第21話 愛し守る者

『シャ・バクダ遺跡』


湧き出て来るゾンビの群れは既に原型を留めて居ない…ヘドロの集まりだ


剣士と女エルフはドラゴンに乗ってその上空を飛び回りガーゴイルを撃ち落として居た


落下して行ったガーゴイルも又ゾンビとなり再び舞い上がる


バッサ バッサ グエェェェェ



「火炎魔法!火炎魔法!火炎魔法!」ゴゥ ゴゥ ゴゥ


「剣士!!キリが無い…もう矢が無いわ」


「一旦補給に観測所まで戻ろう!!」


「うん…」


「こっちは飛空艇の爆弾に任せよう…」


「観測所の方でも戦闘が起きてる」


「え?そっちまで?」



”見つけたぞ我が器…”


何処からか声が聞こえた



「そこか魔王!!」ビュゥ ザクン



剣士が切り抜けたのは宙を飛ぶガーゴイル


でもその声の主はそこから発せられたのではない



”因縁の地で会うとは滑稽”



「どこだ!!」ビュゥ



声の主を探して上空を旋回する



”ハッハッハッハッハ…我が一部となれ”



その声は空中の何処かから聞こえて来る


聞こえる方に向かって剣を振り回す


剣士の異常な行動に気付いた女エルフはそれを察知した



「剣士!!ダメ…声を聞いてはダメ」


「ふぅ…ふぅ…」


「落ち着いて…目を閉じて?…今はまだ居ない」



剣士はどうして空間から声が聞こえるのか考えてみた


それは魔槍を消し去った時に聞こえた声と同じ…0と1の空間から伝わって来る波動だ


目で追ってそれが何処に居るのか探せない…



「ふぅ…ふぅ…」


「補給にもどるわね?…」バッサ ビュゥ



---そうだ…僕は目を閉じた方が良く見える---


---分かるぞ…周りで何が起こって居るのか---




『星の観測所』


補給に戻った女エルフは観測所の屋根に降りた


しかし雰囲気が違う…



「え?…様子がおかしい…どうしてみんな弓を?」



そこに居たドラゴンの義勇団の者は一斉に矢を引き絞り始めた



「女エルフ!!危ない!!」



上空で旋回していた剣士はその異常にすぐ気付いた


だが時すでに遅し…



シュンシュンシュン グサ!グサ!グサ!


無常にもドラゴンの体に突き刺さる


突然の出来事で女エルフは状況が掴めないで居た



「ギャオーース」バッサ バッサ


「ダメだ!!もう安全な場所は無い!!女エルフ離れろ」


「え!?」



シュンシュンシュン グサ!グサ!グサ!


放たれた矢は一斉に女エルフを捉える



「離れろぉぉぉぉぉ!!」


「あぁ…どうして…」フラリ ヒュー ドサ



女エルフは屋根から落下して地面に叩きつけられた



「うあぁぁぁぁ…ドラゴン!!女エルフをくわえて精霊の御所まで運べ!!」


「ギャオーース」ガブリ バッサ バッサ



ドラゴンは剣士の言われた通り女エルフを咥えて飛び立つ


それを追う様に弓の追撃が始まった


シュンシュンシュン シュンシュンシュン



(落ち着け…どれが敵だ…人間は混乱している)


(ダメだ…全部敵だ…全員混乱している)


(待てよ…混乱しているのは僕か?)


(目を閉じて感じろ…そう)



---飛空艇は遺跡の上---


---ドワーフの気球は南西のオアシス---


---人間達は混乱してそこら中で戦闘---


---魔王はどこだ?---


---くそう…これ以上消耗出来ない---


---みんな死んで行く---



剣士はエルフの森で起きた戦争のトラウマを思い出した


次から次へと人の命が奪われて行く…


もうこれ以上奪わせたくない


もう大事な人を目の前で失いたくない…


そう思いながらドラゴンに咥えられた女エルフを追う




『精霊の御所』


そこはまだゾンビに浸食されていない


精霊の御所への入り口を塞ぐトロールの目の前で女エルフは横たわって居た


バッサ バッサ ドッスーン



「女エルフ!!回復魔法!!」ボワー



走り寄りながら回復魔法を唱えた



「ダメ…心臓に…矢が刺さって…るの」


「今から蘇生魔法を…」


「…もう止まってる…から…良いの」


「女エルフ!!うぅぅ」



剣士は女エルフを抱き上げた



「エルフは死ん…でも森の一部に…なるからいつでも…会える」


「君まで死んでしまったら…」


「私…見える…みんな必死…で戦ってる」


「うん…僕も分かるよ」


「私は…森にな…ってみんなを守って…あげる」


「うん…」


「心配…し…ないで?」


「僕は僕のやる事をやって来る!」


「私…が…守る…から…信じて」


「くぅぅぅぅぅ」


「……」ガクリ



それ以上女エルフは言葉を発する事は無かった


あっという間の出来事で…簡単に大事な人の命が失われた



「うわああああぁぁぁぁぁ!!」ドン



剣士は地面を殴りつけ魔王を消し去る事を誓う


もう誰も失いたくない!!



「ドラゴン!!来い!!魔王を退ける!!」




『ドワーフの気球』


かろうじて逃げ延びた盗賊が操るドワーフの気球は行く先行く先で弓の的となって居た



シュンシュンシュン ストストスト



「クソがぁぁぁぁ!!」


「回復魔法!回復魔法!回復魔法!」ボワー


「魔女も自分の回復を…」


「わらわはまだ大丈夫じゃ…ホムンクルスを死なせる訳にはイカンのじゃ」


「生体機能の維持が困難です…血液が足りません」


「血が…血が止まらない」


「ええい心臓の傷は回復魔法では癒せぬか…」


「ご安心ください…私は生体機能が停止しても記憶を保存する事が出来ます」


「そんな…僕は君の管理者だ…停止なんか許可しない」


「私の記憶のすべては外部メモリに保存しておきました…これを使えば又お会いする事ができます」


「魔女!!もっと回復魔法を」


「分かっておる…回復魔法!回復魔法!回復魔法!」ボワー


「この生体は丈夫な生体ではありません…あと120秒で生体活動が停止します」


「ホムンクルス…最後に聞きたい…君と同じ様なホムンクルスはどこかに無いか?」


「精霊の記憶によりますと私以外にまだ1体残されている様です」


「どこにあるんだ?探して必ず君を目覚めさせる」


「座標70.05722166,148.26978089です」


「それじゃ分かんない…盗賊!!地図はどこかに無い?」


「それどころじゃ無ぇ!!頭引っ込めてろ」


「ホムンクルス…座標じゃなくて大体の場所で良い…言葉で言って」


「南の大陸…火山のふもとに研究施設があります」


「分かった…必ず探す」


「又お会いできる事を楽しみにしてい…ます…ピピーピピー」


「ホムンクルス!!」


「あなたが押さえている位置は私の心臓にあたります…私の心はそこにあるでしょうか?」


「あるよ…」


「この生体は停止してしまうので私の心を預かっていてもらえませんか?」


「うん…わかった」


「あと10秒で心が停止します…外部メモリをお願いします」


「君の心を預かった…必ず迎えに行く」


「又…会う日…ま……で…ピーーーーーーー…プツン…」


「……」


「今際じゃ…精霊もこの様に簡単に亡くなるのじゃな」


「僕たちは生き延びる!!」


「そうじゃ…それが人の定めじゃ」




『飛空艇』


女海賊が操る飛空艇は膨らみ続けるゾンビの群れを焼くのに手こずって居た


ピカーーーー チュドーーーン!!



「お姉ぇ!!その爆弾は遠慮しないでどんどん使って!!」


「わかった…」



爆弾の爆風で煽られない様に高い高度からクロスボウを使って爆弾を投下していた


新型の爆弾には砂銀が添加されている…そのお陰でゾンビは消し飛ぶと同時にいくらかは動かなくなる


しかし焼かない事にはなかなか減らせない



「ゾンビの大群が触手になってここまで伸びてきそーっす!!」


「分かってる!!口動かしてないで次の爆弾用意しな!!」


「ドラゴンライダーの2人は何所に行ったのだ!!」


「あっちはあっちで大変なんだろうさ…あ!!ドラゴン!!」


「来たか…これで持ち直せる」バシュン!



ピカーーーー チュドーーーン!!



「ドワーフの気球もこっちに向かってるっす…あらら?何かに追いかけられてるでやんすねぇ」


「あっちは放って置いて良いから」


「そうでも無さそうだ…何か光で合図しているぞ」


「んーーーもう!!回頭!!」グイ



飛空艇は進路を変えてドワーフの気球を目指す



「軍隊に追われている様でやんすねぇ?」


「なにぃ…こんな時に同士討ちか!!」


「クックック魔王のまやかしだ…フィン・イッシュはこれで壊滅したのだ」


「アサシン黙ってろ!!ウザイんだよ!!」


「どうする!?手が出せん」


「そっちの樽に煙玉と閃光弾が入ってる…軍隊の上通るから全部撒いて」


「全部っすか?良ーんすか?」


「そこに置いとく飾りじゃないんだ!!使う時に使うの!!ケチケチすんな!!」


「了解でやんす~」


「向こうの気球と交差するよ!!撒き続けて!!」


「アイサー」ポトポト



飛空艇は軍隊の上空を通過しながら次々煙玉を落とす


照明弾の光も相まって軍隊は一気に視界ゼロの状態に陥る


ピカーーーー モクモクモク



「どんどん撒いてよ!!今場所変えてるから…」


「フフお前は何でも出来るな…指揮も行動も私の上を行くでは無いか」


「ドワーフの気球から魔法を撃ち始めたっす…ボルケーノっすね」


「どうやらあのゾンビの大群に気付いた様だ」


「お姉ぇ!!ちょっと操舵変わって!!」


「どうした?」


「ドラゴンの動きがおかしい…たぶん誰かこっちに来る…ちょっとデッキに出る!!」


「わかった…ローグ!!次の爆弾を用意しろ」


「アイサー!!」





『デッキ』


ドラゴンは飛空艇の斜め上を飛びそこから誰かが飛び降りて来た


ピョン クルクル シュタッ



「誰?剣士?女エルフ?」


「僕だよ…」


「どうしたの?何か有った?」


「女エルフが死んだ…」


「ええ!?ちょ…」


「義勇団の人間が混乱しててやられてしまった…もう何処にも帰れない」


「そんな…女エルフが…」



女海賊は動揺した…たった一人の親友だったからだ



「今から僕は魔王を消し去りに行く…君は祈りの指輪を持って居るね?」


「うん…」


「指輪を取りに来たんだ…君ならわかるよね」


「こ…これだけど…」スッ


「ありがとう…」


「ちょい待って!!死なないで!!」


「そんな気は無いさ…でも少し時間頂戴」


「え!?」



剣士は女海賊を強く抱きしめた


その行動で女海賊は察知する…最後になると…



「ぅぅぅ…ダメ…止めて」


「お腹の子を守って…」


「あ、あんた…知ってたの?」


「君とその子に僕が未来を作ってあげる」


「ちょ…」


「アサシン!!行くよ!!来て!!」


「え!?」



アサシンは何も言わずデッキに上がって来た



「どうして?なんでアサシンが?」


「女海賊…聞いて?…その子を必ず守って」


「うん…」


「その子の名前は…」ピョン



剣士は飛空艇から飛び降りながらその名を言った



「未来…」


「うわぁぁぁぁん…待ってぇぇ」ポロポロ


「危ないでやんす!!…落ちるっす」グイ



女海賊は大粒の涙を零しながら剣士を見送った


その姿を見ていた姉も又涙を流す…彼女は妹とそのお腹に宿した子を守る必要があった


だから剣士の行く末を見守る判断をしたのだ




『ドワーフの気球』


ここでは高度の上がらない気球でどうにか生き延びるのに必死だった



「もっと高度上げられんのかえ?ゾンビの触手に掴まってしまうぞよ?」


「やってる!!おい商人!!操舵はお前がヤレ…俺は球皮に登って穴塞いでくる」


「わ、わかった」ノソノソ



商人も矢に撃たれ満足に体は動かせなかった


それでも無理に動かさないといけない



「爆炎魔法!竜巻魔法!ボルケーノ!」ゴゴゴゴゴゴ


「落ちない様に気を付けて!!」


「わーってらぁ!!俺様を誰だと思ってる…天下の大泥棒だ壁登りなんかちょろいもんよ…じゃぁな!!」ダダ


「商人!大魔法を詠唱するで触手につかまるで無いぞ?」


「やってみる…右に行くのはあのハンドルだ」グリグリ



魔女は長い詠唱の魔法を唱えだす


持って居る杖に何かの力が宿り始めるのが分かった



「絶対零度!」カキーン


「うぉぉぉぉ!!すげぇ…ゾンビが全部凍った…」



急激な温度の変化で旋風が巻き起こった



「どわぁぁ危無ぇ!!」


「続けて詠唱するで早よぅ気球を修理せい!!」


「おい!!飛空艇から誰か2人飛び降りてドラゴンに乗ったぞ!!」


「オーケー援護出来る様にこっちも動く」


「あいつ等カタコンベのある遺跡の方に向かってんな!!回頭だ…180度回頭!!」


「えーと…えーっと…」グリグリ


「ぬぁぁぁ穴いっぱい空いてんじゃねぇか…」



魔女が唱えた絶対零度の魔法はゾンビの動きを止めるのに有効な手段だった


それはゾンビの動きを止めながら確実に処理が出来るという事を意味する


勝機が見えて来た…




『因縁の遺跡』


そこはシャ・バクダ遺跡にあるカタコンベの真上だ


200年間に勇者が魔王を退けた…と言われる因縁の場所


ゾンビの群れのど真ん中にあたる…魔王がそこに導いて居るのかドラゴンで降りられる事が出来た


バッサ バッサ ドッスーン



「ドラゴン…ここで良いよ…後はゾンビ退治任せた」


「ギャーース」バッサ バッサ



ドラゴンは剣士とアサシンを残し飛び立った



「やはりここか…」


「うん…この下に魔王を感じる」


「下まで行くのか?」


「その必要は無い…もう僕は見られている…アサシンの目を通じてね」


「なに!!私の目を通じてだと?」


「そうだよ…すべての人の中に魔王は潜んで居るんだ…僕には分かる」



”来たな我が器よ”


”我は黄泉より狭間まで這い上がって来た”


”さぁ我を受け入れ我が一部となるのだ”


”さすればお前に世界の半分をやろう”



その声は空間の何処かから聞こえる



「姿を現せ…」



”フハハハハハハハ”


”我が魂を見たいと申すか”


”見せてやろう我が一部となった勇者の姿を”



ゾワワワワワワワワ


地中から黒い影が姿を現した…しかし退魔の方陣に焼かれているのか影の形が整う事が無い



「クックックどれ程悍ましい姿かと思えば…闇の正体はコレか」



”調和の時は既に終わった”


”さぁ祈りの指輪で我を求め”


”汝の身を贄として捧げよ”


”さすれば再び深淵に落ち闇は晴れる”



「世界の半分をくれるという話はどうなるのかな?」



”精霊の記憶の半分では満足できぬか?”



「僕は記憶が欲しいなんて言ってない」



”フフフフでは世界のすべてをやろう”



「それはつまり僕が魔王になると言う事だ!フン!!」ダダ スカ


「聖剣エクスカリバーでも切れない…か」



”そんな物では我は滅ぼせぬ”


”大人しく我が一部となれ”



「分かった…覚悟は出来ている」


「アサシン…約束の時だ…」グッ



剣士は祈りの指輪を強く握りしめた



「魔王のすべてと世界中すべての憎悪を望む!!」



剣士にとってこれは賭けだった


魔王の欠片をすべて集めて自分ごと空間から消し去る…


その意識を保って居られるか…そんな賭けだ…


それで世界が救われるならそれで良いと思って居た…でも結果は少し違った…





『飛空艇』


剣士に置いて行かれた女海賊は諦めが悪い…真っ直ぐに剣士に向かって飛ぶ


彼女は剣士に短刀を渡した時に既に誓っていた…死んでもアンタを守ると



「剣士とアサシンが遺跡に降りた…どうする気だ?」


「お姉ぇ!!やっぱ私諦めない!!」


「お前…突っ込む気か…ヤメロ…やらせておけ!!」グイ ドン



女戦士は女海賊を突き飛ばし押さえつけた



「この船は私の船だよ…勝手な事しないで」バタバタ



体格は女戦士の方が上だ…それでも女海賊は渾身の力で暴れ出す



「離せって!!」グググ


「ローグ!!女海賊を押さえろ!!」


「あねさんスマンでやんす」グイ


「離せ!…離せよ!!」ジタバタ


「黙って見ていろ!!…アレが魔王の正体か?…あの闇が」



ターン!


デリンジャーが火を吹いた



「うがぁぁぁ…足が…つつつつ」


「お姉ぇ…どいて」


「お前…正気か?」


「もういい…」



ターン!


女海賊は姉をデリンジャーで撃った


女戦士の腹部に拳大の穴が開き血が噴き出す



「はぅ…くぅぅ」ブシューー


「どけ!!どけってんだ!!…言う事聞けないなら降りて!!」


「お前…そんなに…」


「黙ってて!!」


「痛いっす…血が止まんねぇでやんすー」


「ええぃ…私が止血を」ズリズリ


「かしらも血が…」


「はっ…空が!!いや…すべての闇が剣士に吸い込まれて行く」


「うぉぁぁぁぁぁぁ」




ガコン ズズズズズズズズ


女海賊は着陸も何も考えず真っ直ぐに剣士の下へ気球を滑らせた




『その時…』


剣士は祈りの指輪で魔王を祈りすべての闇を受け入れた


憎悪と怨念の渦が剣士の心を埋め尽くす…


そして今空間ごと消し去ろうとしたその時…異変が起きた


体中を巡る血液が魔王と戦う意思を見せたのだ…それは女海賊から貰った愛…ドワーフの血液だ


体が勝手に魔王と戦い始めた事に戸惑った…煮えたぎるその血が彼女の血だと分かったから…


そこで彼女が乗る飛空艇が目に入って来る



---戦って居るのは僕だけじゃない---


---彼女が支えてくれているんだ---



「うぉぁぁぁぁぁぁ!!」



---力が溢れる---


---魔力が溢れる---


---知恵が溢れる---


---記憶が溢れる---



しかし世界中の憎悪はあまりに強大で剣士の心を打ち砕く


そして憎悪に飲み込まれて心が砕け散った…



「我来たる…我こそが魔王なり…うぐ…な、なんだこの器は…」



剣士を支配した魔王は体の異変に気が付いた



「構わぬ…すべて消し去ってくれよう…うががが」



ブス!!


剣士の心臓をミスリル銀のダガーが貫いた



「させるか…深淵に戻れ!!」ズブズブ



心臓を突きさしたのはアサシンだ


剣士が意識を失った時の保険でアサシンが止めを刺す約束だったのだ



「ぐはぁぁぁ…」


「フハハ我は滅びぬ…何度でも蘇る…うががが」


「がぁぁぁぁ…何故だ…自由が効かぬ…」



ガコン ズズズズズズズズ


そこに丁度飛空艇が滑り落ちて来た



「飛空艇か!!」



アサシンが振り返る間もなく女海賊が駆け寄る



「剣士ぃぃぃ!!」タッタッタ


「うがぁぁぁぁ!!」



剣士の体から黒い影が溢れ出し太陽の光で焼かれて行く



「アサシン!!あんたぁ!!」チャキリ


「許せ…これしか方法が無かった」


「手を放して!!撃つよ!!」


「まだ魔王は滅んで居ない」


「うるさい!!」ターン


「ぐぅ…お前」ガク



溢れ出した黒い影は次々と太陽の光で焼かれながら地面に潜って行く


どの位逃げたのかは分からない


そして剣士は膝を落としてその場に崩れ落ちた


その時更に異変が起きた…地面からニョキニョキと植物が芽を出して来た


ズブズブズブ ズブズブズブ




『ドワーフの気球では…』


ゾンビの群れを魔法で凍らせ剣士達の行動を遠めに見る事が出来た…



「ちぃ…操縦変われ!!回頭が遅せぇ!!」グイ


「見て見よ…闇が剣士に吸い込まれて行きよる」


「飛空艇が突っ込んで行く…」


「良く見ておくのじゃ…この出来事は後世に伝えて行かねばならぬ…目を離すで無いぞ?」


「何が起きてんだ?俺には見えねぇ…なんでこの気球は操縦部に観測窓付けて無ぇんだ」ボカ


「あれは…勇者が魔王になる瞬間…か?」


「そうじゃ古の伝説はすべて事実じゃった…見て見よ闇が晴れよる」


「太陽だ!!太陽が見える!!」


「俺にも見せろ…ん?勇者の前に居るのは…アサシンと女海賊か?」


「おぉぉぉぉ地面から芽が生えてきおった…何が起こるのじゃ?」



ズブズブズブ ズブズブズブ



「木だ!!木が剣士を包み始めている」


「見よ…無数の光…いやあれは魂じゃ魂が空に飛んでいきよる」


「植物の芽か?触手か…光を追いかけてる」


「なんという奇跡か…精霊樹が魂を守ろうとしておる…ぉぉぉぉ」


「俺達もあそこに行くぞ…」グイ




『現場では…』


突然地面から生えて来た植物に阻まれ女海賊は剣士に近付けなかった



「何だよ…この草はぁぁ!!邪魔なんだよ…」



女海賊はその植物を掻き分けながら剣士の下へ近づいた



「剣士!!しっかりして!!」



剣士の胸から血が流れだして居た



「ダメぇぇぇぇぇ死んじゃダメぇぇぇ!!」


「ぐふっ…なんだこの木は」


「くっそ邪魔な木…吹っ飛ばしてやる!!」チリチリ ドーン



女海賊は爆風を気にする事無く手元の直ぐそこで爆弾を使った



「クックック…流石強引にこじ開ける」


「剣士!?」グイ


「…」グッタリ


「心臓…どうしよう…そうだ蘇生魔法!」


「だめだ魔力が無い…だれか回復魔法出来ないの?」


「女エルフ!!どこに居んのさ!!…ハッ…死んだのか…この木はもしかして女エルフ?」


「くそぅ!!あんたに剣士は渡さないよ!!」


「何か言えよ…どうすりゃ良いのさ…血だ…血を止めなきゃ」ギュゥ


「止まんない…そうだ!!エリクサーだ!!飛空艇にある…」ヨッコラ


「死なないでお願い…お願い…お願い」ダダダ



女海賊は剣士が腰に携えていた短刀を引き抜き…邪魔な植物を切り払いながら走った


自分が爆弾で怪我をしている事など考えもしない…必至だ


飛空艇に走り込みエリクサーを容器にすくう



「剣士…ほらエリクサーだよ飲んで?」グイ


「心臓にもエリクサー入れる」


「目を覚ましてよぅ…お願いだよぅ」ポロポロ


「お前…」


「必死でやんす…」


「うわぁぁぁぁぁぁん…死んじゃダメェェェ」




『ドワーフの気球』


闇が晴れ太陽が見え始めた…


事が済み大事な時に居合わせなかったドワーフの気球はゆっくりとその現場へ降りて来る



「太陽だ!!」



商人は空を仰ぎ見た



「おぉぉぉぉ闇が晴れた…のじゃな?」


「終わった…の…か?」


「女海賊が剣士を飛空艇に運んでる様だよ」


「アサシンが一人倒れておるな?」


「あぁ連れて行く…商人!アサシンに声掛けてくれ」


「アサシーーン!!大丈夫ぅぅぅ?」


「降ろすぞ‥‥」



フワフワ ドッスン



「手を振ってた…怪我をして動けないみたいだ…」


「おう!!商人一緒に来い…アサシン担ぐの手伝え」タッタ


「うん…」タッタ



2人はアサシンに走り寄った



「アサシン!!大丈夫か?」


「クックック…アーッハッハ」



アサシンは腹部を手で押さえながら気が触れたように笑って居た



「まぁ大丈夫そうだな?立てるか?うお!!お前…腹に穴空いてんじゃねぇか…笑ってる場合じゃねぇだろ」


「これはひどいな…手当が必要だ…魔女?回復魔法をお願い」


「私より剣士が先では無いか?」


「剣士は回復の必要が無い…」



魔女はうつ向きながらそう返す



「何故そう思う?クックック」


「何笑ってんのよ…頭逝かれたか?」


「魔女…お前のそういう態度に傷付く者が居る事を分からないのか?」


「わらわも心苦しいのじゃ察してくれ…」


「それでも尚…生かす努力をしている女海賊を見て何も感じないか?」


「すまぬ…わらわは会わせる顔が無い」


「クックック…アーッハッハ」


「…」プルプル



魔女は未だかつて他の誰かに負い目を感じる事は無かった


しかし今回は違う…


初めて他人に頬をぶたれ…人の信頼を裏切って居る事に対して真っ向から否定されたのだ


それも心を許せそうな相手に対して…


魔女も又…大事な友を失って居た




『飛空艇』


倒れている剣士に対して女海賊は懸命に蘇生処置をしていた


不思議な事に止まって居た剣士の心臓からは大量の出血は無かった


エリクサー傷口に塗り込みながら手で傷口を押さえて居たらいつの間にか塞がって居る



「大丈夫…傷口塞がってるから…今からマッサージするね」グッグッグッ


「ローグ!!あんたもエリクサー飲んで回復して手伝え」


「は、は、はい…」ガクブル


「お姉ぇ…私は剣士を連れて旅に出る」


「どうするのだ?」


「私は絶対諦めない…剣士は私の一部さ…地球の裏側まで行って誰にも渡さない」


「フフ付き合えと言うのか?」


「嫌なら降りていいさ」


「さて…どうしたものか…」


「ローグ!!マッサージ続けて…止めたらあんたの頭吹っ飛ぶと思いな!!」


「へ…へい…」グッグッグッ



ローグは実の姉にも躊躇なく武器を振るう女海賊の胆力にカリスマ性を見た


すべてをどんでん返しするだけの可能性も見えた


この2人の姉妹に惚れこんでしまっていた



「…」ガチャガチャ



女海賊は黙ってデリンジャーに弾を込める



「武器を何に使う!?」


「宣戦布告さ…黙って見てな」ギロ



その時女海賊は見ていた


剣士から溢れ出る黒い影は太陽に焼かれながらも地面の何処かへ潜って行った事を…


だから誰も信用出来なくなった




『ドワーフの気球』


女海賊は静かに盗賊達の下へ歩み寄りデリンジャーを構えた


チャキリ



「おぉ!!女海賊!!剣士はどうした?…おいおい…武器をこっちに向けんな」


「ホムちゃんは何処?」


「彼女は流れ矢に当たって停止した…」


「ちっ…ホムちゃんまで…あんた等何やってたのさ!!」


「やけに粗ぶってんじゃねぇか…武器を降ろせ」


「ホムちゃんから何か聞いて居ないの?」


「まだ南の大陸にホムンルクスが1体あるって…」


「どこ?」


「火山のふもとに研究所があるらしい…ねぇ武器降ろしてよ」


「剣士の手当ては良いのか?」


「もう剣士の仕事は終わったさ…どういう事か知ってるよね?…魔女!」



女海賊は魔女に向き直りデリンジャーを向けた



「隠しておってすまぬ…」


「それからあんたも!!」


「え?」ビク



デリンジャーを商人に向ける



「私はもうあんた達を信じない…今から敵さ…あんたら人間は私の敵だ!!」


「おいおい…そりゃ無ぇぜ」



ターン!!


デリンジャーが火を吹き盗賊の腹部を貫通した



「ぐぁ!!あだっ…あだだ」タジ


「フン!!揃いも揃って魔王の言いなりになりやがって…」


「済まぬ…本当に済まなんだ」ヨタヨタ



ターン!!


女海賊は躊躇なく小さな魔女の体を撃った


魔女は察知して居たのにそれを避けなかった



「はぅ…」ドタ


「敵だと言ったはずだ…近付くな!!」


「お前…どうするつもりだ?」


「私の勝手さ…精々平和を満喫しておきな!!」


「おい!!どこに行く」


「わざわざサヨナラを言いに来てやったのさ…目に焼き付けとくんだね!!」スタスタ


「おい待てよ!!」ヨタヨタ ドター



盗賊は撃たれたショックで体が上手く動かせないで居た


飛空艇に乗り込み飛び去って行く女海賊を追えなかった



シュゴーーーーー



風の魔石が連通管を勢い良く通る音だ


あっという間に飛空艇は遠くに行ってしまった



「ぬぁぁぁ…行っちまったかよ…」


「ぅぅぅ…」ポロポロ



魔女は大事な仲間を代償として闇を祓った事に対して自責の念を抱え涙する



「魔女…仕方ないよ」


「わらわは修行が足りぬ様じゃ…人の心を学び忘れておった」ポロポロ


「ありゃ相当怒っちまったな…もう帰って来ねぇかもしれん」


「なかなか良い芝居が見れた…クックック」


「アサシン!人の心を逆撫でんな!!」


「笑いが止まらん…暗殺者の奥義ハートブレイクという技を知っているか?」


「心臓を仮死状態にする技だな?まさかお前それで剣士に止めを刺したのか?」


「魔王はまんまと深淵に落ちて行った…笑わずに居られるか?クックック…」


「マジかよ…それじゃ剣士は死んで無いんだな?」


「さぁな?魔王に砕かれた心がどうなったかは知らん…だが肉体は死んで居ない」


「それは真か…何故早よぅ言わん」


「私は試していたのだ…ドワーフだけは最後まで勇者を守ろうとする」


「それが定めじゃ」


「人間が何をしていたかが問題だ…利己的に動いて居なかったか?」


「……」


「それから何故ドワーフは人間に武器を振るった?…それは私達の中に住む魔王を見抜いているのでは無いか?」


「どういう事だ?」


「魔王はまだ滅んでおらぬ…退いただけじゃ」


「その通り…魔王はすでに動き始めている…私にはそう思える」


「その通りやも知れぬ…わらわ達は伝説に従い勇者を見殺しにしただけと言い換える事が出来る」


「女海賊には少なくともそう見えて居る…今頃反省しても遅いのだが」


「それが分かったら直ぐ行動だろう!!話し込んでる暇が有ったら回復魔法くれぇ!!」


「そうじゃったな…わらわも血が無うなると意識が保てぬ…回復魔法!」ボワー


「あいつら居なくなっても俺らで何とかすんぞ!!こんな所で凹んでなんかいられ無ぇ!一回帰る!」


「一からやり直しだ…やはり私は盗賊ギルドを続けなければならん様だ」


「俺はもう関わら無ぇけどな…」


「わらわも修行し直す…」


「商人!お前はどうする?」


「僕はやらなければいけない事が出来た…南の大陸に渡る」


「そうか…俺も子供達を南の大陸へ迎えに行くんだ…途中まで一緒だ」


「助かるよ」


「じゃ行くぞ!!」




こうして100日の闇は祓われ世界に再び光が戻った


人知れず魔王と戦った剣士と女海賊の事を見た者はたった数人…


これが歴史の真実が後の世へ正確に伝わらない原因だ


そんな虚言の混ざった伝説を信じ込み同じ過ちを繰り返すのが人間達…


一先ず世界に平和は戻った…



そして数年後…再び物語は走り始める…





あとがき


まず此処まで読んで頂きありがとうございます


これまでの物語は剣士を主人公としてヒロインに当たる女海賊と女エルフの三角関係を書いて来ました


それぞれ初めて出会った時から成長して大人になって行く過程を書いたつもりです


サブ主人公にあたる女海賊は途中からメイン主人公の様に話しが進んで行ったのは


続編で次の主人公になる為の布石です…


さて…


ここまでの物語が「魔王は一体どこにいる」という作品の序章に当たります


メインテーマとなって居る「夢幻」とは何?というのがまだ解決していませんね…


それから魔王がどうなったのかもいまいち腹に落ちない


作中でそれらが一体何なのか?というのはボヤけた感じで表現して居ました


答えを言ってしまうと情報屋がその昔飼って居た機械の犬に記録されていた音声データ…


それが「夢幻」とは何?と言うのを良く表した表現なのですが


では魔王はその「夢幻」を一体どうしたいの?という謎がここまで何も書いて居ません


これからの続編はそういう謎が解けて行きます


次回作もよろしくお願いします



2.5完結しました


これでシーズン2が終わり続いてシーズン3は主人公が変わります

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「魔王は一体どこにいる」シーズン2.5 ジョンG @yukikudo

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