第10夜 柔らかなる

「君はまだまだ発想の柔らかさが必要ですよ」



 眼鏡の奥から聡明な光をたずさえたメリー教授の言葉に僕は息を呑む。



 だがそれより驚いたのは、教授が僕の研究論文を噛みほぐして毛むくじゃらの腹に収めたことだ。



「だから言ったでしょう。発想の柔らかさが必要だと」



 4年もかけて練り上げた強固な論文も、教授にかかってはたじたじだ。



 メリー教授の立った便座から流れる水と一緒に下水へと消えてしまった。



 激昂した僕が、学部長に抗議する旨を伝えたら、教授は一言「メェ〜」と鳴いた。



 その声を聞いたら、すべてがどうでもよくなり、僕の目からは涙も出なかった。

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