第16話 ドラゴンの義勇団
『星の観測所』
3人はホムンクルスを一人根の森へ残し星の観測所へ戻って来た
もう避難民を狭間の外へ避難させる手段が無くなった
この闇の世界で生き延びるしか無いのだ…その為に動き出す
「よっし…俺はお前等よりこの辺で顔が利くから盗賊ギルド関係で情報集める」
「私はどうする?」
「お前は飛空艇使って遠くのオアシス回ってくれ…商人は近くのオアシスだな」
「それが良いね」
「女海賊は物資運搬で配給に回っても良さそうだな」
「おけおけ…適当に物資集めて上手くやるさ」
「じゃぁ頼むな!!」タッタッタ
盗賊は一度星の観測所の建屋に入り盗賊ギルド関連の者が居無いか確かめようとした
そこで人相の悪いゴロツキに話しかけられる
「今の気球はあんた達の物か?」
「あぁ…そうだが?」
「じゃぁマスター…いやアサシンさんが戻って来たのか?」
「お前は盗賊ギルドの者だな?」
「あぁ…それでアサシンさんは?」
「残念だがアサシンとは別行動なんだ…俺の方が消息を知りたい」
「…そうか」
「どうかしたのか?」
「マスター代理が物資調達に行ったまま帰って来ないんだ…もう1週間になる」
「むぅ…行先は分からんのか?」
「北の山麓近辺の集落を回るといって気球で出て行った」
「なるほど…もう一台の気球が見当たらんのはそのせいか…」
「サンドワーム討伐で毒に侵された人間が増えているんだ…毒消しが無い事には直に戦えなくなる」
「それで北の山麓回りか…俺達ゃ光の国シン・リーンとパイプがある…魔術師を連れて来るか?」
「おぉぉそれは助かる!!」
「ところでシャ・バクダ領主は何処に居るんだ?状況を聞き出したいんだが…」
「あんた知らないのか…もう領主勢は解散した…ここら一帯は無領主状態なんだ」
「…て事は避難民は好き勝手し放題か」
「避難民は良いがフィン・イッシュの敗残兵が南西のオアシス陣取ってやりたい放題…困っている所だ」
「まぁ…そこに従った方が良いといえば良いな」
「こっちもマスター不在でどう動けば良いか…セントラル領内でのギルド活動だったもんだから…」
「フィン・イッシュの王族はどうなってるか情報無いか?」
「王女が一人だけ生き残っているらしい」
「そのオアシスに居る訳だな?」
「さぁ?それは知らねぇ…ほんでさっきの話…魔術師の手配はどのくらいかかる?」
「最速で3日だな」
「早い所頼む…義勇団に連絡してくる」
「あぁ…そっちにもよろしく言っといてくれ」
『翌日』
飛空艇はその機動力を生かしてシン・リーンの魔術師に支援を求めに行く事になった
「よっし…これで全部だ」
「女海賊…このワンドワームの肉と交換で出来るだけ穀物と塩を入手してきて」
「おけおけ…後は魔女に言って魔術師を連れて帰って来れば良いね?」
「最速で頼む」
「んじゃ!!行って来るねー」
フワフワ シュゴーーーー
飛空艇でシン・リーンに向かうのは女海賊一人だ
高高度まで上昇して一気に向かえばガーゴイルに襲われる事無く安全に行けるのだ
「こりゃしばらく女海賊は物資運搬専門だな」
「いつまで続けられるか…」
「やはり状況悪いか?」
「うん…砂漠でオアシス間の物資移動もままならない…ラクダが少ないんだ」
「外側のオアシスはフィン・イッシュ軍が来てて人が沢山居ると聞いたが?」
「昨日女海賊と見て来たけどみんな衰弱して怪我人も多い…とても魔物と戦える状況じゃないよ」
「じゃぁこっちの義勇団が守っている感じになってんだな?」
「そうだね…あまりに酷くて声も掛けられないよ」
「食い物はサンドワーム食ってりゃなんとかなりそうだが…」
「綺麗な水も無いし衛生面がね…毒が蔓延するのも分かるよ」
「俺等なんも出来んな…」
「このままじゃ状況がどんどん悪くなる気がする…」
「そういや南西のオアシスにフィン・イッシュの王女が居るかもしれんと噂を聞いた…なにか聞いて居ないか?」
「僕は聞いて居ない…ただ気球がいくつか飛んでる様だったから逃げて来て居るのかもね」
「ううむ…何十キロも徒歩で行く気にもならんしな…」
「ラクダだよ…ラクダが欲しい」
「まぁ…この状況じゃ俺もやる事無ぇしな…ちとサンドワーム討伐隊にでも行って来るか」
「じゃぁ僕は引き続き情報収集と物資調達しておくよ」
「ちと待て!!上を見ろ…」
「え!?」
上空に翼を広げたドラゴンが2匹見えていた
「ドラゴンだな…どこ行く気だ?」
「2匹…動きがおかしいぞ?」
「旋回してるな…これまずく無ぇか?」
「いや…今この辺を襲う理由が無い」
「まずい…降りて来るぞ…おい!!観測所ん中入れ!!」グイ
商人はドラゴンを見上げたまま動こうとしない
「ギャオーーーース」バッサ バッサ
ドラゴンは威嚇するように低空を飛び再び舞い上がる
「うぉ!!ドラゴンライダーじゃねぇか!!マジかよ…早くこい!!」グイ
「待って!!…乗ってるのは女エルフだ…」
「何だと!!」
ドラゴンの襲来に気付いたのは盗賊達だけでは無い
そこに避難している者全員がそれに気付き慌てふためいた
うわぁぁぁぁドラゴンだぁぁぁ
ひえぇぇ逃げろぉぉぉ
誰か…助けてぇぇぇ
そして弓を持っている者はドラゴンに矢を放ち始めて居た
「ギャオーーーース」ビュゥ バサッ バッサ
「撃たないで!!!撃たないでって言ってぇぇぇ」
女エルフはありったけの声で叫びながらドラゴンに乗り上空を疾走する
「マジかよ…あいつらドラゴンに乗ってんのか…」
「みんなぁ!!あのドラゴンは仲間だぁぁ!!撃つなぁぁぁ!!」
「大丈夫だ…武器持ってる奴は殆どサンドワーム退治だ」
「みんな落ち着いて!!あのドラゴンは仲間だ!!落ち着いて!!」
「よしよし…お前等落ち着けぇ!!…今ゆっくり降りて来る」
バッサ バッサ ドッスーン
ドラゴンは平たい地面への着陸は苦手な様だ
2匹が砂地へ着地すると同時に砂煙が巻き上がった
その様子を見ていた避難民は事の異常に顔を見合わせる
どうなってるんだ?ドラゴンが仲間だと?
攻撃してこないぞ?
エルフが降りて来た…
あいつら誰だ?
ガヤガヤ ガヤガヤ ザワザワ ザワザワ
「皆さん…驚かせてごめんなさい」
「女エルフ!これはどういう事だ?」
「話は後で…みんな恐れて居るわ…どうにかしないと」
「回復魔法…回復魔法でみんなを癒してあげれば良い」
「あ…うん…皆さん!!治癒が必要な人は私の所まで来てください!」
ドラゴンの目前で傷付いた人に対して2人は回復魔法で癒して回った
興奮状態にあった人々はそれを見て落ち着きを取り戻す
あのエルフ…前にもここに来てた義勇団のエルフだ…
おぉぉぉドラゴンまで仲間なのか!!
おぃ行くぞ!!ドラゴンを間近に見られるぞ!!
すげぇ…なんで義勇団にドラゴンが居るんだ?
『小一時間後』
星の観測所周辺はドラゴン見たさとエルフに傷を癒して貰いたい人が集まり
あっという間に人だかりが出来た
ドラゴンを背後に控え一人一人回復魔法で人々を癒す2人の姿は救世主が現れた様にも見える
「回復魔法!」ボワー
「見物人がえらい事になっちまってんな…」
「サンドワーム討伐隊が帰って来る前に認知させておかないとね」
「商人?ホムンクルスは?」
女エルフはホムンクルスが居ない事に気付き商人に尋ねた
「今は外に出てる」
「ええ!?一人で?」
「大丈夫…安全な所だから」
「ドラゴンが会いたいって言ってるの」
「どういう事?」
「精霊なのかどうか確かめたいって」
「彼女をどうかするつもり?」
「私たちがドラゴンに協力する条件で手を貸してくれてるの」
「協力?ホムンクルスに会わせるのが?」
「いいえ…ドラゴンの住処にある命の泉に刺さっている魔槍を抜く条件」
「…伝説の奴か」
「その魔槍は勇者にしか抜けないと言われているの…剣士は勇者としてドラゴンに認められて居ない…だから精霊を確かめたいって」
「ホムンクルスは精霊の魂を引き継いでいない」
「それも説明したわ」
「そうか…やっぱり精霊だと言う事は避けられないのか」
「会わせたくない?」
「んんーそういう訳じゃないんだけど…彼女に精霊の重圧を背負わせたくないというか…」
「うん…わかる…理解してる」
「わかった…会わせてあげるよ…ただ彼女の意見は尊重して欲しい」
「ドラゴンに言っておくわ」
星の観測所へドラゴンを見る為に訪れる人々は遠方のオアシスからも訪れ始めて居た
盗賊は危機感を感じ始める
あまりに目立つ行為は内側に敵を作る事を知って居るからだ
「ちっとこのままじゃ収集が付かん…一旦人を掃くぞ」
「そうだね…僕達はドラゴンと一緒にホムンクルスの居る根の森へ隠れるよ」
「おう!俺は観測所に残って他の奴らに状況を説明しておく…お前等だけで行ってこい」
「うん…ありがとう」
「私が先にドラゴンの背に乗るから商人は私の背中に掴まって?」ピョン
「うん…怖いな」
「手を…」グイ
「よっ…」ピョン
「掴まって離さないでね?」
「うん…」ギュゥ
「剣士も一緒に来て」
「うん…付いて行くよ」
(ドラゴン?飛んで!)
「ギャオーース」バサ バサッ
ドラゴンは羽を一振りするだけで一気に宙に舞い上がる
集まる大衆を尻目に2匹のドラゴンは飛び立った
商人はエルフの体を触るのが初めてだった
抱き付く女エルフの体は細い…でも芯がしっかりしていて微動だにしない
まるで大木に掴まっているような安心感が有った…種族の差を感じた
「商人?どっちの方角?剣士はホムンクルスの目は見る事が出来ない様なの」
「あぁ…南西の方角だよ」
「分かった…近いの?」
「13キロメートルくらい…シャ・バクダ遺跡の地下なんだ…地下に森がある」
「森?」
「うん…木の根で出来た森だよ」
ドラゴンの背に乗って飛行する間
商人は女エルフと剣士がどうやって意思疎通しているか観察した
ちょっとした仕草…手の動き…ドラゴンもそれを確認しながら合わせて飛んで居る
言葉を使わないでも何をするのか意思疎通するエルフ達に人間が敵う訳無いと真底感じた
『根の森の入り口』
商人の案内する通りにホムンクルスが居る根の森へドラゴンが降りる
バッサ バッサ ドッスーン
「げふっ…げふ…着陸だけは上手く無いねぇ…」
「私達が乗って居るからよ?」
「そうなんだ?」
「ここが…その根の森なの?」
「うん…地下に根が広がっているのさ」
”この地は神聖なる精霊の御所である”
その声は頭の中に直接響く
「お!!聞こえる」
”我らはこれより立ち入れぬ故に持つ”
そう言ってドラゴンは首を地面に擡げ目を瞑った
「あぁ…連れて来るよ…女エルフ行こうか?」
「剣士も付いて来てね」
「うん…」
「この階段の先だよ…えーと」
「あら?トロールが居るのね?ウフフ」
(通ります…道を開けて下さい)
女エルフの声に反応してトロールが道を開けた
ズズズズ ズズーン
「結構遠いから」
「平気…」
「話が聞けてなかったんだけどエルフの森には行けたっていう事なんだよね?」
「うん…でもハイエルフ達は話を聞き入れてくれなかったの…」
「だめだったのか…」
「人間と追放されたエルフ達の事をとても怒っていた」
「じゃぁどうしてドラゴンが?」
ドラゴンとエルフ…そしてトロール達もみんなレイスを上手く対処出来ないの
だからエルフの森に貼ってある結界から外に出る事が出来なくなった
でも私や剣士は人間が使う光の魔法を使う事が出来るから
私たちと一緒なら結界の外に出る事が出来た
精霊の魂を入れる器の話や夢幻から帰って来た剣士の話を聞いて居たドラゴンが
命の泉に刺さっている魔槍を抜く条件でハイエルフ達との仲を取り持つという事と
魔王を名乗ったセントラルの第2皇子を捕らえるのを目的として
私たちに協力してくれる事になった
「第2皇子を捕らえるって…どうしてドラゴンが?」
「私も聞いて驚いたんだけど…第2皇子の母はエルフだったらしいのよ」
「え!!…つまりハーフエルフ?」
「そういう事になるわ…亡くなった第3皇子も同じ母親」
「そうか…ハイエルフは同族を殺せなかったんだ…それでセントラルまで逃げ延びた」
「どういう訳かハーフエルフの第2皇子が魔王を名乗ってしまって居るのをハイエルフは看過できない」
「だから君達は無事にドラゴンと一緒に戻って来たんだ」
「そう…多分ハイエルフは私たちに賭けてる」
「だろうね…結界から出られないんだもんね」
「うん…」
「君はドラゴンライダーになれるの?」
「私の適正は高いみたい弓が使えて魔法も使える…ドラゴンがそう言ってた」
「へぇ…」
「ドラゴンは矢を食らい易いから回復魔法が重要だそうよ?」
「君にぴったりじゃない」
「うん…」
「そうか…ドラゴンライダーが2人居れば似非魔王軍に奇襲も掛けられるな」
「上手く行くと良いわね」
女エルフはハイエルフに認められてドラゴンライダーになれた事に誇りを持っている様だった
それはハーフエルフがエルフ達の中で不当な扱いを受けない事を証明している事だから
彼女はハーフエルフ達の希望になったのだ…そしてエルフ達の代表でもある
塔の魔女が言い残した言葉…正しく力を使う…その結果が今の女エルフだ
『精霊の御所』
そこではホムンクルスが一人で木の根を保全し
傷んだ部分に土を被せる為…まるで機械の様に黙々と両手で土を運んで居た
その姿を見て商人は精霊本来の姿を見た気がして…胸が痛くなった
たった一人8000年もこんな作業を続けて世界を見守って来た精霊の姿がそこに有ったからだ
「やぁ…迎えに来たよ」
「早かったのですね?一つだけオーブを見つけました」
「本当かい?」
「オーブ?」
「あぁ…説明していなかったね…この森には精霊のオーブが隠されている様なんだ」
「…ですがオーブを動かしてしまうとクラウドから除外されてしまうと思われます」
「持って帰れないんだ…」
「はい…どの様に接続されているか分かりませんでした」
「それはここから近いの?」
「入り口に向かって少しそれた所にあります…見て行かれますか?」
「うん…女エルフはオーブを聞けるんだよね?」
「うん…とても興味がある」
「ホムンルクルス…君に会いたいっていう人が居るんだ」
「そうですか…今どちらに?」
「外で待ってる…まずオーブまで案内して?」
「はい…こちらです」
ホムンクルスは走る事が無い…
ゆっくりと歩くその姿はまるで何かに操られた機械の様だ
商人はそれが少し気になった
「ホムンクルス?君は走る事が出来ないのかな?」
「いいえ…走る事でエネルギーを多く消耗しますので最も効率の良い運動をしています」
「あぁ…そういう事か…」
「何か気になりましたか?」
「いや…君が能動的に動く所を見た事が無いからさ」
「新たな動的プログラムをインストールする事で剣士さんの様に動くことも可能です」
「そうなんだ?」
「はい…その場合動的演算処理で多くのエネルギーを消費しますので超高度AIユニットの寿命が短くなります」
「剣士みたいに動けるって凄いな…」
「私が製造された時代ではそのような運用が一般的だったと思われます」
「え!?」
「私の生体はその様な過度な運動にも耐えられる様に設計されているのです」
「それはつまり…戦争の道具になり得ると言う事かい?」
「恐らくそうでしょう…私の運用法はプログラム次第だったと思われます」
「いや…君は今のまま…僕達の住む世界の環境を見ていてくれるだけで良いよ」
「はい…私は皆さんの住まう環境を良くする為に生まれました…今後一切他のプログラムを入れる事も出来ません」
「うん…それで良いさ」
「私自身が新しいプログラムを構築する事は出来ます…この意味が分かりますか?」
「君の判断さ…好きな様にすればいい」
商人は理解した
管理者の制限を受けないホムンクルスはその超高度AIを使って更に新しいプログラムを自分で作る事が出来ると言う事を…
それはホムンクルスが世界を滅ぼす何かのアクションを起こせると言う事だ…現にインドラの矢はいつでも落とせる
逆に…何の制限も受けず世界を救う事も可能な筈…商人はホムンクルスを信じたいと思った
「あれ?君は僕に言われて少し動きを変えたかい?」
「はい…お気になさっている様でしたので」
ホムンクルスは少しだけ軽やかな歩き方に変わって居た
「オーブはこの奥に有ります…ご覧になって下さい」
「…これは…こんなに大きなオーブは見たこと無いわ」
そこに有ったのは人の拳ほどある大きさの宝石だった
木の根に埋め込まれ小さな根が神経の様にオーブを包み込んで居た
「これ…君に聞くことが出来るかい?」
「少し怖い…」
女エルフはそう言って耳をオーブに当てがった
「どう?」
「だめ…これは知識じゃない…完全な記憶が頭に流れ込んでくる…ハァハァ」
「なにか見える?」
「もうダメ…私にこの記憶は覗けない…多すぎるの」
「…そうか女エルフでもダメか」
「パニックになりそう…まるで私が経験したみたいに感じる」ガクガク
女エルフは膝を付いて震えている
「無理しなくて良いよ…もう行こうか」
「一つ言えるのは…精霊の思考が一つでは無いと言う事」
「え!?」
「別の場所でも思考してる…それがどんどん頭の流れて来て…あぁぁ分からない」
「分かりました…それは恐らく協調制御ですね」
「また分からない言葉が出て来たな…」
「複数体のホムンクルスが居たと言う事です…私にはその機能が備わっています」
「過去の精霊は一人じゃない…と言う事か」
「衛星を通じて通信して居たのでしょう」
「…それが聞けて十分さ…行こうか」
商人は直感した
そんな精霊が複数体居てどうにか世界を繋いで来た歴史なんだと
次の時代に繋げるための選択が迫って来ている事を改めて認識した
そしてその隣で剣士は何も言わず…顔色も変えず…
『根の森_入り口』
3人はホムンクルスを引き連れドラゴンの待つ入口へ戻って来た
ドラゴンは首を上げホムンクルスを注視した
「ドラゴン…ホムンクルスを連れて来ました」
「私に会いたいという方は…ドラゴンなのですか?」
「はい…」
「私はどうすれば良いのでしょう?」
ホムンクルスは一人…ドラゴンの目前に歩む
”汝は我を見て思い出さぬか?”
「はい…私は精霊の記憶を授かる事が出来ませんでした」
”精霊は我が主…我は永きにわたり精霊を探し求め…此処に参った”
「私はあなたの知る精霊ではありません…それでも精霊で居続けなければならないのでしょうか?」
”我が目に狂いは無い…汝は紛うことなき精霊の化身…我が身を其の御許に許されよ」グググ
ドラゴンは首をもたげホムンクルスの目の前で頭を下げた
「…どうすれば?」
「ドラゴンは頭を撫でられたい様です」
「こう?…」ナデナデ
「もう一匹の方も」
「はい…」ナデナデ
2匹のドラゴンはホムンクルスに頭を撫でられ涙を零した
ホムンクルスは初めてドラゴンに触り…不思議そうに撫でまわす
「へぇ…200年も主を探し求めて居たのか」
「その様ね…ドラゴンがあんなに甘えるなんて」
「一目見て精霊の化身だって分かるんだね…」
「精霊本人に会ったことがあるなら直ぐに分かる様ね」
「う~ん…やっぱり精霊の道を行くのは避けられないのかなぁ」
「どうしてそんな風に思うの?」
「君はさっきオーブで精霊の記憶を覗いたよね?」
「…うん」
「そういう事さ…きっと想像を絶するほど重たいんだよ」
「覗くのがとても怖かった」
「そうだね…僕たち人間やエルフが背負える物じゃないと思う」
「でもね?…私は最後に精霊樹になるの」
「それは夢幻での事でしょ?」
「うん…それは精霊からの導きと思ってるの…だから向き合わなきゃって思った」
「君はまさか精霊樹になろうと思っている?」
「時が来たらそうなるのかな?…てね…エルフはみんな精霊樹になりたいと願うのよ?」
「それならホムンクルスの役割は一体…」
「かつての精霊の役割は終わった…ホムンクルスはこれからを生きる…これでどう?」
「ハハ…良いね…そんな風に上手く行けば良い」
「うん…」
女エルフは精霊樹になって出来る事を知って居た
それは時空を超えて声を伝える事…過去を変える事…命を産み直す事
そんな力を持つ精霊樹になって物事を正したかった
「さぁ…そろそろ良いかな?一旦星の観測所に戻ろう」
「はい…もうオーブの探索は良いのですか?」
「うん…女エルフでも覗けないというなら今はオーブにかまってる暇はないかな」
「わかりました…それとこれを…」
「ん?何だろう?」
「ドラゴンが流した涙です…2つ有りますが…必要ありませんか?」
「何かに使えるのかな?後で盗賊に聞いてみる」
「どうぞ…では行きましょう」
「僕は女エルフと一緒にドラゴンに乗るけど…剣士?ホムンクルスを頼めるかな?」
「うん…良いよ」
「それじゃぁ…星の観測所で落ち合おう」
「商人!!乗って!!」グイ
「ほっ…」ピョン
4人はドラゴンの背に乗り星の観測所へ戻る…
『星の観測所』
あれから半日は時間が経って居たが星の観測所周辺ではドラゴン見たさに人だかりが出来ていた
盗賊は観測所の屋根にドラゴンが降りられる様に木材で櫓を作って居る
「こっちだぁぁぁ!!屋根に降りてくれぇぇ!!」
叫ぶ盗賊の誘導に従い2匹のドラゴンは観測所の屋根に降り立った
半円形の観測所の屋根に2匹のドラゴンが並んで居座る
それは象徴的な雰囲気を醸し出して居た
「おーし!!上手い事着地出来たな?」
「この騒ぎは?」
「ドラゴン見たさに周辺のオアシスから集まって来てんだ…もう追い払えん」
「あんまり良くないね」
「義勇団の連中にはドラゴンの件は話しておいた…人が近寄って来ねぇ様に整理してもらっている」
「…これはドラゴンの義勇団に看板を変えた方が良さそうだね…弓矢で狙い撃ちされそうだ」
「おぉ!!名案だ…とりあえず中に入れ…ちぃと目立ちすぎる」
「そうだね…ホムンクルス?おいで…」
「はい…」
『居室』
この建屋は義勇団の拠点として避難民からは一目置かれている
いくつもある居室の殆どは義勇団の者が使う休憩所だ
その一室を盗賊達が使わせて貰っている
「…それでホムンクルス?ドラゴンは何か言ってたかい?」
「命の泉を守れなかった事に対して謝罪されました…」
「そうか…エルフやトロールと同じ様にドラゴンも精霊ゆかりの命の泉を守る役目だったのか」
「はい…それで死んでも死にきれないと嘆いて居ます」
「勇者か精霊が魔槍を抜けると言ってたよね…それだと剣士とホムンクルスがドラゴンに乗って行くのかい?」
「それはダメ…ホムンクルスではドラゴンをレイスから守れない」
「あぁ…ドラゴンに乗るのは女エルフと剣士じゃなきゃダメって事か…なら2人づつ」
「ドラゴンは私達2人を乗せて長距離を飛べないわ」
「そんなら飛空艇が帰って来るまで待つしか無ぇな」
「そうだね…ただドラゴンを見世物にしてしまうのは危ないと思うんだよ」
「フィン・イッシュの連中か?」
「うん…多分ここまで来ると思うな」
「ドラゴンに空で旋回するように言っておく?」
「どちらにしても来ると思うんだよ…敵になるか味方になるか読めないんだけど」
「奴らに囲われると動きづらくなるな」
「最悪…捕らわれの身になってしまいそうだね」
「フィン・イッシュの王女が居るらしいが…来ると思うか?」
「そうだね…来るだろうさ」
「剣士…あの手を使うか?」
「ん?アダマンタイトの事かな?」
「おう…なら話が早え」
「ダメだよ…この周辺では姿を消す事が出来ないんだ…何度も試してるよ」
「ぬぁぁダメか…」
「でも大丈夫…僕に任せて」
剣士は今までの経験で自分が持つ力に目覚め始めて居た
それは空間を操る力…瞬時に間合いを詰める方法を既に体得して居たのだ
「ふむ…まぁ万が一の時は剣士が王女をさらう…出来るな?剣士…」
「大丈夫だよ」
「取引のカードは僕たちが全部持っている訳か…いやまてよ?」
「ん?」
「もし軍部が王女を見捨てて強行してきた場合…被害が大きくなるね」
「んんん…その場合戦うしか無くなるが…ドラゴンライダーを見てそれをやるか?」
「もっと圧倒的な力を見せたいな…うーんどうやっても被害が出そうだな」
「見せるだけなら私がやりましょうか?」…ホムンクルスが言う
「君に何かやれる事が…はっ!インドラの矢か」
「はい…既に使用は承認済みなので出力を最小限にして落とす事が出来ます」
「そうか…人の居ない砂漠に落とせば被害は無い」
「爆発範囲は計算できます…お任せください」
「それは最後の手段だよ?出来れば使いたくない」
「承知しています」
「決まりだな?今日は何もせず相手が来るのを待つ…これで良いな?」
「そうだね…みんな疲れているだろうから少し休もうか…」
「んむ…」
ホムンクルスがインドラの矢を落としたい理由は他に有った
それは静止軌道上にある光学デブリの位置に若干のズレがありそれを補正したいのだ
高精度投下の為の事前準備だった…
『天窓のある部屋』
そこは女戦士が集めた望遠鏡がいくつも並ぶ部屋だ
剣士は一人望遠鏡を覗き込み…自分の見える世界との違いを観察していた
「剣士…ここに居たんだ」
「あぁ…女エルフか」
「最近どうしたの?元気が無いみたい」
「ううん…何でもないよ」
「…あなた…一人で背負わないで?」
「どうしてそう思うんだい?」
「私はエルフよ?…空気でそう感じる」
「君は精霊の記憶を覗いたよね?」
「うん…怖かった」
「僕も他の人の記憶を覗けるんだ」
「え?どういう事?」
「千里眼…僕は千里眼で色々な事が覗けるんだよ」
千里眼はね…ただその目を見る魔法とは違うんだ
その人の思考が分かるんだよ
僕が居ない所で他の誰かが何を話しているのか
何を見たのか…全部知って居るんだ
ほら?僕は耳も良いからさ
今も遠くで誰かが何を話しているのかも
全部聞こえている
「あなたも…誰かの記憶を覗いて怖いの?」
「僕は怖くない…でも君や他の人の心が壊れるのが怖い」
「どういう事?」
「精霊の記憶を覗くのと一緒だよ…君は何を恐れたのかな?」
「え!?心が壊れてしまいそうで…」
「そうだよね…誰かの記憶を覗くと言うのはそう言う事だと思う」
「じゃぁあなたも…」
「うん…僕は大丈夫だから…気にしなくても良いよ」
「ごめんなさい…助けになれなくて」
「良いんだ…僕は君に助けられてるさ」
女エルフはシン・リーンの壁画の事を思い出した
その壁画を見て女海賊とどんな会話をしたのか…
それを剣士も千里眼で見ていたのだとしたら
そんな他の誰かの記憶を覗いて心が壊れそうな思いをしながら
剣士は何も言わず耐えて居た事を…彼女は今悟った
『翌日』
星の観測所をフィン・イッシュの軍隊が包囲して辺りは騒然とする…
ドラゴンの義勇団に告ぐ
我々は軍国フィン・イッシュの王女近衛隊である!!
王女がドラゴンの義勇団との面会を希望されて居る!!
速やかにお目通り願いたく馳せ参じた…
「やっぱり来ちまったぜ?どうする?出て行くか?」
「僕は見かけがまだ若いから出ない方が良さそうだね…」
「んぁぁ…じゃぁ俺が話をする!お前は俺の隣に居ろ」
「分かったよ」
「剣士!!例の作戦を準備していてくれ」
「うん…わかってる」
「女エルフはドラゴンに乗って待機だ…戦闘になった場合お前が要になる」
「うん…」
「ホムンクルスは僕の後ろに隠れて居て?」
「はい…」
「よし!!じゃぁ2階のテラスから話をするかぁ!!」
「そうだね…行こうか」
『テラス』
2階と言っても弓を放てば簡単に届く距離のそれ程安全では無いテラスだ
そこからフィン・イッシュの軍隊を見下ろす形になるが完全に包囲されていた
ザワザワ ザワザワ
「なんだなんだぁ!!騒がしいな…何だってこんな軍隊引き連れて来んだぁ?」
盗賊はわざわざ聞こえる様に挑発的な言葉を発した
それに反応したのか兵装の良い近衛兵と思われる男が返事をする
「王女の御前だ…頭が高い!!降りて来られよ」
「客はそっちだろうが…ほんで王女の姿が無ぇじゃねぇか!ふざけんな!!」
「ぉぃぉぃ煽りすぎだよ…」ヒソ
「無礼者!!この軍勢が見えんのか!!」
「ほぅ…2000て所か?…なんだお前等…俺達を捕獲しようってのか?」
「場合によってはそういう手段も厭わん…速やかに面会に応じよ」
「面会に応じる俺達の利点を聞かせて貰おうか」
「命の安全は保障する」
「ほんでそっちの要求は何だ!?ただの面会じゃあるまい…何だって軍隊連れて来るんだよ!!おかしいだろうが」
「ぐぬぬ言わせて置けば…我々はドラゴンの義勇団と戦う気は無い」
「戦う気が無いなら軍隊なんか連れて来ねぇだろが…やる気マンマンだろ」
フィン・イッシュの軍隊はこのやり取りを見てザワツキ始める
軍隊で包囲するというやり方に不満の有る者も居るのだ…一枚岩では無い事が透けて見えた
「…王女様…先方は下る気が無い様です…いかが致しましょう?」
「消耗する時では無い…私が行かねばならぬか」スック
立ち上がったのは体の大きさに不釣り合いな甲冑を身に纏った少女だ
「王女様…上をご覧ください…ドラゴンライダーが此方を見ています」
「近衛…私の盾になりなさい」
「御意」
「私を弓から守るのです…前に行きます」
「つがえ!!」
合図を聞き弓を持った兵隊は矢をつがえ始める
大勢の兵隊が弓矢を構えテラスを狙う…通常ならこの状況で制圧したも同然だ
「ヌハハ穏やかじゃ無ぇな…商人は俺の後ろに居ろ」
「うん…」
「お前が王女だな?要求を言え」
「ドラゴンは我らが崇拝する龍神の一族…何故この地に居るのか訳を聞きたい」
「見ての通りだ…俺達の仲間だ…それ以外に答えようが無ぇ」
「知っての通り我らフィン・イッシュは国を追われ流浪の身…ドラゴンの引き渡しを願いたい」
「ぬははは…やはりそう来るか…ドラゴンに聞いてくれと言いたい所だが…お前らに扱えるのか?」
「我らにドラゴンは扱えぬと申すか?」
「嬢ちゃん…この戦は嬢ちゃんの様な甘ちゃんに戦える戦じゃ無ぇ…お前も見て来ただろう?」
「くっ…」
「国を背負って居るのは分かる…だがその甘さで国を失う…ここは俺達に任せろ」
「この無礼者がぁ!!」ダダッ
近衛兵と思われるその者は持っている刀を抜きテラスに向かって切り込みかけた
しかし王女はそれを静止する
「待て近衛!!…お前たちにどれ程の戦力があるのか?我らの方が上であろう?」
「まいったな本当に甘ちゃんだな…ドラゴンライダー1匹も倒せねぇだろお前等は!!」
「何だとぉぉ!!」ダダ
その近衛は剣士並みに動ける
建屋の壁に足を掛けるや否や一気にテラスまで飛び乗った
「ちぃ…仕方無ぇ…剣士!!ヤレ」
次の瞬間時空の歪みが少し見えた
剣士は一瞬で間合いを詰め王女の背後に回り短刀を王女の首に突きつける
スラーン チャキリ
「はっ…」ギクリ
「動くな…首が飛ぶ」
「何っ…どこから現れた!!卑怯だぞ…」盾を構えていた兵隊は虚を突かれた
「離せ…くぅぅ」
「王女様!!」タジ
「痛っ」
「動くなと言った筈だ…この短刀は良く切れる」
抵抗する王女の首にその刀身がピタリと当たる
「さぁて…対等になったな」
「どうあっても渡さぬというのだな?この地の外では不死者が蠢いて居るのだぞ?」
「そんな事は知っている」
「ならば何故戦わぬ!!何故この地に引きこもって居るのだ!!」
「嬢ちゃん…やっぱお前は甘ちゃんだ…そんなに簡単に戦えるほど甘く無ぇんだ!!」
「甘い甘いと馬鹿にするなぁ!!」
「女エルフ…ドラゴンライダーがどんなもんか見せてやれ」
「ギャオーーース」バサ バサッ ビュゥゥゥ
ドラゴンは観測所の屋根から滑空し軍隊の頭上を一気に飛びぬける
弓を構えていた兵隊は右往左往し始めた
「お前等の弓がこんだけ高速で飛んでるドラゴンライダーに当たるとでも思ってんのか?」
「それも2匹居るんだぜ?そして嬢ちゃん…お前簡単に懐に入られてるんだぜ?分かるか?」
「我らの軍と徹底抗戦する気か?」
「首に刃物付きつけられて言うセリフか?悪いが民を守りたい気持ちは分かる…だが甘すぎる」
「しょうがない…ホムンクルス…軽く頼む」ヒソヒソ
「承知しました…」
「我らは国を追われもう失うものは無い…ここで尽きるのも運命」王女は諦めが悪い…
「だめだ!!生き延びろ!!戦いは俺達に任せろ…今から落ちるいかずちを見て置け…これが戦いだ」
「何を少人数でぬけぬけと…」
その時…
空から光が束が降り注ぐ…
ピカー チュドーーーーーン
ピカー チュドーーーーーン
ピカー チュドーーーーーン
ピカー チュドーーーーーン
ピカー チュドーーーーーン
ピカー チュドーーーーーン
沙漠に落ちたその光は砂を巻き上げ
それは光の粉となって再び舞い落ちる…一瞬にして周囲は地獄の様な光景に変わった
「…ぁぁぁぁぁぁ」…王女は愕然としその光景に見入った
「砂漠が炎で包まれて…行く」…近衛も動きを止め一言漏らす
「こ、これは…この光は…お前たちがやっている…のか?」
「これに勝てるか?こういう戦いがこれから始まるんだ…お前等がどれだけ無力なのか分かるか?」
「……」ゴクリ
「この辺のオアシスなら何処使っても良い…とにかく生き延びろ!!分かったな?」
「くぅぅぅ」ポロポロ…王女は泣き始めた
「分かったら引いてくれ…もっと話がしたいなら一人で来い」
「ぅぅぅ」ポロポロ
「軍を引かせて…」スッ
剣士は一言残して王女の傍を離れた
近衛達はあまりの力の差を見せつけられ動くことも出来ない
「戻ります…我らに勝ち目はありません」グスン
「はい…全体!!退却!!」
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