カフカの迷宮実験

第２５夜 バカダミアンナッツよ、さらば

　のう、マー坊。

　わいとお前がコンビになって、もう何年経つんや？

　昔から、わいらは変わらない万年下っ端の芸人やったやな。

　じゃがのう、マー坊。

　わいは、お前と出会えて、ほんまによかったと思っとる。

　わいは、どーしよーもない男じゃった。

　学生んころは学校に馴染めず、アルバイトをしながら、友達の家に入り浸（びた）っとった。

　遊びに行ったゲーセンで、ヤクザに絡まれ、泣きながら「許してください、許してください。ああ、あんなところにおまわりさん」と言って、ビビらせて走ったときは、爽快じゃったな。

　ほんま、しょーもない人生やったんよ。

　こないな愚痴を話せるのは、お前だけや、マー坊。

　じゃがあのう。

　同じ引きこもりのお前と、ふたりで一旗あげようとでた東京では、ほんまに色んなことがあった。

　ちんたら稼ぐのが嫌いじゃったわいは、小汚い商売にも手を出したな。

　マー坊、後生やから、あのことは墓に行くまで黙っといてくれや。

　わいかて、好きであないなことしたくなかったんや。

　まさか、マグロ獲りのバイトがあんなに儲けるとは思うてなかった。

　なんせわいらは、売れないお笑い芸人やから、粥を凌ぐのにもバイトをせにゃ行かんかったんや。

　芸人の仕事もあるし、短時間で高収入のアルバイトをな。

　じゃがのう、マー坊。

　陸のマグロは魚やない。

　駅のホームに突っ込んだ、ベトベトの轢死体（れきしたい）や。

　最初のうちは、仕事が終わるたびに、吐いとったな。

　崩れた肉に触れた臭いが、体に染み込んでないか？、何度も何度もシャワーを浴びたわ。

　それにしても、電車に飛び込むもんたちは、みなものすごい顔して死んどる。

　世の中に恨みを残して、目をカッと見開き、そこだけはいつまでもギョッと天を睨んでおるんや。

　まるで、生まれた日を呪うておるようで、えすかったわ。

　なあ、マー坊。

　わいの臭いがわかるか？

　来る日も、来る日も、死人の後片付けをしとったら、いつの間にか、視えなくてもいいもんが、視えるようになってもうたんや。

　マー坊。

　お前、どうして……

　どうして……

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…ポッ！　臨時ニュースです。

　吉本興業で、人気のあったお笑い芸人『バカダミアンナッツ』の加藤マサルさんが、某都内のアパートに遺書を残されて、JRAY線に飛び込み自殺をされました。

　ご友人であった、馬宮翔平さんによると、亡くなった加藤さんは生前、うわ言のように、幻聴や幻覚が視えると繰り返していたそうです。

　遺体の損傷状況はひどく、警察では司法解剖の必要もないだろうとみて、自殺扱いされるそうでした。

　なお、相方の馬宮さんは、精神的に落ち着かれるまで、お仕事を控えられるそうです。

……ブツンッ！