第12話 嵐の前の静けさ

「でもまぁ、親父以上に政治家としても人間としてもクズな奴がいるとは思わなかった」



 よりにもよって、それが我が国の首相だったとは。


 深く溜息をついた俺は、タブレットから目を離した。



「でもまぁ、そんなクズだから俺みたいなやつに狡猾な奴にあっさりと立場を奪われるんだけどな」



 小さく笑みを浮かべた俺は、淀んだ空を見上げながら首相に会った数ヶ月後のことを思い出した。





 それは、国家保護法が施行された半年が経った、ある寒さ厳しい師走の頃だった。

 俺は、国会議員としての仕事をしながら、裏であるプランを実行するための最終調整をしていた。



「よし、各国の未来の首相達との打ち合わせも終わった。あとは、実行に移すだけなのだが……」



 俺は、この日のためにAIによって選ばれた未来の首相達と学生時代からリモートを通して交友を深めていた。

 それと同時に、今の首相達を引きずり下ろすためにAIと共に準備をしていた。



「何の間違いか、俺が外務大臣になったのも今となればありがたい話だな」



 海外に対して嫌悪感を抱いていた今の首相が『お前なら上手くやれるだろ?』と軽いノリで与えられた地位だから。

 でも、俺にとっては各国の要人とのコネを作るにはピッタリな立場だし、そのお陰で未来の首相達と直接会話が出来た。



「その上、誰にも怪しまれずにAI達を各国にばらまけたことが一番良かった」



 悪い笑みを浮かべた俺は、そそくさと実家に戻った。

 そして、おふくろに挨拶もせずに、地下深くに繋がるドアを開けると、薄暗い通路を真っ直ぐ歩いた。


 ここは元々、親父が研究所で出来なかった研究をするために作られた場所だったんだよな。



「本当、いくつになっても相変わらずの研究バカで助かった」



 お陰で、政治家としての俺の地位を一気に引き上げてくれたんだからな。


 薄ら笑いながら俺は、通路の突き当りにある蛍光灯の頼りない光に照らされた金属製のドアを迷わず開けた。

 そこには、大量のスーパーコンピューターが置かれていた。


 まぁ、この場所は親父が大臣になった時に、俺が親父から譲り受けた場所だから、当然AIの実験をするには最適な環境が整っている。



「とは言っても、AI研究に興味のない俺にはただの宝の持ち腐れだと思うが」



 見慣れた景色に小さく息を吐いた俺は、巨大な箱たちの前で声を張り上げた。



「AI、例のプランの準備は出来ているのだろうな!?」



 スーパーコンピューターの稼働音がけたたましく鳴り響く薄暗い部屋の中で、どこからともなく女性の固い声が聞えてきた。



『はい。命令していただけば、いつでも発動できます』

「そうか」



 まぁ、あれだけ時間があったんだ。そうでなくては困る。


 再び小さく笑みを浮かべた俺は、腕時計型携帯端末が嵌っている方の手をスーパーコンピューター達に向かって突き出した。



「なら、年が変わったその日。例のプランを実行する!」

『かしこまりました。我が主』



 片言で了承したAIに満足げな笑みを浮かべた俺は、そのまま部屋を後にした。


 待っていろよ。年が変わったその瞬間に、お前が座っている椅子に俺が座ってやる。



「そして、この世界から愚者を一掃してやる」



 そうして、新年が明けると同時に、俺は長年AIと共に練っていた計画を実行した。



『地球再生プログラム、実行します』

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