第2話 混沌とした世界
俺、渡邊翔太は最先端技術の大臣を父にもっている。
そして、俺の父『渡邊 拓哉』は最先端技術の第一人者で、業界では知らない人はいないという有名人だった。
そんな父の研究者としての背中……ではなく大臣としての背中に俺は憧れを抱いていた。
何せ、研究バカの父がこの国を支える1人になったことが、将来は政治家を目指す息子としてとても誇らしかったからだ。
俺もその時までは、父のような政治家になりたいと思っていた。
「だがまぁ、それも俺が高校生の時までだったけどな」
所信表明演説用の挨拶文に目を通し終え、回想に浸っていた俺は、タブレットから顔を上げると、そっと大きなガラス窓に映った淀んだ空に目を向けた。
父を大臣にした大物政治家から父が大臣になった経緯を教えてもらった。実は、大物政治家である自分が唆して父が研究費欲しさに大臣という役職についたこと。
そして、大臣になっても父が政治に全く関心が無く研究バカであったこと。
この事実を知って、俺は絶望した。父は、俺の憧れていた政治家ではなかったのだから。
「だから俺は、父のような……いや、父を超える政治家になろうと決意した」
そう言って、俺は机の上にある腕時計型携帯端末に目を向けた。
俺は、父を超える政治家になるために父を唆して父が特に力を注いでいたAIを利用した。
随分と矛盾した行いではあるが、そのお陰で、俺は学生でありながらも政治家としての力を着実につけていくことが出来たし、大物政治家や有力権力者達とのコネを作ることも出来た。
そうして俺は、大学院卒業してから翌年、AIの力を借りて『史上最年少の衆議院議員』として国会議員になった。
それから2年経った頃、我が国は……というより、世界は首脳達の愚行により混沌に包まれていた。
きっかけは、深刻なエネルギー資源不足だった。発展途上国の急速な経済発展と急激な人口増加により、前々から懸念されていたエネルギー不足が更に加速した。
これに危機感を募らせ、エネルギー資源不足に不安を募らせて、国民の支持率が急激に下がった各国の首脳達は新エネルギー資源の早急な開発……ではなく、既存エネルギー資源の安定的な供給確保に走った。
「何でも、『新エネルギー開発は時間と金の無駄だから』と、既存エネルギー資源の確保に方向転換したらしいが……それのせいで大量のエネルギー資源を使う兵器開発を急がせて、他国に対して略奪行為をするなんて、ありえないよな」
誰が見ても矛盾している各国首脳達の愚行に、呆れたように溜息をついた俺は、タブレットに視線を落として操作すると、AIが分かりやすく纏めてくれたここ数年で起こった世界情勢に関する資料に目を通した。
エネルギー資源の安定供給のため、各国首脳たちは何を血迷ったのか自国の採算度外視の軍備強化を急速に進めた。
中には『これは、国家の威信にかけた聖戦だ』と言って、他国に戦争を仕掛けて他国のエネルギー資源を略奪する国まで出てきた。
『国の繫栄が第一だ』と言わんばかりの各国首脳達の『自滅行為』とも呼ぶべき行いは、当然のことながら国民の反発を招いた。
何せ、各国首脳達は国民に対して『エネルギー資源の無駄だ』と自国にある既存エネルギーの一切を供給しなくなってしまったのだから、反発が起きるのは分かり切ったことだった。
だがしかし、各国首脳たちは『明日は我が身だ!』と保身的な考えに走った結界、国民の声に一切耳を貸さなかった。
「そして、それは我が国も例外ではなかった」
世界情勢に関する資料に目を通した俺は、今度は自国の現状に関する資料に目を通した。
エネルギー資源の不足に加えて、周辺諸国からの脅威に曝されていた我が国は、防衛力の強化のために国民に対して大規模な増税を強いた。
その額はというと……国民1人当たりの所得の半分の額だった。
もちろん、これに国民は猛反対した。どう考えても、所得の半分が税金で搾取されるなんて、エネルギー資源の不足による物価高騰で不満を募らせていた国民とっては、天災……いや、人災でしかなかったのだから。
だが、当時の首相は国民の声に一切耳を貸すどころかある愚法を施行して、国民の不満を一気に黙らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます