第19話 軍国フィン・イッシュ
『軍国フィン・イッシュ』
最も軍事力を誇って居た筈のフィン・イッシュは既に壊滅し滅んで居た
町を埋め尽くして居たゾンビは女海賊の作った新型の爆弾で大半が蹴散らされそこら中で燃え盛っている
しかしゾンビのすべてを駆逐した訳では無い
飛空艇を着地させた建屋の周辺にも次から次へと新手のゾンビが迫って居た
「ヴヴヴヴ…ガァァァァ…」ヨタヨタ
女海賊は銀のピッケルを振り回しながら迫るゾンビを次々と倒して居た
銀のピッケルは一撃でゾンビの頭部を粉砕するだけの威力がある
そして鎧を着こんだゾンビでもピッケルが貫通して心臓を撃ち抜く
華麗な戦いぶりでは無いが4方から迫るゾンビを一撃で仕留めるのは有効な戦い方だ
「おうおう!!派手に暴れてんな!!」
「油あった!?はぁはぁ…」
「そんな簡単に見つかる訳無えだろ」
「ほんじゃ何さ?その荷車」
「木材とか石炭とか使えそうな物をとりあえず積んで来たんだ」
「石炭か…まぁ良いや!倒したゾンビ集めて焼いて」
「ここに降ろしとくからお前がヤレ…俺はもうちょい物資探索だ」
「ちぃ…しょうがないな…てか!荷物降ろしたら荷車空くよね?」
「んん?何でだ?」
「倒れたゾンビ積んでどっか燃えてる所に突っ込んどいてよ…邪魔なんだ」
「へいへい…しかしこりゃキリ無いぞ?」
「ほんなん分かってるって!私等行動すんのに数減らさないと動きにくいじゃん」
「まぁその通りだ…あんま無理して怪我すんなよ?」
「癒し苔ある…あんたも持って行きな」ポイ
「おぉ!!お前は物持ちが良い…助かる」
「ちゃっちゃと行って油とか硫黄とかなんか見つけて来て」
「そこら中火の海でそうそうまともな物資なんか無いぞ?」
「地下とか有れば何か残ってんじゃ無いの?」
「おぉ!!地下か…確かにそうだな」
「分かったら早く行って!!」
その後もゾンビ退治は続いた…
物資調達は盗賊と商人が担当する一方で剣士と女エルフは生き残っている人を探しに城の方へ行った
女海賊とホムンクルスは飛空艇周辺の安全確保だ
ホムンクルスも飛空艇の中からクロスボウに爆弾を取り付け女海賊を援護する
ゾンビになった熊などの大型の動物は女海賊の手に負えないからだ
バシュン!! ドーン!! パラパラ
「ホムちゃんナイス!!そのまま固定砲台やってて!!」
「はい…お気を付けください」
「お~い!!」
「んん?商人?一人なん?」」
「荷車を引くの手伝ってぇぇ!!」
「何その樽…油見つけたん?」
「残念ながら油じゃ無いけど…これは聖水さ…竜の銀杯があってね‥そこにこの水が溜まってたんだ」
「お!?それでゾンビ倒せる感じ?」
「倒せないけれどこの聖水には近付いて来ないのさ…そして飲める」
「それで一人で荷車引いて来たんか」
「うん…君達もこの水を分けて持って居てごらん?ゾンビが寄って来なくて安全だよ」
「盗賊は?」
「まだ探索やってる…銀の精製所に使える石炭と硫黄が残ってた…砂銀もあるよ」
「おぉぉソレ全部持って来て」
「盗賊が一ヵ所に集めてるんだ…次持って帰られると思う」
「おけおけ!ここ守っとくから」
「それからコレ!!」ポイ
「んん?芋?」
「食べられる物はそれしか無い…他はみんな燃えてしまった」
「あんま食べる気も無いんだけど…」
「貴重な食べ物だからホムンクルスにも分けてあげて」
聖水のお陰で飛空艇の周辺は格段に安全になった
盗賊と商人が少しづつ集めて来た物資で爆弾を追加で作る事が出来て状況は安定していく
しかし2日程探索を続けても生き残っている人達を見つけられない
城を細部まで捜索した剣士と女エルフは首を傾げていた
「みんな無事?」
「見ての通りよ…クタクタだがな?ヌハハ…」
「城の方はもう誰も居なさそうだよ」
「地下には行けんのか?」
「行って見て来たよ…でもアサシンの眼から見える場所の方には行けない」
「地下なのは間違い無いんだな?」
「うん…感じる方向は分かる」
「俺もあちこち地下を探して回ったがそれらしい場所が見当たん無ぇのよ」
「困ったね…眼が見えているだけに放っても置けない」
「俺等に気付いた様子は無いんか?」
「無いね…」
「じゃぁ相当深いんだろうな…エルフの鼻でも探せんってか…」
「もう鼻が利かないよ」
「盗賊!!ゾンビが燃えてて近付けなかったんだけど…墓地に地下がある様だよ」商人が言った
「あぁ俺も気にはなって居たが…どうせカタコンベだろうと思ってな」
「ハハやっぱりそう思うか」
「どうせそっからゾンビが這い出て来てんのよ…一応行ってみっか?」
「もうそこぐらいしか無いよね」
「うむ…どうすっかな…女エルフは飛空艇を一人で守れるな?」
「大丈夫よ」
「ほんじゃ他の皆で行ってみっか」
「ホムンクルスもかい?」
「どうも女海賊と上手くコンビ組めるのよ…クロスボウ撃つのはお前より上手いぞ?」
「あたたた…僕が最弱か…」
「じゃぁちっと休んだら行くか!!」
『墓地』
鉄柵で囲われた墓地にゾンビの亡骸が山積みになって燻って居た
その一角に地下墓地への入り口がある…そこにも鉄柵が設けられ閉まって居る
「おろ?こりゃ鍵が開いてんな…鉄柵が閉まってるだけか」
「ゾンビの侵入防止かもね?鉄柵を自分で開けられないんじゃないかな?」
「なるほど…ほんじゃ地下の方は意外と安全なのかもな?」
「一応用心はしておこう」
「役割決めとくか…剣士は照明魔法で明かり役だ」
「え?それで良いの?」
「先頭は俺が行く…お前は俺等に回復魔法と倒したゾンビを魔法で焼くのに専念してくれ」
「そう言う事か…」
「女海賊はアタッカーな?」
「私前衛じゃ無いんだけどなぁ…」
「お前は鍛えりゃ女戦士並みになれる素質がある」
「まぁ良いや…」
「商人とホムンクルスは俺らの後方守備だ…商人はホムンクルスをしっかり守れよ?」
「分かったよ」
「おーし!!ほんじゃ行くぞ!!」
『地下墓地』
そこは沢山の棺が並び死者を丁寧に埋葬する為の墓地だ
しかし棺の中に入っている筈の死体はすべて無くなって居て何処かに運び出された様だ
「こりゃどういう事ヨ?全部処理したってか?」
「処理したのか…ゾンビになってしまったのか…」
「足元見て…魔方陣だよ」
「やっぱここで耐え忍んだ様だ」
「耐え忍ぶにしては浅すぎるね」
「いや…外からゾンビが入り込んで来るなら此処で凌げる」
「じゃぁ外に積んで有ったゾンビの亡骸はそれだったのかな?」
「かもな?」
「うーん…この深さだと狭間の外に出ていない…もっと下に降りないと」
「まだ奥に続いて居るよ…」
「皆さん…ご報告があります…」
ホムンクルスが珍しく話し出した
「んん?」
「私の生体が病気に掛かった様です」
「え?今?」
「未知のウイルスに感染しています私には抗体がありません」
「まさか…魔王の欠片だったりしないよね?」
「分かりません…私は怪我などはしていませんから飛沫感染の可能性が高いです」
「ゾンビだな…ゾンビの血はそこら中にこびり付いている」
「それはつまり僕たち全員感染している可能性が高いね」
「ウイルス増殖の速さから計算して発病まで1週間程度と思われます」
「次から次へと色々起こるなぁ」
「私の生体でウイルスの調査を続けておきます」
「調査って?」
「どの様なウイルスなのかを調べる事によってワクチンなどの対処法が見つかる可能性があります」
「その間お前は大丈夫なんか?」
「多少の体力消耗は有るかもしれませんが発病までおよそ問題無いと予測されます」
「まぁ一週間掛かるってなら今慌てる事も無いな」
「はい…」
「先に進むぞ!」
『地下墓地_下層』
下に進むにつれてゾンビとは違ってミイラ状の魔物が現れる様になった
魔術書にはそれがドラウグと言う魔物だと記されている
ドラウグは錆びた鎧や武器を身に付けゾンビとは違い手強い…この国の古い時代のサムライだからだ
カーン キーン
「どるぁ!!」グサッ
「こっちも!!」ターン
女海賊はデリンジャーを使って小さな大砲を撃った
ドラウグの胴体に拳程の穴が空き動かなくなった
「うほーー良いなその武器!!」
「至近距離専用さ…ピッケルより火力ある」
「しかし銀じゃ無えのにそのちっこい大砲でもゾンビ倒せるんだな?」
「んあ?銀を精錬した余り物が鉛なんだよ…純度の低い銀みたいなもんさ」
「おぉ!!そういう事か」
「次の奴来るよ!!あんたがアレ引き付けて」
「任せろ…そのデリンジャーを俺には当てんなよ?」
ドラウグには明らかに知性があった
単一の目的…この場所を守る為に動かないのだ
倒れたドラウグを商人が調べ始める
「燃やすのちょっと待って…」
「ん?どうした?」
「他のゾンビとは全然素性が違いそうだと思ってね」
「確かにそうだな…何か持って無いか?」
「あ!!呪符と同じ様な印がある…やっぱり誰かに操られてるんだ」
「商人さん…魔術書に書かれていた事を私は記憶しています」
「ホムンクルス…何か分かる?」
「呪術によって死者に特定の命令が出来る様です…この国では忍びの一族にその様な術を使う者が居るらしいです」
「おぉ?聞いた事あんぞ?天狗の仮面を被って空を飛ぶとかな?」
「はい…忍びの一族はフィン・イッシュ王家を守る影の組織です」
「魔女みたいな人が居ると言う事だね」
「そういやオアシスの嬢ちゃんの所にもヤケの動きの良い奴が居たな…」
「もしかすると今倒したドラウグは敵じゃ無いかも知れないよ?」
「マジか…もう何体も倒しちまったんだが…」
「ねぇ…この下の層で人の気配がする」クンクン
剣士が鼻を嗅ぎだした
「本当か!?お~い誰かいるかぁぁぁ?」
その声に反応したのか一体のゾンビが近付いて来る
「ヴヴヴヴヴヴヴ…」ヨタヨタ
「またゾンビか!!このう!!」ダダダ
「待って!!このゾンビは襲って来ない」
「何ぃ!?」
「ちょい待ち!!何か話してる…」
「ヴヴヴた…すけ…に…来たの…か?ヴヴヴヴ」
「意識がある!!助けに来たんだ…回復魔法!」ボワー
「遅かっ…た…奥に…皇子が居るヴヴヴヴ」ドタリ
そのゾンビは床にへたり込んだ
「おい!!他に生きてる奴は居ないのか?」
「もう…ヴヴヴて…手遅れ…だヴヴヴヴ」
「もう一層下が有るんだな?案内出来るか?」
そのゾンビは這いながら奥へ進んで行った
一行はその後を追う…
『もう一層下のフロア』
そにには避難していたであろう兵隊達の死体が積み上がって居た
まだ動いて居る者も居るが皆血色が悪い…ゾンビになりかかって居るのだ
「これは…生きている人がゾンビ化しているんだ…どうにか止めないと」
「この死体は痛みが酷い…共食いの痕だ…こりゃひでぇ環境だ」
「グガガ生きた…血肉でゾンビ化が…止まるヴヴヴ」
「意識の在る奴はどのくらい残って居る?」
「十人…足らずググガガ」
「くあぁぁ壊滅だ…女海賊!!飛空艇に10人乗せられるか?」
「ムリ…ダッシュでオアシスまで行けば2日…往復する?」
「それしか無えだろ」
「おっけ!丁度焼夷弾の材料足りなかったから取りに戻るわ」
「ようし…全員連れて行ってやる」
「ねぇ…そこの死体をサンドワームに食べさせても良い?」
「こんな時に何言ってやがる…」
「生きた血肉…サンドワームの血なら飲ませてあげられるかも」
「それは良い案ですね…サンドワームはゾンビを食べても平気…つまり抗体を持っています」
「マジか…」
「もしかするとゾンビ化を止める良薬になるかもしれません」
「いでよ私の奴隷4号!!」ボトリ
「うお!!なんか成長してんな…お前そんなもん背負ってたんか…」
「あんたの血ぃちょっともらうよ」グサリ
「プギャァ」ビクビク
「この血を皆に飲ませてあげて」
「お、おう」
『奥の部屋』
部屋と言っても袋小路になった区画に物資を積んだだけの場所だ
そこに一つ椅子が置かれ鎖に繋がれたエルフがうなだれていた
「…この椅子に繋がれているのが皇子か?」
「ヴヴヴヴヴヴヴヴ」ガチャン ガチャン
意識が有るのか無いのか…発作的に動く体を拘束されている
「だめだ…こいつはもう意識が無ぇ」
「アサシン?ねぇ…あんたアサシンじゃないの?」
女海賊は壁にもたれ掛かって居るゾンビを揺すっている
「ヴヴヴヴ…や…っと」
「剣士!!アサシンが居た!!回復魔法お願い!!」
「お…そか…ったな」
「ひでぇやられ様だな…戦闘の傷が癒えて無ぇ」
「回復魔法!」ボワー
「蒼い瞳…やはり…お前が勇…者か…げふっ」
「……」コクリ
剣士は何も言わず頷いた
「精霊…は…どうした?」
「ホムンクルスおいで」…と商人
「はい…」
「器を…見つけたのだ…な?…げふっげふっ」
「アサシン…状態が良くない様だね」
「無理してしゃべるな」
「私は…もうダメ…だ…気にする…な」
「商人!?お前ドラゴンの涙持っていたな?飲ませろ…心臓がドラゴンになりゃ何とかなるかも知れん」
「はっ…そうだった…アサシンこれを食べて」グイ
「むぐ…ドラゴンの…涙か…私はまだ死ね…ないのだな」
「剣士…お前は蘇生魔法は出来ないのか?」
「試してみる…蘇生魔法!」ボワー
「何も…変わった感じは無い…ゾンビ化は癒せん様だヴヴヴ…ガガ」
「ちぃ…他にワクチンか何か必要だってか」
「サンドワームの血を持ってきた…これ飲んで?」グイ
「むぐ…むぐ…むぅぅぅ生きた血…か」
「気分はどうだ?」
「最悪だ…クックック」
剣士は意識の有る者全員に蘇生魔法と回復魔法を施した
サンドワームの生き血はとりあえず意識を繋ぐのに効果は有った様だ
10人程どうにか動けるように回復した
「はぁぁぁ…水は持って居ないか?」
「あるよ…ホラ?聖水なんだけど大丈夫かな?」スッ
「知らん…殆ど水を口にしていないのだ」ゴクゴク
「どう?」
「喉が焼ける…酒を飲んでいる様だ」
「良くない症状だね…」
「一思いに死にたいぐらいだ」
「この状況見ると…かなりの地獄だった様だな?」
「そうだ…私は地獄を見たクックック…そしてまだ生きねばならん」
「他の王族はどうしたのよ?」
「近衛を引き連れて更に下層へ逃れた…その後の安否は知らん」
「ここに残ってるのは?」
「ゾンビの追っ手を防ぐために残った者達だ…全員フィン・イッシュの近衛だったが見る影もあるまい」
そこで椅子に繋がれている男が誰だか分かるか?
セントラルの第2皇子…正体はハーフエルフ…奴も精霊の導きを知る勇者の一人だ
エルフの誇り故に…人の血肉をすすりゾンビ化を止める事を最後まで拒んだ…成れの果てだ
私は奴に話を聞き…セントラルで起こった魔王復活の真相を聞いた
そして奴も私と志を同じくする同志であった事もな…
奴は父であるセントラル国王の命によりエルフから祈りの指輪を奪い破壊する予定だった
しかし破壊に必要なもう一つの祈りの指輪をセントラル国王は持ってなど居なかった…騙されたのだ
そして魔王復活の悲劇が起きた…お前たちの知っての通りだろう
しかしまだ完全に復活はしていない…魔王にも又…その魂を入れる器が必要なのだ
魔王は死者の体を器として渡り歩き未だ彷徨っている…自らの魂を入れる器を探してな
「俺達は第2皇子が魔王になったと聞いて此処まで来たんだが…」
「そうとでも言い降らさないとわざわざお前達がこの国へ来るとは思えなかったのだ…だが遅すぎた」
「やっぱそうだったか…」
「100日待ってもお前たちは現れず…闇も祓われなかった…これはどういう事だ?」
「実はなアサシン…100日というのは狭間の外での事らしい」
「クックック私は気付くのが遅すぎた様だ…狭間の外では今どれくらい時間が経ったのだ?」
「正直分から無ぇ…狭間を出入りしているから何日経ったのかもう分からなくなっている」
「ここではもう1年程か…見ての通り全滅だ…帰還する体力も残って居なかった所だ」
「あぁ…連れて帰ってやる」
「そして…精霊の魂はどうなったのだ?精霊は闇を祓えんのか?」
「夢幻の精霊はすでに200年前に死んで居たよ…居なかったというオチさ」…と商人
「私は超高度AI搭載の環境保全用ロボットです…私は人間の住まう環境を良くする事ができます」
「精霊では無いのか?」
「半人前の精霊…と言った所か」
「クックック…それでは私は剣士を殺すしか無いでは無いか!!何の為に今まで戦って来たのか…」
「まぁ落ち着けアサシン…ひとまずシャ・バクダに帰るぞ」グイ
「僕はアサシンと二人で話がしたい…みんなは他の人を連れて飛空艇に行って」
「ちょ…剣士?あんた2人っきりになったらアサシンに何されるか分かんないよ?」
「大丈夫だよ…今のアサシンじゃ僕を倒せない」
「確かにその様だ…剣士!お前はアサシンと一緒に後方から付いて来い」
「うん…」
「おっし!!飛空艇まで戻るぞ!!」
一行はゾンビ化した兵隊達を引き連れながら地上へと戻って行った
『飛空艇』
オアシスまで最高速で飛ぶ為には7人程度を乗せるのが限界だ
フィン・イッシュに残る人が活動できる為の物資を少し降ろして行く事にした
女海賊は大事な物資としてエリクサーの入った樽を2つ飛空艇に積んで居た…その一つを降ろす
「ええ!?私が一人で兵隊乗せてオアシスまで行くの?ほんなんダメだって!」
「お前以外に迷わないで行ける奴が居ないだろう」
「私が居ない間にアサシンが剣士に何かするかも知んないじゃん」
「んむむ…」
「剣士とアサシン遅いねぇ…」
「アサシンのあの様子じゃまだ動けんだろうが…確かに心配だな」
「戻って来るわ…ほら?」
「本当だ…剣士がアサシン背負ってる」
「和解していれば良いが…」
「剣士!!」タッタッタ
女海賊は心配でたまらず剣士に駆け寄った
「ごめん遅くなった」
「あんた平気?」
「大丈夫だよ」
「アサシン!!剣士と何話したのさ?」
「クックック未来の話を少しな…」
「どんな未来なのさ…もう私はあんたの助手なんかやんないかんね」
「その心配は必要無い…もう盗賊ギルドは解散だ…しかししばらく見ない内に随分姉に似て来たな?」
「フン!!」
「女海賊?さっきの話聞こえて居たんだけど…」
「んん?誰がオアシスまで行くのかって?私は行かないよ」
「僕が行けば良いんじゃない?方角も分かるし飛空艇も動かせるよ」
「ええ!?」
「おぉ!!そら名案だ…ゾンビ化した兵隊にも回復魔法出来るしな?」
「アサシンと一緒じゃ無きゃ…まぁ良っか…」
「たまには飛空艇にも乗って見たかったのさ」
「おっけ!!星の観測所に置いてある私の物資分かる?」
「わかるよ…君の眼はいつも見ているから」
「……」
女海賊は何も言えなくなった
シン・リーンの壁画の事も…シャ・バクダの勇者の像の事も…全部剣士は知って居る
「あ…あんたちゃんと帰って来てよ…」
「うん…心配しないで」
軽く微笑む剣士を見て少し安心した
「おっけ!!ゾンビ退治はあんたの代わりにやっとくから」
「任せたね?」
「おっし!!ほんじゃダッシュで行って戻って来い!!」
「うん…行って来る」
剣士はそう言ってゾンビ化した兵隊を乗せて飛んで行った
『とある建屋』
建屋の上までゾンビは登って来ない
聖水を随所に設置しているのも有ってこの建屋だけはかなり安全だ
その屋上にクロスボウと爆弾を設置して簡易的な避難所になった
「クックック…聖水に魔除けの効果が有ったとはな…もっと早く知って居れば随分違っただろうに」
「純度の高い銀も魔除けの効果があるってフィン・イッシュの王女が言ってたよ」
「それは知って居る…レイスはそれで何とかなったのだ」
「ゾンビには効果が無い?」
「有るには有るのだが数が多すぎた」
ガチャン! ヴヴヴヴヴ ガァァァ
「うわぁ!!この皇子…聖水を見て暴れてる…」
「どうにもならんな…生き血も飲まんし…聖水見ても暴れ出すし…」
「そいつはどうにか救ってやりたいのだが…」
「あの…エリクサーを少し与えてみては如何でしょう?」
「何か効果が期待出来るのかい?」
「エリクサーは生きている人には万病の薬なのです…ゾンビ化を治癒出来るかも知れません」
「そんなら俺らも少し飲んどいた方が良いかもな?」
「はい…ですが実験の為に私の指示に従って貰えますか?」
「おう!どうすりゃ良い?」
「まず点眼で試させてください」
「そりゃ簡単だ」
「ホムちゃんこれエリクサーを皇子に飲ませて良いん?」
「いいえ…エリクサーによって何かの反応が出る可能性がありますので一滴だけ与えるのです」
「おけおけ…てか間違うと即死するかも知んないね?」
「はい…生きている人には薬ですが保存薬としても使われますので死体の場合活動が停止する恐れがあります」
「ドラゴンの涙を飲んだ私はどうなる?」
「分かりません…試すのでしたら少量が良いかと…」
「喉が渇いて仕方が無いのだがな…」
「聖水で薄めてみるかい?」
「やってくれ…どちらにしても体に水分が足りん」
「水分の口径摂取は15分置きに一口づつが良いです」
「すまんが他の兵隊達にも少しづつ与えて欲しい」
「商人!!聖水ってまだ有るん?」
「あるよ?汲みに行こうか?」
「ちっと私も喉渇いたさ…ちょい汲みに行こう」
「お待ちください…喉が渇くと言うのはゾンビ化の初期症状かも知れませんね」
「ええ?マジ?」
「女海賊さんもエリクサーを点眼してください」
「へいへい…商人も点眼したら行くよ!!」
『銀杯のある広場』
銀の装飾でこしらえた竜の口から流れて来た水が銀杯に流れ込んで溜まって居た
その周辺にはまったくゾンビが居ない
「ごくごく…ぷはぁ!!」
「どう?美味しい?」
「そだね…なんで此処だけ聖水が湧くんだろ?」
「聖水が湧いて居るんじゃ無くて湧水が銀杯に注がれて聖水になって居るのでは?」
「銀が浄化してくれてるんかな?」
「そうだと思うよ」
「ほんじゃさ…この銀杯に魔王入れたら浄化するかな?」
「ハハ…これを持って帰るかい?」
「どうやって魔王ぶっ倒すか考えてんのさ」
「イイね…君のそういう所…」
「マジで考えてんだって」
「魔王は今何処に居ると思う?」
「ゾンビの中に居ると思って爆弾ぶっ放したさ…でも黒いドロドロが何処に居るか分かんない」
「魔王の欠片と言う奴だね?」
「うん…探してんだけど見当たんなくてさ」
「本当厄介だよね」
「なんかイライラして来たぞ…全部燃やさないと気が済まない感じだよ」
「これだけのゾンビを燃やしても気が済まないかぁ…」
「目的はゾンビじゃ無いから…どっかに居る魔王をどうにかしたいんだ」
「僕が魔王ならね…こんな所にもう用は無いよ」
「え?ほんじゃどうする?」
「アサシンが何か知ってるかもね…そういう話を剣士としたんじゃないかな?」
「ちょ…もしかして剣士が飛空艇に乗って行っちゃったのって…」
「分からないよ…アサシンに聞いて見ない事には…」
「アサシンは何でも私に秘密にするんだ…あんにゃろうどうやって喋らせるかな」
「もう少し落ち着いたらちゃんと話を聞こう…それより君…少し体の汚れを落として行ったら?」
「んん?そういや汚れっぱなしだったなぁ…」
「ここは安全だから僕は少し離れていても良いよ」
「おけおけ…ちょい軽く汚れ落とすわ」
「向こうで待ってるね」
『とある建屋の前』
30分程して水を汲みに行って居た女海賊と商人が荷車を引いて戻って来た
「あれ?女エルフ…あんただけ外で見張り?」
「荷車を引く音が聞こえたから一応…ね」
「あっちにキレイな聖水が湧いてるんだ…あんたもちっと汚れ落としに行って来なよ」
「良いの?」
「多分一人で行けるさ…あんたも銀の剣使って接近戦やってっから汚れちゃってるよね」
「じゃぁちょっと汚れを落として来る」
「いてら~」
「ねぇ…あなた植物の種を何か持って居ない?」
「んん?在るけど何に使うん?」
「綺麗な水があるなら成長魔法で育てて収獲出来るかも知れない」
「おぉ!!マジ?」
「光は照明魔法でなんとか出来そう」
「これ剣士の食料で残しておいたんだ…チェリーの種と…あとこれどんぐりだな‥あ!リンゴもあるわ」ゴソゴソ
「リンゴが良さそう」
「おけおけ…持って行きな」ポイ
「ありがとう」
「此処ん所何も食って無いわ…リンゴなら食えそう」
「行って来る」シュタタ
『建屋の屋上』
そこでアサシンは廃墟となったフィン・イッシュを眺め聖水で薄めたエリクサーを飲んで居た
「聖水汲んで来たよ…どう?飲めそう?」
「あぁ…エリクサーを混ぜれば随分マイルドだ…体に水分が行き渡ればもう少し動ける」
「なにアンタ干からびてんの?」
「知るか…筋肉が強張って居るのは脱水の症状なのだ」
「よう!アサシン…どうだ?廃墟になった町を眺めんのはよぅ」
「絶望だな…」
「やっぱそう見えるか」
「しかし良くあのゾンビの大群を此処まで減らした物だ」
「殆どは女海賊の新型爆弾で消し飛んだ…その後燃やしてんのは2匹のドラゴンなんだが…」
「ドラゴンまで味方につけて居たか…」
「何処行っちまったかな?どっかで休憩してんのかもな?」
「魔方陣のペンダント渡してあるから矢が飛んで来なきゃ怖い物無いんじゃね?」
「確かにそうだな…」
「ほんでアサシンはオアシスまで戻ってどうする気なん?」
「さぁな?お前達に生かされているだけの身だ…今は何も考えたくない」
「星の観測所は今ドラゴンの義勇団って事になってるんだけどよ…お前を待ってる奴も居るぞ?」
「何度も言わせるな…心底疲れた…」
「フィン・イッシュの戦いはそんなに酷かったのか?」
「あぁ…始めは人の裏切りから始まった…恐らく魔王の影響なのだろう」
「この国は30万は人が居た筈だな…それが全滅とは想像出来ん」
「裏切りにゾンビ化の病…まさに地獄だ」
「フィン・イッシュの王女がオアシスに逃れてまだ生きている…お前が逃したらしいな?」
「そうか…生き延びたか…まだ復興の芽は残されていたか」
「まだ分かん無ぇ事が…魔王は一体どこにいる?」
「クックック分からんのか?私にもお前にも…すべての人間の中に潜んでいる…器を求めて彷徨っているのだ」
「ええ?それじゃ手の打ちようがない…」
「ではお前たちはこれから何処に向かおうとしているのだ?」
「シャ・バクダに戻るんだが…」
「そこに何が有る?」
「何って…遺跡ぐらいなもんだな」
「カタコンベは見たか?」
「おう…反吐が出そうな死体の山だ」
「何故200年もあのままなのか考えなかったのか?」
「なぬ!?」
「塔の魔女はそれを封印したのだ…何故か?…答えは簡単だ…そこに魔王となる何かが眠って居るのだ」
「ちょいアサシン!!フィン・イッシュを滅ぼした魔王の欠片はどうなっちゃってんのさ?」
「恐らく魔王の欠片は塔の魔女が施した封印に近付けんのだ…他の器にその欠片を宿して近付くつもりなのだろう」
「ゾンビの群れ…」
「ちょ!!剣士一人でシャ・バクダに行っちゃったじゃん!!」
「知らん…それは私の判断では無い」
「女海賊!慌てないで…ゾンビの足は遅いよ…ここから徒歩で行くのは何日も掛るし飛空艇の方がずっと早い」
「ぐぬぬ…」
「一つ言わせて貰う…魔王と勇者は表裏一体…既に剣士が魔王に操られている可能性も有るのだ」
「もうやめて!!そんな話もう聞きたくない!!」
「そうだな…私も疲れた…もう止めよう…しかしお前たちは塔の魔女から何も聞かされていないのだな?」
「塔の魔女はもう死んじゃったさ…最後の話は聞かされて居ないよ」
「それは残念だ…弟子にシン・リーンの姫が居た筈だが会って居無いのか?」
「会ってる…魔女も何か知ってんだね?」
「魔女はこうなる事をはじめから予見している…それを変えるのが精霊を呼び覚ます事だった」
「ちょいどういう事?」
「精霊だけが魔王を封じる術を知っていた…居ないとなってはこの世は滅びの一途だ」
「ホムンクルス…君は何か分からないのかい?」…商人はホムンクルスに尋ねた
「はい…ウイルスに対抗するにはワクチンが必要です…つまりそういう事だと思われます」
「ワクチン?」
「ゾンビ化の病に対するワクチンは恐らくサンドワームの抗体で得る事が出来ると思います」
「ゾンビの話じゃないよ…」
「はい…同じように魔王化に対するワクチンは先の精霊が解析済みであった可能性は少しながらあります」
「魔王化だって!?」
「私のシミュレーションですと魔王はウイルスである可能性が最も高いのです」
「君は解析できないのかい?」
「私は魔王化を体験した事がありませんから…」
「ああああああああああ!!!そういう事か…」
「おいおい…いきなりでかい声出すな…びっくりするだろうが」
「体験…200年前の勇者はそれを体験してる…魔王化のウイルスを解析する為に自ら生贄になったんだ!」
「体験済みであれば解析は数秒で終わりますね…可能性はあります」
「商人…お前は夢幻の記憶を忘れたのか?しきりに夢幻の話をしていただろう?」
「え?夢幻…そうだ思い出せない」
「お前は夢幻の中で薬剤師と名乗る者と最後までワクチンを研究していた筈だ…私もそこに居た」
「記憶が…無い」
「精霊からの導きに気付かんとはなクックック」
「大事な事を忘れてしまっている…導きだったのかさえ…わからない」
「魔槍を抜くときに剣士が言ってたな?夢幻の記憶を失うってよ…でもなんでアサシンは覚えてるんだ?」
「私はその場に居なかっただけだろう…そしてこれを見ろ」バサ
アサシンは懐から一冊の手記を取り出した
「手記…記憶を全部まとめているんだね?」
「私の夢の話なぞ人に見せる物では無いと思っていたが…やはり恥ずかしいものだクックック」
「見せてもらって良い?」
「笑うなよ…」
女海賊はアサシンの話を聞いて塔の魔女がどうして退魔のペンダントを残したのか理解した
それは魔王に心を操られない様にする為のお守りだったのだ
そして事の一部始終を初めから予見していて…弟子にあたる魔女もそれを隠していた事に怒りを覚えた
勇者が魔王への生贄になる事も知ってた筈…
それを黙って見て見ぬ振りをしようとして居たのだ
魔王をどうにかしようと足掻いて居る一方で高みの見物をする王族の魔女…
女海賊にはそう見えていた…湧いて来る怒りは彼女に行動力を与える
「ちっとゾンビぶちのめして来る!!魔王を探したる!!」
そう言って何処に居るか分からない魔王の欠片を探しに出かける
彼女は狂戦士の様にゾンビを探し回り駆逐していった
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