第8夜 普通な彼女

 彼女は落ち着いた表情のごくごく普通の女の子だ。



 医療スタッフと連携しながら、怠惰な患者に油を差すのが役目だ。



「ちょっと失礼しますね?」



 伸びに伸びた無精髭が野武士を連想させる男性患者。



 あまりに野暮ったいので、剃刀片手に、顎のシェービングクリームをすくうように剃ってゆく。



 それはもう、のっぺらぼうのように前も見えないくらい泡にまみれて。



「ほうら、綺麗に出来ましたよ♪」



 終わったとき、鏡に映っていたのはのっぺらぼうだった。



 よくよく見ると、周りの患者も医療スタッフも、のっぺらぼうばかり。



「あらあ、みんなすっかり静かでお利口さんね♡」



 彼女は落ち着いた表情のごくごく普通の女の子だ。

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