第6話 闇の航海

『出港』


女盗賊への挨拶を終えた盗賊は船に戻って直ぐに動き出した



「荷物満載の船動かすのは久しぶりだぜ…よっし出港するぞ!!商人!!碇上げろぉぉ!!」


「がってーーーーん!!」ガラガラ


「ローグ!!縦帆2つとも開けぇぇ」


「てやんでーーーーー!!」バサバサ


「情報屋!!面舵いっぱーーーい!!」


「にゃろめーーーー!!」


「横帆てんかーーーい!!」バサバサ



たった4人で中型のキャラック船を帆走させるのは相当な重労働になる


重たいロープワークを担当するのは盗賊とローグの2人だけだった



ギシギシ ググググ


ユラ~リ ユラ~リ



「やっぱクソ重いな」


「さぁ…僕たちの冒険の始まりだね?」


「全然船乗りの構成じゃないがなヌハハ」


「子供達も一生懸命手伝ってたわよ?」


「大人4人と子供達の大航海だ…こんな事やってるのは世界中で俺達だけだぜ?」


「ロマンでやんすねぇ」


「これは世界を救う旅だよ」


「ちぃとメンバー不足だがな…さぁて!!お前等ぁぁ!!筋トレすんぞ…娘達もコーーーイ!!」


「えええええええ!!?」


「わーい」キャッキャ



ゆっくりと動き出した船の甲板で盗賊は娘達に運動をさせ始めた


子供達もそれに習って体を動かす



「ウフフ…わたしやっぱりここの生活が合ってるなぁ」情報屋はしみじみと言う


「ずっと一緒に居て良いんだよ?みんな家族さ」


「良いでやんすねぇ…あっしも早く彼女に会いたいでやんす」


「女戦士との関係をあまり詳しく聞いて居なかったけれど…恋人同士と思って良いの?」


「この闇を生きて次会ったらあっしの言う事を聞いてくれる約束なんす」


「じゃぁその時に恋人になるのね?」


「君も盗賊がホムンクルス見つけたら言う事聞く約束してるよね」


「それはあなたが勝手に…」


「盗賊はもうそのつもりで動いてるさ…君を自由にして良いっていう条件だからね」


「そんな困るわ」


「僕には何でも言う事聞いてあげるって言ったよね?」


「それは言ったけれど…」


「じゃぁ同じじゃ無いか…取り引きは契約だよ…約束は守らなければいけない」


「そーっすね!!約束は守らなければいけないでやんす!ヌフフフフフ」




『船尾』


退魔の魔方陣の範囲からはみ出して居るのかレイスがそこに憑りついて居た



「うらぁ!!」スパ


「ンギャァァーー」シュゥゥゥ


「おい商人!!船の中を見回って魔方陣の範囲に入って居ない場所をどうにかしてくれ」


「そうだね…気が付かなかったよ」


「どうやら見張り台の上も範囲外になってそうだ…ずっとあの上でレイスが憑りついて居やがる」


「なるほど…効果のある範囲は球状だと言う事か…」


「レイスはまぁ魔方陣の中に入って来んが他の魔物に襲われたらマズイかも知れんな」


「盗賊さん!!荷の中に弓矢がありやすぜ?」


「一応用意しとくか…ローグ!お前は弓を使えるな?」


「へい!」


「情報屋!!お前は弓を使えるか!?」


「一応一通り武器は使えるわ?私も弓を持った方が良い?」


「戦えるのが俺ら3人しか居無えんだ…商人は武器を使う訓練なんかしたこと無い」


「海の上でどんな魔物を想定して居るのかしら?」


「何が出るか分からん!一応装備しとけって話だ」


「狭間の奥で出て来そうな魔物はガーゴイルだね…空を飛ぶから海の上でも危ない」


「そんなのが出て来てしまっては大変ね…」


「まぁ飛んでる敵にそうそう矢は当たらんのだが…」


「あ!!僕に考えがある…」


「ん?」


「見張り台の上は魔方陣の範囲外だよね…ガーゴイルも魔方陣を嫌がる前提だけどそこに誘き出すんだよ」


「おぉなるほど…見張り台を3人で狙い撃ちすんだな?」


「そうそう…どうせ暗くて遠くなんか見えないから見張り台に上がる事も無いよね」


「分かった…お前は他に魔方陣の抜けが無いかしっかり見ておいてくれ」


「うん!!」




『デッキ』


戦闘の準備をした甲斐有ってか魔物が近付いて居るのを発見するのは早かった


しかしそう簡単にガーゴイルが見張り台に獲り付くことは無く結局弓を撃つ事無く何処かへ行った



「なんだ折角罠張ってんのに近付いて来やしねぇ」


「なんか分かって来たぞ?」


「んん?」


「ガーゴイルもヘルハウンドと一緒でミスリル銀を避けてる様に思った」


「ほぅ?」


「あっしもそう思いやしたぜ?近寄りそうで近付かんのはあっしのミスリルダガーが見えてるんす」


「違うね…音だよ」


「音っすか?」


「んあ?俺のクセか…ダガーを手の中で回したその音か?」


「多分そう…その都度遠ざかってる」


「ほんじゃミスリルダガーどっかにぶら下げて音をなる様にしときゃ魔除け替わりだな?」


「試してみようか」


「メインマストに括っとくか…船の揺れでずっと鳴ってるだろ」


「イイね」


「魔物の心配が無くなれば少し休憩しても良さそうね」


「まぁレイスは放置が良さそうだから休んで良いぞ?」


「そうさせて貰うわ」



ミスリル銀の音を鳴らす事で魔物が船を襲う事が一切無くなった


レイスの姿も殆ど見なくなりたまに現れてもいつの間にか居なくなる


安全に航海出来るようになった事で帆走に集中出来た





『航海_何日目か』


羅針盤頼りで航海していて現在地が何処なのか分からなくなってきていた


目標物が何も無いからだ


ザブ~ン ユラ~リ



「多分なぁ…今ここら辺だ」…海図を指差しおよその位置を検討する


「この島の漁村が普通は中継点なんだよね?」


「灯台が見えれば良いんだがな…レイスにやられてもう誰も居ねぇと思う」


「水を一応補給したいよね」


「食い物もな?…まぁアテにゃして居ないが…」


「魚が獲れると思ってたけど意外と釣れないからなぁ…」


「素人だからだろ…俺ら何も知識が無ぇ」


「網でも有れば獲れるのかな?」


「調達しときゃ良かったな?」



「右前方に何か見えるでやんす~~!!」


外で見張りをしていたローグが何かを発見した様だ



「おぉ!!今行く!!」ダダダ


「あ!!海図忘れてるよ!!」タッタッタ


「灯台は見えないでやんすねぇ…何処の島だか分かりやすか?」


「入り江が見えんな…ありゃ無人島か?…ちょい海図見せろ」


「あーー現在地…大分西にズレてるんじゃない?ホラここの島」


「まだ分からん…あの島を見ながら一旦東に進路変える…情報屋!!面舵だぁ!!東に進路変えるぞ!!」


「はいはい…」グルグル



その島を右手に見ながら船は進路を変えた


何処にも入り江らしき浜は見当たらず川の様な水源も見当たらない


補給の為に立ち寄るのはリスクが高かった



「ダメだな…あの島にゃ何も無い」


「結構大きな島だけどねぇ…」


「正面にもっと大きな島が見えてきやしたぜ!?」


「なぬ!?」


「あれ?海図と違うぞ?」


「まてまて…こりゃ相当流されてんぞ…こっちじゃ無えか?」


「ええ?全然違う所じゃない」


「航海はそういう物だ…こりゃえらく東に流れたな中継の漁村なんか今からじゃ無理だ」


「ねぇ!!このままで良いの~~?」


「ダメだぁ!!ちと俺が修正する!!ローグ!!横帆を張りなおすから見張り台から下降りてこい」


「わかったでやんす~」


「南西に転換?」


「そうだ!!南の大陸のかなり東に行く事になる…大陸右手に見ながら目的地目指す」


「随分大回りになっちゃったなぁ…」


「横帆はどう張れば良いでやんすか?」


「左舷の2番目の柱に結んでくれぇ!!向こうのやつも同じだ!!」


「あいさーーー」


「商人!!海図持ってこい」


「ん…うん!」


「えらく大回りしちまった…大陸のどっかで補給したい」


「南の大陸は海図に詳細書いてないよ…」


「んああぁぁぁ…しゃーねぇどっか川見つけて小舟降ろそう」


「水の補給かい?結構余裕有ったと思うけど」


「娘達の馬鹿が体洗うのにジャブジャブ使ってんのよ…お前荷室見て無いのか?」


「えええ!?海水で洗えば良いのに…」


「お前にそれを言い聞かせられるか?」


「ハハ機嫌損ねてなんか色々起こしそうだ…」


「だろ?まだ勝手に食料に手を付けないだけ安い訳よ」


「仕方ないな…小舟にも魔方陣やっておくよ」


「おう!!頼んだ」




『南の大陸_河口』


何日か進んだ先で恐らく南の大陸に到着した


大陸を右手に見ながらしばらく行くと川の河口を見つけそこで水の補給をするために船の碇を降ろした


ガラガラ ガラガラ



「おーし!!ここでちょい停船だ」


「小舟を降ろせば良いかい?」


「出来るか?」


「やって見る」


「俺は荷室の倉口開いて樽出して来る…ローグ!!手伝え!!」


「あいさー!!」



盗賊は船の船体横にある倉口を開いて空になった樽を小舟に積み補給に出かけた


倉口は桟橋から荷を楽に入れられる様に海面からの高さが低い


釣りをするには丁度良い高さだったから商人は盗賊を待って居る間釣りをする事にした


チャポン



「釣れると良いなぁ…」



しばらくして情報屋が様子を見に来た



「釣れてる?」


「全然…」


「こっちの大陸は海にシーサーペントが居るから気を付けてね」


「ええ!?危ないじゃ無いか」


「そうよ?」


「いや盗賊達の事だよ」


「彼等はそういう事知ってると思うわ」


「そうだったのか…危険なのにわざわざ補給なんて行かなくても良いのに」


「水が足りないのね」


「雨が降らないからねぇ…」


「補給がしたいなら海岸沿いにいくつか漁村があった筈なのに」


「南の大陸の地図が無かったからさ…在るかどうか分からないい所に寄れないんだと思うよ」


「こっちの事は盗賊もあんまり知らないのね?」


「その様だね…そういえば君の出身は古都キ・カイだったね?」


「10年くらい前に北の大陸に移住したのよ」


「南の大陸はどんな風なの?」


「大きな国はキ・カイの国とドワーフの国…ずっと南の方には蛮族が居るらしいわ」


「蛮族?」


「蛮族もいくつか派閥で分かれてるらしいけど私は良く知らない」


「へぇ…」


「北の大陸よりも古代文明を良く研究しているからとても進んでいるのよ?」


「それは知ってる…確か錬金術が盛んだったよね」


「そう…錬金術で新しい金属や生物を作るの…それに古代文明の科学を組み入れて機械を作るの」


「君が言ってたホムンクルスもそうやって作るの?」


「ホムンクルスと言っても色々在ってね…完全な人の形をした物はまだ作れないみたい」


「僕たちが探してるホムンクルスってもしかして完全な形のやつ?」


「そう…完全体」


「その他のホムンクルスってさ…義手とか義足になってる奴でしょ?」


「そうよ…そういうのを組み合わせて人型にした物が鉄器兵という機械…北の大陸の衛兵の代わりね」


「やっぱり軍事目的で使われるんだ」


「出回ってる義手とかはテストみたいな物ね…だから色々あるの」


「鉄器兵ってさ…どうやって動くんだろう?人間でいう脳の部分とか…」


「君ぃ…私に全部白状させようとしているな?」


「えへへ…バレたか」


「よかろう!!教えてあげよう!!」


「ワクワクするね…はやくはやく」



鉄器兵が動く原理は人工知能という機械が働いているお陰なの


現在の技術ではそれを人間が遠隔操作して動かしているわ


でも遥か古代文明では自律で動く様になっていたらしい


人口知能を搭載して自律で動くホムンクルス


私はそれこそが北の大陸で崇拝されている精霊の起源だと思っているのよ


でもこの学説は北でも南でも支持を得られない


北では精霊が神格化されているし


南では人工知能が心を持つとは思われていない


でもね?


私は思うの


もしも鉄器兵が人間の心を持ったとしたら


何千年もその心が生き続けたとしたら何を思うのか?って


そう考えると伝説で伝えられてる数々の精霊の行いが辻褄の合うものになっていく


まぁ…証拠は無いおとぎ話なんだけどね?


私は子供の頃に機械の犬を持っていてね


その子だけが私の友達だったのよ


でもある日機械が壊れてしまって動かなくなった


とても悲しくて沢山泣いた…機械相手なのに


その後大人になって色々勉強して機械の事がわかるようになってきてね


子供の頃に一緒に過ごしたその機械の犬がどういう風に動いてたのか理解したの


ボロボロになったその子の中にメモリという部品を見つけて解析したら


私の声がずっと記録されていたの


私とのやり取りを全部…


どうして機械が勝手に記録していたのかは分からない


私にはその子に心が合ったとしか思えてならなくて…


だから何も証拠が無くても


精霊の起源は心を持ったホムンクルスだって信じてる



「…良い話だね」


「ありがとう」


「君がホムンルクスを探してる理由は…その犬に心が合ったのか確かめたいんだね」


「そうよ…たった一人の友達だったから…」


「出来る事ならもう一回会いたいね」


「会いたい…それが古代から精霊が生き続けて来た理由だと思ってる」


「逆の立場から考えるとさ…もしも永遠の命がその犬に合ったとして君が死んだ時どう感じるかな?」


「え…」


「記録した君の声を聞きながら生きていくのかな?」


「それは…」


「そんな記憶を何千年も記録するのはとてつもなく悲しいね…どうすれば救われるんだろうね?」


「それが夢幻?」


「なんか…そんな気がするよね…」



ずっと記録していた君とのやりとりを記録した物…


それは多分その機械の犬にとっての夢幻だよ


その記憶の中に君はまだ生きていて…機械の犬はそこに住んでるんだ




『船首』


何度も水の補給で行き来する小舟を見ながら情報屋は考え事をしていた



「いよーう!こんな所で何してんのよ?」


「あら?小舟が出て行ってしまったけれどどうしてあなたが?」


「商人が行きたいって言うもんだから交代だ…俺はちっと休憩だな」


「大丈夫なの?」


「問題無い…小舟の操作は覚えておいた方が良いんだ」


「そう…」


「ほんで?何か考え事か?」


「大した事じゃ無いわ…」


「大した事ですっていう顔してんだが…」


「ちょっと商人の言葉にショックを受けてしまって…」


「んん?何か言われたんか?」


「夢幻の解釈よ…あの子…すごい洞察力を持って居る様ね」


「夢の話なら俺は分からんな…だがアイツの頭ん中は相当なもんだぞ?」


「その様ね…夢幻の解釈を指摘されて私は何も言えなくなったの」


「夢幻が何なのか俺は良く分からんのだ」


「あなた…航海日誌を書いて居るでしょう?」


「おう…それがどうした?」


「それが夢幻だとあの子は私に指摘したのよ」


「さっぱり意味が分からん」


「もし精霊の記憶が航海日誌の様に誰でも覗けるとしたら?」


「ほう…それを夢と言う形で見てるってか?」


「そうよ…あの子はそれを私にズバリ突きつけて来た…考え事をしてしまうでしょう?」


「なるほど…確かに夢は俺も何か見てるんだが思い出せん」


「ねぇこれ知ってる?南の大陸では夢幻を見る人が居ないって…」


「なぬ?」


「北の大陸の特定の地域の人でしか夢の事を言わないのよ」


「特定の地域っていうと何処よ?」


「多いのはシャ・バクダ…少ないのはフィン・イッシュ…詳しくは調べられて居無いの」


「やっぱ精霊が居たであろう地域が中心なんだな?」


「多分そうね…断定は出来ないけれどね」


「確かにそんな気もする…海に出てからこっち見てる夢が違う気がすんな」




『倉口』


盗賊は休憩と言いながら寝る気にもなれず釣りで暇を潰す事にした


バチャバチャ



「うぉっと!!又来たぜ!!」グイグイ


「沢山釣れるじゃない」


「またデカイから近くまで上げたら槍でブッスリ頼む」


「分かったわ…」



盗賊と情報屋は2人で釣りを楽しんで居た



「えい!!」ブスリ


「うほーーこりゃでけぇ!!」


「しばらく食べ物には困ら無さそうウフフ」


「やっぱ河口付近は魚が良く釣れるんだな」


「どうしてかしら?」


「分からん…漁村も大体河口付近だから何かあんだろうな」



次から次へと魚を釣り上げて行く2人を横目に樽を積んだ小舟が帰って来た



「盗賊さ~~ん!!樽を上げるの手伝って下せえええ!!」


「こっちゃ食料調達に忙しいんだ馬鹿ヤロウ!!」


「そんなズルイっす!!」


「水はいくらでも調達出来んだろ」


「ハハ参ったね…僕も樽上げるの手伝うよ」


「これで終わりにしやしょう…船漕ぐの疲れたでやんす」


「今日は魚でバーベキューだ…今なら生でも食えるぞ?」


「おぉぉ良いっすねぇ!!あっしが魚を解体しやすぜ?」


「おう!!適当に持って行って準備してくれぇ」



水だけ補給するつもりが思わぬ食料調達となり当分は食べ物の心配をしなくて済むようになった


ローグは魚の解体も上手く貴重な肝油も手に入れる事が出来た


これで長期航海で不足気味な栄養を取る事が出来る


健康に過ごす為には大事な事だった




『バーベキュー』


魚は丸ごと焼いても良いし骨まですり潰して練り物にしても美味しく食べられる


久しぶりの新鮮な食材で家族全員よろこんで魚を食べた


ジュージュー



「めちゃくちゃ旨いなコレ…」ガブ モグ


「骨も砕いて練ってるんで栄養満点でやんす」


「陸じゃこんなん食えんぞ」モグモグ


「そーっすね!!下手な肉より旨いっすね」


「こりゃ海で闇を乗り越える奴いてもおかしく無えわ」


「ハハそうだね…この河口付近だと水も入手出来るからね」


「食える海藻もどっかに有りそうだな?」


「浅瀬なら貝も拾えるんじゃないすかね?」


「レイスを黒曜石の武器でどうにか出来るなら沿岸部で生き残るのは可能な様ね」


「そうだね…闇を乗り切った昔の人はきっとこんな生活なんだ」


「まぁ…5年もこの生活が続けられるかってのは別の問題だがな?」


「あーーー他の栄養も必要になるかぁ…」


「栄養ってか精神的な問題だ…俺ら魔方陣があるから安心して過ごせるが…無いとなれば話は変わる」


「やっぱりレイスが脅威か」


「うむ…常に警戒なんか出来んからな」


「水中で呼吸が出来るとしたら?」


「んん?人魚の事言ってんのか?」


「正解!!」


「てか人魚ってどっかに居るんか?」


「今も居るかどうかは分からないけれど昔は居たらしいわ」


「情報屋は人魚の事も調べてると言ってたね?」


「そうよ?人間の進化論で一度人魚になってその後退化したと言う説」


「俺ら魚みたいに急にエラ呼吸になれるなんて事があるとは思えんが…」


「人間は数分呼吸を止めても死なないでしょう?泳げる範囲に泡のような呼吸出来る場所が有れば水中で生きられる」


「なるほど…」


「その場合泳ぐ速さが課題になるの…それは足に人口のヒレを付ければ解決する」


「それで人魚完成って訳か」


「呼吸出来る場所がある前提での話ね」


「そういう話が書物としてどうして残されて来なかったんだろう?」


「それは発見されて居ないだけに思うわ…後世に残る伝達方法としては歌も意外と物事を伝えて居るのよ?」


「歌?」


「それぞれの民族で昔から伝わって居る歌」


「あぁぁ子守歌とかそういう奴か…それは実話だったりするんだ」


「そう…書物の様に劣化しないで伝わる事が有るから馬鹿に出来ない」


「そうか歌を調べると言う手も有るのか…」



例えば私が色んな伝説を書物にして残したとして


それは一冊しか無いから他の誰かに伝わるのは限られるのよ


その書物を沢山複製されて初めて多くの人に伝わる


でもそんな労力を掛ける人も簡単には現れない…昔の書物が発見されない原因ね


歌の場合それは子供達に伝わりその歌を又誰かに伝えるから


伝説の多くは歌に残って居る事が多い


内容が薄いけれど劣化せずに何百年も伝わる…



「へぇ?君スゴイね」


「一応考古学者なのよ?」


「でもさ?2000年前の歌なんか聞いた事無いな…」


「……」


「その間に100日の闇で沢山人が死んだらやっぱり伝わらない…書物の方がちゃんと残るよね」


「ヌハハ一本取られたなこりゃ…」


「じゃぁ…夢の中で歌を聴いた事は?」


「ハッ!!」


「私の勝ちかしら?」


「そうだね…確かに夢の中で聞いた歌をなんとなく覚えてる」


「北の大陸に吟遊詩人が多いのもそれが理由に思うわ…歌って居るのはきっと夢で聞いた歌」


「そんな伝わり方が有るのか…つまり普段から2000年前の歌を聴いてるかも知れないんだ」


「馬鹿に出来ないでしょう?ウフフ」




『再出発』


バーベキューで腹が膨れ満足した所で船の碇を上げた


右手に陸を見ながら目的地を目指す…


ザブ~ン ユラ~リ



「情報屋!大体で良いから海図に地図を書き足せんか?」


「本当に大まかになってしまうから海図を汚さない方が良いと思うわ?」


「あとどんくらい掛かるか全然分かん無えのよ」


「私の勘で良ければ…3日くらい?」


「俺もそんなもんだとは思ってんだが…島があるとか…そんくらいで良いんだ」


「このまま陸沿いを行くのではダメなの?」


「ちっと陸から離れないと座礁すんのが怖くてよ」


「じゃぁこうしましょう…真東に進路を変えてもう一度陸が見えたら南に転進」


「おお!!そう言うのが知りたかった…それで少し沖へ出られる」


「役に立ててうれしいわ」


「やっぱまともな海図無しじゃ航海厳しいわ」


「また現在地分からなくなったりしないでしょうね?」


「真っ直ぐ東に行きゃ又陸が有るんだろ?」


「なんか心配になって来た…」


「座礁するより大分マシだ…船大工乗って無えんだから」


「そういえばあなた以外全員素人同然ね」


「その通り…ありえん状態で航海してんのよ」


「でも良くここまで来れたわね」


「ちっと海を舐めすぎだ…偶然来れたみたいなもんだな」



一行を乗せた船はその後情報屋の言う通り再び陸を見た


そこで南へ転進させ本来の航路に戻る


実はこの時盗賊がした判断は正しかった


岩礁と海流のキツイ海域を偶然にも回避していたのだ


こうして無事に目的地へ辿り着く…

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