第18話 ドワーフの戦士

『北の山麓ふもと』


命の泉を後にした一行は消息不明になった義勇団の気球を捜索した


剣士は飛空艇に乗って移動する事も出来たが


女海賊が癒し苔に夢中になっている姿を見て距離を置いた


結局ドラゴンの背に乗り離れ離れで過ごす


女海賊は自分の心の中で起きた事が何だったのか分からず…只モヤモヤした思いを抱えたままだった



「あそこに見えるの気球じゃない?」


「おぉ!!無事だったか…あそこに降ろせ…俺が乗って星の観測所まで戻る」


「てかガーゴイルが多い!!アレ倒さないとあの気球動かせないよ」


「大丈夫だ!!俺はミスリルダガー持ってからガーゴイルは襲って来ん」


「強引に気球飛ばすん?」


「そうだ!!飛空艇の操舵はホムンクルスに任せてお前はクロスボウで援護しろ…商人は俺と一緒に来い!」


「うん…」


「クロスボウ忘れんなよ!?」


「ほんじゃ一旦飛空艇降ろすよ?」



フワフワ ドッスン!



「商人来い!!」


「うわ…めちゃガーゴイル上で旋回してんじゃん…」


「危ないのは俺よりお前の飛空艇の方だぞ?爆弾打ち上げて蹴散らせ!!」


「分かってるって!!」ガチャリ バシュン!



女海賊はクロスボウのボルトに爆弾を取り付けて打ち上げた


ドーン!! パラパラ



「おーし!!気球は無傷だぁ…おぉ!!荷もある」


「何かに襲われたのかな?」


「多分な…この辺はミノタウロスが居るはずだ…さっさと気球動かして引き上げるぞ」


「ちょい上!!ドラゴンの動きが変…近くに他の敵が居そうだから急いで」


「女海賊…お前は先に離陸して安全確保しろ」


「おけおけ…ホムちゃん上昇して!!」


「はい…」フワフワ


「商人!!俺が気球の炉を焚いて居る間クロスボウ使ってガーゴイル寄せ付けんな…10分で動かせる」


「分かった…」



魔物がウヨウヨ居る状況で気球を回収するのに人手が少なかった


少し気を抜けば背後からレイスが迫る…空にはガーゴイルが舞う


戦闘経験の無い商人やホムンクルスも武器を持って戦わなければいけない状況だった



「剣士と女エルフも何かと戦っている様だよ…」


「向こうに引き付けてくれてんだ…何と戦ってるか見えるか?」


「大きいな…牛の頭をしている…あれがミノタウロスかい?」


「その様だ…こっちに来る様子は無いか?」


「大丈夫…あれ?照明魔法で戦ってる?レイスが居るのか…まてよ…どうしてレイスはミノタウロスを襲わないんだ?」


「んん?…ミノタウロスもゾンビになってるってか?」


「えええ!?…魔物もゾンビ化するのか…」


「通りで荷物が全部残ってる訳だ…剣士達は大丈夫そうか?」


「飛んでるドラゴンライダーにミノタウロスは何も出来ないさ…」


「よっし!!飛べるぞ!!今の内に飛んじまえばこっちの勝ちだ!!乗れ!!」


「うん…よっと」ピョン


「やっぱ飛空艇に慣れると旧式はいろいろ遅せぇ…」フワフワ


「盗賊!!飛空艇からロープが垂れてる…多分引っ張ってくれるんだ」


「おぉぉアイツ気が利くな…ちと結んでくる」ダダッ




『飛空艇』


ロープを使って気球を引っ張る形で上空まで逃れた


飛び回るガーゴイルをクロスボウでけん制しながら高度を上げて行く


上昇するに従いガーゴイルの数が減り安全になって来た所で女海賊はホムンクルスに心の内を話し始めた



「ねぇホムちゃん?なんか剣士がいつもと違うんだけど…何か知らない?」


「はい…」


「はい…てさぁ…ホムちゃんに言ってもしょうがないんだど…なんかイライラすんだよね」


「正直に言ってもよろしいのでしょうか?」


「何さ!!何か知ってるならちゃんと言ってよ」


「彼は魔王の退け方を知って居るのです…」


「そりゃ勇者なんだからやってくれるって信じてるさ」


「そうですか…」


「ほら聖剣エクスカリバーでビシ!バシ!みたいな…ね?」



女海賊はそうあって欲しいと言う事を言った


嫌な予感を打ち消したかったからだ…



「女海賊さん?あなたは神々の戦いの壁画を見たとおっしゃっていましたね?」


「うん…」


「では…そういう事なのだと思います」


「壁画だと最後に魔王になるんだけど…そんなんなっちゃうの?」


「魔王になって退けられるのだと思います…その他の文献にもそう書かれて居ました」


「退けられるって…どこにさ?」


「壁画ではどうなって居たのですか?」


「魔王が落ちて行った先は…次の世代?…あの壁画はやっぱそういう意味だったん?」


「それは歴史の中の事実だったのではないでしょうか?」


「ダメだよそんな…ホムちゃんなんとか出来ないの?」


「私にはそのような力はありません」


「ちょっと待って…それじゃ剣士どうなっちゃうん?」


「どの文献にもその後の勇者の事は記されて居ません」


「まさか魔王と一緒にどっか行っちゃう?」


「どうか…彼の気持ちを察してあげてください」


「そんな…」



---だから私を強く抱きしめた?---


---さよならするつもりなの?---


---だめだよ勝手に行かないでよ---



「この会話も彼には聞こえていると思います…ですから彼を尊重しましょう」


「ちょい待って…どうやって落ちて行くん?」


「それは分かりません…」


「だめだよ…どうしよう…」


「はっきり申し上げますと…今剣士さんが魔王を退けなければ人類は生き残る事が出来ません…滅亡します」



---何これ…心が締め付けられて苦しい---


---剣士はずっとそれ知ってたって事?---


---何にも言わないで苦しんでたの?---


---だからあまりしゃべらなかったん?---



「おぇぇぇぇ」オエップ


「大丈夫ですか?体の具合が悪くなりましたか?」


「平気…ちょっと吐き気しただけ」


「気持ちはお察ししますが少しお休みを…」


「大丈夫だから…」



---どうする?---


---どうする?---


---どうする?---


---どうする?---


---どうする?---


---どうする?---



なんかメッチャ腹立って来た…


なんでアイツ一人で抱えてんのさ!!


なんで相談してくんないのさ!!




『ドラゴンライダー』


ドラゴンに乗る剣士は彷徨い歩くゾンビを見つけながら聖剣で止めを刺しながら飛んだ


ゾンビになっているのはミノタウロスの他に義勇団の気球に乗って居たであろう人間も居た


まだ人の形を留めて居て中には女の人や子供も居る…


剣士は一目でそれがゾンビだと認知できたから


せめて苦しまないようにと思いながら振るいたくない剣を振るって居た



ズバァ!!



「ヴヴヴヴヴ…ガァァァ…」



子供のゾンビは剣士の振るう剣で心臓を引き裂かれ…力尽き倒れる


その後ドラゴンのブレスで焼かれて行く


ゴゥ ボボボボボボボ



「くぅ…」ギリリ



剣士は奥歯を噛みしめた


今まで何体ものゾンビを倒して来た…しかしその殆どは真新しい人間の死体だ


生きて居れば一緒に行動していたかも知れない相手に剣を振るうのは剣士の心を蝕んで行く



「僕は…何と戦って居るんだ…」


「剣士!ダメ…考えてはダメ…」



女エルフはわざわざ剣士が乗るドラゴンの近くまで寄り声を掛けた


剣士が冷静さを失い欠けているのが分かったからだ



「大丈夫…だよ…」



剣士はエルフの森での人間との戦争の時から


数え切れないほどの人間の命をその手で刈り取ってしまって居た


今目の前で子供を相手に剣を振るい…


魔王になっているのは自分だと気付き始める



---世界を滅ぼしているのは…僕だ---


---僕があの日魔王を拒絶してしまったから---


---奪われなくて良かった沢山の人の命が奪われて行く---


---僕が魔王になって消し去ってしまえば---


---みんな死ぬ事も無かったのに---




『星の観測所』


一行は消息不明になった気球を回収して星の観測所へ戻って来た


その気球に乗って居たのは義勇団のリーダーとその家族だったらしい


剣士はそれを聞いてただうつむいた…


盗賊の泥棒家族を全員自分の手で皆殺しにした様な気がしたからだ



「俺は義勇団の連中に事情を説明してくる…商人は物資を降ろしといてくれぇ」


「分かったよ」


「それから剣士と女エルフは少し休め…ドラゴンも羽休めした方が良いだろう?」


「うん…」


「どうした?浮かない顔してんぞ?」


「何でも無いよ…」



飛空艇から女海賊が降りて来た


その顔は機嫌が悪い時の顔だ



「剣士!!ちょっと来い!!」


「え?…どうしたの?機嫌…悪そうだね…」


「……」



パァァァン!!


女海賊は剣士の頬を平手打ちした…


そんなつもりは無かったのに…言葉が出ない代わりに手が出てしまった



「おいおい…痴話喧嘩ならよそでヤレ」


「つつ…」



剣士はぶたれた頬を擦った…ぶたれたのは初めてだった



「あんたぁ!!舐めてんじゃ無ぇよ!!」


「……」


「私を誰だと思ってんのさ!!私の機嫌損ねたらタダじゃ済まないからね!!」


「……」


「何か言えよ!!もう機嫌損ねてんだ…どう責任取ってくれんのさ」


「みんな見てんだぁ!!あっちでヤレ…来いこら」グイ



女海賊は剣士とちゃんと話をしたかったのに


口から出て来る言葉は気持ちに任せて怒りをぶつけるだけの言葉だった


でもこれは彼女の素直な気持ちで何もウソは無い


剣士はそんな風に直球勝負で居る女海賊が愛おしく思った


そして女海賊はそれ以上剣士と話をすることなく勝手に物資調達へ出て行った



---これが私のやり方---


---あんただけ勝手に悩むとか許さないから---



女海賊には考えがあった…


彼女は爆弾を作るのが得意だ…その為の材料がハズレ町にまだ残って居る


これから魔王と対峙する事になると言うなら今研究中の爆弾を完成させてぶっ飛ばしてやるから!!




『南西のオアシス』


盗賊と商人は北の山麓で入手した薬草やケシの実をオアシス圏に配布する為


フィン・イッシュ軍が駐留する南西のオアシスまで気球を飛ばした


ケシの実から作る麻薬は継続的に戦う兵隊には士気を維持する為にも重要な物資だからだ



「よっし補給はこんだけだ…大事に使ってくれよぉ!!」



物資を受け取ったフィン・イッシュの王女は代わりに石炭を用意してくれた


魔物の侵入が多いオアシスでは魔術師がその死体を石炭に変性させて余り気味なのだ



「こりゃ女海賊が喜びそうだ…これも爆弾の材料になるんだったな?」


「そうだね…石炭が有れば気球の運用もラクになる」


「嬢ちゃんよう…やっぱこの辺は結構魔物が来るんか?」


「はい…やはり不死者の侵入が少しづつ増えて来ています」


「そうか…今の所対処法は無いんだ…なんとか踏ん張ってくれ」


「魔術師の応援で本当に助かって居ます」


「僕たちはこれからアサシン達を助けに行く予定だよ…向こうも何か対処法を見つけてるかも知れないしね」


「いつ行かれる予定なのですか?」


「出来るだけ早く行きたいんだが…働き詰めでドラゴンも少し休めさせんとイカンと思ってな」


「そうですね…向こうに行かれてもし父に会う事があったら私の無事をお伝えください」


「おう!!任せろ」


「ねぇ…ところでフィン・イッシュの兵隊が身に付けている御札は何かな?」


「あれは呪符と言う御札です…皆さんの使う魔方陣と同じ様な効果があるのです」


「へぇ?」


「でも水に濡れたり汚れたりしてしまうと効果も無くなってしまいますので魔方陣の方がよろしいかと」


「一枚貰えるかな?」


「構いませんよ?」パサ


「お前なんでそんな物に興味が有るんだ?」


「銀貨が不足してるのさ…だから新しい魔方陣を打てないんだよ」


「そうだったのですね…でも新しい呪符を作るには職人が居ないと作れないのです」


「あぁ…僕が真似てもダメなのか」


「はい…必要でしたら星の観測所の皆さんにもお配り出来ますが…紙が不足して居ますね」


「やっぱり物資不足だね」


「フィン・イッシュに行くのでしたら銀の調達は簡単だと思います」


「そうだったね…たしか銀鉱山が有った筈」


「はい…食器や装飾品も銀製品が多いので手に入れられると良いですね」


「ほんじゃ帰りは銀を持って帰るだな」


「純度の高い銀はそれだけで退魔の効果を持って居ますので是非お探しください」


「おっし!!ほんじゃ戻るかぁ!!」


「そうだね…他のオアシスにも物資を配って回ろう」


「行くぞ!!」




『飛空艇』


爆弾の材料を調達した女海賊はホムンクルスと一緒に研究中の爆弾を作って居た



「女海賊さん…この質量のウラン結晶を火薬で臨界状態にするのは不可能です」


「違うよ火薬はちょっとした圧縮の為なんだ」


「どういう事でしょう?」


「ホムちゃんの時代には魔石が無いじゃん?」


「はい…魔石がどの様にエネルギー転換するのかは知りません」


「秘密は魔石になるトルマリンなんだよ」



火薬でウラン結晶を圧縮するとトルマリンにエネルギー転換されて魔石になるのさ


その魔石は雷の魔石なんだけどこいつを圧縮すると雷が発生すんの


ほんでその雷は外殻に放電し始めて爆弾の中が一瞬で数万度まで温度上がるんだ


外殻に穴が開くのが先か…ウラン結晶と魔石が同時に圧縮されて臨海状態になるのが先か…


もし先に臨界状態になったらその後はウラン結晶が核分裂して連鎖する



「一瞬の事なんだけど上手く行ったらこんな小っちゃいウラン結晶でも爆発させられると思うんだ」


「ではトルマリンを触媒とした電気エネルギーのI二乗値が問題になりそうですね」


「多分そうなると思う…トルマリンの純度はまぁ良いとして…砂銀を混ぜて見ようかと思ってる」


「分かりました…トルマリンから取り出せるエネルギー量が不明ですがシミュレーションしてみます」


「うん…良い形状とか教えてくれたらそう言う風に作って見るよ」



女海賊が研究していた爆弾の理論はすでに完成していた


それを上手く爆発させる為の形状や工夫はホムンクルスの知恵を借りる





『数時間後』


女海賊は爆弾の他にも煙玉や照明弾…焼夷弾などに使う材料を作るのに忙しかった


物資が揃っている今の内に沢山作って置きたかったのだ


特にゾンビの大群を倒す為には爆弾だけでは無く継続的に燃える焼夷弾も重要だと考えた



「いよーう…お前休んで無いのか?」


「うっさいな…忙しいんだよ!」


「何作ってんのよ?」


「焼夷弾ってんだ…2時間くらい高温で燃えっぱなしの火炎ビンみたいなもんさ」


「対ゾンビ用か?」


「そう…ドラゴンのブレスで軽く焼くだけじゃ中々倒せないみたいだから…」


「んん?ゾンビ化したミノタウロスの話か?」


「そだよ…ずっと見てたけどドラゴンじゃ倒せてなかった」


「その焼夷弾なら倒せるってか…」


「2時間ずっと燃えっぱなしなら流石に炭になるんじゃね?」


「なるほどな…しかし多すぎんか?」


「いっつも作れる訳じゃ無いから予備だよ」


「俺はそんなもんよりクロスボウのボルトを作って欲しいな…」


「無駄!そんなんじゃゾンビ倒せないから…てかガーゴイルにも当たって無えし」


「まぁしゃぁ無え…弓も持って行くか…」


「ほんなん無駄だって!!どうせ倒せないんだから」


「俺が飛空艇に乗ってる間何もやる事無いんだが…」


「あんたが操舵すりゃ良いじゃん!」


「それでも良いか…そろそろ出発しようと思うんだがもう物資は乗せんで良いか?」


「要らん…無駄な物載せないで」


「へいへい…じゃぁ準備出来たら勝手に出発するぜ?」


「気が散るから話しかけないで…忙しいんだから」ゴソゴソ



女海賊は剣士が話しかけに来ないのが気になって居た


気を紛らわせる為に作り物の手を休めたく無かった




『砂漠上空』


一行はフィン・イッシュに向けて出発した


飛空艇の操舵は盗賊…商人は初めて行くフィン・イッシュの方角を定める為地図と睨めっこだ


剣士と女エルフを乗せたドラゴン2匹は自由に魔物と戦いながら追従する



「これ以上高度上げると地上が見えんくなる」


「この高度で様子見ようか…あんまり速度上げるとドラゴン付いて来れないだろうし」


「うむ…しかしこの速度だとやっぱり5日程掛かりそうだ」


「最高速だと2日掛からないと思うんだけどね」


「仕方あるめぇ…置いて行く訳に行かんしドラゴンも少し羽休めが必要だろう」


「女海賊…お前はちっと休め」


「私は良い…やる事ある」


「なんだお前?目がギラついてんぞ?剣士と仲直りしてないのか?」


「うっさいな!!爆弾作るんだよ!!…それとデリンジャーの弾もね」


「お?あのちっこい大砲か?ありゃ使い物になるんか?」


「なるんか?じゃ無ぇ!!使うんだ…」


「どれどれ?ウハハえらくちっこい弾だ…こんなもんで魔物が倒せるんか?」


「それ鉛だから!…何かに当たったら変形して刃物みたいになるのさ」


「ほう?」


「ぉぅぇぇぇ」ゲロゲロ


「どわっ!!いきなり吐くな!!」


「お体平気ですか?」


「あー気にしないで私の奴隷4号が全部食べるから…ハァハァ」


「サンドワーム…ですか」


「何でも喜んで食べるから…あんたの排泄物もあげたら?喜んで食べるよ?」


「はい…次からそうさせていただきます」


「こいつさぁ見かけによらずすっごいキレイ好きなんだよ…肌のカサカサも綺麗に食べるよ」


「サンドワームは土壌の改善の他に毒の中和もしているそうです」


「んん!!毒の中和…こいつにゾンビ食わしたらどうなるんだろう?」


「中和されて土に還るのかもしれませんね」


「そうか…砂漠で活発に動いてんのはそういう理由かもなぁ…」


「何かお考えでもあるのですか?」


「まぁね…シャ・バクダ遺跡に大きなカタコンベが在ったじゃん…中にいっぱい死体があるのさ」


「それをサンドワームに与えるのですね?」


「うん…放っておくと又魔王の餌になっちゃいそうだし…て待てよ?」



---なんで何時までもあそこに溜まってんだ?---


---200年前の勇者が魔王になってどこかに落ちて行った---


---その下に大量の死体…ゾンビになろうとしたんだ---


---そうだセントラルで見たあの黒いドロドロだ…アレが地面の中に落ちて行くんだ---


---魔女の婆ちゃんはそれを見て魔王が出て来ないように封印したんだ---


---つまり魔王はあん中に居るんじゃね?---


---でも待てよ?ほんじゃセントラルで見た黒いドロドロは何ヨ?---


---それが今フィン・イッシュに行って…ゾンビになって…---


---なんでわざわざオアシスまで来るん?---


---もしかしてどっか集まろうとして無いか?---



「どうかされましたか?」


「ううん何でもない…」




『大きな岩山の上』


一行は飛びっぱなしのドラゴンを休める為テーブル状の岩山の上でキャンプを張った


野外でキャンプを張るのは久しぶりの事だ


ガーゴイルが近付いて来ないようにミスリルダガーをロープで吊るして鳴らす



「真っ暗で良い眺めじゃ無いが…ここならゾンビも上がって来無えし安全だろう」


「剣士と女エルフも少し休んで」


「うん…ドラゴンと一緒に少し休ませてもらう」



2匹のドラゴンはホムンクルスに撫でられながら首をもたげていた



「こうやってキャンプをするのはどれくらいぶりかな?」


「おぉそうだな…1年ぐらいか…立ち合いでもすっか?」


「遠慮するよ…もう人間とは戦いたくない」


「まぁそうだな…お前はどっぷり戦争に巻き込まれたんだからな」


「ゾンビを倒すのも正直ツライよ」


「そうか…」


「女海賊は?」


「あいつは何か作り物してるぞ?呼んでくるか?」


「お願い…少し一緒に居たいんだ」


「ちょっと待ってろ…おーい女海賊!!お前の奴隷が呼んでるぞ」


「んあ?あぁぁ今行く」



女海賊は作業を止めてバツが悪そうな顔をしながら飛空艇から出て来た


足元がおぼついて居ない



「お前…ヘロヘロじゃねぇか!!」


「鉄の細工は力使うからさぁ…イテテ」フラフラ


「お前もちっと休め…剣士がお前と話をしたいんだとよ」


「…うん」


「こっちおいでよ…君も休んだら?一緒に居てほしいんだ」


「…うん」ヨッコラ セ



女海賊は剣士の隣に腰を下ろした


それはいつもの距離じゃない…彼女は大事な心の一部を失って距離感が分からなくなっていた



「何作ってるの?」


「デリンジャーの弾と火薬」


「それだけじゃ無いよね?」


「あんた…私の眼を見てたね?」ジロ


「ハハ…バレたか」


「お守りだよ…ほらあんたにあげる」ポイ


「これは?タグ?」


「そう…持ち主の名前が書いてる」


「ハハ君の名前が書いてあるじゃない」


「文句あんの?」


「ありがとう…貰っておくよ…じゃぁ僕からも」ファサ



剣士は羽織って居た白狼の毛皮を脱いだ



「これはあんたの母さんの形見じゃないの?こんなの貰えないよ…」


「背中に剣を背負ってると邪魔なんだ…とても戦いにくい」


「…じゃ預かっておく」


「あったかいよ?羽織ってごらん?」


「知ってるさ…何回もこれに包まって暖を取った…」



---そうだね暖かかった---



女海賊は悲しみが込み上げて来た


何か言い出すと言いたくない事が口から出てしまうから奥歯で噛みしめた


零れそうになる涙をこらえたら眠気が吹き飛んだ




『飛空艇』


一行は数日掛けてフィン・イッシュ付近まで辿り着いた


砂嵐で見通しが悪くゾンビの全数は確認出来ない…でも相当な数のゾンビが彷徨って要る事は分かった



「砂嵐を抜けたらそろそろフィン・イッシュ領だ…城が見えて来ても良い筈だが…」


「砂で遠くまで見通せないよ」


「ドラゴンが高度を下げてんな」


「おっけ追従する」


「正面!!…煙が上がっているよ」


「それだな…生き残ってる奴が居るってこった」


「ドラゴンが炎を吐き始めた…あそこの下に多分敵が居るんだ」


「女海賊!ドラゴンに構うな…追い越して煙の方に向かえ」


「おけおけ…」


「これ…下に居るのは全部ゾンビか?なんだこれ…多すぎる…」


「人間だけじゃ無さそうだぜ?鳥がこっちに向かって飛んできてる…女海賊!!お前も戦う準備しろ」


「分かってんよ!!ホムちゃん操縦お願い」


「はい…お任せください」



向かって来ている鳥の群れはゾンビ化したカラスだった


飛空艇の中に生きた人間が居る事を察知したのかしきりに船体へ体当たりしてくる


バシ バシ ベチャァ!!



「ギャァ ギャァ」


「飛空艇に体当たりかよ…中に入って来る奴だけ倒せ」


「いでよ私の奴隷4号!!」ボトリ



女海賊が背負っているカバンからサンドワームが転げ落ちた



「餌の時間だよ…カラス全部食っちまいな!!」


「敵が多すぎる…これじゃ着陸出来ない」


「こりゃしばらく上空で旋回だ…ドラゴンのブレスが一番効いていそうだ」


「ホムちゃん煙の上で旋回してて…カラスは私らが処理するから」


「はい…」




『ドラゴンの背』


剣士は地上で彷徨うゾンビの他に大量のカラスもゾンビになって居る事に気付き行動を起こす


上空を舞う相手に対して飛空艇は効果的な攻撃手段が無いからだ



(女エルフ!!風魔法を僕に合わせて!!カラスをボルケーノで焼く)


(合体魔法!?)


(その方が早い…いくよ!!火炎魔法!)ゴゥ


(竜巻魔法!)ビュゥゥ



2人の魔法が合わさり火柱が立ち昇る


ゴゴゴゴゴ ボゥ



(その調子!!あとは風魔法でボルケーノの行先コントロール)


(うん…)


(続いて行くよ!!火炎魔法!)ゴゥ


(竜巻魔法!)ビュゥゥ



ゴゴゴゴゴ ボゥ


ボルケーノは飛空艇を上手く避けながらゾンビとなったカラスを巻き込み火の雨を降らした


地上に落ちた火の雨は彷徨うゾンビ達にも燃え移り次第に延焼範囲が広がって行く





『飛空艇』


上空からフィン・イッシュの惨状が確認出来た


地上の町だったと思われる場所は完全にゾンビに埋め尽くされとても飛空艇を降ろせる状況では無い


数十万どころでは無い…地面から這い出た死体や動物達も合わせて百万くらい居るだろうか…数え切れない


予想をはるかに超えたゾンビの数を見て言葉を失う…



「こりゃ…」


「ダメだこれは…降りられる訳無いじゃ無いか」



女海賊はこんな風になって居るんじゃ無いかと予測していたから驚かなかった


目をギラ付かせて小さく言う



「全部燃やしてやる…」


「火柱が立ち上がっています…回避します」


「あの2人はすげぇ火力だな…そこらじゅうで火柱立ち上がってんじゃねぇか…巻き込まれんなよ?」


「あそこにゾンビの塊が居る…なんだあれは?ゾンビは合体するのか?」


「マジか…ゾンビの塊でもしかして人型になろうとしてんのか?」


「ちょっとあんた達…ぼさっとしてないで私の指示に従って!」


「お前マジでこれ全部燃やす気か?」


「ホムちゃん!飛空艇の操舵は任せんね…あんた達2人は焼夷弾落として行って!」


「お、おう!!」


「出来るだけ集まってる所にどんどん落として」



飛空艇からありったけの焼夷弾を投下した


それはゾンビの他に燃える物すべてに燃え移り辺りは一面火の海になった


そしてゾンビの群れはまるで生き物のように集まり飛空艇に向かって集まり出す



「おっし!まとめて蹴散らしてやる!!真上を飛んで」


「はい…」


「ウラン結晶混ぜてる新型爆弾だから出来るだけ離れて!!落とすよ」ポイ


「そんなにヤバイ爆弾か?」


「今までの100倍はヤバイ」



ピカーーー チュドーーン!!



「うおぉぉぉぉマジか…お前そんなもん作ってたんか」


「ゾンビの塊が消し飛んだ…」


「爆風来る!!掴まって!!」



ゴゴゴゴゴ バサバサ



「うは…なんだこの威力…」


「よし!!実験成功!!…次はクロスボウで狙ってみる…もっと高度上げて」


「はい…」



女海賊が作った新型の爆弾は生き物のように集まるゾンビを次々と消し飛ばした


バラバラになったゾンビは焼夷弾の熱に焼かれ火の海は更に激しさを増す


その炎は丸一日燃え続けフィン・イッシュを埋め尽くして居たゾンビ達は炭へと姿を変えた





『とある建物の上』


炎の煙を避けて女エルフが乗るドラゴンがその建物に降りていた



「女エルフがなにか合図してる」


「付いて来いって事だな…」


「あの建物の上に降りろって事かな?…ホムちゃん私が操縦する」


「はい…」


「ほーー…どうやらゾンビは階段とか登れんみたいだぞ?」


「あぁ…高い所に居ないのはそういう事か…」


「そうと分かれば飛空艇を建屋の上に降ろせば良い訳か…」


「はいはい…舌噛むよ!!」



フワフワ ドッスン!!



「おう!!女エルフ!!どうした!?」


「魔方陣のペンダントまだある?」


「んん?あるよ…荷に積んで有る」


「それがあればドラゴンはレイスを気にしなくて良いの」


「なるほど…ゾンビ退治はドラゴンに任せるって言うんだね?」


「そう…剣士が乗るドラゴンにも渡して置きたいから2つ必要」


「おけおけ…持って行きな!」ポイ


「俺等は徒歩でアサシン探しに行く訳だな?」


「そうよ…剣士はアサシンが何処かの地下に居るって言ってるの」


「おぉ!!生きてたか」


「あまり状況は良くないみたいだけれど…」


「だろうな?殆ど壊滅だこりゃ…」


「剣士を連れて戻って来るからそれまでこの周辺のゾンビ退治をお願い」


「おーし!!俺の出番か」


「ダメ!!あんたゾンビ倒す事より物資探して来て」


「なぬ!?」


「油とかそう言う奴…火を撒いてゾンビ追って来ないようにしないと何やっても危ない」


「確かにそうだな…おっし!!商人来い!!」


「え!?僕に戦わせる気かい?」


「行動は2人1組が基本だ!俺が倒れたらお前が助けろ…そんだけだ」


「あぁ分かったよ…」


「とりあえずこの飛空艇ベースにしてこの辺安全にしとくから急いで物資調達お願い」


「おう!!」


「焼夷弾には近付かないでね…火傷するよ」


「わーったわーった!!行くぞ商人!!」



女海賊はこの状況でゾンビの動きに何かの意思が働いている事に気付いて居た


ゾンビが集まり何かの形を作ろうとして居たのが分かったからだ


もうそれは魔王の仕業だとしか思えない



「ホムちゃんは飛空艇から出ないで!!」


「はい…」


「ちっと掃除してくる」


「ムリはなさらないで下さい」


「どっかに魔王が居るのさ!!ぶっ飛ばして来る!!」ドドド



剣士を連れて行こうとする魔王を許せなかった


銀の杭であしらえたピッケルを握りしめ彷徨うゾンビに襲い掛かる


彼女はドワーフの戦士として目覚め始めて居た

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