第7話 暴君が支配する国家
「……はっ?」
いきなり、何を言い出すんだ?
予想外の発言に言葉を無くした俺に、気を良くした首相は近くにあった呼び鈴を鳴らした。
「俺は……というより、俺含めた各国首脳達は全員神に選ばれた、人類の中でも優れた人間達だ。何せ、今までやってこなかったことをいとも簡単にやってのけたんだからな」
「やってこなかった?」
怪しむような顔で首を傾げる俺に、愚かな首相は口元を歪ませた。
「そうだ! 国にいる愚民どもを神に選ばれた私たちが優れた知性で支配して国を……いや、世界を安定へと導くのだ!」
「だとしたら、あなたが国民に対して一方的に強いている法律は、全ては世界を安定に導くためのものだというのですか?」
静かに怒りを滲ませながら問いかけた俺に対し、首相は酷く楽しそうな笑みを浮かべた。すると、『失礼します』と着物に身を包んだ女性の店員がワインを持って入ってきた。
空になっていないワインの瓶を下げた店員は、既に開けてある新しいワインのコルクを開けると、首相のグラスに並々とつぎ始めた。
そんな彼女を一瞥した首相は、視線を俺に戻した。
「当然だ! この国始まって以来の最高の頭脳の俺が首相をやっているのだぞ! だとしたら、俺のやることは全て正しい! そして、俺が治める国は全て俺の良いようにやっていい! そこに、国民の幸せがあるのだから! 現に、この女も俺に仕えてさぞかし嬉しいだろうしな!」
「キャッ!」
「っ!?」
貴様、一体何をやっているんだ!!
下卑た笑みを浮かべた首相がいやらしい視線を女性に向けると、その肥え太った汚らしい男の手で女性店員の尻を掴んだ。
「あの、ここはあなたが御用達のキャバクラではありませんよ」
「フン! そんなの知ったことか! 首相である俺は、この国では何をやっても許されるんだよ!」
全く、こんな奴が国のトップなんて……
だらしない顔で尻を揉みしだく首相に、女性店員は一瞬嫌な顔をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべると静かに距離を取って空の瓶を持って部屋を後にした。
「良いな、あの女は。今度来た時は、我が家に招いて心底可愛がってやろう」
去って行った女性店員に対して少々物足りない顔をした首相は、グラスにあったワインを一気に飲み干すと再び呼び鈴を鳴らした。
そんな彼の愚行に頭が痛くなった俺は、お冷を飲んで頭を冷やすと静かに問い質した。
「では、あなたにとって国家とは何ですか?」
今までの会話から察するに答えは出ているが、一応聞いておこう。
真面目な顔で聞いた俺に、首相は声高らかに言った。
「それはもちろん、この壁に守られた国家のことだ!」
はぁ、やっぱりか。
得意げな笑みを浮かべている首相に、俺は心底呆れたような顔をして小さく溜息をついた。すると、首相は嬉々とした表情でスーツの袖で隠れていた物を見せた。
「それに俺が完璧で理想の国家を作り上げることが出来たのは、偏に君の父上の研究があってなんだよ」
「っ!? それは……」
懐から取り出したそれを見た途端、俺の表情は一気に強張った。
どうして、あんたがそれを持っているんだ?
信じられないような顔で見ていた俺の視線の先には、当時親父が熱心に研究開発をしていた腕時計型携帯端末があった。
「本当、君の父上の研究バカさ加減には感謝するよ」
蔑んだ笑みを浮かべて父にお礼を言った首相は、すっかり空になったグラスに向かって手を翳した。
「
その瞬間、空になったグラスに紅色の液体が現れた。
「嘘、だろ?」
確かそれは、親父がまだ研究段階だと言って俺以外に渡していなかった代物なのに……どうして、どうして親父は。
唖然としている俺を一瞥した首相は、笑みを深めると並々と注がれたワイングラスを手に持った。
「どうやら、君の父親は君に何も言わなかったらしいね」
そう言って、首相はうっとりとした目でワイングラスを回し始めた。
「君の父親曰く『まだ既存の物しか具現化出来ないから完成ではない』と言っていたが……いやはや、これは実に素晴らしい。原子を素にあらゆる物質を具現化させる技術なんて、そう簡単に実現するものではないからな」
満足げに笑った首相は、ゆっくりとワインを飲み干すと静かにグラスを置いた。
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