第4話 身勝手で愚かな首相

『国家保護法』が施行された直後、当時の首相は世界に対してこう演説した。



『エネルギー資源不足が深刻化している中、我が国は、世界から脅威を向けられている。実際、我が国と親しくしていた同盟国は、『国家防衛』の名目で我が国から軍を引き上げた。この事態を重く受け止めた我が国は、明日から全世界に対して我が国に来ることを一切禁ずる。我が国に一歩でも踏み入れた場合、我が国は武力を以って反撃させてもらう!』



 このバカすぎる演説がきっかけで、日本国籍を持たない外国人を強制退去させ、外国にいた日本人を全員強制帰国させた。

 そして、このバカな演説をした首相は、我が国に撃ち落されているミサイルや我が国を通る戦闘機や戦艦をひとつ残らず撃ち落していったのだ。



「その結果、我が国は全世界からあっという間に孤立していったんだよな」



 ここから信頼を勝ち取るのに随分と時間を要した。本当に……


 小さく溜息をついた俺は、席から立ち上がると灰色の高い壁の中に広がる街の景色に目をやった。





 海外の反感を一気に買った我が国の愚法は、当然のことながら我が国で徐々に広がっていた貧富の格差を一気に広げさせた。


『国民全員の財産と権利を取り上げておいて、貧富があるのか?』と思われるかもしれないが、この愚法には例外というものがある。


 それは『内閣総理大臣が認めた者は、この法律には適用されない』というものだ。


 つまりは、『総理大臣から何かしらで認められれば、権利や財産を取り上げない』ということである。

 これにより、国民の間で待遇の差が出て、貧富の格差が広がってしまったのだ。そして、の愚法を布くと同時に、この国が衰退の一途を辿る未来が確定した。



「エネルギー資源不足により、周辺諸国の緊張状態が高まり、当時の首相が八方塞がりになって視野が狭くなった結果、自分の都合の良い国を作ることで国の安定を図ろうとしていた。だから、こんな私情が混じりの法律が作られたんだよな」



 再び小さく溜息をついた俺は、徐に分厚いガラス窓に手を添えた。そして、この馬鹿げた法律が施行される直前で、当時の首相と交わした会話を思い出した。




「どうして、あのような法律を施行されたのですか? それも、自分に異を唱える議員達を全員追放してまで。それが、どれだけ愚かなことだとお分かりなのですか?」



 それは、首相官邸からほど近い高級料亭で当時の首相と食事をしていた時だった。

 自分と首相しかいない空間で、ご機嫌に豪華な料理に舌鼓を打っていた首相は、突然の俺の問いに対して不機嫌そうに鼻を鳴らして箸を置いた。



「フン、有能なお前までそんなことを言うのか? 所詮、親父のコネが無いと議員の椅子に座れなかった奴に言われてもなぁ」

「それは、あなただって同じじゃないですか。親の七光りを存分に使い、出来レースに勝った結果、あなたはその椅子に座っているのではないですか?」



 『内閣総理大臣』という椅子に座っているその人は、親の七光りで政党の党首の座に座ると、あらゆる手を使って『選挙』という出来レースに勝って今の地位に立ったのだ。


 そう、あらゆる手を使って。



「あなたが心酔していたはずの大北先生を亡き者にしたのは、彼が自分の妨げになると知ったから。だからあなたは、独自のルートで暗殺者を雇い、公衆の面前で一般人を装った暗殺者の手によって彼を殺した。全ては、自分の支持率を確固たるものにし、自分に反発する議員達に対しての警鐘を鳴らすため」



 不機嫌な表情を一切変えない首相に、俺は問い詰めるように彼が今まで行った政治パフォーマンスを口にした。



「そして、その愚行が公の場で明るみになると知ったあなたは、今度は闇バイトを使って、公衆の面前で自分の命を狙う依頼をした。そうすることで、国民の意識が一気にあなたに向けられる上、闇バイトで雇われた人間からSPによって守られた自分の言葉が、間違いなく自分の支持率アップに繋がると確信していたから。もちろん、雇った人間に対しては、多額の税金を支払い、自分が殺さないように綿密な打ち合わせもした」



 そして、この茶番は上手く成功して、支持率はアップさせた。何も知らない国民は、彼のことを英雄か何かと思ったのだろう。

 要するに、この人は自分の地位を確固たるものするために他人の命や自分の命を使って政治パフォーマンスをしたのだ。

 AIからこれらの真実を聞かされた時は、呆れて開いた口が塞がらなかった。


 蔑みの目線を淡々と話す俺に、目の前にいる首相はそっぽを向きながら再び鼻を鳴らした。



「フン! それは、あの人が腰抜なことを言い出すからだ」

「腰抜け?」



 首を傾げた俺に向かって、首相は心底不機嫌な顔で俺の方を見た。



「そうだ。全ては、我が国の悲願を果たすためだ!」



 そして、それから内閣総理大臣の熱弁が始まった。

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