第18話 開かれたブラックボックス
地球環境が整ったタイミングで俺は行った次なる計画。
それは、『各国の首相を全て俺の
「まぁ、兵器を全て回収して環境改善させた時点で、こいつらが反対してくるとは分かっていたけどな」
控室にいた俺は、タブレットから目を離して、再び空を見上げた。
実際、世界から兵器が無くなり、環境が改善されて、人類の大半がこの朗報に喜んでいた。
だが、この状況に危機感を募らせていたのは、各国首脳達……とその腰巾着にあたる高級官僚と一部の富裕層だった。
まぁ、守る全てが無くなったから危機感を募らせるのは分からなくもない。
だからこそ話し合って欲しかった。
「けれど、実際はそうはならなかった。だから俺は、各国のブラックボックスを開けることにした」
変わってしまった状況を嘆くしかない首相達には、さっさと退場してもらおう。
AIの手によって開けられ、世界中に知らされた各国のブラックボックス……それは、国の在り方や国民に深く根付いた思想の根幹を揺るがす事実だった。
ある国で開けられたブラックボックスには、『自国の法律は、自国のトップと高級官僚と一部の富裕層のためにあるものだ』という事実が中に入っていた。
そして、別の国では『本当は、楽がしたいがために国のトップを神格化して国民を洗脳した』という事実が明かされた。
ともかく、国のトップが後生大事にしていたパンドラの箱の中身は、どれもこれもが国のトップを引きずり下ろすには十分なものだった。
もちろん、ブラックボックスの中身が公になった直後、国のトップ達はこぞって『これはデマだ!』と反論した。
しかし、俺とAIによって晒された揺るがない証拠の前には、そんな言葉も灰燼に帰した。
「それと、こいつも利用しだんよな」
そう言って、俺は机に置いてある腕時計型携帯端末に目を向けた。
『ブラックボックスの中に入っていた真実とそれを裏付ける証拠では足りない』と思った俺は、親父が作っていた翻訳端末をAIの手によって急速に普及させた。
これにより、『言葉の壁』で渡航を難しいとされていた国に行きやすくなり、自国に愛想が尽きた国民達が他国に移住するようになった。
「『一番恐るべきものは、国民から見捨てられること』か」
親父の言葉に小さく笑みを浮かべた俺は、再びタブレットに目を落とした。
そして、自国のブラックボックスに入っていた真実が公になったことにより、国民達は愛想を尽かせて他国に移住したり、当時の国のトップを引きずり降ろそうと大規模デモを開始したりして、自らの意思を示し始めた。
それも、本来は国の治安を守り、時には要人の盾になるはずの警察や軍も、国民達が起こした大規模デモ混ざっていた。
「『最初にターゲットにした国のトップは、私欲のために争いを起こしたことが明かされ、その責任を取るために国民の前で処刑』」
「『次にターゲットにした国のトップは、国民から過剰に搾取していたことを公にされたことで、国民に石を投げらえながら更迭』」
「そして次の国は……」
タブレットの中に記録されていた前首脳達の末路を懐かしく思いながら見ていた俺は、そっと最後のページを開いた。
「そうして、国の首相達を次々と俺の
「貴様、俺を裏切ったな!」
警察によって官邸から引きずり出された前首相は、俺に向かってそんな他愛事を口にした。
「裏切った? 何をおっしゃっているのですか? 裏切ったのは、そちらでしょうが。親父の研究バカさを利用したのだから」
「そんなの、政治家として研究バカの研究が政治に使えると思ったから使っただけだ!」
こいつ、こんな状況になっても何の悪気もなくクズなことが言えるんだな。
だから、俺のようなやつの踏み台になるんだよ。
得意げな笑みを浮かべながら鼻を鳴らす前首相に対して、冷たい目を向けた俺はそのまま警察の方に視線を映した。
「この反逆者を連れて行け」
「ハッ!」
「おい、離せ! 貴様、俺が何者か分かっているのか!? 俺は神に選ばれた……」
警察に取り押さえられながら妄言を吐く前首相に、深く溜息をついた俺はそっと彼らから背を向けた。
「国や世界を混乱に陥れたただの反逆者だろ」
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