第7話 ルード編 天才の発見
ルード編
迷宮、こいつは魔物が無限に湧き出す薄暗くてじめじめした最悪の宝石箱だ。
そもそもなんで俺たち冒険者は迷宮に潜るのか? どうして迷宮なんかが生まれたのか?
ことの発端は大体百年前、異世界からこの世界を侵略しにやってきた魔王とこの国との大戦争が始まりだ。
この大戦争、正直なんで勝てたんだってくらい奇跡的な勝利な上に物語としても面白くておすすめなんだが。
長くなるから今回は迷宮誕生の所だけ説明しよう。
国が二つ無くなるほどの大戦争の末、当時のこの国の王、メルディアン:リナルドは、誰よりも強い力と誰よりも強い魔力を持つ魔王を見事打ち倒すことに成功。
魔王の死により世界に平和が訪れ、世界は歓喜の歌声で包まれた。
だが魔王って奴は相当慎重な性格だったのだろう。
しばらくして各地で不自然な遺跡……迷宮が発見され、その最深部にて魔王の魂と古代魔法の起動が確認された。
魔王は倒される前、自分が復活ができるようにあらかじめ各地の魔力が溜まりやすい場所に迷宮を作り上げ、復活を目論んだのである。
このままではいずれ、十分に魔力を吸収した魂が魔王となって復活を果たす。
当然その事態をそのままにしておくことも出来ず、王は迷宮の破壊を試みるも、魔王の魔法により作られた建築物を破壊することは叶わなかった。
メルディアン:リナルド王は苦肉の策として各迷宮で魔力を集め肥大化する魔王の魂を、クリスタルに少しずつ封印して持ち帰るという対処療法を取る方法を考案した。
だがそれも簡単な話じゃない。
当時は戦争が終わったばかり、兵士の数は少ないうえに魔王が迷宮をいくつ作ったのかも不明瞭。
迷宮を一つでも取り残しても、時間をかけすぎても魔王は復活してしまうのだから、とんでもない置き土産を残したものだ。
国中を闇雲に探すには人手も足りず、魔王との戦争で疲弊したのを好機とばかりに、周辺の国が侵略を目論んでいるという噂もあり、兵士を王は手放すことができなかった。
困り果てた王は、やがて魔王の魂に懸賞金をかけ、軍隊とは異なる機関を頼ることになる。
まぁ、前おきは長くなったが、そこで白羽の矢が立ったのが当時遺跡調査や洞窟探索を引き受けていたならず者や半端者、失業者の集団……数だけは多い俺たち冒険者だったってわけだ。
もっとも、冒険者という職業が誰もが憧れる夢の職業になったのはここ数十年の話ではあるが……。
とはいえ、現在世界中に存在する迷宮は全て発見され、半年前に誰も踏破ができなかった最難関の迷宮が攻略されたことにより、魔王復活の脅威からようやく人間は解放されたというわけである。
まぁもっとも、魔王の魂が膨大すぎるのと迷宮最深部までたどり着ける冒険者自体がいつの時代も稀有ということもあり、魔王の魂を完全に消滅させるのにあと何百年かかるのかは予想ができない。
そのため俺たち冒険者は今日も今日とて迷宮探索に勤しむのである。
「ったくあのダストってギルドマスター、いけすかねぇ野郎だぜ」
フリークと別れ、転籍の登録を終えた俺はその足で腕試しも兼ねて迷宮へと足を運んだ。
様子見……というのも勿論あるが、冒険者ギルドで田舎者と馬鹿にされた鬱憤を魔物にでもぶつけて晴らしてやろうと思ったからだ。
「田舎者、田舎者って馬鹿にしやがって。 てめえの出身だって大して変わんねぇど田舎じゃねえかタコ坊主‼︎」
半ば八つ当たりに近い怒号を発しながら、飛びかかってきたオーガの頭を斬り落とし、返す刃で足元から奇襲を仕掛けてきた大蛇バジリスクの首を叩き切る。
ラプラスの迷宮は難易度こそゴールド級の冒険者向けの迷宮だが……迷宮は王都に近ければ近いほど難易度設定が甘くなるという話は本当のようで、特に苦戦することなく魔物たちは俺の八つ当たりの餌食になっていく。
北の街で唯一中級の迷宮を単独で走破ができる俺にとって、バジリスクやオーガ程度は手こずる程のものではない。
「……とはいえ魔物は弱えけど、なんだよこのくそ難解な迷宮はよ……俺のいた街の迷宮の倍ぐらいの広さがあるぞ……こんなことなら、もう少しフリークに迷宮の情報を聞いとくんだった」
魔王の魔力により絶えず生み出される魔物に、薄暗く複雑なこの迷宮。
こんな危険な場所でちんたら地図を作ろうなんて考えるやつは当然いない……。
集中力を途切らせ、油断をしたものから死んでいく……そんな危険な場所で、図面を引きながら歩くなどというのは自殺行為に等しいからだ。
また、仮に作った奴がいたとしても、それを誰かに見せようなどと考える冒険者などもっといない。
冒険者は何度も迷宮に挑戦するなかで死と隣り合わせのトライアンドエラーを繰り返し、やがて自分だけの攻略ルートを確立して魔王の魂を安全に回収できるようになる。迷宮最深部の魔王の魂はいわば冒険者にとっての努力の対価だ。
迷宮の地図を誰かに見せるということは、他人がその努力をせずに報酬だけを手に入れられるようになるということ。
当然、それをよしとする懐の広い冒険者など存在しないし、どんなに仲の良い友人にも迷宮の情報は明かさない。
ただし酔い潰れた時だけ迷宮の情報を漏らす奴は多いため、冒険者は毎晩酒場に集い、酔い潰れて誰かが口を滑らせないかを虎視眈々と狙っているのである。
「だけど……フリークは聞いたら色々と教えてくれそうだな。今は冒険者としては活動してないみたいだし……明日色々聞いてみるか」
そう呟きながら俺は、迷宮二階層の階段を降りていき、三階層へと到着をする。
異様な雰囲気に、二階層とは違った苔むしたじめじめとした場所……。
初めてみる光景のはずなのだが、その光景に俺は見覚えがあった。
「ここが三階層か……本当にフリークの絵そっくりだ」
正確にはフリークの絵が迷宮にそっくりなのだが、そんなことはどうでもいいだろう。
苔の質感、迷宮の薄暗さにじめじめとした絵の具を滲ませたような壁の色。
まるで本物の絵、みたいだ……。
そう思いながら、東にまっすぐと伸びる迷宮の道を見据え。
ふと、思いつく。
「東に30歩……」
コンパスは東を指し、絵のタイトルを思い出しながらちょいと小柄なフリークに合わせて歩幅を狭めて東に30歩。
すると今度は東、南、北の三叉路にたどり着く。
「北に15歩」
次に現れたのは東と西の分かれ道。
「……西に10歩」
そして、到着した場所の前で俺は、フリークの絵を広げてみる。
そこには目前の場所と全く同じ風景が広がっていた。
確かに迷宮というやつは似通った風景が続く。
だがその絵は、積み上げられた煉瓦の配置や壁にできた傷一つ一つ全てが、全く同じに描かれているのである。
「いやいや……偶然だよなこれ」
ただの偶然……一度自分に言い聞かせてみるが。
言葉とは反対に頭はフリークと最初に話した内容を思い返す。
『間違っていないと思うんだけど』
そう、フリークは絵に対して確かに間違っていないと言っていた。
聞いた時は意味が分からず聞き流していたが。
それが、この風景を何一つ間違いなく記憶の通り模写をしたという意味だとしたら?
あいつの頭は文字や数字が見えない代わりに、見た風景や光景を完全に記憶できるんだとしたら?
「……こいつぁ。 とんでもねぇやつと行き合ったか‼︎」
迷宮攻略のことなんて忘れて慌てて踵を返した。
フリークはきっと、俺の人生を輝かせてくれる。
そんな確信を、胸の中に抱きながら。
◇
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