第12夜 鬼
合戦に巻き込まれた村は畑が荒らされ、茅葺きの屋根は勢いよく燃えて、寺だけが残った。
ボウはそこでオッカアと暮らしていた。
強者どもが夢のあと。
侍に混じって子や女だったもの、年寄りに村の男衆も隔てなく、黒い地面に白い骨々となって散っていた。
寺の坊主はもうなく、オッカアは伽藍堂の板の上にすえた臭いのする肉のついた骨を集めた。
そして、崩れた地主の家から見つけた鉄鍋を持ちより、火を起こして田んぼの水を汲むと、そこに肉のついた骨を投げ入れて煮た。
湯は泡立ち、ぐつぐつと煮られた肉をオッカアから受け取ると、ボウは骨ごと啜るようにして食べた。
そのようにして、親子は飢えを凌いだ。
飢饉と乱は続き、さらに幾年かの月日が流れた。
廃れた村にも、残った田んぼを目当てに人が集まり、やがて茅葺(かやぶ)きの屋根が集まる集落ができた。
だが、村の近くでは夜になると人を喰う鬼が出ると噂された。
事実、村の若い娘や子供が畑仕事や遊びに出かけて、夕暮れになっても帰ってこない事が多々あった。
恐れをなした村人たちは、鬼退治に松明と、くわやすきを手に持ち鬼が棲むとされる廃墟となった寺に集った。
「おーい!いるのは分かっておるぞ!……それ!火を投げろ!」
村人たちは持ってきた松明を風雨にさらされ穴だらけになったお堂の板張りの隙間から投げ入れた。
火は瞬く間に燃え広がり、寺の廃墟を赤く包んだ。
何かが鳴くような、悲しい声のような音がして、翌朝には焼け焦げた瓦礫の山が残っていた。
焼け跡から見つかったのは、焦げた丸くて黒い塊だった。
村人が何かと思って見てみると、それは二頭の角の生えた鬼だった。
一方は母鬼の乳房にすがるように顔をうずめ、もう一方は子鬼の頭に自分の頭をかぶせるよう抱き寄せて、丸くなり死んでいた。
それを見た村人たちは哀れに想い、屍を埋めて供養した。
百年たった今でも、鬼をまつった神社には参拝する人たちが絶えないという。
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