第17話 さぁ、鉄槌を下す時間だ
それは、地球環境の最適化が完了してから1週間後のことだった。
AIの手で破壊されたオゾン層が全て修復され、砂漠化や酸性雨など各地で起こっていた人災が鎮静化した。
この奇跡とも呼べる出来事がメディアを通して伝えられ、何も知らない世界中の人々が無邪気に喜んでいた。
「ここで速報です! 我が国の隣国にあたる超大国のトップが今朝逮捕されました! 国のトップが逮捕されるというのは、隣国では異例なことのようです!」
鬼気迫る表情でニュースを伝える女子アナウンサーに対し、スタジオにいたコメンテーター陣が揃って呆れたような顔をした。
「またですか。地球環境が正常化になった直後、どこか国の首相達が同じ理由で逮捕されていますね」
「そうですね。ちなみに、逮捕理由は何だったのでしょうか?」
呆れ顔で問いかけたコメンテーター役のタレントに対し、女性アナウンサーはそっと視線を下に落とした。
「それが、『国のトップや高級官僚、一部の富裕層が得をするために、国民に対して意図的に隠していた』と」
すると、コメンテーター陣から盛大な溜息が聞えてきた。
「やはりですか。昨日、逮捕された首相の逮捕理由がどれも『自国の罪を意図的に捏造したり、隠蔽していたりしていた』じゃないですか」
「そうなると、また国内での大規模デモが始まりますねぇ」
「せっかく、地球環境が改善されたというのに……いや、良くなったからこそ起きたことなのでしょうけど」
「そうかもしれませんね。何せ、世界中から兵器が無くなり、地球環境が良くなったことに異議申し立てしているのは、各国の首脳達とごく一部の高級官僚達や富裕層ぐらいでしたから」
そんな様子を自宅でソファーにくつろぎながらテレビで見ていた俺は、辛気臭い顔をしながらコメントしているコメンテーター陣に対して小さくほくそ笑んだ。
「フン! 随分とお気楽なことを言っているな。今度は、自国の首相がターゲットになるのかもしれないのに」
まぁ、そう簡単にはさせないけどな。
奴には、完璧に外堀を埋めてから俺自らの手で引きずり降ろさなくては。
「奴は、親父の研究を悪用して国民を危険に曝したんだ。その報いはきっちり受けてもらないと」
そうして俺は、テレビの横にある世界地図に視線を移すとソファーから立ち上がった。
そして、テーブルの隅に置いてある赤いマーカーペンを手に取った。
「さて、隣国のクズ首相は消え去った。そして昨日は、その隣にある大国の首相も消えたから、今日には新しい首相……俺の
全く、ここまで計画が順調だと却って不気味に思えてくるな。
そんなことを思いながら、俺は笑いを堪えつつ壁にかかった世界地図にある隣国に大きくバツ印を付けた。
そして、その上にあるバツ印の大国を大きく丸で囲い、次のターゲットとなる国に視線を移した。
「さて、次はこの国の首相だな。この国は、今日逮捕された首相が治める国と深く繋がっているからな。遅かれ早かれ、奴は行動を起こすだろう。だったら、その前に排除しておくか」
そう言って、次なるターゲットとなる国に三角の印をつけて写真を撮ると小さく笑みを浮かべた。
すると、テーブルに置いてあったスマホからメッセージを知らせる明るい通知音が鳴った。
ん? 誰だ?
不快げに眉を顰めた俺は、テーブルに赤いマーカーペンを置くとそのままスマホを手に取り、メッセージアプリを開いた。
「へぇ~、早速、国民を扇動してデモを始めているのか」
それは、大学時代に知り合い、今朝逮捕された首相が治める隣国の、次期首相になる予定の俺の
早速行動を起こした同士の手際の良さに、再び小さく笑みを零した俺は、そいつに『分かった。健闘を祈る』と返した。
そして、今度はAIに対して指示を送った。
《ニュースの報道に出ていた隣国にいる
《それが終わったら、次はこの国のブラックボックスを開けろ。かの国は、国のトップを神格化していて、国や首相に対する国民の意識は最早洗脳レベルだ。多少なりとも骨が折れると思うが、そこをつけば後は扇動しやすい》
先程撮った写真と共に送ると、すぐさま『かしこまりました』という返事が来た。
相変わらず、素っ気ない返事だな。
つまらなさそうに鼻を鳴らした俺は、スマホをテーブルに置くと再び世界地図の前に立った。
「さぁ、贅の限り尽くした奴らに鉄槌を下す時間だ」
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