第10話 親父の言葉(中編)
「でもまぁ、皮肉にも人間同士が争ったお陰で科学技術は発展した」
「確かに」
今日の飛躍的な科学技術の発展の裏には、少なからず争いによって生まれたものもある。
一般的に普及されている科学技術も、大半が軍事用に使われていたものを転用して改良されたものだから。
「だが、俺は人間を犠牲して得られる発展より、人を利用して得られる発展の方が遥かに効率的と思う。何せ、考える頭が増えれば増えるほど、人類の可能性は大きく広がるから」
そう言うと、親父は真剣な表情で俺の方を見た。
「良いか、翔太。過去は学ぶものであって利用するものではない」
「っ!?」
研究している時に見せる親父の顔に、俺は息を呑むと自然と姿勢を正した。
「過去を利用したところで、結果的に歴史を繰り返すだけ。限りある人の命に、歴史を繰り返して後退する余裕なんてない。そんな暇があるなら、人類の更なる発展に死力を尽くすべきだ」
そして、親父は手元にあるコーヒーを一口飲んだ。
「それにな、過去を利用したところで、人類が前に進むなんて稀だ。大半は、歴史を繰り返すか後退して破滅を導くかだ。戦争のきっかけだって、大半は過去の遺恨だ。その方が民衆の不安を煽りやすく、より自分達の都合がいいようにことが運ぶからな」
「…………」
「まぁでも、その過去の遺恨は、大半が真実かどうかも分からないものばかりだ」
「そう、なのか?」
真実かどうかも分からないものを利用して戦争を引き起こしているのか?
「あぁ、そうだ。でも、我欲を満たしたいお偉いさんにとって真実なんて関係ない。それを戦争のきっかけとして争いを起こし、ご自慢の玩具を披露して、莫大な利益を得られるのならば」
「っ!?」
「それに、戦争をするきっかけの為の口実ならば、過去の遺恨はでっち上げでの嘘でもいい。むしろ、お偉いさんにとっては過去の遺恨を調べられない方が、都合が良いんだ」
「そんな……」
「だから、過去は利用するものじゃないんだ」
ご自慢の玩具を披露して、莫大な利益を得るために、真実かどうかも分からない歴史を利用して、民衆の不安を煽って誘導するなんて……
初めて聞いた親父の政治論に、俺は政治家としての胸の高鳴りを感じ、いつの間にか前のめりになって聞いていた。
すると、親父は再びテレビに視線を戻した。
「まぁ、人間という生き物は他の生き物には無い『感情』ってものを持っている。だから、過去の遺恨から憎しみや苦しみの感情が割り切れないというのは分からなくもない」
テレビで映し出されている争いの惨状に、俺はただ目を伏せることしか出来なかった。すると、親父の視線が俺に移った。
「だがな、その感情を乗り越える力があるのも人間だ。そして、科学技術が発展した今だからこそ、武力以外で和解出来る方法だってある」
そんなの、ただの机上の空論だ。人間は、『争い』と言う過ちを引き起こさないと分からない生き物だから。
過去の歴史を振り返ってもそうだ。人間は、血で血を洗うようなことをしなければ学ばない。
そう思っているのに、至って真面目な顔で言う親父に、俺は愚かにも希望を見出してしまった。『本当に、武力以外で和解出来る方法があるのではないか』と。
そして、俺は思わず聞いてしまった。
「……それは、今携わっている研究にも関係あるのか?」
「まぁ、そうだな」
そう言って親父は、自分の利き腕に嵌っている腕時計型携帯端末を左右に振った。
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