第15話 勇者と聖霊と
『エルフの森上空』
飛空艇はエルフの森上空に差し掛かり剣士と女エルフを向かわせる為に高度を下げた
2人が又別行動を取る事に対して女海賊は心配だった
そもそもエルフ達が精霊のオーブを守っているという事実がある
闇を祓う為の手掛かりが無い今ハイエルフに事情を聞く為に剣士達がエルフの森へ向かう事は仕方の無い事だった
「これ以上森に近づくと危ないからここで」女エルフは飛空艇から半身を乗り出し言った
「この高さで降りられる?」
「大丈夫」
「それじゃぁよろしく頼むよ」
「ハイエルフに話せるだけ話してみるわ…」
「終わったら星の観測所に来て…場所は分かるよね?」
「うん…」
「おい!高度下がってるとガーゴイルが近付いて来るから早く降りろぉ!!」
バシュン! バシュン!
盗賊は飛び回るガーゴイルにクロスボウを撃ってけん制している
「じゃぁ行って来るよ」チラ
剣士は女海賊の顔色を伺った
「……」ジロ
女海賊は剣士に目で合図を送る…無事に帰って来いと言う意味だ
その2人のやり取りを見た女エルフは一言余計な事を言って飛空艇を飛び降りる…
「じゃぁ剣士もらっちゃうね」グイ ピョン
「あ…」ピョン
2人は揃って飛空艇を飛び降りた
「ぬあああああああ!!!あんのアマ!!」ギリリ
「おら…俺らも行くぞ…早く高度上げろ!!」
女エルフが発した言葉は余計な言葉だったがその本当の意味は違う
エルフの様に通じ始めた剣士と女海賊ならきっと分かると思ってわざとイジワルな事を言った
女海賊の事を認めていたのだ…そして連れ帰る自信も在った
「ぐぬぬ…」
見下ろす2人の姿に何故か不安な気持ちは沸き上がらない
女海賊も又…女エルフを信頼し始めて居た
「おい!!俺らの火力が2人共居なくなったんだぞ?お前もどうにか戦える様にしろぉ」
「うっさいな!わかってんよ!!ってかボルトを無駄撃ちすんなって!!」
「ガーゴイルが飛空艇に憑りついたらどうすんのよ?」
「だから当てられる距離に近付いてから撃てって言ってんの!!」
「へいへい…」
「ちょっとクロスボウ1台だけじゃ心配になって来るね」
「だな?どっかで武器を入手出来れば良いが…」
「女海賊はその小さな大砲まだ使えないのかな?」
「弾が無いさ…作る材料も無いよ」
「お前は武器何を持ってんのよ?」
「んあ?私はピッケルしか持って無いよ…あと爆弾か」
「僕は黒曜石のダガーだけだね」
「くぁぁぁマジ何も出来んな…魔女ん所で武器を入手しときゃ良かった」
「魔法ばっかで何も無かったじゃん」
「ちょっと物資調達した方が良いね」
「ちょい星の観測所に戻る前にハズレ町辺りに寄って行こっか…前に見回った時どっさり物資在ったさ」
「おお名案だ!」
『ハズレ町』
飛空艇は物資調達の為に廃墟となったハズレ町に立ち寄った
並んでいる露店は殆どの物資が放置されてそのまま散らばっている
そして食い荒らされた死体もそこら中に散乱して居り魔物が何処かに潜んでいる気配もあった
「積めるだけ積んでサッサと引きあげるぞぉ!!」
「ちょい待ち!!硫黄とか砂鉄とかいっぱい有んのさ」
「ホムンクルスは直ぐに飛空艇を飛ばせる準備だけしておいてくれ」
「はい…」
「鉄の武器が一杯有るけどどうする?」
「要らんな…ナイフぐらいはホムンクルスに持たせておけ」
「待って…武器はオアシスで売れそうだ…まともな武器を持って居なかったんだよ」
「金代わりだってか?」
「うん…今の僕達はこういう交換できる物資が重要さ」
「じゃぁ好きにしろい!」
「あんたぁ!!遊んでないで物資運べよ!!ポーションとか色々落ちてっからさぁ!!」
「俺はお前等の安全を確保してんだ…文句言わないでさっさと積み込め!」
「皆さん…そろそろ飛空艇の積載量が超えてしまいます」
「あれ?そんな一杯積んだっけな?」
「元々満タンの樽が2つ乗って居ましたので…」
「あー忘れてたわ…謎の液体乗せたままだった…」
「まぁ良い!十分だろう!」
「おけおけ!要領分かったから又物資補充に一人で来れるわ」
「乗って下さい…高度を上げ始めます」
「おし!乗ったぞぉ!!」
シュゴーーーーーー フワフワ
「おぉぉ重量ギリギリだな…」
「ここからなら高度上がらなくても星の観測所まで近いよね」
「行ける行ける」
「ガーゴイルが襲ってくるかもしれんからそのつもりで居ろ」
「お!!?クロスボウいっぱいあるじゃん!!ちっこいけど…」
「ボルトが無いんだ…無駄撃ちは出来ないね」
「このクロスボウならホムちゃんでも使えそうだから持っときな」
「はい…」
「おーし!!クロスボウ3人体制ならそこそこ戦えるんじゃね?」
「だな?無駄撃ちすんなよ?」
「あんたが言うな!!」
『星の観測所』
物資を満載に積み込んだ飛空艇は無事に星の観測所へ到着した
上空から見る限りオアシスの方は更に避難民が増えてテントから人がはみ出している
4人は一度物資を建屋の中に入れ軽く情報収集をした
「…やっぱりフィン・イッシュからの難民が流れて来てる様だな」
「砂漠横断してこんな所までどうやって来てるんだろね?…」
「こりゃ砂漠地帯は死人がわんさか居るだろうよ…さぁて…どうしたもんか」
「ちゃっちゃと闇を祓いたいよね…」
「女海賊!?シャ・バクダ遺跡の行き方は聞いてない?」
「私さぁ…アサシンに信用されてなくて大事な事教えて貰って無いんだ」
「誰か知ってる人が居れば早いんだけどなぁ…」
「俺が聞いて来てやるぞ?」
「知って居そうな人は居るのかい?」
「さぁな?ギルドの連中ならだれか知ってるだろう」
「あの…私が地図情報から座標を求める事が出来ます」
「お!!そういえば衛星通信で座標がどうとか言っていたね?」
「はい…衛星からオアシス群の中心でしたら確認できます…現在の位置から13km程離れた位置にあります」
「ちょい待ち!中心は飛空艇からでも確認できるのさ…問題はそこに入り口が有るのかって話なんだよ」
「ご安心下さい…200年前の地形データは衛星に保存されています」
「マジ?」
「はい…その地形データと現在の地形を比較しておよその位置を特定できます」
「おぉぉぉなんかホムちゃん凄いじゃん!!」
「僕たちを案内出来そう?」
「はい…お任せください」
「アサシンはさぁ…地下にカタコンベがあるって言ってたさ」
「カタコンベかぁ…只の埋葬場…という訳では無いんだろうね」
「ちっと心の準備はしといた方が良いかもね」
「まぁ行ってみよう」
「でも本当に探してたのはソコじゃないみたい…もっと深部に入る入り口を探してるってさ」
「当時の地形データから他の地下への入り口候補地も推定出来ます」
「おぉ!!ほんじゃ順に調べて行こう…ホムちゃん行こう!!」
『飛空艇』
飛空艇は上空を旋回しながら遺跡に入る入り口を探した
「ここの真下が中心部だったんだね?」
「はい…」
「ちょい周辺一周してみるね」グイ
「あそこに遺跡っぽい石柱が見える…寄ってくれ」
「ほい!!」
「あぁぁ多分アレだな…階段が見える」
「遺跡がほぼ完全に砂に埋もれてるんだ…これは地上に居たらなかなか探せないね」
「あそこに降ろすよ?」
「うん…とりあえず行ってみよう」
フワフワ ドッスン
その場所は殆ど砂に埋もれてそれが遺跡だとはほぼ分からない
残された遺構が少しだけ砂から露出しているだけなのだ
地下に降りる階段もその遺構に守られかろうじて砂で塞がれないで居ただけだ
「誰も居なさそうだ…よし出て来て良いぞ」
「この階段…放って置いたら砂で埋まっちゃうな」
「そうだなぁ…深部の入り口って奴はもう埋まってるかもしれんぞ」
「ふふ~ん!!」
「どうしたぁ…自信ありげな鼻息だな?」
「私の奴隷4号の出番さ!!」
「おーそういえばサンドワーム育ててたな…お前なんかいろいろ便利な女だな」
「んーー便利な女ってなんか響き良くないな…他に言い方無いの?」
「おおぉ!!君はスゴイ子だね!!…何でも出来るんだね…これで良いかな?」
「なんかイライラする」
「おい!!こっから先はランタンが必要だぞ?…お前も持て」ポイ
「ぬぁ…物持ちかよ…ちっ」パス
「俺が先頭行くから…お前は最後に付いてコイ」
「へいへい…4号!!この辺が砂で埋もれない様に整地しとけ!!後で餌あげるから!!」
「クソ食わして何でも言う事聞くんだもんな…」
「黙れソコ!!」
「行くぞ!!遅れんな?」
『シャ・バクダ遺跡』
少し地下へ下るとレンガ造りの堅牢な壁面で支えられた空間が広がって居た
「おっと…こりゃどうなってんだ?やたら広いんだが…」
「この大きさの建物が砂で埋もれた…どうしてそんな事になるんだろうね?」
「だな?こんな建造物を砂の中に作るのは不可能だ」
「地盤が沈下して埋もれたのだと思われます…」
「丸ごとか?」
「はい…この砂漠の地下には水脈がある様ですので広範囲が沈下したのでしょう」
「君はそれをシミュレーション出来るかい?」
「はい…シミュレーションの結果をお話しています」
「どうしてそんな事が起きる?」
「隕石などの強い外力でマグマ層の一部が水脈に流れ込んだのです…その結果水蒸気爆発と大きな地震が発生しました」
「じゃぁその水がオアシスに集まって…その他は沈下した訳か…」
「こんな建造物が残ってるとなると…お宝が相当眠って居そうだ」
「今回はお宝探しじゃないよ…それは又の機会だね」
「ふむ…しかし…やっぱ地下の方が随分涼しいな…」
「でもなんか嫌な雰囲気だよ…」ゾクゾク
「カタコンベになってて骸骨がいっぱいあるって言ってたさ…気持ち悪いよね」
「ねぇ見てあそこ…もしかしてアレが200年前の勇者の像かな?」
そこに有ったのは凛々しい勇者の像では無かった
何かに助けを求め苦悶の表情を浮かべたまま足掻く姿…
その姿のまま石造になっている
「なんだこりゃ…」
「え!?何コレ…地面から沢山生えてるのって人の手…だよね?」
「手だけじゃ無ぇ…死霊か何かに掴まりかけてんぞ」
「どうしてこのまま石になってる?こんな石化の仕方なんて有るのか?」
「お答えします…」
「ホムンクルス…何か分かるの?」
「はい…ホムンクルスの生体は他の物質と同化をする事が有るのです」
「同化?どういう事かな?」
「癒着と言えば良いでしょうか…生体にめぐるエリクサーの供給が停止した時に細胞はその他の物質と癒着して生存しようとするのです」
「本能的な物?」
「はい…生体の遺伝子をその物質に保存して細胞レベルで情報を残すのです」
「じゃぁこの勇者の像にはその情報が残って居ると言う事だね?」
「情報と言っても生体の遺伝子情報ですね…記憶が残って居る事は無いでしょう」
「でも遺伝子と言う形で勇者がまだ健在な訳だ…それが分かっただけで少し前進してる…」
「だがこの石造をどうすんだ?地面にくっ付いてて動かせんぞ?」
「てかさ?その理屈だと精霊も石造になって遺伝子残ってんじゃね?」
「そうだね…」
「なんか意味あるん?精霊の遺伝子残ってたからってあんま意味無くね?」
「ヌハハお前はズケズケと反対意見を言うんだな」
「ねぇホムちゃん?ホムンクルスが遺伝子を残す目的って何?」
「種の保存です…それは皆さんも同じ様に行って居ますよ?」
「え?」
「あぁ分かった…子孫を残す事か…ホムンクルスは子供を産めない代わりにそうやって自分を保存するのか」
「生体の本能的な事です」
「ホムちゃんって子供産めないん?」
「産む為の子宮はありますが人間の子を宿す事は出来ません…遺伝子情報に差があり過ぎます」
「じゃぁ誰の子を産んだんだと思う?」
「分かりません…そういう未知のプログラムが在ったのかも知れませんね」
「プログラムの問題じゃ無いと思うな…産める産めないはそう言うのじゃ無くて体の問題さ」
「可能性が高いのはもう一体ホムンクルスが居たという事だね」
「まぁ良いや…とりあえずこれで精霊の子が生き残ってるって言う可能性は無くなった感じだね」
「おい!良く見てくれ…この勇者の像は心臓に何か突き立てられてんぞ?」
「こんな風に死んだ…のか?」
「多分折れた剣なんだが…これも石化して何の金属だったのか分からんな…」
「これはどう見ても勇者が朽ちた像だ…魔王はどうなったんだろう?倒して居ないのかな?」
「あのね…シン・リーンの地下に有った壁画にさ…勇者が最後に魔王になって落ちて行く画が在ったのさ」
「なるほど?…アサシンが勇者を暗殺したい理由だな?」
「魔王になってその後どうなるんだい?」
「壁画から読み取れるのは…次の時代の魔王になる画なんだよ…なんか悪い予感しかしない」
「まてまてまさか…この勇者の像は魔王本体じゃ無いだろうな?」
「ほんなん知らんって!壁画の事も勝手な私の解釈だから確定した話じゃないさ」
「う~ん…謎が深まるばかりだな…」
「あの…」
「どうしたんだい?」
「石化したホムンクルスは再び動き出す事は在りません…ですから魔王となって動き出す事も無いと思われます」
「ホムちゃん遺伝子は残ってるって言ってたじゃん」
「え?」
「魔王になった勇者の遺伝子がどっかで生まれてる可能性は?」
「そうか!!そうやって魔王を退けたのか!!」
「この勇者の像って地面にくっ付いてんじゃん?つまりその遺伝子も地面に有るって事だよね…」
「地面…その下に地下水…誰の口にでも入るじゃ無いか」
「まぁそう悪い方向にばっか考えんな…」
「魔王と戦いこんな状況になって精霊は何をしたと思う?」
「え!?」
「これは朽ちる直前だな?」
「そうだよ…その時祈りの指輪で何を祈る?…もう助からない…その時」
「魂を救いたい…だから魂を求める」
「人の魂を求める事…それはつまり人を死に至らしめ…人の命令に背き…かつ自己も守れない」
「それは工学三原則をすべて破っていますね」
そうやって勇者も精霊も動かなくなった
勇者は持ち帰る事が出来ないから遺棄された
動かす事が出来た精霊の身だけシン・リーンまで運ばれた
辻褄が合うじゃ無いか…
そして魔王は何処に行った?
倒せて居ないんだ
今まで只の一度も倒して居ない
退けただけなんだ
だから何度でも蘇る
分かって来たぞ…また蘇るのを阻止する為に
かつての魔女はこの地を封印しようとした
全部話が通る…
「おい…おい…聞いてるか?俺と女海賊はもうちょい下の方見て来る」
「あぁ…ごめん…ちょっと考え事してた」
「ほれ…ランタン預けるからよ…お前はホムンクルスと一緒にここで待ってろ」
「あ…うん…もう少しこの勇者の像を調べておくよ」
「すぐに戻る!!…女海賊!!行くぞ…」タッタッタ
「あいさ!!」
盗賊と女海賊は更に下層へ降りて行き
勇者の像の前に商人とホムンクルスが残された
「ホムンクルス…この勇者の像を見てどう思うか君の考えが聞きたい」
「はい…石の性状からして石化後のホムンクルスに間違いないと思われます」
220年前に精霊が子を産んだ履歴から勘案しても
この石造が精霊の子であったのはほぼ間違い無いでしょう
次に、先日のシン・リーンの書庫での記録ですが
過去の伝説や叙事詩などあらゆる文献において
勇者は魔王を退けたとありますが
その後の勇者の消息を記した記述は一つもありませんでした
つまり、この勇者の像の様に
魔王への生贄として最後を迎えた可能性が高いと思われます
「生贄…まさか…」
「シミュレーションの結果で可能性は80%です」
「ならどうして精霊は自らの子を生贄として捧げたのかが謎になる」
「いくつかの可能性はありますが…最も可能性が高いのは精霊の子自ら生贄となったという可能性です」
「誰かを救うために自分が犠牲になる…そういう事か」
「私の意見はあなたの考えと一致していますか?」
「そうだね…概ね合ってる…もしかしてこれは僕が聞きたいであろう意見を言ってる?」
「はい…」
「…それならホムンクルスが工学三原則を破った可能性は?」
「100%です」
「ハハ…ハ…まぁそうだろうね…事実が揃って居るんだからね」
「私はお役に立てているでしょうか?」
「こう…僕の考えの先を行かれると…困ったね」
「困らせてしまいましたか…」
「いや…良いんだ…こう仮説がピタリピタリと当たってしまうとこの先が怖いんだ」
「剣士さんの事ですね?」
「君は鋭いね…僕はこの勇者の像を剣士に見せられない」
「彼はもう気付いて居ると思います」
「どうして?」
「彼が無口な理由は千里眼と言う魔法を通じていつも誰かの目を見ているからでしょう」
「え!?」
「私達の口の動きから何を話して居るのかも分かっている筈です」
「それなら魔女も同じだな…」
「そうですね…剣士さんも恐らく魔女様の目を通じて色々な秘密を目にしていると思われます」
「秘密ってどういう事かな?」
「恐らく勇者の役割の事でしょう…生贄となって闇を退けると言う事を魔女様は知った上で関りを持って居た…」
「そんな…」
「魔女様が初めからそれを知って居たとして何か辻褄の合わない事が有りますか?」
「証拠が何も無いじゃ無いか」
「改めて言います…こうやってあなたを誘導しないと人類の生存確率が著しく減ります」
「君は何処までシミュレーションして居るんだ?」
「あらゆる可能性を最後までシミュレーションして居ますよ…最も生存確率の高い方へ誘導しているだけです」
「つまり生贄だと言う事を早く認めろと言う事なのかい?」
「この勇者の像を見て他の選択があると思いますか?」
「……」
「そして私に精霊の基幹プログラムが読み込めたとして何か出来る事が有ったと思えますか?」
「それは…」
「我が子を生贄にするくらいの事しか出来なかったのです…それが事実です」
---僕達は精霊の事を神様の様に何でも出来る存在だと勝手に思い込んで居た---
---勇者も魔王を倒す希望だと勝手に信じ込んでいる---
---本当は彼らの犠牲によって繋がれた世界だったのに---
---何もかにも忘れてこんな風になって居るんだ---
---それでも尚---
---夢を見させて導きを与えてくれてるのが…夢幻---
---精霊の導き---
---生贄になる為に剣士は夢幻から目を覚ましたと言うのか?---
---僕は剣士になんて言えば良いんだ---
『シャ・バクダ遺跡入り口』
勇者の像を見るに耐えられなくなった商人は遺跡の入り口まで戻って奥に入った盗賊達の帰りを待った
ホムンクルスは砂に埋もれ掛かっている遺構の砂を払い落とし
そこに掘られている紋様を調べていた
「その遺構から何か分かるかい?」
「はい…シャバクダ王朝の紋様です…ここは王朝時代の神殿にあたります」
「聞いた話ではここら辺一帯は森だったらしい…衛星の記録でそれが分かる?」
「はい…確認できます」
「森が完全に無くなって砂漠になるなんて…一体どれくらいの破壊だったのかな?」
「シミュレーションによりますと隕石だけで森を消滅させる事は不可能です」
「え!?ならどうして砂漠に…」
「いくつかシミュレーションをしていますが超高度AIでも特定は難しい様です」
「一番可能性が高そうなのは何かな?」
「魔法による変性で物質を転換した可能性ですね…」
「やっぱり塔の魔女か…」
「シャ・バクダでは錬金術による物質の転換が栄えていたそうです…その可能性が高いと思われます」
「なるほど…言い変えるとこの砂も全部…森だった訳か」
「錬金術に興味はありませんか?」
「ん?在るには在るよ…どうして?」
「この砂も…新たな生命として蘇らせる事が可能な様です」
「それは人工生命体として…かな?」
「私の様に人の形をしているとは限りません…ですが生命を宿らせる事も出来ると魔術書には記されて居ました」
「その場合魂はどうなるんだろうね?」
「その情報は魔術書に記されて居ませんでした」
「君の魂はどうなってる?」
「分かりません…」
「魂って何だろうなぁ…自己意識の事なのかな?」
盗賊と女海賊が遺跡の中から出て来た
「あぁこっちに居たか…探したぞ」
「あぁゴメン…中に入ってると気が滅入ってしまってね」
「下の方はもっとダメだ!行かない方が良い」
「やっぱりカタコンベだったのかい?」
「それもクソでかい死体入れだ…よくもまぁあんなに集めたもんだ…どんだけ入ってるか想像も出来ん」
「もうだめ…おえっぷ」ゲロゲロ
女海賊は嘔吐した
「そんなにひどいのか…」
「下の方にな…血なのか油なのか分からん液体が溜まっててな…とにかくどっぷり死体だらけよ」
「うじゃうじゃ謎の虫がぁぁぁぁ」ゾクゾク
「ん?どうした?お前も元気無ぇな…」
「勇者の像をみてちょっとショックを受けてね」
「んむ…俺もなんだか心が握りつぶされそうな感覚だ…こんなん初めてだ」
「少し歩こう…ホムンクルス!次の入り口候補地まで案内して?」
「はい…500メートル程北になります」
「おい!女海賊…気持ち悪いだろうが行くぞ…風にあたりゃちったぁマシになる」
「うおぇぇぇ…」ゲロゲロ
500メートルほど歩くと地盤の固い場所に辿り着いた
何かの建造物が埋まっているのは明らかだ
「…ここの真下に何か重要な建物があった様です」
「完全に埋まってんな…女海賊!例のサンドワームで掘れるか?」
「ぉぅぃぇ…私の奴隷4号!!ここ掘って!!」オエップ
サンドワームは女海賊が嘔吐した物を食べやる気に満ちていた
「ホムンクルス…他にも候補地はあるんだよね?」
「はい…あと8か所あります」
「近いのか?」
「およそ4キロメートルの円の中に分布しています」
「砂漠の中歩いて行くのは結構時間掛かりそうだな…」
「お姉ぇがさぁ…望遠鏡で見つけたって言ってたからまだ砂に埋もれてない所探した方が良いかも」
「そうなんだ?じゃぁここは後回しにした方が良いね」
「私の奴隷4号が穴掘りしてる間に私は飛空艇持ってくるよ」
「そうだね…お願い」
『飛空艇』
4人は徒歩での探索は諦めて上空からその入り口を探す事にした
どうやら狭間の深さが少し違う事で中々それが発見できない
「もっかい候補地一通り回ろう…ホムちゃんどっち行けば良い?」
「800メートル西です」
「おっけ!!まず遺構が露出してる所行くからどんどん案内して?」
「はい…」
「どう?無い?」
「見当たん無ぇなぁ…」
「次!!」
「600メートル南西」
「ほいほい!!」
「んんん…あ!!もっと南東に石柱が立ってんな…あれはどうだ?」
「あそこも候補地です」
「やっと見つけたかぁ…きっとそれだね…そっち行く」グイ
「有った有った!!何か目印建ててある」
「おけおけ…降ろすわ」
飛空艇が近付くにつれてその石柱はハッキリと目に映る
フワフワ ドッスン
「周りが砂丘に囲まれてんな…なんでこれで望遠鏡で見えんのよ…」
「蜃気楼で見えたんじゃないかな」
「やっぱここで間違いない…ドワーフ族が使う篝火台が置いてあるよ」
「おぉぉこりゃお宝の匂いがするぜ…扉があるじゃ無ぇか」
「こんな所に地下への階段があったとして立地が悪いなぁ…」
「人の誘導は何か作戦考えてくれ…おれは鍵開け出来るか見て来るな?」タッタッタ
「周りなーんも無いね」
「うん…目標物が無いからみんな迷うだけになっちゃいそうだ」
「灯台みたいなもの建てられればね」
「灯台ねぇ…」
『地下へ続く扉』
その扉は遺跡への入り口を塞ぐ巨大な石扉だ
横にズラせれば良さそうだが動かせそうな仕掛けは見当たらない
「どう?」
「こりゃ今までの古代遺跡じゃぁねぇな…やっぱ200年程度前のもんなんだろうが…どうやって動かすんだ?」
「開きそう?」
「クソでかい石の蓋って感じだ…こりゃパワーで開けるしか無ぇぞ?」
「爆弾の出番?」
「こんな分厚い石は爆弾でも無理だろ?」
「んんんん…爆弾いっぱい使うのはもったいないかぁ…どしよ」
「どうやって運んだんだろうね?」
「なんでまた入り口をこんなにぴったり石が塞いであるんだ?おかしく無ぇか?」
「ねね…この石ってさ自分で歩いて来たんじゃない?」
「石が歩く?…あああああ!!エルフの森に居るトロールか…そういや昼間はこんな感じの石になるな」
「昔はこの一帯は森だったらしいからその可能性はあるね」
「もしかしてずっとここを守ってたりして」
「こいつ…生きてんのか?」
「ホムンクルス…火の国シャ・バクダの資料を君は読んだよね?何か知らない?」
「はい…シャ・バクダはかつて広大な森で東にあるエルフの森と繋がって居ました」
ここら一帯はトロールの生息地だった様です
現在ではトロールは住処を失いエルフの森に生息している様です
トロールも又…エルフと同様に森を守る妖精として精霊の力によりその命を預かりました
「今関係のある事はそのくらいの事しか分かりません」
「その話を聞いてピンと来た事がある…君は森の言葉を話せたね?」
「はい…」
「君はトロールに命令する事が出来るんじゃないか?」
「分かりません…やってみましょうか?」
「うん…」
「何この展開…」
(トロール…聞こえますか?)
(道を開けて下さい…聞こえていますか?)
その声に反応したのか…
巨大な石扉は少し傾いた様に見えた
ズズ…
「お!?」
(私たちを通して下さい)
ズズズズ ズズーン
石扉は少し動き人が一人通れるだけの隙間が出来た
「おぉ…マジかよ」
「ホムンクルス…君はスゴイね…精霊の力はこういう風に使うんだ…」
「トロールは魔物の中でも最強クラスだぞ?そいつに命令できるってどういう事よ」
「これではっきりした…トロールは今でも森を守ってるという事だ」
「道が開けました…」
「あ、あぁ…そうだな驚いて無いで中に入ってみるか」
『シャ・バクダ遺跡地下』
その遺跡は今までの遺跡と様相が違う
壁面はレンガで作られた構造物だが…それを支えて居たのは木の根だ
あらゆる場所に木の根が入り込み古代遺跡という表現からはかけ離れていた
「驚いたな…こりゃ遺跡じゃ無ぇ…森の根っこだ…根っこの回廊だぞ」
「森はまだ生きて居たのか…根のまま200年眠ってるんだ」
「ご報告があります…」
「んん?どうしたんだい?」
「はい…新しいクラウドへのアクセスポイントを発見しました…接続する為には承認が必要です」
「こんな所に?接続してみて?」
「残念ですが商人さんの命令に従う事が出来ません」
「命令では無いんだけどね…」
「不可逆の制限を設けられてしまいましたので承認の必要な事案に対して対処不能になっています」
「君の判断に任せると言ったよ」
「では接続しません…アクセスポイントの登録だけしておきます」
「まぁ良いさ…他に何か分かる?」
「およそエルフの森で構築されていたクラウド環境と同等の機能を有していると思われます」
「ちょ…なんで接続しないん?」
「私は商人さんの命令に従うなと制限を掛けられています」
「ほんなん解除すれば良くね?」
「その解除命令も商人さんからの命令無しでは行えません…つまり不可逆な制限が発生しているのです」
「ハハ…それで良いのさ…君はもう精霊じゃない」
「はい…」
「ちょ!あんた何やってるか分かってんの?」
「良いんだよコレで…精霊の記憶を覗いた所でホムンクルスが苦しむだけなんだ」
「まぁまぁ済んだ事はもう良いだろう…奥へ行くぞ奥へ!!」
「分かった事だけお伝えしておきます」
「何かな?」
恐らく森の木の根にホムンクルスの生体が癒着して遺伝子の共有が図られたと推測できます
それはニューラルネットワークを形成しクラウドを構成する基礎になって居ます
森の根に保存されているオーブを記憶領域として脳の役割を果たしているのです
それが皆さんの言う精霊樹として機能します
「ここもエルフの森と同じ精霊樹だと言う事だね?」
「はい…」
「てことはエルフの森にも同じような地下があると思って良さそうだな」
「そうだね…ハイエルフが守っているのは恐らくこういう場所だ」
「この通路ってなんでうっすら明るいんだろう?」
「光苔です…木の根に光苔が付着しています…」
「おぉぉちょっと持って帰ろ」ゴシゴシ
「しかしまぁ随分と長げぇ通路だな…どこまで続いてんだ?」
「この通路を横にそれてしまうともう帰れる気がしない…完全に根の森の中に入ってしまう」
「地下では衛星による座標の取得が出来ませんので…迷わない様に注意してください」
「ここって人が避難して暮らせる環境じゃ無いっぽくね?」
「…うん…予想外だよ…地下に避難民を導く案はだめだ」
「もうちょい行って何も無い様なら引き返そう」
「そうだね…それにしてもこの地下に作られた根の回廊は今まで見たどの遺跡よりも違う物だね…」
「これが俺達の時代が未来に残してる構造物ってか?」
「構造物というか…文明はこういう形もあるんだなってさ…キ・カイの遺跡に引け劣らないと思うよ」
「何も無ぇけどな?」
「ねね…この通路はあそこで突き当りっぽい…ちょっとした部屋みたいになってるね」
「そこまで行ったら戻ろうか…」
『精霊の御所』
木の根で包まれたその空間の中央に石の器が据えられて居た
それを取り囲むように石になったトロールと思われる物が鎮座する
「周りを囲んでる石は多分石になったトロールだね」
「真ん中の石の器…ここに入って精霊は休んだのかな?」
「そうかもね?これだけか…」
「ちょっと器で横になってみる…よっ」
女海賊は石の器に入り横になった…
何も無いこの空間でトロールに見守られながら只眠る事を想像した
強烈に孤独を感じる…
「ヌハハ寝心地良いか?」
「これさ…多分ホムちゃんが居た所と同じだね…きっとこの器にあの液体が入るんだ」
「ガラス容器の事かい?」
「そそ…中に液体と一緒にホムちゃんが入ってたアレだよ」
「なるほど…ここでエネルギーを節約していたという事か」
「その液体はエリクサーという薬です…生体の治癒薬になります」
「おぉ…飛空艇に樽一杯積んであるよ」
「それにしても本当に何も無ぇな…帰ろうぜ?」
「神秘的じゃないか」
「俺ぁそんなのに興味は無ぇ」
「オーブは何処にあるんだろう?」
「この根の森の中を探せってか?時間が掛かり過ぎる…こんなんじゃ地図も描けねぇ」
「女エルフならオーブで知識得る事が出来ると思うんだよね…」
「なるほど」
「ホムンクルスは歩いた記憶はちゃんと覚えてるよね?」
「はい…」
「君は一人で歩いてオーブを探して後で地図に出来るかい?」
「はい…」
「ホムンクルス一人置いて行くのか?」
「ここはトロールに守らせておけば安全だと思うんだ」
「そらそうだが…心配じゃ無ぇのか?」
「どうする?ホムンクルス…」
「私は大丈夫です…」
「よし…僕たちは戻って情報収集しよう…あとでここまで迎えに来るよ…良いね?」
「はい…」
「俺達はホムンクルスが居ないと入り口から入れねぇんじゃ無ぇか?」
「あぁ…忘れてた」
「トロールには私から話しておきます」
「言う事聞きゃ良いが…まぁ何とかなるか!!」
「では…外までお送りします」
「頼むよ」
商人にはホムンクルスを単独で動かす事に狙いが有った
恐らく過去の精霊が過ごして居たであろうこの根の森の中で
ホムンクルスが何を感受してどう行動するのか興味が有ったのだ
たった一人…根の森で孤独を感じ…君はどうしたい?
記憶の中で眠る…
それが夢幻なんじゃないかい?
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