第5話 全ては、栄華を取り戻すために

「そもそも、我が国は先の大戦で大敗を期した。それは、我が国にとって最大の汚点だ! そして、それは確実に我が国を衰退させていった! だから、私は……いや、戦後の歴代首相達は、密かに逆転のチャンスを狙っていたのだ! 全ては、我が国が再び世界と肩を並べるために!」

「そんな……」



 そんな野望を歴代首相は抱いていたのか? 我が国は、長い間過去に縛られ続けていたのか?


 啞然とする俺に構わず、首相は力説する。



「それにも関わらず、あいつは『今の時代にそぐわない』なんて馬鹿なことを言い出した。だから、殺した! そして、利用した。これから始まる我が国の再興への礎として! そして、あいつは何だかんだで、世界の首相に受け入れられていたからな、あいつの死は尚更仕えると思ったよ」



 俺の目の前にいるのは、本当に我が国の首相なのか? こんな、非人道的な考え方を以っている人物が国のトップだというのか?



「まぁでも、エネルギー資源不足で争いが起こっているお陰で、我が国の悲願を叶える準備も早く整えることが出来た」



 そう言って、首相は得意げな笑みを浮かべるとテーブルの上で優雅に手を組んだ。



「同盟国だった国は、自国保身のため我が国からの軍の撤退を急速に進めていた。そして、それを知った我が国の隣国は、同盟国の庇護を受けなくなった我が国を自分のものにしようと、急速な軍事拡張をしていた。だから、私はこのピンチをチャンスとして我が国は両国……いや、世界から我が国の強さを再度思い知らすために軍備拡張をしていた」

「それが、我が国の国民……果ては国家元首を蔑ろにするようなものであっても?」

「口を慎め。今の国家元首は内閣総理大臣であるこの俺だ」



 そう、こいつは愚法を布いた直後、国家元首を自分にすり替えて皇族達を一気に一般国民と同等の扱いにさせたのだ。


 咎めるように睨みつける俺に対して、首相は不機嫌そうに鼻を鳴らした。



「フン、そもそもこの国の事情を何も知らず頭ごなしに反対する愚民が悪いのだ!」



 はっ? 愚民? こいつ、いきなり何を言い出すんだ?


 再び首を傾げた俺に、彼は演説を再開して。





「エネルギー資源を巡る争いが始まってから、その熱に浮かされた各国の首相達が急速に軍事拡張を始めた。なのに、我が国の愚民達が『再び戦争を起こすのか!?』とか変なことを言って、私を含めた歴代首相達の素晴らしい政策を妨げた。その結果、隣国からミサイルが飛んできたり、戦艦が領海侵犯をされたりするなど、我が国は世界からなめられた国に成り下がったのだ!」

「確かに、そうかもしれないです。現実を見ない国民にも責任の一端はあります」



 だが、それは……



「あなたのような人を人とも思わない欲深い政治家達を、意図的に国民を政治という現実から目を背けさせたのではありませんか。その結果、この国の景気はずっと不景気なのですよ」



 30年以上に渡る国の不景気。普通ならとっくの昔に国が滅びてもおかしくない。だが、今日まで国としてあり続けられたのは、何も知らない国民達が『より良い国を作ってくれると』政治家達を信じて自分達がやるべきことをやっているからだ。

 例え、歴代首相達が過去の出来事に縛られていたとしても。



「だからどうした? 愚民程度が我々のような素晴らしい政治家が行っている政に対して口を出していいはずがない。愚民は愚民らしく大人しく国のために働いていれば良いのだ」

「あなたは……この国は『国民主権』ではないのですか!?」



 たまらず声を荒げて立ち上がった俺に、鼻を鳴らした首相がテーブルに置いてあったワインをあおった。



「貴様こそ何を言っている? 憲法に記載されている『国民』とは、内閣総理大臣に認めらえた人間のことじゃないのか?」



 こいつ、本当にふざけたことを言ってくれる。


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