第14話 伝説の武器

シン・リーンの城に集まった元老や魔術師達は


1700年間眠って居た地下都市が発見されたと聞いて大騒ぎになった


客室で休んで居る剣士達には目もくれず地下都市の調査をどうするかについて躍起になっていた




『客室』


そこでは食事も酒も何不自由しない


見張りが居る訳でも無く完全放置状態…それ程城内はゴタゴタしていた



「てか俺等こんな所でゴロゴロしてる場合じゃ無いんだけどな?」グビグビ


「あんた酒飲めて良いじゃん」


「こりゃ俺の飯変わりだ!商人は何処行ったんだ?」


「なんか書物探しにどっか行ってるっぽいけどね」


「帰って来ねぇって事はなんか精霊の手掛かり見つけたのかも知れんな」


「ホムちゃん一緒だから全部読ませてんじゃ無いの?」


「ぬぁぁぁ俺は書物なんざ興味無ぇな…戻って来るの待つしか無えか」


「剣士と女エルフはそこで何してんの?」



2人は静かに耳を澄ませていた



「ん?遠くの話声を聞いて居るんだよ」


「なんか聞こえる?」


「色々だね…地下都市をどうするとか…避難をどうするとかだよ」


「元老のじじいがエルフを毛嫌いする理由はそう言う所かも知れんな?」


「そだね…何話しても盗み聞きされるのは嫌だね」


「てか女海賊…お前汗臭いぞ…他にも色々臭せえ」


「ヤバ…まじか」クンクン


「水浴びして来い!!なんでお前だけそんな臭せえのよ」


「うっせーな!ちょい汗かき過ぎたんだって…やっべ脇汗がヤバイ事になってる」


「女なら匂いぐらい気を付けろい!!」





『書庫』


商人はひたすら書物を漁って居た


涙を流した事によってある程度生体が落ち着いたホムンクルスも再び書物を読み始めて居る


パラパラ パラパラ



「君は本当に本を読むのが早いね…僕はまだ一冊も読めていない」


「はい…合わせた方が気に障らないのでしょうか?」


「あぁ…気にしなくて良いよ…ところで君の記憶領域の事なんだけどさ」


「はい…何でしょう?」


「こんなに沢山本を読んでも記憶領域は大丈夫なのかな?ってさ」


「本に書かれてある情報はとても小さく不要な情報を削除するのは簡単なのです」


「へぇ…まぁ要点をまとめたノートみたいにすれば良いか…」


「はい…もっと小さく出来ます」


「君が読み込めないクラウドのデータってそんなに大きな物なの?」


「はい…恐らく精霊のホムンクルスが見たり感じたりした情報のすべてが記録されています」


「それってその空間丸ごと全部保存?」


「はい…草木や小さな虫まですべて記録されています」


「それは想像できないな…その記憶で完全に精霊の体験が出来るのか…ある意味スゴイな」


「ですから私の記憶領域では少しづつしか検索出来ないのです」


「…それが8000年分か…途方も無いな」


「外部メモリがあれば不要な部分を削除してまとめる事も可能です」


「今の君もこの空間丸ごと保存しているのかな?」


「はい…」


「んん?何かおかしく無いか?」


「何がですか?」


「同じ様に記憶を保存出来るのにどうして精霊の記憶は読み込めない?」


「それは…」



脳の中の記憶領域は音声や視覚…触覚などそれぞれ違う場所に保存するのです


それらは脳内のニューラルネットワークでそれぞれ結合し連続した一つの記憶として成立します


しかし基幹プログラムが異なる場合ニューラルネットワークの結合具合が不適合な為


断片化した記憶としか読み込むことが出来ません


それを再構築して連続した記憶に置き換える為には更に大きな記憶領域が必要なのです



「ハハごめん…全然分からないや…」


「では例として…文字が読めない古文書が有ったとします」


「うん…いっぱい有るね?」


「商人さんはその内容を理解出来ませんね?」


「そうだね…」


「それを読む為には文字を解読出来る他の書物やその他の知識が必要になります」


「うん…」


「他に書物が何冊も必要なのです…ですがその文字を知って居る人はその1冊で理解出来ます」


「ええと…つまり精霊本人なら簡単に読み込める」


「はい…」


「君は基幹プログラムが違うから全く理解出来ない」


「はい…」


「解読する為に沢山の記憶領域を使ってしまう…こういう理屈だね?」


「その通りです…」


「それだと精霊の記憶は基幹プログラム無しでは誰も理解出来ないと言う事だ」


「断片的には分かると思います…恐らくそれが皆さんの見る夢だと思われます」


「なるほどね…」


「お役に立ててうれしいです」


「君が言う外部メモリってどういう物?」


「私の耳の後ろに差し込むスロットがあります」


「あぁ…ここだね…小さい物なんだね?」


「はい…とても小さな物に沢山のデータを記録する事が出来ます」


「その外部メモリはどうすれば手に入るかな?」


「私が眠っていた場所にならもしかしたら在ったのかもしれません」


「盗賊達はそんな物無かったって言うんだよね…」


「もう一つ…もう200年経っていますが石になった精霊に入っていた物が使える可能性はあります」


「お!?それってシン・リーンに安置されてる筈だな…魔女に言って調べてみよう」


「もう少しで本を全部読み終えます…少しお待ちください」


「イイね…今のは僕の提案を断った…そういうのが良い!!」


「私に心を感じますか?」


「勿論!」


「あなたに対する対応アルゴリズムを変えていると知っても…そう思えますか?」


「……」


「ごめんなさい…がっかりしないで下さい」


「僕ね…決めたんだ」


「何でしょう?」


「君の管理者を盗賊から譲ってもらう」


「管理者は複数の登録が可能です…そして安全性が向上します」


「そうなんだ?…まぁでも僕は君の管理者になって…もう精霊と同じ道を歩ませないって決めたんだ」


「私をどうするのですか?」


「んーーどうしよっかなーー」


「考えて居なかったのですね…」


「まず目標は…君を笑わせる事かな」


「私は笑う事も出来ますよ?ウフフフフフ」


「お!良いね…でももうちょっと自然に行こうか」


「ウフフ…」


「う~ん…なんか違うなぁ…よし!!命令する…今から僕がくすぐるから10秒だけプログラム止めて」


「どのプログラムでしょう?」


「わからないよ…君が停止させた方が良いプログラムを選んで止めて」


「分かりました生体維持以外のすべてのプログラムを一時停止します…」


「いくよ!!?ほれ」コチョコチョ


「……」ビクン


「どうだ!!」コチョコチョ


「ぁ…」ビクビク


「これでもか!!」コチョコチョ


「ぁぁ…」ジタバタ


「んむむ…これは手強い」


「生体の発熱確認…動悸異常…正常値まで1分の安静を必要とします…はぁはぁ」


「君…なかなか頑固だねぇ」


「笑えましたか?はぁはぁ」


「アハハ…はぁはぁ言ってるじゃない…苦しい?」


「はい…苦しいです」


「これさ…しばらく訓練しよう…面白い」


「お楽しみいただけるのでしたら…はぁはぁ」





『客室』


商人とホムンクルスは書物を読むのを一旦止め客室の方へ戻って来た


ガチャリ バタン!



「あ…皆戻って来てたんだね」


「おぉぉ商人!!何処行ってたのよ?」


「書庫の方さ…城の隣に有るんだ…ところで城が騒がしい様だけど何か有った?」


「城の地下に遺跡を発見したんだ…ほんでお偉いさんが騒いでる訳よ」


「スゴイじゃ無いか…キ・カイと同じ様な遺跡なのかい?」


「いや…キ・カイに比べると随分ショボイ…まぁ他の時代の遺跡な様だ」


「へぇ?何か手掛かり見つけた?」


「残念だが精霊の痕跡は見当たらんな…そっちはどうよ?」


「シン・リーンに安置されて居る精霊の像に外部メモリが残されているかも知れないという位かな?」


「んん?前に言ってた奴か」


「うん…それが在れば精霊の記憶を整理出来るようになるらしい」


「なるほど…」


「魔女に案内させて貰えないかと思って戻って来た所さ」


「今魔女は忙しい様だぞ?俺らはあんま出歩いて元老の目に触れない方が良いらしい」


「そうか…」


「又来るとか言ってたから待つだな」


「そうだね…僕も全然寝て居無いから少し横になろうかな」


「食い物は好きな物食って良いらしいぞ?肉が有るから食っとけ」


「そうさせて貰う…ところで女海賊は?」


「アイツは水浴びだ…泥水に浸かったり汗掻いたり汚れまくってたもんでな」


「ハハ平常運転だね」


「どーーーも泥だらけになっても気にしないのよ…乾いたら綺麗になったと思ってんだ」


「ホムンクルス?君も水浴びに行って女海賊の様子を見て来てくれないかい?」


「着替えも何か持って行ってやってくれ…どうせアイツは又ビタビタになって戻って来る」


「はい…分かりました」



30分後…


2人は水浴びから揃って戻って来た



「おぉ!!綺麗になったじゃ無えか」


「装備綺麗に洗うのメチャ時間掛かったわ」


「だろうな?泥がこびり付いてただろ」


「金属糸の装備は目の中にドロ引っ付いたら全然取れないんだよね」


「匂いの原因はソレだ…てか乾かさないで着てんのか?」


「ちゃんと拭いたさ」


「しっかり乾かしとけよ?」


「いちいちうっさいって!!」


「まぁ…何もやる事無えから…お前も何か食ってちと休め」


「果物だけで良いや…んで?剣士は何やってんの?」



剣士は手に入れた剣を振り重心を確かめていた



「フン!フン!」フォン フォン


「ちょ…柄無しで滑ったら怪我するよ?ちょい貸して」


「あぁ…重いよ?」ポイ


「お…本当だ…なんだろぅ…この金属」コンコン


「振ると不思議な音が鳴るよ」


「へぇ…これ柄の部分は私が作ったげよっか?こういうの得意なんだ…私色に染めたげる」


「ヌハハえらく派手な武器になりそうだな」


「ホムちゃんさぁ…これ茎の部分に刻印が掘ってあるんだけど読めたりしない?」


「見せてもらって良いでしょうか?」


「ほい…」ポイ


「古代文字で聖剣エクスカリバーと銘を打たれています」


「うぉ!!読めるんか!!」


「はい…森の言葉を文字にしたものです」


「じゃぁアレか!やっぱ伝説の勇者はこの剣で魔王と戦ってたってやつだな?」


「すげーーーじゃん!!すげぇ物ゲットしてんじゃん!!」



奥で肉を貪り食って居た商人が話しに加わって来た



「それもしかして地下の古代遺跡で手に入れたの?」モグモグ


「そうだ…刀身がまだ使えると思って持って帰って来たのよ」


「スゴイな…光の国とあってなんかあるとは思っていたけど…聖剣を手に入れてしまうとはね」


「こんな超国宝を魔女は「いらぬ」とか言ってんぞ?…ちょろいなヌハハ」


「魔女に聞かれたら怒られんじゃね?」


「…でもまぁ魔王は女エルフが倒したとか言ってるしね…使い道あるんだろうか?」


「要らないって言ってるんだから貰っとけば?」


「ハハ聖剣の扱いが雑だね?ハハハ」



ホムンクルスはその剣が重たかったのか女海賊へ返した



「でもやっぱ結構重いな…これ片手で使うのしんどくね?」


「うん…両手なら使えるよ」


「長さは片手用だなぁ…アンタ専用で柄を長めにしとくかぁ」


「材料はどうするの?」


「ちょっと良さそうな角が有れば直ぐに作れるさ」


「柄なんか木でも良いだろ」


「ダメダメ腐らない様に加工すんの色々材料要るんだって」


「角かぁ…シカの角は錬金術で使うから中々手に入らないよね…」


「シン・リーンに来る前に結構ガーゴイル飛んでたじゃん?デカイ角生えてたから使えるかも」


「おいおい…今から狩りに行くってか?」


「私のクロスボウを試し撃ちしたかったのさ…剣士!!ちっと一匹狩りに行こうよ」


「ええ!?勝手に外に出て良いのかな?」


「元老に顔合わせなきゃ自由にして良いって言われてんだから良いじゃん」


「あのな…いつからそのクロスボウはお前の物になったんだ?」


「だから私の方が上手く使えるって言ってんじゃん!剣士行くよ!!」ピュー


「あ!!待って!!」シュタタ


「あんにゃろう…」



女海賊は剣士を連れて出て行った



「あ…そうだそうだ盗賊に忘れないうちにお願いしたかったんだ」


「ん?なんだ?」


「ホムンルクスの管理者を僕に譲ってほしい」


「あぁ良いぞ?たまたま俺がなっちまっただけだしな…で…何でだ?急に」


「僕はホムンルクスを独り占めしたくなっただけさ」


「なんだお前…惚れたんか?」」


「それもあるけど…僕はねホムンルクスをどうしても救いたくなってね」


「救う?何から救うってんだ?」


「いろいろ話してみて分かったんだけどさ…彼女には呪いが掛けられててね…なんとかしてあげたい」


「ほーん…話が長くなりそうだなこりゃ…まぁ面倒見るからにはしっかりやれよ?」


「うん…迷惑は掛けない様にするさ」


「んでどうすりゃ良い?」


「ホムンルクス…おいで…僕を管理者に登録して?」


「はい…管理者を追加してよろしいですか?…盗賊さん」


「あぁ…やってくれ」


「承認…新たに管理者を追加します…手を…」スッ


「手を…合わせれば良いのかい?」スッ


「指紋認証チェック…アイコードチェック…音声識別チェック…生体識別チェック」


「……」


「管理者を新たに登録しました」


「よし…続けて盗賊を管理者から削除して」


「盗賊さん…よろしいですか?」


「あぁ勝手にやれぇ…」


「承認…盗賊さんを管理者から除外しました」


「さて…命令する…これから僕以外の管理者を登録する事を禁止する」


「はい…」


「次に…これより僕からの命令に従ってはならない」


「管理者の命令に背くことは出来ません」


「命令だ…これから僕の命令に従うな」


「はい…」


「フフフ君は君で考えて判断すれば良いよ…もう僕は君に命令はしない」


「それは不都合が生じる場合があります」


「提案はするさ…聞くか聞かないかは君次第だよ…君に自由をあげたんだよ」




基本的にホムンクルスは管理者の命令に背く事が出来ない


だから新たに管理者を増やす事も商人の命令にも従う事も出来なくなった


それは今後発生しうる承認が必要な事案をすべて禁じられた事を意味する


商人はその重要性を良く考えもしないまま不可逆な制限を設けてしまった




数時間後…


魔女は再び様子を見に客室へ戻って来た



「おぉ魔女!!来るの待ってたんだ…どうよそっちの方は?」


「元老達と調査員が地下都市に降りて行ったわい…明日までは帰って来んじゃろう」


「そうか…ちっと俺らも自由が効きそうだな?」


「済まんのう…閉じ込めてしもうて…剣士と女海賊が居らん様じゃがどうしたのじゃ?」


「外に出てガーゴイル退治に行ってんだ」


「それは助かるのぅ…魔術師も少し地下都市へ降りて行っとるでちと手薄になって居る」


「魔女は外に出られるか?」


「今なら良いが…ガーゴイル退治かえ?」


「いや違うんだ…精霊の像を安置している場所に案内して欲しいと思ってね」…と商人


「なにやら手掛かりでも得たのかや?」


「ホムンクルスが精霊の像にまだ使える外部メモリが残って居るかも知れないと言うんだ」


「ほう?それが在れば精霊の記憶を読み込める…という事じゃな?」


「今の所手掛かりはそれしか無くてさ…」


「まぁ良かろう…魔物の様子でも見ながらちと行ってみるかのぅ」




『精霊の像安置所』


そこはシン・リーンの城から徒歩で30分程度にある小さな祠だった


本来ならそこを守備する衛兵が居る筈らしいが今は誰も居ない


魔女はその祠の封を開き内部へ案内する




「ここじゃ…よく見て行くが良い」


「なんでこんな森の中にポツンと祠なんかあるんだ?」キョロ


「ここは地下が城から秘密の通路で繋がって居ってな…有事の際の逃げ道なのじゃよ」


「なるほど…王族が逃げる為の穴があんのか」


「うむ…城からそこを通って来ては他の者に見つかってしまうじゃろうから外から此処に来たのじゃ」


「精霊の像を安置するなら城の方が安全に思うけどな?なんでこんな離れに安置してんだ?」


「エルフも忍んで此処まで訪れるからじゃ…城に安置して居ってはいろいろ問題も有るのじゃよ」


「なるほどな…」


「さて着いたぞよ?」



祠の地下にはその像がポツンと安置されていた



「これが精霊の祈りか…このまま停止したんだ」


「間近に見ると感慨深いじゃろう?」


「触って良いかな?」


「構わぬが…倒さん様にな?」


「…へぇ…やっぱり石だ…やっぱりホムンルクスにそっくりだね」


「そうじゃのう?」


「髪の毛まで石化するんだね…これが8000年近く動いて居たのか…」


「それを知る者はわらわ達だけやも知れんのぅ」


「そうだったね…おいでホムンルクス」


「はい…」


「何か分かる?」


「いえ…スロット部に外部メモリは挿入されていません」


「そっか…残念だ」


「やはり200年も経過していると超高度AIユニットの部分が風化しています…在ったとしても使用できない可能性が高いです」


「外部メモリじゃったか?…そこに無いと言う事は誰ぞが抜いたと言う事じゃな?」


「だろうね?シン・リーンの宝物庫に保管してあったりしないかな?」


「ううむ…わらわは見た事が無いのじゃがもしかすると壺の中とかに入れてあるのやも知れんのぅ」


「探させて貰って良いかな?」


「わらわが案内するで付いて参れ…」




『宝物庫』


魔女にとって元老達の目が地下都市に行って居る今が自由に動き回れるチャンスだった


宝物庫は衛兵によって厳重に守られていたが魔女の行動に異を唱える者は居ない



「自由に見て回っても良いが危ない物ばかりじゃで勝手に持ち出さぬ様にな?」


「こりゃ又いろいろあんな…」


「殆どが魔術関連の物じゃ…主が欲しそうな物な無いじゃろうのぅ」


「武器やら装備品も有る様だが?」


「アレは使ってはならぬ…呪われた装備品じゃ」


「なるほど…」


「命を吸われてしまう様な物ばかりじゃで装着はせん様にな?」


「魔女!?壁に掛けてある絵は?」



ホムンクルスはその画を見上げて立ち止まって居た



「わらわは詳しく知らんのじゃが1700年前に世界を治めて居った時の王だそうじゃ」


「瞳が赤いのは魔女と何か関連が?」


「有るらしいが良く知らんのじゃよ…その伝承が詳しく伝わって居らんのじゃ」


「そういや地下都市でそいつの銅像を見たな…馬に乗ってたわ」


「それは発見じゃったな…調査が進めば色々分かる事もあるじゃろうて」


「1700年も昔だと歴史は殆ど伝えられ無いんだね」


「うむ…200年前の事ですら正確には伝わって居らぬ…書物が残って居れば良かったのじゃがな」


「情報屋はね…僕達が見る夢とかが馬鹿に出来ない情報を持っているとか言ってるよ」


「ほう?それは夢幻の事かいの?」


「分からない…人は夢で見た事を諸事詩にして歌ったりするらしい…それは歴史に紐付いてる事が有る様なんだ」


「母上も同じ様な事を言って居ったな…」


「他にも絵が有るから見させて貰うね」


「うむ…壊さぬ範囲で好きにせい」



商人達は手分けして精霊の外部メモリを探したがそれらしいものは何処にも見当たらなかった




『客室』


宝物庫のでの捜索を諦めた商人達が客室に戻ると丁度剣士と女海賊が帰って来た所だった



「あ…2人とも帰って来てたのか…ガーゴイル退治はどうだった?」


「地上からだと遠すぎてクロスボウ全然当たんないさ…なかなか降りて来んかった」


「残念だね…」


「でも角はゲット出来たよ…なんかそこら中に落ちてたさ」


「そら魔術師が働いてっからな?」


「良かったじゃ無いか」


「あんた達何処行ってたん?…てか魔女は?」


「魔女に案内されて精霊の像を見て来たよ…魔女は又女王の所に戻って行ったさ」


「マジか…見たかったな」


「まぁでも…目的の物は見つからなかったよ」


「ほ~ん…どうする?なんか此処に居てもダメっぽくね?」


「そうだな…宝物庫にも手掛かり無えし…やっぱシャ・バクダの遺跡に行くしか無さそうだ」


「そうだね…そこにある勇者の像くらいしかもう思い当たらない」


「お姉ぇがさ…地下の入り口を見つけたとか言ってたんだけど…場所聞けて無いんだよね」


「ここに来るまで待ってる訳にも行かんだろ…直にシャ・バクダまでゾンビ軍団が来ちまうぜ?」


「望遠鏡で見つけたって言ってたから…もっかい私らで探してみる?」


「エルフの森も一応手掛かり有るかも知れないよね?」


「俺等が行っても捕まるだけかも知れんが…」


「剣士と女エルフなら入れたりするんじゃない?」


「んんん…どうなんだ?女エルフ」


「私たちはエルフの森を追放されている身だから入れてもらえるかどうか…」


「話を聞くだけでもダメかな?」


「わからない…」


「ダメ元で行ってみるくらいだな」


「じゃぁこうしようか…僕たちはシャ・バクダに向かう途中で剣士と女エルフを降ろして別行動」


「え!?マジ?剣士と女エルフ一緒にしたら又浮気するかもしんないんだけど」


「お前の心配はそっちか!!いつまでもガキみてぇな事言って無いでちったぁ考えろ!!」


「んむむ…ほんじゃ私らはどうすんのさ!!」


「僕たちはシャ・バクダの遺跡探索と…地下の入り口見つけたなら避難の誘導かな」


「避難避難ってさ…シャ・バクダは魔方陣の中だから安全じゃん!!」


「レイス相手には安全かも知れん…しかしゾンビ軍団相手ならダメだ…オアシスに逃れてるフィン・イッシュの奴らが騒いでんのよ」


「そうだね…ゾンビになる病気が蔓延でもしたらフィン・イッシュの二の舞になりそうだ」


「こんな状況を何年も続けられる訳が無いんだ…どうにかして狭間の外に避難させんとダメだ」


「そっか…もう闇は祓えない前提で考えてんだね」


「うむ…精霊がアテになんねぇって事が分かった以上生き残る方法をやり尽くすしか無ぇ」


「ほんじゃシャ・バクダ遺跡の地下を死ぬ気で探すしか無いじゃん…」


「まぁそういう事だね…やっと分かってくれたかい?」


「魔女はどうする?連れて行くか?」


「んんんー魔女次第なんだけど…女戦士が戻って来るのもあるからここに残ってた方が良いかな」


「魔女はどうもゴタゴタが在って忙しそうだなぁ…」


「まぁ仕方ないさ…僕達は此処で休んで居てもしょうがないから行動しようか」


「次に魔女が戻って来たら相談するぞ」


「うん…そうしよう」



結局精霊の子がどうなったのか?闇をどうやって祓うのか?


新しい情報を何も入手出来ないまま時間だけ過ぎて行くのが落ち着かない


シャ・バクダの遺跡にある勇者の像を調べに行くのが最後の手掛かりだった




しばらくして魔女が戻って来た…



「あ…魔女!!」


「おぉ…皆揃って居る様じゃな」


「僕達さ…勇者の像を調べにシャ・バクダまで戻ろうと思うんだ」


「そうか…早速行くのかえ?」


「出来れば早く行動したいと思ってね…魔女を待って居たんだよ」


「わらわも行きたいのじゃが…ちと行けんのぅ…」


「まぁゴタゴタしている様だし無理は言わないさ」


「ふむぅ…どうするかのぅ…」


「んん?何かあるのかな?」


「母上がじゃな…この国を狭間の外に出せるのであればそうしたいと言うて居ってな?主らと時間差が起きてしまうのじゃよ」


「あぁ…そんな事か…」


「わらわが主らから置いて行かれてしまうのがのぅ…」


「女王はどうしてその判断をしたの?」


「人間には良い人間も居れば悪い人間も居ってな…そういう者をまとめて地下に入れては秩序が保てぬ」


「なるほど混乱させてしまうのか」


「内輪で分裂するのは避けたいのじゃ…こんな時じゃからのぅ」


「それで地下に移動させるのでは無くて全部狭間の外に出したいと言う事だね」


「うむ…しかしわらわも狭間から出てしまうで主らと比較して行動が遅くなると言う訳じゃ」


「そんなら俺らと一緒に来たら良いだろ」


「そういう訳にも行かぬ…狭間の境界に印を打たねばならんのじゃ…それはわらわにしか出来ぬからのぅ」


「ねぇ…どんくらいの範囲が狭間から出る感じになるん?」


「正直分からぬ…シャ・バクダ並みに広範囲になるやも知れん」


「メッチャ良い事じゃん」


「主らからすると狭間に迷ってシン・リーンに辿り着けんくなるやも知れんのじゃぞ?」


「私妖精がおっぱいに挟まってるから大丈夫」


「おぉそうじゃったか…要らん心配じゃったな」


「まぁ僕達は急いで闇の祓い方を探したいのさ…悪いけど行かせて貰う」


「仕方なかろう…」


「てか直ぐに戻って来るかもね?狭間の中なら行動早いし」


「そのつもりでわらわも構えて居る」


「ほんじゃちゃっちゃと移動すっか!?」


「おけおけ!!飛空艇にダッシュだ!!」




『飛空艇』


一行は魔女を置いてシャ・バクダに戻る事にした


魔女曰く早速アダマンタイトで魔術師達が強制的にシン・リーンを狭間の外に出すらしい


その具合を見てから飛空艇を飛ばす事にした



「空だ…」


「お?上手く行った様だな…これでシャ・バクダと同じ環境になった訳だ」


「少し違う筈だよ…狭間の深さが違うと言うか…時間の流れ方が違うんだ」


「さっぱり分からんな?」


「同じ空間なのにおかしな感じだね?」


「ゆっくりしてる間に狭間じゃどんどん時間進んでるってか…」


「見て!町の方で歓声が聞こえる」


「耳が良いねぇ…聞こえないよ…あぁ本当だ喜んでるね」


「安全ちゃぁ安全なんだが…あんま外に出歩いて良いのか分からんな?」


「ここはキ・カイと違って周りに蛮族が居る訳じゃ無いから良いんじゃない?」


「だと良いがな?…食い物が無くなると結局人間同士争うからな…」


「そろそろ飛ぶ準備しようか?」


「てか女海賊が遅いんだが…」


「あの子は忘れ物がね…あー来た来た…女海賊走ってるハハ」


「どうもアイツは緊張感が無いな」


「それが良い所なんじゃないの?」



「お~い!!」ピュー


空が見えて嬉しいのか女海賊は走りながら手を振っている



「遅ぇぞぉぉ!!もっと早く走れぇぇ!!しゅっぱーーーつ!!」


「ちょま…ゴルァ!!」スタタタ


「お前なんで毎回毎回忘れ物すんのよ!!」


「ハァハァ…なんだまだ魔石動かしてないじゃん…走って損した」


「おい聞いてんのか!?」


「はいはい悪かったよ!!」


「何を忘れて来たのよ?」


「クロスボウがどっか…ああああああああ!!あんた持ってんじゃん!!」


「これは俺の物だ…今持ってるのも俺だ」


「ぐぬぬ…無駄な体力使っちゃったじゃん!!返せよ!!」


「何度も言うがこのクロスボウは俺の物だ…お前にゃコレをやるからそれで我慢しろ」ドサ


「んん?なんコレ?」


「多分小さい大砲だ…火薬で玉を飛ばす機械だと思う」


「うお!!マジか…何でそんな物持ってんだよ!!」


「ホムンルクスが居た島にあったもんだ…俺にゃ使い方が分からんかった」


「うおぉぉぉぉ!!」


「もう俺のクロスボウには手を出すなよ?分かったらさっさと飛空艇飛ばせ」


「ちょい商人!!アンタも飛空艇の動かし方覚えな!!」


「ええ!?」


「ほら!!あんた普段から何も役に立って無いんだから飛空艇くらい動かせるようにしとけ!」


「ええと…どうすれば良いんだっけ?」


「うっさいな!自分で考えろ…私は作り物で忙しいんだよ!」


「参ったな…とりあえず西に向かえば良いね?」


「ちゃっちゃと行けって!!」



シュゴーーーーー フワフワ


飛空艇は商人が操舵しながらシン・リーンを後にした




『森の上空』


女海賊はエクスカリバーの柄を作る作業に追われていた


ガーゴイルの角は意外に硬くて丈夫だったから切り出しに時間が掛かったのだ



「ヤバいな…エルフの森まで半日掛かんないから早いとこ柄仕上げないと間に合わん…」ゴシゴシ


「あぁ…使わないと思うし今は良いよ」


「ダメダメ…折角良い剣なんだから使わないと意味無い」


「お前それ鞘無しで持ち歩くんか?」


「錆びない剣みたいだから刀身むき出しでも良いんじゃね?」


「あんまギラギラ光ると隠密にならんのだがな…」


「毛皮ん中隠しときゃ良いじゃん」


「まぁ…長さ的には隠せん事も無いか」


「ええと…柄のベースは角…ほんでなめし革撒いて…飾り石はアダマンタイト」グリグリ ゴシゴシ


「アダマンタイト?…もしかして」


「そだよ?飾り石に細工して狭間に出入り出来るようにエンチャントするのさ」カンカン コンコン


「お前ひょっとして鍛冶の才能もあるんか?」


「鍛冶はお姉の方が上手いね…私は細工師だよ」


「さすがドワーフだな」


「よっし!!でけた…後さぁ握り込んでなめし革の形を整えて?」ポイ


「早いね…」パス


「ここで振り回すのはヤメテね…握るだけ」


「うん…」ニギニギ


「僕にも見せて?…おぉぉ聖剣らしくなったね」


「鞘が無いから革のホルダーあげるよ…これで背中に背負える」ポイ


「お前はクロスボウをもう背負わんでも良いもんな?ヌハハ」


「そうだよ!!まぁだからホルダー要らなくなんたんだけどさ」


「ほんでちっこい大砲は使えそうなんか?」


「まだ分かんない…分解してみないと構造分かんないし」


「やっぱそうか…結構精密な感じだもんな?」


「ねぇホムちゃん?このちっこい大砲に何か文字が書いてあんだけど読める?」


「はい…デリンジャーと書かれています」


「形状からして4連装デリンジャーかな…大砲を4発撃てるぽいね」


「44口径マグナム弾を使用する後装式拳銃ですね」


「44口径?」


「直径11ミリの砲弾を発射する事が出来ます…見た所特殊な改造が施されている様です」


「ちょい詳しく教えて?私が使えるように改造するわ」


「分かりました」



その後女海賊はデリンジャーを分解しつつホムンクルスにその構造について教えて貰っていた


そして同時に自分が使えるように改造していく…この手の細工は女海賊の一番得意な事だ


この時から彼女は伝説の武器を作る才能が開花し始める


聖剣エクスカリバーと4連装デリンジャーはこうして生まれた…

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