第47話 窮地
「違う、違う……違う違う違う違う‼︎ あいつはあいつは関係ねーです‼︎ 俺が勝手にやったことなんですよ‼︎ 犯人は俺だ、ちくしょう‼︎ あいつは、メルトラは関係ない‼︎」
必死になってセレナの答えを否定するボレアス。その表情は血の気が失せており、懇願をするように監獄内にその絶叫を響かせる。
「……その反応、どうやら正解のようね。悪いけど、どんなに懇願されても見逃すつもりはないわ。どんな形であれ、私はフリークを危険に晒した人間は許さないから」
「ぐ……ううぅ……うぅぅう‼︎」
セレナの言葉にボレアスは絶望をしたように項垂れて、唸り声しか出せなくなってしまう。
そんなボレアスの様子に、セレナは悲しそうに目を伏せた。
当然だ……正しいことをしているとしても、大切な仲間をこんな形で追い詰めて、平気なわけがない。
「大丈夫?セレナ……」
「えぇ……心配してくれてありがとう。犯人は分かったわ……後は王と王妃にこのことを伝えれば……」
「させないですよ……フリークさん。セレナさん」
洞窟内にそんな声が響き渡り、同時に足元から紫色の光がのび、辺り一帯を光の壁が包み込んでいく。
「‼︎ これは結界……まずい‼︎」
セレナは慌てて剣を抜き、光の壁を切り付けるが。
セレナの剣を光の壁は弾き飛ばす。
「そんな……セレナの剣を弾き飛ばすなんて」
「こんな魔法使えるやつなんて、一人しかいないわよね。仲間に向かって随分じゃないの、メルトラ」
舌打ちをしてセレナは暗闇に向かってそう呟くと。暗闇の中からメルトラが現れた。
「仕方ないでしょう……貴方が余計な詮索をしなければ、こんなことをしなくても済んだのですから」
「全く、化けの皮が剥がれたからってすぐに実力行使……ボレアスの苦労を察するわね」
「勝手に隠蔽工作に奔走していたのは、ボレアスの勝手ですよ。あいつが頼むから、陰謀ごっこに付き合ってあげていただけ。私は元々、この城ごと燃やし尽くしてもよかったんですから」
殺意を剥き出しにし、メルトラは結界の外側にもう一枚結界を貼る。
それは今まで見たことのない、メルトラの憎しみに満ちた顔だった。
「分からないわね。貴方がどうして王に恨みを抱くのかしら?」
「……王族は敵です……魔王の復活を阻止することばかりに目を向けて、迷宮のない土地には何の関心も示しませんでした。私の村は、私が小さい頃疫病に侵されました。薬があれば助かる病気だったのに、王は私たちの苦しみも嘆願すらも見向きもせず、魔王復活のことばかり。私は運よく、貴方たちのいた村に養子に出されて助かったけれど……残された村は病気で滅びました。お父さんもお母さんも……大好きだったお兄ちゃんもみんなみんな、この国の王に殺されたんです‼︎」
「……そう、貴方が養子として私たちの村に来たのはそういう理由だったのね。確かに家族を失ったのは、可哀想な話ね、同情するわ……だけど王族を恨むのは筋違いじゃないかしら? 憎むのだったら疫病の方を憎んで、疫病の撲滅に力を注いだ方がよほど世のため人のためになったのではない?」
怒り狂うメルトラに対し、セレナはそんな挑発めいた言葉を叩きつける。
「何も知らないくせに知った風な口を……私だって、最初は恨んでなんて無かった。貴方の言う通り、少しでも私達の村で起こった悲劇を繰り返さないように、勉強して、勉強して勉強して、魔法学校を主席で合格もしました……でも、王はとんでもないクズ野郎だった」
「?」
「貴方も覚えているでしょうフリークさん。私が魔法学校を主席で卒業した後、王に勲章を貰った時のことよ。私は王に、私の村を覚えているかって問いただした……あの時どうして私の村を助けてくれなかったのかって……そしたら、あの王なんて言ったと思う?」
「……さぁ、想像もできないわね」
「そんなこと忘れろって言ったんですよ……滅んだ村のことなんか忘れて、新しい人生で大義をなせって。お父さんのこともお母さんのこともお兄ちゃんのことも全部忘れろって言ったんです‼︎ 許せなかった……あの王にとって、私達の村は【そんなこと】で片付けられる程度のことだったんです。だから、だから見せつけてやるんです……あいつが【そんなこと】で済ませた村の人間が、大事なものを全部ぶっ壊すところを‼︎」
「……口下手なあの王がいいそうな事ね。こうやって敵ばっかり増えていくのね」
怒り狂うメルトラにセレナは呆れたようにそう呟く。
王様の人となりを知っているからこそ、励まそうとしたんだろうなと予想がついたが、
確かに初対面でこれを言われたら恨まれもするだろう。
ただ。
「だからって、いくら何でもやりすぎだよメルトラ」
「うるさい‼︎ ようやく王の首が目の前にある‼︎私の村を助けてくれなかったこの国を滅ぼす力だってある‼︎ セレナさん、フリークさん……貴方たちさえここに閉じ込めておければ」
「それは無理ね……確かにこれだけ高度な結界の重ねがけ、私でも解除するのは時間がかかるでしょうけれども。時間がかかるだけよ……五分もかからない」
「っ‼︎」
殺気をこめてセレナはメルトラを睨みつけると、剣に魔力を込める。
セレナの言葉はハッタリではない。
本気を出せば、力づくで結界を破壊してセレナの首を切り落とすだろう。
メルトラの魔法は確かに強力ではあるが、彼女が得意とするのはもっぱら巨大な敵や大群に対し強力な魔法を叩きつけることに特化した魔法。
元々大雑把な性格なため出が早く小回りと精密な操作が要求される対人戦闘用の魔法は全く得意ではない。
そのため、正面からの戦いとなればセレナとメルトラ、どちらに軍配が上がるのかは明白である。
「最後の忠告よ。結界を解いて、八つ当たりに近い復讐なんて諦めなさい。そうしたら今はまだ仲間でいてあげる。でも、これ以上続けるというなら……そっ首叩き落とすわよ?」
メルトラを睨みつけるセレナの目は本気であり、一瞬だけメルトラは怯むような表情を見せるが。
「ふ……ふふふっ……貴方がゴリラみたいな馬鹿力なのは理解していますよ。でも、数分貴方を閉じ込められれば十分なんですよ」
口元を緩めながらメルトラはそういうと、メルトラは召喚魔法の魔法陣を自らの足元に描くと、同時に魔法陣から大量のクリスタルが現れる。
それは、迷宮最深部で魔王の魂を封じ込めるために使用する見慣れた魔道具マジックアイテム。
一体どこから用意したのだろう……と僕は一瞬思案し、ここが魔王の魂の保管に使われている洞窟であると言うことを思い出す。
「まさか……ボレアスの尋問をすると見せかけて、魔王の魂の封印を……メルトラ、貴方そこまで⁉︎」
……魔王の復活の条件は、魔王の魂がその力、魔力を取り戻すこと。
仮に世界中から一箇所に集められた魔王の魂に、王国一の魔法使いが魔力を与えたとしたら……。
「おい‼︎ 本気でやるつもりかよメルトラ‼︎そんなことしたら……お前みたいな思いをする奴がたくさん出てくるかも知れねーんですよ‼︎」
メルトラの行動に、ボレアスは必死になって最後の説得を試みるけれど、その声はメルトラには届いていなかった。
「これで、これで私の復讐は完了するんだああああ‼︎」
絶叫と共にメルトラは杖を構えて魔王を復活させようとする。
が。
「悪いがのぉメルトラ……それはさせんよ」
そのメルトラの魔法は、突如叩きつけられた斧の一閃により中断される。
「‼︎?貴方は‼︎」
「遅い‼︎」
「きゃっ‼︎」
そこに現れたのは小柄な老人であり、迎撃用の魔法を慌てて放とうとするメルトラに対し。
斧を持った男はそのままメルトラに蹴りを放って壁に叩きつけると……メルトラはぐったりと動かなくなる。
その身のこなしは、達人のそれであり。
小柄な老人は、メルトラが取り落とした杖を踏み折ると、ゆっくりとこちらに向き直る。
それは、僕のよく知る人物……サイモンであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます