第18.5話 俺は、何も間違っていない!!

「おい、離せ! 離せって言っているだろうが!」



 冷たい目を向ける若造が流したデマにより、『歴代最高の内閣総理大臣』である俺は逮捕された。


 どうしてだ? どうしてこの俺が、逮捕されないといけない?


 『先祖代々が政治家』という由緒正しい家で、両親が国会議員である俺は、幼い頃からハイレベルな英才教育を受けていた。

 そのため、学校での成績は常に1位で、難関校にも首席で入学し、首席で卒業した。

 だから、この俺が国会議員になり、内閣総理大臣に選ばれるのは必然だった。


 両親のコネで大物政治家達を親しくしていた俺は、老害政治家や両親など俺に関わる人間を内心では全員見下していた。

 当然だ。俺の周りにいる人間達は、全員が俺以下の頭しか持っていなかったのだから。

 それでも、両親には多少なりとも感謝している。大物政治家のコネを持っていたのだから。

 だが、政治家としての両親の手腕は、俺より遥かに下の手腕だった。

 だから、彼らが持っていたコネだけは存分使わせてもらった。


 自分達より遥かに優秀な息子に使われるのだ。心の底から感謝して欲しいものだ。



 それで、内閣総理大臣になった俺は、この国のバカさ加減に嫌気が差した。



『増税反対!』

『軍備拡張反対!』

『不景気を好景気にさせろ!』

『国民の負担を軽減させろ!』



 全く、どいつもこいつも自分勝手なことしか言わない!

 この国が一体どのような状況に置かれているのか分かっているのか!?


 二度目の大戦があった後、我が国は周辺諸国から舐められまくり、挙句の果てに領海内にミサイルまで撃たれる始末。

 その上、我が国と同盟関係にあった国は、自国防衛のため軍の即時撤退を始めている。

 更には、深刻なエネルギー資源不足により、三度目の大戦は避けられないという絶望的な状況。

 この状況で、増税や軍備拡張を反対など自国のことを全く考えていないとしか思えない。


 だから俺は、この国の国家元首として、そんな妄言を本気で言っている奴ら……愚民どもから財産や権利を全て奪い、そいつら全員を自国の駒や肉壁にした。

 俺に逆らった奴は、誰だろうと容赦しなかった。

 何せ、俺の国の民なのだ。愚民が国のために働くのは至極当然のこと。


 特に、俺の一番の駒であった『渡邊 拓也』が研究していたAIの最先端技術は、この国の防衛に大いに役に立った。


 あいつを唆して、自分の駒にしてやったかいがあった。



 そうして俺は、この国が建国してから一番平和な国を作ったのだ。




 それなのに、『渡邊 翔太』という若造が俺の作った平和を木っ端微塵に壊したのだ。


 その上、ありもしない罪をでっち上げ、この俺を国賊扱いしたのだ。


 ありえない! この俺を……この国に平和をもたらした俺を、『国賊』なんていう最も野蛮な人間達と同じ扱いにするなんて!





「貴様! 俺が拾ってやった恩を忘れたのか!?」



 そうだ! この若造が高校生だった頃、優秀だったこいつを駒にしようと、父親である拓也のことを教えてやったのだ。


 アハハッ! あの時見せてくれた奴の絶望した顔は、今でも俺にとっては爆笑ものだ。

 だがまぁ、父親の真実を知った奴は、あっさりと俺の駒になってくれた。

 だから、その時は『良かった』と内心安堵していた。

 それなのに……



「そうですね。この世界に俺を連れて来てくれたことには感謝していますよ。でも……」



 そう言って、若造は国の長である俺に向かって侮蔑の目を向けた。



「国民を愚民と罵り、親父の研究を私利私欲に使い、かつてないほどに国を乱した人間に、今は尊敬の念も何も感じられませんけどね」

「貴様ぁ!!」



 パトカーに押し込まれそうになった俺は、必死に抵抗しながら若造を睨みつけた。



「貴様、自分が何をやったか分かっているのか!?」



 貴様は、俺が平和にしてやった世の中を乱したんだぞ!?



 唾を吐きながら侮蔑の言葉をかけた俺に対し、冷たい表情をした若造は少しだけ小さく笑みを浮かべた。



「分かっていますよ。あなたと違って、私は私の犯した罪を自覚していますから」

「っ!? だったら……」

「だからこそ」



 途端に表情を無くした若造は、見下すような目で俺を見た。



「私は、この世界で……自分の力だけで戦争を回避したこの世界で、あなたが首相だった時以上の平和をこの国にもたらしてみせますよ」

「ハッ! 若造如きが、一体何が出来る?」



 小ばかにしてやった俺を見た若造は、静かに背中を向けた。



「そんなの、あなたが知ることではありませんよ……その反逆者を連れて行け」



 そう言い残し、俺をパトカーに押し込めるように指示した若造は、こちらを一切振り向くことも無いまま、国会議事堂へ戻っていった。

 そんな若造の背中を見た俺は、唐突に思った。


 俺が……この俺が、一体何をしたっていうんだ!?

 俺はただ、この国を平和にしようとしただけなのに!!

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