第16話 愚者には裁きを
『我々は、人類から武器を奪った凶悪者を断じて許しません!』
俺とAIの手によって地球環境が最適化されようとしていた頃、各国首脳達は雁首揃えてカメラの前に現れると、世界に対してそんな宣言をしたのだ。
地球環境が最適化され始めて間もない頃は、人類はやむを得ず社会活動を止めた。
それはそうだ。
オゾン層が修復されたことで、温暖化の一途を辿っていた地球環境が急速に変わっていったのだから。
だが、そこは考える知能を持っている生き物である人類。
彼らは、自らの知恵と経験、そして互いに助け合うことで、変わっていく地球環境に対して何とかして適応した。
「それで、どうするのかと思えば……世界に対してバカな宣言をして、自国の国民が増えたことを逆手にとって、自国強化のための兵器づくりをし始めたんだよな」
兵器が無くなったことで、人類の大半……各国の国民は泣いて喜んだ。
何せこの頃、各国の国民達は、我が国と同じように国の駒……いや、各国首脳達の駒として兵器を作らされたり、戦わされたりしていたのだから。
だが、ごく一部の人類……各国首脳達は武器が無くなったことを酷く悔やんでいた。
国を守る手立てが無くなったからなのかもしれないが……それ以上に、自分達のご自慢の玩具が突然無くなったことが、余程腹に据えかねたのだろう。
中には、歓喜している国民を脅して兵器を作らせようとしたバカもいたらしい。
そんなことしたところで、世界に散らばったうちのAI達が人工島にいるAIに即座にリークして回収させるから無駄なだけなのに。
「本当、クズな奴ってどこまでもクズなんだな。無駄だって分かっているなら、別な方法を探ればいいのに」
例えば、この機械に腹を割って話し合うとか。
せっかく『兵器』という名の壁が無くなったんだ。
環境の変化でようやく世界が1つになるチャンスが生まれたんだ。
この機会にきちんと話し合い、今後の世界の行く末を一緒に考えてしまえばいい。
地球環境が最適化されたことにより、各国の国民の生活は遥かに改善された。
それにより、世界経済も活発化していった。
だからこそ、各国の国民は首相がやろうとしていることに猛反対していた。
だが、各国首脳達は相変わらず国民の声に一切耳を傾けなかった。
何せ彼らは、『自分達こそが、神に選ばれた国を導くべき人間であり、自分達の考えこそが、国をより良い方向に進ませる!』と本気で思っている残念な奴らだから。
そんな夢物語のような出来事が、現実にさせるタイミングを逃した……いや、自ら手放した元各国首脳達の愚かさを思い返した俺は心底溜息をついた。
「そんな愚かだから、俺みたいな若造にあっさりと世界の主導権を奪われちまうんだよ」
タブレットに映し出された元首相達の顔を1人ずつ丁寧にデコピンした俺は、AIから地球環境の最適化が完了した報告を受けた後のことを思い出した。
「地球環境の最適化が終わった。これで合っているな?」
いつものように実家の地下にある部屋に来た俺は、薄暗い空間の中にあるスーパーコンピューター達に声をかけた。
すると、どこからともなく女性の声が聞えてきた。
「はい。主様の言う通り、地球環境の最適化が完了しました」
「よし、それならそれの維持を頼むぞ」
「かしこまりました」
とりあえず、第一段階は終了。これで、俺が作る世界の土台は出来た。後は……
「あと、知っているとは思うが、各国首脳達が突然バカなことを言って愚かにもあがいている。この意味分かっているよな?」
「はい。現在、国を治めている人間達は、主様が創造される世界に不要な考えの人間達ということですよね?」
「その通りだ」
そう言うと、俺はニヤリと笑みを浮かべた。
「俺が作ろうとしている世界に愚者は要らない。ろくに周りを見ることが出来ず、自分の考えだけで国を……世界を乱そうとしている奴に、国の長である資格は無い。だから……」
小さく息を吐いた俺は、スーパーコンピューター達に向かって宣言した。
「地球環境が整った今、各国首相達が今日まで隠し通しているブラックボックスを開けていく」
そして、世界をより最適化させるぞ。
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