第15話 変革する世界(後編)

「とりあえず、オゾン層の一件はいったん置いておこう。関連性はあるのかもしれないが……それよりもまずは国防の方だ。我が国の存亡がかかっているからな」

「ねぇ~、早くバカンス行きたいんですけど~」

「私も、早くどんちゃん騒ぎをしたいんだが」



 クソッ、こんな大事な時にどいつもこいつも自分のことばかり考えやがって……そうだ。


 国の危機よりも自分のことしか考えない閣僚達を無視した首相は、下卑た笑みを浮かべると部下を呼び出した。

 そして、戦々恐々としている部下に指示を出した。



「おい、急いで各国の首相達に繋げろ」

「いっ、良いのですか!? だって、我が国は世界から既に総スカンを喰らっており……」

「そんなことは俺がどうにかする! とにかく急げ!」

「はっ、はい!!」



 姿勢を正して慌てて部屋を後にした部下を一瞥すると、首相は今から行うことに意識を集中させた。





「AI、プログラムの進捗状況はどうだ?」



 世界から兵器が消え、汚染されていた地球環境に変化が訪れてから数日後、実家の地下にある部屋に来た俺は、機械音を鳴らすスーパーコンピューター達に向かって聞いた。

 すると、ショッキンググリーンの蛍光灯に照らされた薄暗い部屋から、カタコトで話す女性の声が聞えてきた。



「はい。主様の言う通り、人工島から放出されている原子レベルの回収用粒子を使い、地球上の兵器を全て回収しています。同時に、原子レベルで分解した兵器を再構築し、地球にとって最適な環境に作り替えております」

「そうか。プログラムの完了はいつになる?」

「この調子でいけば、1ヵ月後には完了します」

「そうか」



 1ヵ月で地球環境が最適化されたものになるのか。さすが、親父が開発したAIだな。


 静かに笑みを浮かべた俺は、すぐさま表情を引き締めるとスーパーコンピューターに背を向けた。



「分かった。完了したら俺のスマホに連絡を入れろ」

「かしこまりました」



 さて、俺も準備を進めないと。


 満足げに鼻を鳴らした俺は、次の計画を実行するため部屋を出た。

 そして、しばらくの間、武器が無くなると同時に急速に変化する地球環境に対して混乱する世界情勢を自宅で静観しつつ、水面下で準備を進めた。





 年が明けたのと同時に実行された『地球再生プログラム』。

 それは、各国が過剰に保有していた兵器を使い、地球環境を最適化させる人類史上最大のプロジェクトだった。


 年が明ける直前、俺は何も知らない奴に大金を与え、最西端にある人工島に手のひらサイズの金属製のキューブを島の真ん中に置くようお使いを頼んだ。

 もちろん、お使いが済んだらAIによって奴の記憶を改竄してもらったが。


 そして、金属製のキューブ……キューブ型小型AIを使い、沈没寸前の人工島を一瞬にして巨大な無人島に作り替えた。

 その直後、島の中心にある銀色の山の火口から無数の兵器回収用粒子を放出し、世界中の武器を原子レベルで分解して人工島の火口の中へと回収した。

 それだけでなく、兵器の製造工場や兵器製造に関わる書物やデータ、はたまた大量の宇宙や海洋のゴミを1つ残らず一夜で全て回収しのだ。


 俺が作る世界に兵器は要らないからな。

 それに、地球環境を再生させるには十分すぎるくらいのエネルギー資源になるから。


 そうして、回収した兵器やゴミを原子レベルに分解すると、今度は地球環境再生用の粒子に作り替えて火口から放出した。

 その粒子は、主に破壊されたオゾン層を修復したり、砂漠化や酸性雨が酷い場所に対して、その場に適した植物の種を植えて急速に成長させて緑豊かな場所に変えたりしていた。


 まぁ、兵器回収とは違い、地球環境を再生させるにはそれ相応の時間がかかってしまうが、その間に世界の動きが見ることが出来るので、俺としては有意義な時間だった。

 それに、1ヵ月で何百年と引き継がれた人類最大の課題を解決出来た。

 この時はさすがに、親父が作ったAIの有能さに舌を巻いた。





「AIが地球環境を再生しているとは知らない各国首脳達が、急速に変化する環境に対してどのように対処するのか気になったが……やっぱり、クズはクズだったな」



 国会議事堂内にある自室で、プログラム発動時のことを思い出して深いため息をついた俺は、タブレットの中にある各国首脳達……いや、各国首脳達の顔を疎ましい顔で見つめた。

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