第8話 破滅へ向かう人類

「君の父親に『AI研究において、実に壮大な実験場が出来た。国の未来の為にも是非とも協力して欲しい』と言ったらあっさりと受けてくれたよ。お陰で、各地に巨大軍事街が出来た上に、他国が落としてくれた兵器や戦艦に戦闘機のお陰で、我が国の国土に隙が無くなった」

「っ!? まさか、領海や領空にいる戦艦や戦闘機は全て……」

「そう! 全てAIが作ったものだ! そして、私がいるここは、AIによって作られた壁……いや、によって守られている!」

「結界?」



 怪しむように首を傾げた俺に、首相は再び下卑た笑みを浮かべると腕時計型携帯端末を見せた。



「君、どうしてここでワインの具現化が出来たと思う?」

「っ!? まさか……!?」



 顔を強張らせた俺を見て、首相は笑みを深めた。



「そうだ、ここは君の父親に提供した実験場! そして、この場所は……私が治める国家は、君の父親が作ってくれたAIによる結界により、どんな攻撃をも跳ね返し、それと同時に撃ってきた場所にそのまま帰すことが出来るのさ!」

「そんな……」



 そんな他国を敵に回すようなことをこいつは親父に……AIにさせていたというのか!?


 研究バカの親父のことを日頃見下している俺の中から、沸々とこみ上げてきた沸々とこみ上げてきた憎悪の感情。

俺はその感情を押し殺すように、小さく俯いて深呼吸するとそっと顔を上げた。



「だとしたら、どうして国民からエネルギー資源や権利や財産を奪い、強制労働をさせているのですか?」



 AI技術が既に実用レベルまであるのなら、迷わず使ってしまえば良かった。そうすれば国民が権利や財産を奪われることも、貧困で苦しむことは一切なかったのに。


 すると、首相の顔が蔑んだような顔になった。



「そんなの、使ってやるのに値しないからに決まっているからだ」

「はっ?」



 意味が分からないと言わんとばかりに眉を顰める俺に、今度はワイン瓶の中身をグラスに注いだ首相は、悍ましいものを見るような顔でグラスの中を見つめた。



「ここは俺の国家だ。だから、この技術を誰に使おうが俺の勝手だ」

「そんな横暴な……」

「横暴? そんなもの、俺は一切愚民どもに対して働いていない。むしろ、愚民どもを国のために効率的良く利用してやっている」

「何を言って……」



 横暴を働いていない? こいつ、本気で言っているのか?



「実際、国を守って死んでいった奴らの遺体や遺骨はAIに作らせたドローンで回収している。そして、君のお父様が前々から研究していたAIとクローン技術と遺伝子組み換え技術を使い、死んだ奴らを全員生き返らせ、国の部品として再利用している。だから、俺は一切愚民どもに対して横暴をなど……」

「ふざけんな!!」



 親父の研究を使って人の命を弄びやがって、それのどこが横暴じゃないと言えるんだ!


 国のトップが進んで非人道的なことに手を染めていることに……それも、あのクソ親父の技術をまたもや私的に使っていることに、俺は思わず声を荒げて立ち上がった。

すると、ワインを飲み干した首相がゆっくり立ち上がった。



「さて、俺は宇宙へ旅立つ準備をしよう」

「えっ?」



 突然どうした? というか、どうして宇宙に行くんだ?


 警戒するように睨みつけた俺に、首相は小さく鼻を鳴らした。



「当然だ。こんなミサイルや戦闘機が飛び交う場所にいられるわけがないだろうが。いつ死ぬか分からない場所に」

「ですが、ここには親父……私の父に作らせた結界があるのではないのですか?」

「そうだ。だが、その結界もいつ破られるか分からない。そうなれば、ここだって火の海になる。だから俺は、そうなる前にAIに作らせた宇宙用の住居にさっさと逃げさせてもらう」

「っ!? だとしたら、この国は一体誰が動かすのですか!?」



 あんたの傲慢で作った国を、あんた以外に一体誰が動かすんだ!


 思わず胸倉を掴んだ俺に対し、首相は心底興味がなさそうな顔で言い捨てた。



「そんなの、自分達で考えろ」





「『国の舵取り役が宇宙へ行く』って話を聞いた時は、にわかには信じられなかった。だが、これが我が国だけでなく世界各国で行われていたと知った時は笑えなかった」



 深く溜息をついた俺は、再び淀んだ空を見上げた。


 各国の首脳達も、実は我が国と似たような愚法を施行して国民を国の奴隷としていた。

そして、国民から取り上げた莫大な財産を使い、国の過剰な軍備増強をしつつ宇宙に首相とその家族が暮らすための施設を作った。


 そうして、各国首脳達は無力な国民を地球に置き去りにして、自分達だけ宇宙に行って快適な余生を送ろうとしていたのだ。



「この事実を知った時、『終わったな』と本気で思った」



 小さく溜息をついた俺は、引き出しからタブレットを取り出した。そして、タブレットの中にある、AIがこれからの起こる出来事を予測して纏めた報告書に目を通した。



「『このまま未来が進んだ場合、目先の利益に囚われて国を全く省みなくなった首脳達の暴走により、人類……いや、地球そのものが強力兵器の餌食になり、あっという間に地球は放射線まみれの死の星に。そして、地球から宇宙に逃げた首脳達は、過去の遺恨から争って全滅。結果、人類は自らの行いにより地球もろとも終焉を迎える』……AIからこの報告で上がってきた時は言葉が出なかった」



 こんなクズたちの愚行のお陰で人類滅亡なんて、そんなことあってたまるか。



「そういえば、随分前に親父が言っていたな。『戦争は、貴族の遊びだ』って」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る