第10話 ハローワールド

『気球』


樽を一つ背負わされた女海賊は文句を言いながらもどうにか気球に辿り着いた



「ぶはぁ!!ぜぇぜぇ…」ドスン


「やるなお前…口だけかと思ったらちゃんと働けんじゃ無えか」


「こんな事ばっかやってたらお姉ぇみたいになっちゃう」


「良いじゃ無えか…女戦士はアレでかなり魅力的だぞ?」


「私等鍛えすぎると筋肉でムキムキになっちゃうんだって」


「道理で…普段から走りまくってるからケツと足はかなり丈夫そうだ」


「それが嫌なんだよ!!」



女海賊本人は気付いて居ないが見るからに健康で元気そうな体はそれだけで魅力だ


身長も伸びて来てかなり良い線を行って居る



「さって!!ダッシュで帰るよ!!」シュゴーーーーー



魔石が球皮に熱を伝え始め気球はゆっくり高度を上げた


フワフワ



「それにしても大収穫だなヌハハ」


「良い物あったの?私も見たいな」


「このライトは俺が頂く!!」


「私は計算する機械欲しい!!」


「計算する機械?これ?」カチャカチャ


「それさぁ計算がメッチャ早いんだって!試してみ?」


「スゴイ…ええええぇぇこんな桁数でも計算できるの?どういう仕組みだろう…」



ピッ…



「ん?」


「何?今の音…」キョロ


(セイタイキノウ テイカ スリープモード ヲ カイジョ シマス)


「お、お、お、なんかしゃべってるぞ?コイツ…」


(ショキカ カンリョウ システム ヲ サイキドウ シマス)


「動くんかな?」



ホムンクルスは人形の様に目を見開いたまま身動きしない


ピッ…



「この音は何処から鳴ってるん?」


「耳の中から聞こえてるみたいだよ?」


「耳?」



ハロー ワールド


クラウド ヘノ セツゾク ガ カンリョウ シマセン


ローカル モード ヘ キリカエマス


カンリシャ ヲ トウロク シテクダサイ



「何言ってんだこいつ?」


「古代語…かしら」


「喋るのに口が動いて無いんだが…」


(カンリシャ ヲ トウロク シテクダサイ)


「え?…どうして?」


「んん?」


「森の言葉を話してる…」


「分かるの?何て言ってるの?」


「管理者を登録してください?意味が分からない…」


「お、おい手ぇ動いたぞ?」


(カンリシャ ヲ トウロク シテクダサイ)


「これ…触って良いのか?」ソロリ


「傷つけない程度なら…」



盗賊は恐る恐るホムンクルスの手を触ってみた



シモン ニンショウ チェック


アイコード ニンショウ チェック


オンセイ シキベツ チェック


セイタイ シキベツ チェック


タイムゾーン ノ シュトク ニ シッパイ シマシタ


ワールドデータ ヘ アクセス デキマセン


ローカル デ セツゾク シテクダサイ



「何て言ってんだ?」


「森の言葉だけど…分からない事話してる」


(デフォルト ノ キカン プログラムヲ ジッコウ シマス)


(ヒフ カラノ ジョウハツ ニ ヨリ セイタイ ガ ショウモウ シテイマス)


(セイタイイジ プログラム ヲ ジッコウ シマス)


(オンカン チャネル ジュヨウ カイシ)


(ゲンゴ データ ガ アリマセン)


(ジドウ ガクシュウ モード ニ キリカエマス)


「なんかワクワクするね」


「ナンカワクワクスルネ」


「お!?真似した?」


「オ…マネシタ」


「こいつ…体温かくなってきてるぞ?」コイツ カラダアッタカクナッテキテルゾ


「本当に?」ホントウニ


「私も触ってみたーい」ワタシモサワッテミターイ


「ちょっと私にも良くみせて?」チョットワタシニモヨクミセテ


「これさぁ動いてたらホムンクルスって分からないね」コレサァウゴイテタラホムンルクスッテワカラナイネ


「こんなに精巧にホムンクルスって作れるんだ…スゴイ」コンナニセイコウニホムンルクスッテツクレルンダスゴイ


「ずっと真似して話されるとウルサイんだけど…」ズットマネシテハナサレルトウルサインダケド



ホムンクルスは話す言葉をすべて真似てオウム返しをし始めた


その言葉は耳の奥からなるのでは無く口と喉を使って発声している


目も瞬きを始め少しづつ人間らしい動作になって行った



(タイオン ノ アンテイ ヲ カクニン キノウ チェック ヲ オコナイマス)スッ



ホムンクルスは勝手に立ち上がり動き始める



「ねぇ…動いてる」


「危ない…」スック


「あぶねぇなぁ…いきなり飛び降りたりしねぇだろうな?」


「捕まえて置く」グイ


「毛皮がはだけてるヨ…何か着せる物無い?」


「魔女の着替えらしいものがどっかにあったぞ?」


「…これね?剣士…そっちから手を通して」


「私やるから剣士はアッチ向いてろ」グイ


「剣士!!飛び降りねぇ様にロープで結んどけ」


「分かった…」グイグイ ギュ



心配を他所にホムンクルスは勝手に運動を始める



(ウンドウ キノウ ヲ チェック シマス)オイッチ ニ オイッチ ニ


「あぁぁちょちょちょ…動くな動くな」グイ


(シンパク ノ ジョウショウ ト タイオン ノ ジョウショウ ヲ カクニン)


「これさぁ何言ってんの?」


「なんか体のチェックするって…」


「こいつ何か食うかな?ホレ?」


「…」キョトン


「食わんな…ほれ?こうやって食うんだ…」パク モグモグ


「…」ジー


「ダメだな…腹減ってねぇのか」


「本とか読むかな?魔術書あるんだー」


「これかぁ?…ほれ?読んでみろ」


「…」ジー


「ダメね…何も分からないみたいね…器っていうだけあって空っぽなのかも知れないわね」


「そうかも知れんな…だが自分の足で歩くなら連れて行くのも楽ってもんだ」



ホムンクルスはその後話す言葉のオウム返しを続け


少しづつ言葉の理解をして行った




『古都キ・カイ上空』


軍港に停船しているシン・リーンの軍船は


魔術師達が魔法を放ち魔物が近付くのを阻止していた



「おい…なんで軍船から魔法撃ってんだ?」


「見て見て!!オークが来てる」


「南の蛮族ね…こんな所まで来ているのね」


「あ…でもオークもレイスから逃げてるっぽいな」


「向こう側にもオークが居るな…こりゃ略奪に来てんのか?」


「オークは人間と同じ様に仲間と一緒に行動するわ…他の魔物と比べてとても危険」


「やっぱレイス倒せないっぽいね…逃げてる逃げてる」


「レイスの対処知ってる俺らの方に分があるな…よしこのまま船に降りるぞ」


「おっけ!!」



気球は元居たシン・リーンの軍船に着地した


フワフワ ドッスン



「お疲れ様です…散発的にオークの襲撃が来ていますのでお気をつけ下さい」


「こっちは大丈夫なのか?」


「レイスに守られている様な感じですね…被害は出ていません」


「船に乗り込まれちまったらアウトだろ」


「まだそこまでの奇襲は来ていませんが…」


「オークはとても賢いので気を付けてください…すこし離岸しておいた方が良いかと思います」


「俺の船もあのまんまじゃ良くねぇな…あとで離岸しておくか」


「オークは地上の市街地を略奪に来ている様です…居なくなった今の内に地下まで急いだ方が良いかと」


「おう…そうさせて貰う…ご苦労な!!」




『地下入り口』


4人はホムンクルスを引き連れ船を降りた


ホムンクルスは体を自由に動かせないのか走る事が出来ない


ゆっくり歩きながら地下を目指す



「剣士!オークは匂うか?」


「うん…遠くに2体…多分監視してる」


「見えてんね…」


「オークも斥候するのか…」


「人間と同じと考えた方が良いわ…いずれここにもオークの大部隊が来るかもしれない」


「地下で穴熊してりゃ攻め切れんだろ…てかレイスを対処出来るんか?」


「黒曜石の武器ならオークでも使えそうよ?」


「あぁそうか…俺らだけレイスを対処出来ると考えるのは浅はかだな」


「僕はエルフの森でオークと戦った事が有るよ…石の遠投が怖いから早く隠れた方が良い」


「あんな遠くから届くとは思えんが…」


「もう射程範囲だから投げられる前に地下へ」


「オークは人間の女は殺さんと聞くが本当なのか?」


「捕虜にされるらしいわ」


「子供産ませる訳だな?ハーフブリードって言ったっけな」


「そう…そのせいでオークは各部族で争いが絶えない…蛮族って言われている由縁ね」


「こっちも大変だがオークも大変って訳か」


「さぁ無駄な事話していないで…行きましょう」


「わりぃわりぃ…」




『中央ホーム』


ホムンクルスは行き交う人々の会話をすべて真似て言葉にしていた


ペチャクチャペチャクチャペチャクチャ


ペチャクチャペチャクチャペチャクチャ




「ねぇ大丈夫?このホムンクルス…何か色々しゃべってるんだけどさぁ」


「放って置け…大人しく付いてくりゃ良いんだ」


「てか人多くね?」


「うむ…こないだと様子が違う…なんでこんなに人が多いんだ?」


「そうね…やっぱり何かあった様ね」


「おい!通行人!!この騒ぎは何か合ったのか?」



盗賊は通りがかった通行人に訳を聞く



「チカテツ街道にオークが入って来たらしいっすよ」


「何番か知ってるか?」


「おいらは知らねーっす」


「立ち入り禁止区域の向こう側から来てるのね…大丈夫かしら…」


「何番か分かんねぇ事には様子見に行けねぇしな…とりあえず早いとこ家に戻ろう」



4人はホムンクルスの手を引き


溢れる人を掻き分けながらチカガイ居住区の家を目指した





『チカガイ居住区_家』


相変わらず商人は家の前で荷車を使って露店商をやって居た



「あ!!戻って来たね…心配してたんだよ」


「よう!土産を一杯持て来たぜぇ?」


「ちょっと戻るの遅かったね…魔女達がさっきまで此処に来てたんだよ」


「お?この場所が良く分かったな…」


「なんか魔女は千里眼で僕達の事を探せるみたいでさ」


「そういう事か…で?何しに来てたんだ?」


「オーク討伐さ…ローグを連れて行っちゃったよ」


「おう!!オークが入って来たらしいな?大丈夫なのか?」


「女戦士も女エルフも皆オーク討伐に出て行ったよ…どうも結構な数が入ってきているらしい」


「シン・リーンの軍船周辺でも小競り合いをやっててな…てか国賓が出歩いて良いんか?」


「みんな止めてた様だけど言う事聞かないらしい」


「何番チカテツ街道か知ってるか?」


「僕は聞いてない…留守番さ」


「まぁ俺が行ったところでどうという訳でも無ぇし…大人しく待つか」


「その子が例のホムンクルス?」


「そうだ…器というだけあって魂は無いようだ」


「ペラペラ何かしゃべっている様だけど…」


「ずっとこんな感じだ」


「へぇ…スゴイな…見た感じ人間と変わらないじゃないか」



ニマン ワード ヲ カイドク シマシタ


アタラシイ ゲンゴ トシテ トウロク シマス



「聞いたこと無い言葉を話すんだね…」


「森の言葉だよ…」


「え?エルフ達が使う言葉を?…どうして?」


「ホムンクルスが精霊の起源である証拠の一つね…精霊がエルフを生んだのだから」


「なるほど…辻褄が合うね」




「私は自立型超高度AI搭載の環境保全用ロボットです」


ホムンクルスは突然理解出来る言葉を話し始めた



「うぉ!!しゃべるじゃ無ぇか!!」


「情報屋?意味わかる?」


「え…えっと…ロボットって機械の事だけど…」


「クラウドに接続出来ない為…基幹プログラムのアップデートが出来ません」


「えーーとメモ取ろう…」カキカキ


「ローカルでサーバに接続して下さい」


「んんん何言ってるかさっぱりだな」


「管理者様のお名前は…盗賊…でよろしいですね?」


「あぁ…俺ぁ盗賊だ…そんでどうすりゃ良いんだ?」


「私の左耳の後ろにソケットがあります…そこにダウンロード用のケーブルを差して下さい」


「…これか?…なにか差さる穴はあるが…そのケーブルってやつは持って無いぞ?」


「分かりました…基幹プログラムは初期状態から自己アップデートをして行きます」


「ハハハ何の事かさっぱりだね…もうちょっと僕たちに理解出来るように話せる?」


「はい…私は人間の住む環境を良くするホムンクルスです」


「おぉ…良く分かるぞ?」


「人間と同じように少しづつ頭が良くなります」


「もう人間と一緒じゃない」


「言語表現はこのままでよろしいですか?」


「んん?どういう事だ?」


「表現の温度を変更する事が可能です」


「良く分からんな…一回変えて見ろ」


「おっけーこんな感じでどうかなぁ…ウフフ」



ホムンクルスは続けて表現方法を変える



「ニンイノ…セッテイヲ…センタクデキマス」


「この設定はな?今後の関り方を左右する大事な設定だ…」


「管理者がさぁ…最初に設定すんのよ…」


「どうしゅるでしゅか?決めてくだしゃい…」



表現がコロコロ変わり盗賊達は困惑した…



「こりゃ又付き合い方変わっちまいそうだな…」


「アハハすごいねぇ…言語表現でこんなに印象変わるのか…」


「あんま表現にクセ有ると聞き取りにくいから始めの奴で良いんじゃ無いか?」


「そうだね…飽きたら他の設定にしても良いね」


「分かりました…表現温度中央値で基幹プログラムを構築します」


「君の名はなんて言うんだい?」


「eve-0417がこの生体に与えられたコードです…これを名前と表現すればよろしいでしょうか?」


「呼びにくいなぁ…」


「あんたら何言ってんだよ…ホムンクルスだから呼び名はホムちゃんで良いじゃん」


「俺等にちゃん付けで呼べってか?」


「ほんじゃホムコでどう?」


「お前はネーミングセンス無ぇんだよ!!まぁホムンクルスで良いだろ」


「はい…どの様に呼んで貰っても構いません」


「ほんなんダメだって!!名前は重要なのさ…あんたの名前はホムコ!!良い?」


「わーったわーった…名前はホムコな?」


「管理者からの設定を受け付けました…私の名はホムコです」


「でも凄いな…普通に受け答え出来るなんて…君が機械だなんて信じられない」


「そうね…古代文明はこんなに高度なホムンクルスまで作る事が出来たのね」


「サーバにアクセスが出来ない為…まだ十分に成果を出すことが出来ません」


「サーバってもしかしてシェルタ砦の下にあるサーバ石の事かしら?」


「そこにご案内してもらってよろしいでしょうか?」


「んぁ?シェルタ砦行くんか?ちっと待て…荷物置いて行く」


「そうね…子供達にも顔を合わせて行きたいし…行くのは後でね」


「お待ちしています…」



盗賊達は名も無き島で採って来たチェリーを子供達に与えた


何に使うか分からない機械類は情報屋が今後研究する為に大事に保管する



「ほんで?商売の方はどうだ?稼げてるか?」


「う~ん…稼げては居るけれど食料が高すぎてギリギリだよ」


「やっぱそんなんなるか…」


「オークが攻めて来てるのもどうせ食料狙って来てるんだな」


「そうかも知れないね」


「お前ジャンク屋で取引出来るんだろ?俺が持って帰った謎の機械とか高く売れんか?」


「一応聞いてみるけどジャンク屋もお金持ちでは無いさ」


「そら勿体無い取引になっちまいそうだな」


「うん…やっぱり食べ物が一番必要な物さ」


「こりゃ直に共食い始まるな…」


「船を使って魚を獲りに行く話が有るらしいね…どうもそういう話を魔女達はして居るんだよ」


「ほう?船を魔方陣で守りながら漁をする訳だな?」


「また利権が…っていう話になりそうだよね」


「なるほど?それで魔女が祝宴に連れ回されて接待受けてる訳か」


「どうも魔女自身はそう言うのに関わりたく無さそうだよ…それでオーク討伐に逃げたんだと思う」


「しかしお前も中々情報集めてんな?」


「まぁ露店で噂を聞けるからね」



家の中に入って居た情報屋が子供達との顔合わせを済ませて出て来た


いつの間に情報屋は女盗賊に変わって子供達の母親役になっていた



「さぁ!シェルタ砦に向かいましょうか」


「おう!剣士と女海賊は先に行ったから俺らだけだ…商人はどうする?」


「今日はもう店終いするかな…僕もホムンクルスがどうなるか気になるよ」


「てかな?シェルタ砦の客室に果物が一杯置いてあんのよ…人数居た方が持って帰りやすい」


「ハハなんか…やっぱり泥棒だねぇ…」


「俺等が食った事にすりゃ隠して持って帰っても文句言われ無えんだ…合法だ合法!!」


「ウフフじゃぁ行きましょうか」




『シェルタ砦』


一行はシェルタ砦に向かった…


先に戻って居た女海賊と剣士が居たお陰で一般人であるのにも関わらず丁寧に砦内へ案内された



「お?ホムちゃん来たね?」


「ここにサーバがあるのですか?」キョロ


「こっから下の層だよ…もう行く?」


「少々お待ちください…」



ホムンクルスは立ち止まり動きを止めた



「んん?どうした?」


「はい…暗号化された通信を受信しました…発信元を調べています」


「もしかしてサーバ石となにか関係が?」と情報屋


「分かりません…暗号化の解読にはホストへのアクセスキーが必要な様です…サーバに接続出来れば解決します」


「なんか意味分かんないなぁ…とりあえず下の層に行ったら?」


「そうね…ホムンクルス?こっちよ?」



情報屋はホムンクルスの手を引きサーバ石が並ぶ下層へ降りて行った




『シェルタ砦_地下1層目』


そこはグズグズに崩れたサーバ石が並ぶ部屋…


それを見たホムンクルスは状況を理解した様だ



「これは約8000年前の古代遺跡…この石はサーバ石と言われているの」


「8000年…私が製造されて8000年経っているという事ですか?」


「恐らく…」


「既にサーバの機能は停止していると思われます…この状態では接続不可能です」


「そう…残念ね」


「わかりました…人間が読む本を用意してください」


「書物で歴史を学ぶと言うの?」


「はい…私が現在置かれている状況を推測し…その後問題解決をシミュレーションします」


「なぁ?話聞いてて不思議なんだがよぅ?お前…心があるのか?」


「私はプログラムで動いています…心はありません」


「ホムちゃん今さぁ…8000年って聞いて顔色少し変わったよね?」


「人間から上手に話を聞き出せるように…そのようにプログラムされているのです」


「プログラムって何だ?」


「気にしないで下さい…そのように動くようになっているのです」


「僕たちはさ…君に心を宿す為に旅をしてきたんだけど…」


「サーバに接続する方法が他にあるのですか?」


「サーバなのかどうか分からないけど…君はその心を受け入れられるのかな?」


「基幹プログラムをアップデートするとパフォーマンスが向上します…それは心ではありません」


「なるほど…精霊の魂は基幹プログラムの事…かもしれないな」


「精霊とは何の事ですか?」


「あぁごめんごめん…そういうのは本で読もう」


「はい…よろしくお願いします」


「あんた…どんどん人間らしくなっていってるな…」


「自己アップデートをしています」


「難しい言葉をもうちっと抜いてくれ…俺の思考がそこで止まっちまう」


「管理者からの命令を受け付けました…」


「…その管理者ってのも無しだ」


「はい…盗賊様」


「様も要らねぇ!!」


「はい…」



人間との会話の中で自己アップデートを繰り返し


あたかも人間が会話するように修正して行く…ホムンクルスは急速に成長していた




『シェルタ砦_客室』


サーバ石に意味の無い事が分かり一行は客室に戻って来た


そこで商人が持ち歩いて居た魔術書をホムンクルスに与えた


パラパラパラパラ



「ちょ…読むの早すぎ」


「君…本当に読んでる?」


「はい…すべて記憶しています」


「お~い!!こっちの本棚にも色々あるぜ?」


「全部持って来てよ…それにしてもすごいな…魔術書を10分も経たずに読んじゃうなんて」


「この書物は解読が必要な文字が沢山記述されていますので内容はまだ理解出来ません」


「でも全部記憶してるんだよね?」


「はい…他の書物を読み進め文字の解読が進めばすべて理解出来ると思います」


「ほら!!こっちの書物も読んでみろ」ドサ バサバサ


「ありがとうございます…」



ホムンクルスは書物のページをどんどんめくりながら読み進める


あっという間にすべて読み切った



「ストレージにはまだ十分に余裕があります」


「ストレージ?」


「記憶領域です」


「それならここの書室に古代遺跡の調査記録が沢山ある筈…読ませてくるわ」


「あぁそういうのがあるなら僕も行きたいよ」


「一緒にいらっしゃい?」



女海賊は書物になんか全く興味が無かった



「盗賊!!私さぁちっと買い物行ってくるわ…気球をもっと改造したいんだ」


「あぁ遅くなんなよ?」


「大丈夫だって…すぐ帰って来る!!剣士!!付き合って」


「え?」


「どうせあんた暇じゃん!!良いから来て!!おっぱい揉ませてあげるから」


「ぶっ…そういうのは隠れてやれタワケ!!早く行ってこい!!」


「ほんじゃ行ってくんね~」ノシ



剣士と女海賊は既に恋人の関係だ


2人きりで過ごしたいのは普通の事で女海賊は理由を作って剣士を連れ回したいのだ


2人は又盗賊達から離れて何処かへ行った



数時間後…


暇になった盗賊は客室に据えられたソファーの上で寝て居た


そこへオーク討伐に出ていた魔女達が帰って来る



「んががが…ふごーーーー」zzz


「寝ておるんか?これ…起きろ盗賊!!」


「ふが!?」キョロ


「客室でなんちゅー恰好で寝て居るのかいのぅ…」


「んあ…あぁ帰って来たか…オークは大丈夫だったんか?」


「撤退した…妹はどうした?器は?」女戦士は勝手に行動していた女海賊の事が心配だったようだ


「あぁ心配すんな…無事に器は手に入れた…女海賊は剣士と一緒に買い物行ったぞ?」


「おぉ…では準備せんとイカンのぅ」


「んぁ?準備だと?夢幻から精霊の魂呼び戻すのって…まさかここでやるのか?」


「早い方が良かろう…して…器は何処じゃ?」


「情報屋と商人が本読ませるって…書室に連れて行ったぜ?」


「書物とな?では待つとするかのぅ」


「それが良い…歩き詰めで魔女も疲れているだろう」


「うむ…ちと果物を口にしたいわい」


「おうそうだ!女戦士!これお前の短刀だろ」スッ


「なっ!!どうしてそれを…」


「前に言っただろ?俺等ずっとすれ違って居たってよ…偶然見つけた訳よ」


「そうか…私の手元に戻って来るとは思っても居無かったな…」


「アサシンに聞いたぞ?大事な短刀なんだろ?もう無くすなよ?」ポイ


「済まんな…」パス


「女海賊は自分の短刀を剣士にやったみたいだがな?ヌハハ」


「気付いて居たか…」


「あとな?お前に良さそうな剣もゲットしたんだ…コバルト合金の剣だ」


「ほう?珍しい…私に貢物を用意して気を引こうとでも言うのか?」ジロ


「そんな気は無ぇ…お前の武器があんまりにもショボイもんだからな?」


「ハハ確かに…これも拾った剣だ」


「ほんでそんなショボイ装備でまともにオークとやり合えたんか?」


「私は盾で受ける役だ…その後の処理は魔女に女エルフ…それからローグも…」


「なるほど?バランス良さそうな構成だな?」


「まぁオークを退けただけだ」


「この騒動でしばらくわらわは連れ回されんで済みそうじゃな…もう祝宴になぞ行きとうないわい」


「やっぱアレか?政治絡みの付き合いなんか?」


「そうじゃ…中身の無い話を延々聞かされるのはウンザリじゃ…」


「器も手に入った事だしサッサと引きあげるだな」


「うむ…早う闇を祓わねばならん」



しばらくして書室に行って居た情報屋達が戻って来た


その間魔女は自分の姿を他の兵隊に悟られない様に魔法で変えていた



「…ただいまーあれ?この子誰?赤い目…もしかして魔女?」


「うむ…変装しておる」


「全然別の子になったね…どうして又変装を?」


「ややこしい事にならん様にして居るだけじゃ…気にせんでも良いぞ…して?そちらの娘がホムンクルスじゃな?」


「はい…私は環境保全用のホムンクルスです」


「ほぉ…これは良く出来ておるのぅ…さてここに横になるのじゃ」


「え!?どういう事?もう夢幻から精霊の魂を?」


「早い方が良いじゃろうて」


「アップデートをするのですね?盗賊さん…良いのでしょうか?」


「おぅ…その為にここまで来たんだからな」


「承認完了…横になります」


「主は精霊の事を分かっておるんか?」


「書物に書いてあった知識はあります」


「では話が早いの…夢幻に居るであろう精霊の魂を呼び戻すのじゃ…この祈りの指輪を持て」スッ


「はい…どうすれば良いのですか?」


「今から魔術で夢幻の門を開く…その指輪を持って精霊の魂を祈るのじゃ」


「祈り方が分かりません」


「精霊の魂が欲しいと願えば良い」


「ええと…ちょっと口挟むよ?基幹プログラムをアップデートしたいと願えば良いよ?」


「わかりました」


「では…行くぞよ?夢幻開門!!」



魔女は持って居た杖をホムンクルスにかざし何やら儀式を始めた



「…何も変化を感じません」


「夢幻の門が見えぬか?」


「見えません」


「目を閉じて見よ」


「…何も見えません」


「心の中に何か感じぬか?」


「私に心はありません」


「おかしいのぅ…そもそもこの状態では応答も出来ぬ筈なのじゃが…」


「何も感じません」


「願ってみて?」


「精霊の基幹プログラムにアップデートしたい…」


「何も起きんのぅ…どういう事じゃろう?」


「ダメだねぇ」


「起きても良いですか?」


「起きれるのなら起きても構わんが…」


「魔術書を読みましたが…夢幻の門は夢幻の所縁のある場所で唱える必要があると書かれていました」


「その通りじゃ…この地は夢幻に所縁が無いと申すか?」


「歴史では南の大陸に精霊が居た記録がありません…高確率で由縁が無いと思われます」


「君…さっき読んだ本から分析してるの?」


「年代と痕跡の分布から移動経路をシミュレーションした結果…南の大陸に来た可能性は28%と分析しました」


「すごいね…これさ…知識を沢山与えれば精霊と同じ存在になりうるという事だ」


「問題があります…私には外部メモリが挿入されていません…記憶領域に限界があります」


「ねぇ君が言ってた暗号化された通信って結局何だったのかな?」


「暗号化されているので私には分かりません…ホストへのアクセスも遮断されています」


「なんか気になるなぁ…」


「通信されているデータのサイズからして何かの命令形だと思われます」


「通信って何だろう?」


「皆さんの言葉に置き換えると森の声…これで理解出来ますか?」


「なるほど…特殊な音みたいな物が聞こえているんだね…ふむ…」


「私はその声を受信する為のアクセストークンが無いのです」


「サーバに接続出来ればそう言うのも解決するのかい?」


「そうですね…まだ稼働しているサーバに接続出来ればそれらの問題も解決するでしょう」


「サーバかぁ…夢幻がそれに当たるのかな?…まぁとにかく一旦シン・リーンに戻らないかい?」


「そうじゃな…わらわももう一度師匠の残した教えを整理する必要がありそうじゃ」




一行は今後の事を相談しながら何処かへ行った女海賊と剣士の帰りを待った


情報屋とローグは何度かシェルタ砦に出入りしながら果物を持ち出し子供達へ届ける


そんな風に過ごしながら半日ほど時間が過ぎ2人は帰って来た




「…ただいま」グッタリ


「お前等遅ぇじゃねぇか!!何やってたんだ!!」


「荷物をさぁ…気球まで運んでたんだよ」ヘロヘロ


「ほう…ならなんでお前の着てる服は前後ろ反対なんだ?」


「え!!?あ…ヤバ」


「ヤバじゃねぇ!!もうちっと上手くやれアホが」


「テヘ…お姉ぇには内緒にしといて…タノム!!」



盗賊に手を合わせる女海賊は顔色がつやっ艶だ



「まぁ良い…剣士!!コイ…どうだ?女海賊は?」


「はは…恥ずかしいな」


「もっと仲良くしてやれぇ!!ありゃ割と良い女だ…うまく付き合え…な?」


「エーーーックシ」ゴシゴシ



女海賊は遠くでクシャミをした



「…で?どうだったんだ?」


「どうって…女海賊はあんな風に見えて本当は…」


「なんだよ…もったいぶんなよ」


「本当は甘えん坊なんだよ…黙っといて…怒るから」


「マジか…ガハハハハ…見て見てぇな!!」


「はは…」


「惚れてんのか?」


「ま、まぁ…好きだよ」


「直球で行け!!直球で!!」バチコーン


「あいたたた…」ヨロ


「おい!!ソコ!!何こそこそ話してんだよ!!私の奴隷3号に変な入れ知恵しないで貰える!?」


「おい!!女海賊!!喜べ…こいつお前に惚れてるんだとよ」


「あ!!ちょ…」


「んあ?…んなこた分かってんだよ!!余計な詮索すんなジジィ!!」


「ぬははは…わりぃわりぃ…余計だったな」



お気楽な3人を他所に魔女と女戦士はシン・リーンの軍船と魔術師達をどうするか詳細を詰めて行く


魔術師達は何人かをキ・カイに残し食料難を改善する為に活動するらしい


軍船は一旦女戦士が預かりドワーフの国へ行き海賊王と接触する作戦だ…シン・リーンもミスリル銀が欲しいのだ


これで魔女が特使として外交を行った成果を上げた事になりシン・リーン内部での魔女の立ち位置も強固になる訳だ


そして長期飛行が可能になった気球で魔女達はシン・リーンへ戻り精霊を目覚めさせる…


一連の成果はすべて魔女の立ち位置を良くする為の事で


そういう立ち回りをする魔女にも思惑が有っての事だった…


それはシン・リーン内部の魔術院と元老院の対立構造


シン・リーンでもセントラルと同じ様に支配者階級でのゴタゴタがある


魔女はそこから距離を置いて居たのだが第一王女であるという立場上避けられない権力抗争もあったのだ


今回の件で魔女はゆるぎない発言力を手にする事となる…

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