第7.5話 愚法に囚われた国民達
それは、国会保護法が施行される前日。茜色に染まった空の下、人々はいつものようにビルに囲まれた空間の中に出来た道を歩いていた。
「なぁ、今度の商談、どうだった?」
「あれか? あれならこの前、上司が出しゃばって危うく破談しかけそうになったよ」
「うわっ! お前、どうしてあの上司連れて行ったんだよ!?」
「だって、上司が『俺も行くから、資料を用意しろ!』って無理矢理言ってきたから仕方なく……」
「ねぇねぇ、あの子が告ったって話、マジ?」
「マジみたい。返事はどうだったか分からないけど」
「そうなんだ~。あの2人、意外と気が合うからくっつきそうだけどね」
「そうだね~」
「ねぇママ! 今日ね、算数のテストで満点取ったんだよ!」
「本当に! おめでとう! それなら、今日のご飯は、大好物のハンバーグにしようかな!」
「わ~い!!」
『速報です。つい先程、国会で消費税率の引き上げが発表され、近年のエネルギー不足による物価上昇に加え、消費税の引き上げにより、またもや家計を直撃するような事態に……』
高層ビルの大型ビジョンで速報が流れると、人々は速報に一瞬だけ目をくれた。
「あぁ、またかよ。この前、消費税が上がったばかりなのに……」
「本当だよ。昨日、また卵の値段が上がったって」
「はぁ、また消費税が上がるの? 勘弁して欲しいわ」
「ママ、どうしたの?」
「いいえ、何でもないわ」
「えぇ、また消費税? 勘弁して欲しいんだけど」
「本当よね~、この前なんて、もやしの値段がついに100円に上がって……」
真剣な表情の女性アナウンサーから淡々と伝えられたニュースに、人々は揃って落胆していた。
「そう言えば、今年のボーナス無いらしいよ」
「あぁ、おまけに来月から給料が下がるって」
そんな会話をしてサラリーマン達が更に肩を落としていたが、彼らは信じて疑わなかった。明日もいつも通りに会社に出勤することを。
そして、それは周りにいた人々も同じだった。明日も、いつも通りの一日になると……そう、疑わなかった。
その日が、最後の日常になるとも知らずに。
そして翌日、彼らの日常は一変した。
ドンドンドン!!
激しく叩かれたドアに目を覚ました人たちは、不快な顔で玄関のドアを開けた。
きっとお隣さんなのだろう。
そう信じて疑わなかった人たちは、ドアの先にいた迷彩服を着た人たちに酷く驚いた。
「っ!? あなた達は、一体!?」
思わぬ来訪者に人々が目を丸くしていると、迷彩服を着た人たちが懐から紙を取り出した。
「我々は、国家自衛軍! これから、貴様らには国家保護法の下、国から与えられた仕事をしてもらう!」
「はっ!? 国から与えられた仕事!? 何だよそれ!? 俺には、サラリーマンとしての仕事が……」
「それは、国が財産として没収したから無い! 故に、貴様たちには、我が国の国民として、国の指示に従ってもらう! なお、国の指示に背いた場合は、問答無用で国防に就いてもらう!」
「はあっ!? 国防!?」
困惑している人々をよそに、国家自衛軍を名乗ったその人達は、問答無用で人々を連れ出すと国が指定した仕事に就かせた。
「ママ~、怖いよ~」
「大丈夫よ。良い子にしていたら、すぐに帰って来るから」
「えっ、嘘!? 学校は!? 友達は!?」
「そんなもの、全て国の管理下に置いている!」
「衣食住はどうなるんだ!?」
「それなら、安心しろ。ノルマを達成すれば、電気・ガス・通信機器以外なら国から支給する。住む場所はこちらが確保している」
「おい、俺たちをどうするんだよ!?」
「犯罪者であるお前達には、これからこちらで用意した戦艦や戦闘機を使って国の盾になってもらう! 安心しろ、全てAIの自動操縦だから、お前たちは黙って国の肉壁になればいい」
そうして、人々……国家保護法の存在を知らなかった国民は、全員国の駒として人としての自由と尊厳を奪われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます