第13話 変革する世界(前編)

『国民の皆様、新年あけましておめでとうございます。そして、朗報です! なんと、我が国……いや、世界にある兵器や武器が一夜にして忽然と全て消えました!』



 新年が明け、突如として国民に小型テレビが支給され、インターネットが解放された。

 半年ぶりに国民にもたらされた情報発信の場に飛び込んで来たニュースは、とても現実離れしたものだった。



「あれっ? 俺、さっきまで戦艦に乗せられていたはずなのに……」

「おい! 見ろよ! 旧市街地に出来ていた巨大軍事街が市街地に戻っている!」



 そして、国によって権利や自由を奪われていた国民は、一夜にして愚法が施行される前の生活に戻されていた。





「おい、どういうことだ! 了解に展開していたはずの艦隊のみにならず、我が国が保有していた全ての兵器や巨大軍事街が無くなっているぞ! おまけに、我が国家を囲っていた壁や結界まで!」



 新年早々、キャバクラ通いをしていた首相は、突然の出来事に酔いが冷めるとアルコールを纏わせたまま首相官邸に赴いた。

 すると、新年で浮かれていた部下が、慌てた様子でタブレットを持って現れた。



「それだけではありません! 兵器の製造工場や兵器の製造に纏わるデータや資料が全て無くなっております!」

「何だと!?」



 一体、どうなっているというのだ!? このままだと、いつ周辺諸国から攻められてもおかしくないぞ!


 無防備になっている自国の危機に、首相は脂汗にも似た冷や汗を掻くと、部下に命じて緊急の閣僚会議を開いた。





「首相~、どうしたのですかぁ~? せっかく、ハワイでバカンスをしようと思っていたのにぃ~」

「そうですよ。新年一発目は、首相官邸でどんちゃん騒ぎをするのではなかったのですか?」



 新年に浮かれすぎてニュースを見ていないのであろう閣僚達を見て、苛立ちを抑えきれなかった首相は声を荒げた。



「いいか! 我が国が保有していた兵器が、一夜にして無くなったんだぞ! それだけじゃない! 兵器に関わる一切のものも全て無くなったんだ!」

「「「「「「「えっ!?」」」」」」



 首相の言葉にその場に閣僚達は全員、唖然とした表情をすると、ゆっくりと顔を真っ赤にしている首相を見た。



「首相、それは本当のことなのでしょうか?」



 震えた声で問い質す官房長官に、鬼の形相をしている首相が深く頷いた。



「あぁ! 俺も今朝のニュースで知ったことだが、どうやら本当に無くなったらしい。その証拠に、巨大軍事街は一夜にして市街地に戻り、国防に付かせていた犯罪者どもは、いつの間にか全員刑務所に戻されていた」

「「「「「っ!?」」」」」



 ようやく自国が置かれている状況を理解した閣僚達は、途端に顔を青ざめた。



「どっ、どうするのですか!? 首相!! 『国民の権利や財産を国が奪えば、我が国の平和は永遠のものになる』とおっしゃったから、私たちはあなたが提案した法案に乗ったのですよ!?」

「そうです! 我々は首相が『これからは、甘い汁をすすって生きていけるから』と大金を差し出してきたから、私は反対意見を押し切ってこの法案を可決させたのですよ!」

「うっ、うるさい!! 私だって、こうなるとは思わなかったんだ!!」



 国民が見たらもれなくデモが起きそうな幼稚な言い争いを首相と閣僚の間で繰り広げていると、固く扉のドアを激しく叩かれた。




 ドンドンドン!!



「誰だ! 入れ!」

「失礼致します!」



 閣僚達の話し合いとも呼べない話し合いに水を差したのは、会議の前に首相に兵器が無くなったことを知らせた部下だった。



「どうした! 俺たちは今、無防備になった国防についての対策に忙しいのだ! 早く言え!」

「はっ、はい! それが……」



 顔面蒼白の部下が小さく口を噤むと、きつく目を瞑って部屋中に響くような大声で叫んだ。



「我が国で兵器が無くなっている現象ですが……この現象は、我が国だけでなく世界中で起こっていることが判明致しました!」

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