第2夜 爪の垢を煎じて飲む

「はい、当方は爪の垢屋でございまする。こちらでは過去現在に渡って、多種多様な偉人の爪の垢を取り揃えてございます」

「……では、アインシュタインの爪の垢を」

「お客さま! 目が肥えてらっしゃいますねー! しかしこれはお高いですよ。失礼ですが、まだお若いご様子。お代は大丈夫でしょうか?」

「心配ありません。パパが会社を経営しているので」

「ほほう、それは安心ですね。重ね重ね失礼ですが、受験生のかたとお見受けしましたが……」

「はい、海外大学を狙っています」

「おお! それはこの垢にぴったりの使い方でして! それではただいまご用意いたしましょう」



 どてらを着た主人はそういうと、古民家風の建物に入ってしばらくたった。



「お待たせしました! こちらがご所望の品となります」

「ちょっと見させて頂いてもよろしかったでしょうか?」

「ええ! どうぞご遠慮なく」



 学生風の若い男は、出された爪の垢の入った小瓶を光に透かして、目を細めた。



「軽いですね。どんな効能があるんでしょう?」

「それはもう……かの偉大なる相対性理論を生み出した超がつくほどの天才科学者ですから、ばつぐんの……ああ! 何をされるので!!」



 そこで男は手早く小瓶を開けると、さっとひと息に粉状の垢を飲んでしまった。



「ごくん、ちょっと臭いな……うん? おお! 見違えるように頭が冴えてくる!!

ふふっ……本当の僕は親が離婚した貧乏学生さ。

それでも冴え渡る頭脳から閃きが生まれたよ。

どうだい? このアインシュタインの代わりに僕の爪の垢を取ってみては?」

「こりゃあ一本取られた! しかたあるまい、それでは今爪切りを持ってきますので、お待ちくださいよ」



 こうして貧乏学生だった男は、アインシュタインの頭脳と閃きを手に入れた。彼は見事、丸暗記した参考書の知識で名門大学を卒業して、学者の地位とお金を手に入れましたとさ。

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