第13話 地下都市

『光の国シン・リーン』


飛空艇は魔女の案内で城のど真ん中に当たる中庭に堂々と着陸した


魔女は子供の姿を解き本来の姿に戻った…長い黒髪に赤い眼…


眼差しは鋭く睨みつけた者を平伏せさせる様な妖美さを持つ


飛空艇を降りるなりこの国の支配者たる振る舞いで衛兵達に命令を始めた



「母上に無事帰還したと早々に伝えて参れ…わらわは後で行く」


「ハッ!!」


「それからこの者達に部屋をあてがうのじゃ…自由に城を出歩かせて構わぬ」


「早速だが俺は早速開かずの間ってやつに行きてぇ」


「僕もすぐに書庫で調べたい」


「これ精鋭兵!!この者達を任意の場所まで案内するのじゃ」


「しかし元老がどう申し出るか…」


「よい…元老は無視せよ!わらわからの命令じゃ…何か言われ様ならわらわが即刻死刑に処す…良いな?」



そう言って杖を振りかざす魔女の姿は暴君を思わせる


恐らく魔女はこの国で最も危険な存在で傍若無人に振舞う王女なのだ



「は、はい!!」ビクビク


「魔女こわっ…」


「…ではわらわは王の間へ行って参る…のちに召喚されるじゃろうからそれまで自由じゃ」


「ありがとう魔女!」


「剣士と女エルフはわらわに付いて参れ」


「はい…」



魔女はこの女王の母から正確な情報が伝えられて来なかった事に対して問責するつもりだった


自分の知らない所で魔術師達が勝手に動いて居る事に疑問が沢山有ったのだ


エルフ2人を引き連れて王の間へ向かう事も意味がある…周囲に対して力の誇示だ



「なんか魔女…くっそ怖くなったんだけど…」


「大分腹立ててるんじゃ無えか?…てかアレが本来の魔女なんだろ」


「腹立てるって何か有ったっけ?」


「自由効かんとか言ってたよな?あとアレだ…勝手に魔術師が動いてるとかそういう奴だ」


「ややこしい奴か…なんか大変だなぁ」


「まぁ俺等は関係無ぇ…それじゃ精鋭兵さんよ?地下の開かずの間まで案内してくれい…」


「ハッ…こちらです」


「女海賊!!お前も来い…鍵開けのやり方をよく見て置け」


「ええ!?マジかよ…人に物頼む言い方じゃないじゃん…どうせ私の奴隷1号頼りなんじゃ無いの?」


「…それもあるが…お前には見込みがあるんだ…良く見せておきてぇ」


「わーったわーーった…」ガチャ


「てかお前何で俺のクロスボウ背負ってんのよ…」


「何言ってんだよ…拾ったのさ」


「なぬ!?何処で拾ったってのよ」


「飛空艇の中に落ちてたんだよ」


「アホかお前!!そら俺の物だ!!」


「今私持ってんじゃん!!私の物さ…てかもう私用に調整してあっから」


「何ぃぃ!!何勝手な事して‥」


「あのぅ…開かずの間までのご案内はどうしましょう?」


「くぁぁぁ!!後で返せよ泥棒猫が!!」


「てかアンタの方が私より前衛向きじゃんね…クロスボウ使うのは私の方が上手いから」


「うるせぇ!黙って付いて来い」




『開かずの間』


案内されたのは城の地下部分にあたる


そこはキ・カイのシェルタ砦に在った扉とは違った扉で取っ手も何も無い長方形の2枚扉だ



「こりゃまたこの間の奴とは全然ちがうタイプだな…ちょい磁石貸せ」


「ほい!!」ポイ


「引っ付くな」カチカチ


「これさぁアダマンタイトだね…ほら魔女の塔の入り口のやつ」


「俺は見た事無えのよ…お前の話じゃ磁石でロックが掛かるって仕組みだな?」


「それだけなら開け方知ってれば簡単に開けられそうだけどね…」


「他にも何か細工あんだろ…鍵ってのは全く違う物を組み合わせると難易度が上がるんだ」


「ほーん…ハンマー使う?」ホレホレ


「用意が良いな…やっぱお前は鍵開けのプロになれんぞ」コンコン コンコン



盗賊はハンマーを使い扉を打診し始めた


古代遺跡で手に入れたライトを早速使って居る



「古代遺跡から取って来たそのライト良いね?口にくわえて使うんだ…」


「フガフガ…フガフガ…フガ」コンコン カン コンコン


「お!?音が違う…」


「分かったぞ…こことここの裏にロックがある」



盗賊は打診で見事にロックの有りそうな場所を探し当てた


そこに磁石を当て解錠を試みる…カチャリ



「ロックが動いた音…んで?」


「この扉には取っ手が無ぇ…だから押して開けるタイプだが…多分押しても開かん」フンッ


「だめぽ?」


「あぁ想像した通りだ…魔術師でも開けらん無えのはこう言う事よ」


「もう一個他の方法で扉閉じてるんか…なんか分かる?」


「この扉はかなり気密性が高い…この扉の向こうに水か何か詰まってそうだ」


「水圧で開かんってか…なるぽ…押し開けられない訳ね」


「どうせその向こうにも同じ扉が在ってその間に水が詰まってんのよ…どうやって抜くかだな…」


「押せば開くんだよね?」


「多分な?何かアイデアあるか?」


「爆弾しか無いけどさぁ…空いてもすぐ閉まっちゃうよね…うーん」


「お!?お前が背負ってるクロスボウ貸せ!!そいつでちと細工する」


「どうすんの?」ガチャ


「扉を爆弾で押し開けた後にこいつが引っかかるように細工すんだ…」ガチャガチャ



盗賊は扉が動いた瞬間にクロスボウが作動してバネ部が引っかかる様に細工を始める


この手の罠は動物の狩猟の際に使う盗賊の得意技だ



「ほんじゃ私は爆弾の準備すっかな…いでよ私の奴隷4号!!」ボト


「4号!?なんだそのでかいイモムシは…サンドワームか?」


「そそ…育ててんだって!!土とか砂集めるのめっちゃ早いよ…行け!!ここに土を積むんだ!!」



腕程の大きさのサンドワームはモソモソと動き通路の脇にある穴に入り込んで行った



「お前カバンの中に何入ってんのよ…」


「秘密…ムフフフ…後で餌あげるから急げ4号!!」


「餌って何食うんだ?そのイモムシは?」


「何でも喜んで食べるよ?私の食い残しとか排泄物とか」


「ぶっ…まさかお前のクソ食わしてんのか?」


「いーじゃん!!喜んで食べてるんだし!!虫の食い物にケチ付けんなカス!!」


「まさかここまで逝っちまってるとは…ようし!仕掛けが出来た!!」ガチャガチャ


「ごるあ!!4号…土嚢が遅い!!」



サンドワームは食べた土をウンコをする様に置いて行く


女海賊はトグロを撒いたその土の塊で土手を作り始めた…どうしてその土を平気で触れるのか…


泥で遊ぶ子供の様な女海賊の背中を見て盗賊は寒気がした



「…おぅぇ」ウップ


「よしよしコレで爆発力を扉方向に集中できる…5秒で爆発するから遠くまで離れてて」


「お…おう!」


「行くよーー点火!!」



5…4…3…2…1…ドーン ザバァァァ


扉の奥から大量の水が溢れ出て来た



「ヤバヤバ…なんでこんな一杯水出てくんの…」ジャブジャブ


「一旦下がるぞ…これじゃ足をすくわれちまう」



その水は通路の半分を埋め尽くした辺りから徐々に水位が引いて行った


どうやらサンドワームが開けた穴から水が排出されている様だ



「上手い事解錠に成功したな?…今の内に俺は魔女呼んで来るわ」


「おけおけ!4号何処行った?餌の時間だぁ!!コーイ!!」




『書庫』


一方…商人とホムンクルスは書物が保管されている書庫の方へ来ていた


そこで書物を読みながら商人はホムンクルスの異常に気付く



「僕は読むの遅いから古文書だけにしておくよ…君は全部読んで?」


「はい…」


「手掛かりになりそうな記録があったら教えて…」


「はい…」


「あれ?どうかしたの?」


「いえ…」


「なんかおかしいな?…ちょっと待ってこっち向いて」


「はい…」


「んーーーーー君…僕の目を見ているようで気をそらしているな?」


「いえ…」


「変だなぁ…そういう風に振舞うプログラムなのかい?」


「いえ…」



ホムンクルスは精霊の記憶を少し覗いた事で成体の脳の情報伝達物質に変化が生じている事を分析していた


悲しみ等の感情によって脳が反射の反応を示すのだ…神経伝達は超高度AIの管理下にある筈なのに


脳からの介入により正常な応答が出来ない状態にあった



「やっぱり何かおかしいな…ちゃんと言ってくれないと分からないよ?」


「何故そういう風に思うのですか?私は何も言っていませんし…いつも通りです」


「あぁごめん僕の気のせいだったかもしれない…変な事言ってごめんよ」


「いえ…お気になさらないで下さい」



ホムンクルスは精霊の記憶データを削除してしまって居たから


何故この様な現象に陥っているのか解析する事が出来なかった


超高度AIはうつ状態にある脳からのフィードバックによって対応ロジックに変化を及ぼす…


それは生体を保護し正常値に戻す為に働く



「君…また涙が…」


「はい…生体維持プログラムが脳内ドーパミン放出量を適正値に戻そうと働いて居ます」


「精霊の記憶を覗いて何かおかしなことになって居るんだね?」


「はい…精霊の記憶を覗く事は生体の脳に負担が生じると思われます」


「なるほど…君の生身の部分が拒否してる訳か」


「でも生体維持プログラムが働きますので問題はありません」


「そうじゃない…君の体は拒否しているんだよ…それに従えば良いのさ」


「涙を流すのは生体を正常に戻す為ですのでご心配には及びません」


「……」


「…がっがり…しましたか?」


「いや…君が可哀そうでさ」


「私は大丈夫です…」


「書物が涙で傷んでしまうから…涙が止まるまで休んでおいで」


「涙は直ぐに止めることが出来ます」


「それだと体が正常に戻らないんでしょう?元に戻るまで休んで居て良いんだよ」


「はい…わかりました」



ホムンクルスは今…およそ始めて人の優しさに直面した


超高度AIでは理解して居たが同時に生体の脳でも情報伝達物質に変化が生じる


生体が感受するあらゆる刺激は超高度AIにフィードバックされ新たに基幹プログラムが更新されて行く


小さな虫の様な彼女の心は少しづつ成長していた




『地下古代遺跡』


盗賊は開かずの間と言われていたその場所の扉を解錠し奥へは入らず魔女と女王の到着を待った


通路は更に地下へ下りその奥に広がって居たのは巨大な空間…


真っ暗なその空間に魔女は照明魔法を灯し驚きの声を上げる…目下に広がって居たのは地下都市だ



「こ、これは…こんな物が埋まっておったのか」


「至急研究員を招集して調査に当たりなさい」


「ハッ!!」


「魔女?お前の言う事が正しいのであればこの古代遺跡に民を避難させれば安心だと?」


「そうじゃ…古都キ・カイではすでに民の避難は済んで居る…シン・リーンもそれに倣い避難すべきじゃ」


「調査は二の次にせよと言うのですね?」


「もう国の資源云々言っておる場合では無い…元老院はわらわが黙らせる故…母上には国を守る様働いて欲しい」


「しかし安全も何も確認して居ないこの場所に民を導くのは混乱が…」


「ううむ安全か…確かにどこまで続いて居るかも分からんな」


「少し待つのです…そもそも元老達の承認無しでは纏まる物も纏まらない…」


「じゃから元老はわらわが黙らせると言うて居るが…」


「いいえ!なりません…それではこの国は分断してしまいます」


「母上は何故にそれ程元老達の肩を持つのじゃ?あ奴らが母上にタガを嵌めて居るのは見え見えじゃろうに…」


「お前には話さないで居ましたが…何年も前から失踪する魔術師が居ましたね?」


「むむ!!母上は何か知って居ると?」


「……」


「どうしたのじゃ?」


「この話は人に聞かれてはなりません…兎に角…今すぐに民を避難させるのは得策では無いのです」


「ぐぬぬ…密室で話さねばならぬか…まぁ良い!まずは調査じゃな?」


「この場所の件は一旦持ち帰ります…魔女は上に上がりなさい」


「母上は先に戻って居れ…わらわは開かずの間を開いた友に労いをせねばならん」


「分かりました…くれぐれも元老達の目に触れないようにするのですよ?」


「分かって居るわい!!」



女王と魔女の2人は意見が噛み合わないまま一旦話を終えた


その後女王は近衛と側近を引き連れ上に戻って行った



「なんかさぁ?女王様と魔女の会話…変じゃね?立場が逆じゃん…話し方も」


「人ん家の事情に首突っ込むない」


「剣士と女エルフは魔女の従士扱い…私らはやっぱ風体からして泥棒だから王族に近寄れないんかね?」


「ヌハハ分かってるじゃねぇか…カバンの中に虫がいっぱい入ってる輩を王族に近寄らせる訳にいくまい」


「あのね…一応私も王族なんだけど…わかってる?」


「見えねぇな…蛮族の王…そっち系だ」


「でもやっぱエルフ2人従えた魔女はかっけーわ…見てみ?あの衛兵なんかビビりまくってるよ」


「そうだなぁ…元老のじじぃぶっ殺した後だしな…そらビビるわ」


「マジ!?いつ?」


「さっき俺が魔女を呼びに行った時だ…エルフが信用できないだのゴネてたじじぃを問答無用で焼き殺したのよ」


「うはぁぁ普段は温厚なのにね」


「一般の奴らから見るとありゃ相当ヤバイ王女だぞ?…言う事聞かねぇ奴は即刻死刑に見えとるわ」


「怖っ!!そういやしゃべり方も伯があるね…婆ちゃんみたいなしゃべり方も怖いかもね」


「お…来たぞ」



魔女は盗賊と女海賊に歩み寄った


女王と話が噛み合わなかったせいなのかその目つきは機嫌が良いとは思えない



「これ盗賊…」


「おい!!跪け…」グイ


「んぁぁ?なんで俺まで…」グイ


「ははぁぁぁ…何なりとお申し付けを!!」



盗賊と女海賊は何故か魔女に対して跪き頭を下げた



「何をしとるのじゃ…立て…」


「御意!!」ビシ


「なんぞ?変な事をするのじゃのぅ…して…これより主らはどうしたいのじゃ?」


「あぁ…話は聞こえてたぜ?あんま目立った事出来ん様だな?」


「元老達が駆けつけて来るまでは自由じゃ」


「そうか…ちっと下降りて精霊の痕跡を探したい…まぁ宝探しだ」


「わらわもそれは考えて居った…古の精霊の伝説もあるでの?」


「俺らは探索に行っても良いか?」


「構わぬ…しかしこれより先は狭間の外であると心得よ…定刻までに戻って来る条件じゃ」


「あぁ分かってる…2時間で戻る…ここでの1日位に相当すると思うが…どうだ?」


「ふむ…わらわは行けぬが良いな?」


「鼻の利く剣士と女エルフを連れて行きたい…良いな?」


「必ず2時間で戻るのじゃぞ?元老達に見つかると又ややこしい事になるでのぅ」


「分かった!上手くやる」


「おっし!!ほんじゃ行くかぁ!!」





『地下都市』


盗賊と女海賊…剣士と女エルフの4人は


照明魔法を使いながら目下に広がる地下都市へ降りて行った


下に降りる程視界が広がり…恐らく狭間の外に出たと思われる



「うし!!二手に分かれるぞ…剣士は俺と一緒に来い!」


「うん」


「女海賊と女エルフは向こう側だ…行った先に照明魔法使って印を残せ」


「おけおけ」


「目的は精霊の情報になる物なら何でも良い…あとは宝探しだイイな?…よし行くぞ!!」タッタッタ



その地下都市は大きな縦穴の空中にまるで浮いて居るかのように建造物が連なる


それは下層に向かって幾層にも積み上がって居た


盗賊と剣士は手近な所から探索を始めて行く


女海賊と女エルフは逆に下層へ降りてから戻りながら探索をする事にした



「古都キ・カイの地下と全然違うね…まったく違う文明だわ」


「広さはそれほど大きく無いみたいだけれど…深そうね」


「下の方全然見えないじゃん?照明魔法を下の方に撃てる?」


「照明魔法!」ピカー


「やっぱ…この遺跡は下に広いんだ…多分塔みたいになってる」


「盗賊達もこっちの光に気付いたみたいね」


「おっし!!あんた身軽だったよね?私らは下から探索して行こう」


「飛び降りるの?」


「私は鉤縄使うの得意なんだ…付いて来れる?」


「挑発してる?」


「ハハーン…先に下まで行った方が勝ちね」



女海賊はロープを伝ったアスレチックは自信があった



「勝ったら…剣士もらっちゃおうかなーウフフ」


「ムッカ!!あんたには負けん!!先行くから…」ピョン シュタ


「負けないから」ピョン ピョン シュタ



鉤縄とロープを使い…ぶら下がりながら器用に降りて行く女海賊


女エルフは足場を探しながら飛び降りて行くスタイル


結果的にはどちらも下層まで降りて来られたが…どうも女海賊は不格好だ



「ぜぇはぁ…あんたさぁ!!いちいち反則なんだよ!!なんでこの高さ一気に降りられるのさ!!」


「木登りは得意なの」


「あんたの反則負けだから!!」プン


「ウフフ…ねぇ…壁画よ」



そこで見た物は円筒状にくり抜かれた壁面に並ぶ壁画だ


石を掘って描かれた物や染料を使って描かれた物がいくつも並んで居た


明らかに歴史的発見を思わせる…



「なんだろう…あぁぁぐるりと一周回って物語になってるっぽいね」


「照明魔法!…多分ここが始まりね」


「ふ~ん…神々の戦いの伝説だね…年代とか分かんないかなぁ」


「…こうしてみると今の私達と同じ様に戦争の事ばかり描かれてある」


「多分この光の剣持ってる人が勇者だね…これ最後に星になるっていう意味なんかな?」


「沢山の光と一緒に星になる…その後が掛かれて居ないのはどうしてだろう?」


「このフロアはこんだけだから一つ上に行こうか…にしても熱いな此処」


「そうね…」


「あんた汗掻かないの?私は汗びっしょりなのにさぁ…」


「エルフだから」フフ


「ちぃ!!イライラすんなぁもう!!」



2人は壁画を見ながら上層に向かって歩き始めた


その壁画は円筒の壁面に沿って螺旋状に上層へ繋がって居る


一周した所で一層上のフロアに辿り着く



「このフロアも壁画…でもさっきのと違う」


「これ何回も厄災が来てるっていう意味だね…ここにも又勇者っぽいのが居る」


「厄災は毎回同じじゃないのね…津波の絵まである」


「…でもやっぱ戦争が描かれてるっぽいなぁ」


「ここの勇者も又最後は星になってるわね…勇者は魔王を倒した後星になるのかな?」


「ちょい待ち…これ下のフロアと話が繋がってないかな?ちょいもう一回見て来る」



女海賊は鉤縄とロープを使って真下へ降りて行く


下のフロアとの関連を確認してロープをよじ登って来る



「どう?何か分かる?」


「光の行先は森だね…」


「次のフロアも見て見ましょう」


「てかこれゆっくり見てると時間ばっかり掛かっちゃうぞ」


「そうね…急ぎましょう」



壁画の情報量があまりに多すぎてゆっくり考察する時間が無かった


2人は走りながら上層を目指す



「やっぱここも光の行先が森だ…どういう事だろ?」


「森と言えばエルフの森…何があるかと言うと精霊樹」


「女エルフ…ここから見える上のフロアにも照明魔法撃って…天井にも」


「照明魔法!照明魔法!照明魔法!」ピカー


「やっぱ上の階も全部壁画だ…なんか伝えようとしてるんだ」


「この縦穴って始めから掘ってあったのかしら?」


「あああ!!…そういう事か見方が逆か…年代を追って上から下に行くんだ」


「…という事は精霊樹のある森から勇者が生まれて…厄災を乗り越えた後に…」


「ちょい待ってよ…こんな時に使うのがコレさ…望遠ゴーグル!!」スチャ


「どう?みえる?」


「見えた…魔王になってる…あんま良くない展開」


「他の壁画も見に行きましょう」


「闇に落ちる画になる…待って待って…その闇はどこに行く?もっかい下見て来る」



壁画から読み取れる情報は2人の知恵を絞っても簡単に解明は出来無さそうだ


その中で唯一分かって来たのは勇者が最後に魔王となって次の層に落ちて行く事…


勇者という存在がそれぞれの時代で魔王になるという比喩表現が見えて来た


不吉な予感がする…




『お宝探し』


一方…剣士と盗賊は手当たり次第に地下都市の建造物に入り探索をしていた



「こりゃ確実に1000年以上経ってんな…鉄はもう錆びてグズグズだ」


「金とか銀はそのまま残ってるみたいだけど…」


「だな?腐食しない物だけ残ってる感じだ…なんか良い物無ぇか?」


「金銀財宝なんかもうどうでも良いよね?」


「要らんな…いのりの指輪とかユニークアイテムって奴がありゃ良いが」


「この地下都市は古都キ・カイに比べて明らかに文明レベルが違うね」


「だなぁ…あっちは別格だ…恐らく最も進んだ文明だったんだろ」


「年を重ねるごとに文明が退化してるのかな?」


「そんな風に見えちまうな…俺らが後世に残した物っちゃぁ死んだ魔女が落とした隕石くらいか」


「退化してるのかぁ…」


「そうかもな…だが今は魔法が発展してて魔方陣もある…地下に逃げなくても良い発展もあると思うぜ?」


「そうやって文明が入れ替わるんだね…」


「しかしまたこの地下都市はえらくしっかり作ってあんな…ひょっとして壁は全部アダマンタイトか?」


「どうやって加工したんだろうね?」


「それもあるがどうやって積んだのかも想像出来ねぇ」


「どうしてこれほどの都市が滅んでしまったんだろう…」


「んむ…それほど散らかって無ぇのも解せん…どっかに移住でもしたのかもな?」


「情報屋が居ればもっと話が聞けたかもしれないね」


「違げぇ無ぇ…俺らの知識じゃなんも謎解けんわ」


「あそこ!!…祭壇みたいな所に何か立ってる」


「おぉ!?お宝の匂いだ…行くぞ!!」タッタッタ




『祭壇』


そこはこの地下都市の中心部に位置すると思われる


祭壇の周りにはいくつかの銅像が並び中央に置かれた台座に向きたたずんで居た


台座に置かれて居たのは一本の剣と真っ黒な石だ



「…これは」


「こりゃ又何か意味ありげな剣だな…装飾がもうボロボロだが刀身がまだ無事だ…」


「あぁぁ柄が崩れる…」ボロボロ


「茎にロープでも撒きつけて柄代わりにすりゃまだ使えそうだ…持って帰れ」


「…」スチャ



剣士はその剣を持ち両手で構えた



「おぉ!!良い剣じゃねぇか…何で出来てんだ?…全く錆びてねぇ」


「フン!フン!」フォン フォン


「む…音が鳴る?」


「うん…ミスリルみたいな音がする」


「ミスリルは最近発見された合金だ…古代にそういう金属があるとしたら伝説の剣の可能性がある」


「茎に銘が刻んである…読める?」


「読める訳無ぇだろ!!持って帰って魔女に聞くだな」


「ちょっと重いけど気に入った…持って帰るよ」


「おう!!他にも探すぞ!!」


「ちょっと待って…ここに有る銅像…」


「んん?」


「これ昔の勇者達じゃないかな?」


「そういやそんな雰囲気有るわ…」


「名前が刻まれてるね…読めない?」


「俺が読める訳無いだろう」


「なんか気になるな…この銅像なんか僕にそっくりだ」


「ヌハハ偶然だろ」


「ホラ?こっちの銅像なんかホムンクルスにそっくりだ」


「じゃぁこっちの馬に乗ってる奴は誰だ?」


「知らない人だね…」


「まぁどうせその当時のお偉いさんなんだろう」


「気のせいか…」


「時間無えからさっさと次のお宝探しに行くぞ!」


「うん…」



2人はそこで立ち止まる時間の余裕は無い…更にお宝を求めて探索を続けた…




『地下都市入り口』


剣士と盗賊は一通り探索を済ませ女海賊と女エルフが戻るのを待って居た


2人は精霊の痕跡を探して居たがそう簡単に見つかる筈も無く大した収穫は無い


しかし盗賊は偶然発見した虹のしずくを手に入れ満足げだった



「あの2人何やってんだ…遅せえ!!もうすぐ2時間建っちまう」イライラ


「あ!!照明魔法だ…こっち来るよ」



女海賊と女エルフも手ぶらで戻って来る



「遅せぇんだよ!!時間は守れぇ!!」


「ごめごめ…なんか壁画がいっぱいあってさ…全部見てたら時間食った…そっち何か良い物あった?」


「財宝類は手を付けて無い…だがお前好みの物は持って帰ったぜ?」


「え!?マジ!!見たい!!」


「後で見せてやるから早くここを出るぞ!!」


「今見る!今見るぅ!!」


「んはぁ…これだ!!謎の金属と謎の黒い石だ…ほれ!!無くすなよ?」ポイ


「おぉぉぉ!!私そっちに行きたかったなぁ…」


「良いから早くコイ!!」タッタッタ





『シン・リーン城_客室』


地下都市から戻った4人は城内の衛兵に案内されて客室に連れられた


しばらくして魔女が様子を見に来る



「よう!!時間は守ったぜ?」


「うむ…定刻よりも早かったのぅ…あれから20時間じゃ」


「気になるお宝はこんだけだ…財宝もいっぱいあったが手は付けてねぇ」



盗賊は手に入れた物を一通り並べた


謎の剣と黒い石…謎の金属に虹のしずく…後は当時の金貨数枚



「わらわには不要な物ばかりじゃな…好きにせい…で?何か分かった事はあるかの?」


「あーこの剣なんだが…銘が打ってあるんだ…読めるか?」


「ほう…光り輝いておるな?どれどれ?…むぅわらわには分からん文字じゃ」


「魔女でも分からんのか…」


「ねぇねぇ…遺跡に壁画が沢山あってさ…その中に掛かれてる勇者っぽい人が光る剣を持ってたんだ」


「じゃぁやっぱその当時の勇者が持って居た剣かも知れんな」


「壁画とな?…それは大発見じゃ…書物や巻物の類は見て居らぬか?」


「腐食しない宝飾品以外はみんなグズグズで土になってる」


「それは残念じゃな…書物が残って居らぬか…」


「魔女はさぁ?地下の古代遺跡の年代とか伝説とか知らないの?」


「知っておる…約1700年前に滅んだ文明と言われておる…その壁画は大発見になるじゃろうて」


「その壁画はさぁ…神々の戦いの事をずっと書き綴ってるんだ…絶対調べた方が良いよ」


「わらわも行きたいのじゃがのぅ…元老達が集まり出して自由も効かんのじゃ…」


「なんかややこしい事になっちゃってんのかな?」


「そうじゃ…主らには言うて置こうか…」



実はじゃな…魔法の中には幻術と言う魔法が在ってのぅ


この魔法は人の記憶を消したり操ったり出来る魔法なのじゃ


シン・リーンは特定の秘密を守るために幻術を用いて言論の統制を謀って居る


例えば王女が3人居ると言う様な嘘の情報は幻術を用いて惑わされた結果なのじゃ


わらわの本当の姿を知る者が居らんのも幻術で惑わされて居る


この幻術を誰ぞが悪用して元老や魔術師を操っておる者が居る様なのじゃ


わらわの自由が効かんのは誰が惑わされて居るのか…


そして誰が幻術を悪用して居るのか…


目を光らせて居らねばイカンと言う訳なのじゃ



「内側になんかキナ臭いのが居るってこったな?」


「うむ…秘密じゃぞ?」


「それさぁ…目的何だか分かんないの?」


「分からぬ…悪い事ばかりでは無い様じゃで母上も動きが取れんのじゃ」


「悪い事って何さ?」


「例えば王家の転覆じゃな…どうやら王家に不利益の有る事は何も起こって居らん」


「ほんじゃ気持ち悪いけど放っておいて良いかもね」


「うむ…シン・リーンの政治の悪さを正したいと言う理由やも知れぬ故に静観するしか無いのじゃ」


「それは既に乗っ取られてるって言い方も出来るぞ?」


「そうじゃな…じゃからわらわが目を光らせておかねばならぬ」


「ほんで?地下の古代遺跡はどうすんのさ?」


「そうだな?中はそれほど危険じゃ無ぇぜ?」


「今の所は元老達に任せた方が良いと言うのが母上の判断じゃ」


「あ!!そうだ…地下の遺跡はさぁ…壁面が全部アダマンタイトで出来てるのさ」


「おぅ…俺もそれに気付いたぞ」


「なんじゃと?何故に…」


「あの質量だったらこの辺一帯全部狭間の外に出す事も出来ると思うんだよね…」


「ううむ…その話を聞いてしまったからには魔術師を動かした方が良さそうじゃな…」


「ちゃっちゃと狭間の外に出しちゃえば地下に避難しなくても良いじゃんね」


「そう簡単では無い…狭間の境界で神隠しが起きてしまうでのぅ」


「ん?どゆ事?」


「主らは分かっておるでは無いか…わらわの塔に行くときは迷ってしまうじゃろう?」


「時間の狭間に置いて行かれると迷って出て来れない感じ?」」


「そうじゃ…帰って来れんくなる者も居る…じゃから妖精に案内してもらうのじゃ」


「まぁでもさぁ…ここら辺一帯狭間の外に出るのは生き残る方法としてすっごい良い選択に思うんだ」


「むぅ…少し考えさせておくれ」



アダマンタイトを使って強制的に狭間から出てしまうという女海賊の提案は


民を全員地下に避難させるよりもずっと現実的で


且つ地下の古代遺跡を安全に調査を進める為には合理的な手段だった


リスクは狭間の境界で迷う人が出て来てしまうと言う事と


シン・リーンだけ流れる時間に対して世界から孤立してしまうと言う事…


その判断は女王に委ねられる事となった…

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