと香る匂いで気を失っちまいそうな感じでやんしてね?」


「ほんでもって回復魔法をされると又骨の髄を触られた感じでビビーーっと来るんすよ」


「……」急にエルフの事を語り出したローグに冷たい視線が集まる


「お前は何の話をしてんのよ…」


「あいやいや…あっしの正直な感想が出ちまいやしたね」


「まぁ剣士達の仲間にエルフが居たってんだな?」


「済まんす…話の腰を折っちまいやしたね」


「そのエルフもシン・リーンの魔女の塔に行ってた訳か…ハハハそう言う事か」


「どうやらずっとすれ違いっぱなしって訳だな…剣士達はいつも俺らの前を行ってんぞコリャ」


「私が来た理由を察したかしら?」


「アハハハ…盗賊!今日もう一つの気球を見たよね?」


「んむ…軍船追いかけて行ったな」


「どうやらアレは剣士達の可能性が高いね」


「軍船も関係してるってどう言う事だ?」


「これは秘密の話なのだけれど…女戦士と女海賊はドワーフの国の姫に当たるのよ」


「おう知ってんぞ?海賊王の娘だって事ぐらいはな?」


「その立場を利用して国賓扱いだとしたら軍船と関係して居てもおかしくない」


「なるほど…」


「それで何処に向かったのか?想像できる?」


「あいつらもお前が言ってたお人形さんを探してる…まぁそう考えるわな…アサシンも探してんだろ?」


「ビンゴ!!それが精霊の魂を受け入れる器の筈なの」


「さぁ盗賊どうする!?手札が揃った」


「長距離航海するなら星が見えねぇと現在地が分かんねぇ…南の大陸までたどり着けるかどうかだ」


「それは困った問題だねぇ…」


「せめて羅針盤だけでも使えりゃなんとかなるとは思うんだが…」


「これ使えやせんかねぇ?」コトリ



ローグは懐から小さな石を取り出した



「何だい?この石は」


「星の観測所で剣士さんが療養していた時なんでやんすが…その石を預かったままだったんす」


「剣士の持ち物がどうして?何かの役に立ちそうなのかい?」


「かしらの妹…あいやいや女海賊さんが作った物らしいでやんすが…狭間の出入りに使うとかなんとか」


「どうやって使うんだろう?アレ?これ磁石がくっ付いてるのか」


「女海賊さんが磁石を回して姿を消したり出てきたりしたのを見たでやんす」


「おぉ!!そりゃすげぇな…泥棒専用道具じゃねぇか」


「ちょっと面白いね…試しに使ってみよう」クル



商人はそこから姿を消した



「うぉ!!どうなってんだこれ?…消えやがった…おい!!聞こえてんのか?」パッ



次の瞬間盗賊の背後から姿を現す



「これスゴイ物じゃないか!!」


「マジかよ…お前なんで俺の後ろに居んのよ?」


「僕は回りウロウロした後盗賊の後ろで元に戻しただけだよ?」


「女海賊さんはそれで遊んでたんでやんす」


「盗賊!!羅針盤は今持ってない?」


「船に乗せっぱなしだ…それがありゃ船で羅針盤が使えるって算段か?」


「理屈は分からないけれど狭間の深さが変わってるんだと思う…もしかすると狭間から出ているのかも知れない」


「試してみる価値ありそうだな」


「でもこれは危険な物かもしれないなぁ…イヤ相当危険な物だ…時間の狭間に挟まるとどうなる?」


「俺ぁそれが欲しいな」


「使うのは盗賊で構わないけど乱用は避けるべきだね」


「分かってる…ちぃとワクワクしてきたんだ…今から羅針盤使えるか試してくる」


「役に立つと良いでやんすねぇ」



その後盗賊は一人で船に乗せてある羅針盤を試しに出て行った



「ところで結構な量の荷物も持って来た様だけど…全部お土産かい?」


「あぁアレはローグのお小遣い稼ぎで此処に来るまでに手に入れた戦利品よ」


「戦利品?」


「彼はダガーを使って皮を剥ぐとか角を獲るとかが得意なの」


「じゃぁ魔物と戦いながら此処まで?」


「フフ戦わなくてもそこら中に倒れているから…」


「そうか…気球からだと見つけやすいんだね」


「そうよ?私には興味無い物ばかりね…牙とか角とか毛皮」


「なんだそれならシカ肉とかも有るんじゃないの?」


「シカは見て居ないわ…ゴブリンとかミノタウロスとかばかりよ」


「おぉ!!ミノタウロスの角とか高級品じゃないか」


「この闇の世界でソレに価値があると思って?」


「ハハそうだね…」


「武器とかも少し手に入れたみたいだから言えば安く譲ってくれると思うわ?」


「銀製の武器以外に価値があると思えないな…」


「エルフが使う黒曜石の武器みたいよ?」


「うわ…貴族に売ればお金持ちになれるじゃ無いか」


「もうお金に意味があるとは思えないけれど…」


「ねぇ!!ローグ!!」


「へ~い!!なんすかぁ~」モグモグ


「黒曜石の武器を手に入れたらしいね?」


「欲しいなら持って行って構わんですぜ?」


「良いのかい?そんな高級品?」


「ちっと加工せんと使えんでやんすがね?」


「加工?」


「槍だったみたいなんすが柄が折れちまってるもんでそのままじゃ使えんでやんす」


「なんだそうだったのか…」


「ダガーにするなら他の角か牙で柄を作れば直ぐに作れやすぜ?」


「まぁそんなに欲しい訳じゃ無いけどね…珍しい物だから見たかったんだ」


「黒曜石に魔除けの効果有るの知っていやすか?」


「え!!?」


「銀よりも強い魔除けの効果有るんで対レイス武器に最適なんす」


「じゃぁエルフもレイスを倒す手段を持ってるのか…」


「どうしたんすか?驚いて…」


「いや…エルフはレイスをどうにも出来なくて困っているだろうと思ってたからさ」


「魔除けが効果有る事分かったんで他にも色々有りやすぜ?聖水とか…唐辛子なんかも魔除け効果ありやすね」


「僕達は考えが偏ってたのか…工夫次第な訳だね」


「どうしやす?黒曜石のダガーなら直ぐに作れやすぜ?」


「欲しいな…それが有れば僕が持ってるミスリルダガーを盗賊に返せる」


「じゃぁ私も作って貰おうかしら…私のミスリルダガーはローグが使った方が良さそう」


「それ貰えるんならあっしの戦利品全部あげても良いでやんす」


「こんなガラクタ私は要らないわ?」


「魔石もちっと拾ったんすけどねぇ…」


「魔石かぁ…使い道無いけれど…分かったわ!それは私が頂く」


「じゃぁちっと待ってて下せぇ!!黒曜石のダガーを今から作りやす」



ローグが作った黒曜石のダガーは戦利品で持って来た物ですべての材料が揃って居た


柄の部分は何かの牙を使い挟み込んだ黒曜石を皮紐で固定しただけの簡単なダガーだ



「出来やしたぜ?柄の部分はちっと握り込んで手に馴染ませて下せぇ」ポイ


「へぇ?結構良い物だね?」ニギニギ


「そりゃエルフが使ってた筈の物なんでかなりの良品っすよ」


「黒曜石を使った武器は人類が初めて作った狩猟用の武器だったそうよ?」


「重さも丁度良いしこれで十分だね」


「魔除けの効果があるのがデカいっすね…虫も近寄らんくなるらしいっす」


「それで狩猟用で使われた訳か…」


「丈夫な武器じゃ無いんで大事に使って下せぇ」


「分かったよ…」




『翌日』


盗賊は羅針盤が使えそうな事が分かり船で出港する為の準備で忙しかった



「馬の買い取り手が見つかった…もう馬車は使えないから荷物はローグと協力して歩いて運んでくれ」


「馬も連れて行けば良いのに…」


「食い物と交換すんだよ…これで穀物が手に入るんだ」


「そういう事か…」


「まぁ荷物は荷車で運べば何回か往復するだけで行けるだろ」


「出港はいつの予定?」


「そんな急ぎでも無いんだが…荷物満載になったら行く感じだな」


「じゃぁ子供達も船の方に移動させようかな…」


「んん?慌てんでも良いぞ?」


「ずっとユートピアから出て居無いから少し環境を変えた方が良いと思ってね」


「まぁ任せる…情報屋と娘達には上手く説明しといてくれ」


「うん…あ!!そうそう…ミスリルダガーを返すよ」


「ん?どうした?」


「これ見て!!」スチャ


「お!?なんか良さそうなダガーだな…どうしたのよ?」


「ローグが作ってくれたのさ…刀身は黒曜石だよ」


「ほーーーアイツ良い物持って来たんだな?」


「なんか魔除けの効果が有ってレイスも倒せるらしい」


「そういう事か…ほんじゃミスリルダガーは俺が使った方が良さそうだ」


「今から取り引きに行くんだよね?」


「おう…どうした?」


「樽を大量に買えないかい?」


「それは心配すんな…もう買い付けてある」


「水を汲みに行かないといけないよね…雨が降らないから水が沢山必要になる」


「だな?」


「それの運搬が大変だよ」


「まぁ荷車でチマチマやるしか無ぇ…後で樽持ってくっから上手い事やってくれ」


「忙しくなるなぁ…ローグも呼んで来る」


「おう!!じゃぁ俺は馬と穀物を交換してくっから…後は頼んだ」



この闇の世界でまだ生きている馬は非常に貴重だった


その馬を買い取ったのは港町に駐留するシン・リーンの守備隊だ


代わりに受け取ったのが小麦二袋…家族を飢えさせないで100日持つかどうか…


それはこれから航海に出る為の生命線だ


もうこれ以上の食料調達は港町では無理だった


盗賊達は大量の水を船に積み込み出港する事となる




『キャラック船』


水で満タンになった樽が荷室にいくつも並び


この中型のキャラック船は喫水線ギリギリまで沈み込んで居た



「ようし!!これで最後の荷物だな?」


「もう荷室も居室も満タンでやんす」


「ちっと木材積み込み過ぎたな?」


「入りきらん分は甲板に出しておくでやんす」


「おう!…子供たちはもう乗ってるのか?」


「ここに居るわーーー」ノシノシ



娘達4人と子供達はキャラック船の船首楼を陣取って居る


そこを自分たちの城の様にした様だ



「ちぃと女盗賊に出かけるって言って来る…みんな船に乗って待っててくれぇ!!」


「はーーーい」



盗賊は墓の下に居る女盗賊を一人残す事が気掛かりだった


だが連れて歩く訳にも行かず子供達を生かすには仕方のない選択だ


一人…墓の前で跪き語る



「よう女盗賊…ちっと寂しくなるかもしれんがよぅ…待っててくれな?」


「用が済んだら必ず帰ってくるからよ?」


「あぁ分かってるって…子供たちの事は任せろ…んじゃ…行って来るな?」



少し地面を掘れば恐らくまだあの時のままの姿で居る彼女がそこで眠って居る


もう一度顔が見たいという気持ちを押さえながら地面に額を付けた



サワサワサワ


海の風が吹き抜け誰も居なくなったあばら家がヤケに寂しい



---いってらっしゃい---



心の中でそんな声が聞こえた

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